Story Reader / 本編シナリオ / 29 ソースビーコン / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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29-14 余燼の灯火

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科学理事会

実験場

……このシーケンスは有効よ。数字を記録して。ドールベアの再検査報告は出た?

報告に問題はありません。非常に高い適応度です

更にこのテストモジュールを外部インターフェースモデルに適用すれば、適応率を0.8%前後、安定して向上させることができる

マイカはずっと仕事をしているのか。本当に頑張るな……

幼馴染が地上にいるんですって。その友人は構造体への改造に適応できなくて、難民の仲間たちを見捨てて空中庭園に来るのを是としなかったとか

マイカは自分の研究成果と引き換えに特権が欲しいのよ。仲間たちを空中庭園か、清浄地の保全エリアに連れていける特権をね

えっ、そうだったのか。そんな話、彼女の口から聞いたことなかったな……

シッ、彼女が見てるわ……

……この関数に問題がある。計算し直して、エラーデータを統合するわ

彼女は研究員たちの会話を聞かなかったふりをした

逆元装置の外部インターフェースモジュールは完成間近だ。大部分の者に適合するには不十分だが、意識が安定した一部の構造体を短期間強化できることは確かだった

彼女はもちろん無欲ではない。コスモス技師組合で逆元装置の研究をしているのも、成果を出せばリシィたちを清浄地か空中庭園に連れてこれると、先生が約束したからだ

もう少しで……

彼女は目を伏せ、データの計算を続けた

科学理事会の実験場では、逆元装置の外部モジュール開発の他にも、成功確率が50%を超える数十件のプロジェクトが同時進行していた

……あなた、脳みそがコーヒー味の電解液に替わってるんじゃない?こんな初歩的なミスをするなんて……

端末のスクリーンをコツコツと叩いて、構造体の少女は面倒そうに赤くマークされた行を指差した

す、すみません!私はただ……

あなたが書き間違えたコードを調べるのに、私がどれだけの時間を費やしたかわかっておいて。疲れたなら休んだ方が効率的よ

あ、ありがとうございます

ミスがあったら、こいつがこんなにピンピンしてる訳ねーだろ

フン

地上任務の申請は通ったの?カレニーナ隊長

まだ検討中だ……

ドールベアがトチ狂ったんだよ。異災区の探索と、第1リアクターエリア付近へ接近する任務を申請しやがったんだ

結局、あのふたつの閾値の限界は実地検証しか無理だからよ。空中庭園のパニシングのサンプルを使った実験じゃ、正確なデータは永遠に得られないかもしれない

それに私が申請した時、誰かさんたちふたり分の申請書も見たけど、気のせいかしら……

おい、お前もかよ――

上層部はまだ自分とリーの申請を承認していないが、まあ何とかなるだろう……

ご存知でしょうけど、あんたが許可しなくても、私には方法があるの

……

お前、いつも自分はか弱い技術者だって言ってるだろーが!あそこは!本っ当に!危険なんだ!

嫌いだからって戦えない訳じゃないわよ

逆元装置は改造済みだし、ノルマングループが以前、第1リアクターの奥に入った際の詳細な資料も持ってる

あの場所は今回の異災区の異変の中枢よ。そこで実験するのが最も直接的かつ効果的な成果を得る方法だわ

それに……知ってるでしょう、個人的な理由もあるの

あそこはノルマン家の墓よ。これ以上、誰かをあの場所で犠牲にする必要はないわ

安心して。私は犠牲を前提とした計画なんか立てない

あら、さすがグレイレイヴン指揮官ね。見る目があるわ

……地上任務の申請が承認された。追加でお前の防護物資も申請しといた。出発前にしっかり準備しとけよ

ありがとう、優しいカ·レ·ニー·ナ·隊·長~

……チッ。それよか、ゲシュタルトのセキュリティホールはどうなった?

データウォールの情報解析に全力を尽くしてるわよ……ほら、残りの部分はアシモフのところにあるわ

冷めたコーヒーをテーブルに放置したまま、アシモフは端末のスクリーンを人ならぬ速さでタップしていた

セキュリティホール内のデータウォールは、物凄く複雑なコードで構成されている。そのロジックの一部は、私やアシモフでも理解できないレベルよ

ゲシュタルトの基層データベースを参照してるみたいで、アルゴリズムロック内で、再度ゲシュタルトに複数のセキュリティをインストールし、内部情報を完全にロックしてる

セキュリティホールから解読されたプロトコルに基づいて一部のアプリケーションを解析したけど、そのデータウォールを完全に迂回することはできなかった

底層プロトコルを利用してそれを乗っ取ることはできる。でも……ゲシュタルトのデータベースが自身の保護プログラムを発動して損傷する可能性もあるわ

ゲシュタルトのデータベースのコードは見たことがないし、万が一そうなった時にデータベースがどれだけ損傷するのか、確認しようがないの

やはり、俺は強行突破には反対だ

前回のゲシュタルトの定期メンテナンス時に訊いてみた。だがゲシュタルトは、データウォールを突破できる可能性の演算を拒否した

理由は何です?

「塔」だ

3度も繰り返し訊ねたが、ゲシュタルトはそうとしか答えなかった

ああ、俺も「塔」に関する全てのイメージと概念を調べて、お前と同じ結論に至った

ゲシュタルトってそんなオカルト詐欺師みたいな性格なんですか?

九龍のあの事件以降……俺としては、ゲシュタルトを完全に信用することは勧めない

ゲシュタルトの演算がまだ必要とはいえ……

[player name]!

セリカの焦った表情を見て、胸中に更なる不安が広がった

グレイレイヴンと連絡がつきました!ルシアとリーフは異災区の端で、支援に向かった執行小隊と合流しています!

でも、赤潮は依然として拡大中です。ルシアたちがアップロードしたデータと情報によると――

……赤潮内部に自らの「意志」が生まれただと?

セリカから転送された資料を読みながら、アシモフはぎゅっと眉根を寄せた

こんなことが起こる可能性も考えてはいたが、こんなに突然だとは……

クソ!一体何だよこいつ!

転送された映像に、薄暗い森に佇む緑のマントの少女が映っていた

アシモフ

お前が以前言っていた、あいつか……

全身の毛が逆立つ異様な感覚が神経を駆け抜けた

腐敗した血漿の上で、少女の姿が次第に開花していく

これで会うのは3回目ですね、[player name]

相手は前とまったく同じようにスカートを持ち上げてお辞儀をした

その映像と同じように

空中庭園とオブリビオンの争いが終わったあと、この件を報告したが、空中庭園が当時マークした場所に執行小隊を派遣しても、赤潮の痕跡はまったく見つからなかった

周囲を徹底的に調査し、異合生物の痕跡はないと確認後、この件はひとまず保留されることとなった

彼女たちがデータを送ってきた方向は……ノルマングループが第2陣の「ヘラルド」を投入した方向です

……第2陣のヘラルドって、出発は2日後のはずでしょう!?

まだ聞いていませんでしたか……彼らは今、もう地上に降りた頃かと

地上任務の申請はもう承認されています――ご自分の端末を見てください

軍は緊急任務を発令しました。座標位置に近い執行小隊を派遣し、人員の大量投入による飽和式救援を行います

また、あなたとリーもただちに地上へ向かい、グレイレイヴンのルシアとリーフの救援に向かうよう指示がありました

私も行く

隊長、私の地上任務の申請は再提出しておいたわ、今日の日付でね

おい、そうやって工兵部隊内部の申請システムを勝手にいじくってるけど、本当に大丈夫なのかよ?

ほら早く――許可しといて![player name]、一緒に行かない?

私がデスクワーク専門のひ弱な技術者だって――本気で思ってないわよね?

リーはグレイレイヴンの休憩室から出発します。空港で合流してください

そうだ、マイカ。あのふたつの閾値のプランをあなたの端末に残しておいたわ

AプランかBプランか……私が帰ってきたら、答えが出るはずよ

空港

空港

地上任務は久しぶりだわ

前回の地上任務は、工兵部隊に入ったばかりの頃だったかな

……何を怖がってるのよ

ただちょっと昔を思い出しただけ……

家族と別れた時のこと、初めて工兵部隊に入った時のこと、初めてカレニーナと喧嘩した時のこと、初めての地上任務のこと……

姉さん!!

その鋭い声が、大切な思い出に浸っていた彼女をハッと覚醒させた

ヴィクトリア?どうして来たの!

わ、私も姉さんと一緒に第1リアクターに行きます!

兄さん……兄さんが……

あなたの代わりに地上へ行ったのね?フン、ようやく兄らしいことをする気になったようね

でも、私はそんなつもりはなくて……私はただ……

私、間違ってるのかな……

……確かにあなたは間違えてたかもしれない。でも今はそれを話している場合じゃないわ

姉さん、私、もう姉さんまで失いたくない。お父様はあの場所で……それにお祖父様も……

心配しないで。地上任務はグレイレイヴンのメンバーと一緒だから、彼らが私を守ってくれるわ

ドールベアはこっそりこちらに目配せをした

でも、でも……

泣かないの。さあもう戻りなさい……ヴィクトリア

何歩か歩きかけたドールベアは、妹の方に振り返って微笑んだ

ドールベア

泣くことなんてないわ。レオナルドはレオナルドがやるべきことをしたの

今は、私がやるべきことをやる番よ

レオナルドもまとめて、全員空中庭園に連れ戻す

相手が「ドミニク」だろうが「赤潮の意志」だろうが……

できる限りのことをやってやるわよ

これが、皆がずっとやってきたことなんでしょう……?指揮官

ピンク色の髪の構造体はこちらを見つめた。その瞳は星のように輝いている

たとえ「ドミニク」がそこにいなくとも、たとえゲシュタルトの大部分のデータを失ったとしても

たとえ目の前がひと筋の光も見えない暗闇だとしても

人々は歯を食いしばって前進し、灯火を掲げ、予測のできない未来に抗うだろう

ドールベア

戻りなさい。子供は大人を信じていればいいの

私はグレイレイヴン指揮官たちとともに行く。異災区の更に多くの情報や、失われるべきではない命、そして多くの希望や可能性を必ず持ち帰るわ

姉さん……

さあ戻って、あなたも自分がやるべきことをしなさい

ノルマン家の力を手に入れて、本来私たちの手にあるべきものを取り戻すのよ

泣きながらも、小さな少女は追いかける足を止めた

じゃあね。祝賀会ではさくらんぼ味の電解液を用意しておいて

……うん!

こらえきれず涙を流しながらも、ヴィクトリアはニッコリと笑った

輸送機の中で、ドールベアは端末を操作していた

工夫すれば、なんとかキャッチできる……これは違反じゃないわよ

彼女は警戒しながらこちらとリーをちらっと見た

……告げ口する趣味はありませんよ

手回ししておかないと……ヴィクトリアひとりで監査役会の老人たちと対峙させる訳にはいかない

前にレオナルドが私のところに置いていったあれを……

彼女は端末のスクリーンをじっと見つめながら、無意識に唇を噛んだ

説得力のない言葉だが、僅かでも彼女の心の慰めにはなるかもしれない

ありがとう……[player name]。さっき、私を助けてヴィクトリアと話してくれたことも

ヴィクトリアは小さい頃から、私やレオナルドに会うことも許されず、ずっと療養所で育ったの

何度もあの子を連れ出そうとしたけど、いつも失敗に終わったわ

あの子に安寧はなかった。私には、なぜあの子が祖父に言われるがまま、レオナルドの権力を奪って、ヘラルド計画を再開したのかがよくわかる

祖父の教えの下では、あの子は明確な善悪の観念を持てなかった。ただ目的を達成するためにすべき事柄しか知らされなかったのよ

輸送機の揺れが彼女の目に浮かぶ涙を隠した

それにレオナルドは……私とヴィクトリアが何も知らないまま明るく幸せに暮らせるよう、常に雨風を防ぐ大きな樹になろうとしている

そんなこと無理なのにね、本当に馬鹿な兄なの……

……えっ?何の?

不適切な教育を受けた妹を導くにしても、本心を明かさない兄を教育するにしても

この世界で、後悔が残る出来事を多く見てきた。でも、今ならまだ間に合う

……そうね、言う通りね

涙を拭うように頬をこすると、ドールベアは微笑んだ

……ふぅ、こんなに凹んだのは久しぶりだわ。とにかく、ありがとう、[player name]

それにしても……グレイレイヴン指揮官は本当に聞き上手ね。工兵部隊に入って私の助手にならない?

……

工兵部隊の副隊長には助手をつけられるんですか?

自費なら可能よ。一応私、ノルマングループのご·令·嬢·様だもの

……

会議室に戻ったヴィクトリアの脳裏には、まだ姉とグレイレイヴンのふたりが遠ざかる姿が残っていた。彼女はそっと、下唇を噛んだ

彼女は、自分が何をすべきかやっとわかったのだ

彼女が小さかった頃……まだ言葉を覚えたばかりの頃、執事に「坊ちゃん」「お嬢様」と呼ばれる人たちが遊びに来てくれた

「坊ちゃん」はいつもヘラヘラと笑っていて、「お嬢様」はいつも少し不機嫌そうだったが、彼女はふたりと一緒に遊ぶのを毎日楽しみにしていた

そしてある日突然、執事はいつもいる部屋から彼女を連れ出した

彼女は執事から、お嬢様は病気なので長期療養が必要ですと告げられた。それ以降、兄と姉は毎週決められた時間にしか来れなくなった

やがて兄は次第に無口になっていき、姉の表情もどんどん沈んでいった

執事は次に、彼らの「父親」が、輝かしくも達成不可能な目標のために亡くなったと告げた

彼女には執事の言葉の意味が理解できず、いつも泣いていたが、泣いたところで無駄だった。その後、姉はいつの間にか姿を消した

お姉ちゃんはどこに行ったかって?お姉ちゃんはな……仕事なんだ

派手な花柄のシャツを着た兄はそう答えた

クリスティーナは、我々家族を裏切りおったのだ

お前はもっといい子にならなければな、ヴィクトリア。いい「ヘラルド」、いい「ドミニク」になるのだよ

お祖父様……

お前にある物語を聞かせてやろう

チャールズ

昔々ある村で、村人たちが熊を数頭飼っていた

毎年同じ時期に、彼らはその中の1頭を山の神の家へと送り出した

ヴィクトリア

なんだか怖い……

チャールズ

これは怖い話じゃない。信仰であり栄誉の話なのだ、ヴィクトリア

送り出された熊は村の願いを携えて山へ行き、神に祈る火種を持ち帰る

「お前の一生と、我々がお前のためにした苦労を覚えておくんだ」

「今度はお前が義務を果たす番だ。私がお前に望んでいることを忘れるな」

「我々に富を与えよと、神に訴え」

「我々に獲物を与えよと、神に乞い」

「我々が与えた食べ物や娯楽、健康を思え」

「そして今……」

彼女はよくわかっていた

「ヘラルド計画」も、なぜ顔も知らぬ父が犠牲になったのかも、なぜ姉がノルマングループを去ったのかも

他人の影になりたい者などいるものか。「ヘラルド」となるべくして生まれる者などいない

元から彼女はこの全てを地獄へと持っていくつもりだった。だが兄と姉はまだ、すでに深みにはまってしまった彼女のことを諦めてはいないようだ

ならば……

私たちが恩を返す時が来たわ、お祖父様