Story Reader / 本編シナリオ / 29 ソースビーコン / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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29-12 祈り

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赤色の風が廃墟から吹き荒れ、陰鬱な雨の雫が慌ただしく逃げる難民たちを追いかけていく

隙間なく広がる赤潮は彼らの次の動きを常に予測できているかのように、未知の方向へと彼らを急かしながら追い込んでいった

疲れ切った体が苦痛に呻き始め、時間が経つにつれて物資は減り、車のエネルギーも不足してきている

……完璧!しばらくはこうやってエネルギーを分配しとけば、とりあえずは全車両を動かせる

まだ残っているエネルギーを再分配したあと、リシィは満足そうに手を叩いた

もう一度訊くけど……ふたりとも本当にエネルギーは必要ないの?

彼女は不安そうに構造体たちを見た

本当に大丈夫です、ありがとうございます

オッケー!もし必要になったら言ってね、少しなら緊急用の予備エネルギーがあるから

へへ、マイカに節約を心がけるようにずっとしつこく言われてたから、エネルギーを無駄遣いしなくて済んでるんだ……

こんな現状でも悩んでいる様子などまったく見せずに、リシィは鼻歌まじりに後ろの車の方へと歩いていった

私たちの現在位置は確認できましたか?

それがまったく確認できなくて……

最初はあの地図で判断していたのですが、激しい追撃戦の後では東西南北すらもわからなくなってしまいました

今わかるのは、私たちは恐らくまだ異災区の中にいるだろうということだけで、他の情報は――何も

ルシア、向こうでまた……ノルマングループのロゴがついたものを見つけました

ですが、前に見たものとは少し違うような気がします……

それは「遺品」というより、「遺体」のようだった

未知の生物に引き裂かれたように半分になった機械の腕、どこについていたのかわからないパーツ、それに……機械の頭蓋骨

ぬかるんだ赤潮の泥に埋もれていた金属の頭蓋骨の、そのぽっかり空いた眼窩には淡い紫色の小さな花が咲いていた

第1世代の構造体ですね

これは……手帳?

機械の腕の下には、押し潰されたボロボロの手帳があった

長い間、風雨に晒された手帳はほとんど朽ち果て、何とか文字を識別できたのは、僅かに残った数ページだけだった

彼らは……ノルマングループの……「ヘラルド」?

我々は、オリーブの枝を持ち帰る白い鳩だ

我々は、黄金と栄光を開拓する旅人だ

我々は、ノルマングループを代表するヘラルドだ

我々は、全ての人々の願いとともに進み、希望の火種を持ち帰る

私の名は……エドワード·ノルマン

(前の文字は不鮮明で読み取れない)……我々が第1リアクターの街に入ってから5日目だ

状況は父が予想していたよりもかなり厳しい

同行していたチーム内最後の専門家、アルチュールも重度のパニシングに侵されて死んだ。あんなに酷い皮膚の爛れは見たことがない……

彼の苦しみを和らげる方法はなく、最期の安らぎを与えることしかできなかった

リアムは侵蝕されたあと、理性を失った侵蝕体にはなりたくないと言い、

まだ意識が残っている内に自分の頭を銃で撃ち抜いた

この計画は本当に正しいのだろうか?ドミニクは……本当にこんな環境に「存在」しているのか?

……

8日目

同行の専門家、アルチュール、パニシングによる侵蝕で死亡

ノルマングループセキュリティ隊長、リアム、銃で自殺

ノルマングループセキュリティ隊員、ヤヘン、彼はまだ私の側にいるが、すでに侵蝕体に変容しつつあり、強い攻撃衝動を示している

(文字は読み取れない)……父さん、我々は間違っていたのかもしれない

ドミニクは絶対に……(文字は読み取れない)

……

(文字は読み取れない)全てが間違いだった、全てが

私はここにいるべきじゃない、来るべきじゃなかった。自分の書斎に、寝室にいるべきだったんだ

レオナルド、クリスティーナ、ヴィクトリア……

誰かが話している……誰だ……

レオナルド、来るな、来てはいけない……

この後の内容は完全に読めなくなっていた

……

ドミニクを探すためだけに、こんなに大きな代償を……

第1世代の構造体ですね

前に見たあのノルマングループのロゴが入った物資も、恐らくグループから送り込まれた「ヘラルド」のものでしょう

保存価値のある資料はすでに保存しました。それ以外のものは……

……リシィたちがしていたように、ここに埋葬しましょう

ねえ、クロワ隊長

ん?

もし私が死んだら、私の遺体は燃料をかけて燃やしてくださいね。その後は、こうやって土に埋めてください

……?

赤潮の中で……独りぼっちで死ぬのは嫌ですから

……心配するな

地面に残る機械パーツや肢体を拾った構造体たちは、無言のまま「ヘラルド」たちが存在した証を防水布で包み、赤潮を取り除いて地球の土壌深くに埋めた

この世界で亡くなったどんな者も、皆、自分の名前を持っていた

エドワード、アルチュール、リアム、ヤヘン……

木の幹にひとつひとつ名前が刻まれ、周りに静かに集まった難民たちが、小さく歌を口ずさんだ

「ヘラルド」たちが所持していた資料の中に、赤潮の侵蝕をまぬがれたボロボロの地図があった

リーフはその地図から、現在一時的にいる場所を特定した

この場所からは……第1リアクターが近いですね。恐らく260から300km以内です

資料の中に、ドミニクの手記の一部がありました。「ヘラルド」たちの記録によると、ここに来るほんの少し前に入手したようです

でも彼らは初期の構造体でしたよね?

爆発後の第1リアクターの観測データでは、爆発当日はパニシング濃度が急上昇しましたが、リアクター停止後、区域内のパニシングは一定時間の経過後に拡散し始めています

彼らの手記にある時間と照らし合わせると、「ヘラルド」が第1リアクターに入った時のパニシングは、初期の構造体でもかろうじて耐えうる程度だったはずです

だから……彼らはこれを手に入れられたのでしょう

第1リアクターに関する、ドミニクの手記の一部……

ノルマングループはそんな手記のために……彼らを派遣し、死に追いやったと?

……

この資料は一時的に封印しておきました。通信が回復したら、空中庭園にアップロードします

まずは私が前に偵察した方向へ進みましょう。あの辺りは赤潮がまだ完全に集まり切っていません

その赤潮の湿地を突破して更に少し進めば、この異災区を抜け出せます

はい……

今、防護品の消耗がかなり早くなっています。リシィたちは防護服を老人や子供に優先的に譲っていますが、それでも十分ではありません

構造体用の医療物資ももう底を尽きました。次は私が前方の偵察を引き受けます

彼女はルシアの機体のあちこちに残る傷跡を心配そうに見つめた

リーフさん……盗み聞きするつもりはなかったのですが……医療物資が足りないのですか?

あっ、いえ……

私……血清と包帯をいくつか持っています。どうぞ……受け取ってください

これも……

使用期限をすぎた血清や擦り切れた防護服、やや汚れた包帯が、構造体たちの周りに積み上げられた

常時なら粗末なものであろうと、それらは今の彼らが提供できる最上の物資だった

こんなに……受け取れません。これは皆さんが苦労して……

リーフさん、あなたは俺を覚えていないだろうけど、俺はずっとあなたのことを覚えていたんだ

俺たちを避難させてくれたこと、俺たちの傷を手当してくれたこと、そして……

純白の機体の翼を広げ、永遠の夜に立ち向かった少女――

もし君たちがいなければ……俺たちはあの時とっくに死んでいたさ

これは俺たちからのほんの気持ちだ。何か必要な物があるなら……俺たちもできる限りのことはする

彼は微かに笑顔を見せ、持っていた汚れた包帯を置くと、両手をこすりながら他の難民たちに混じっていった

全部片付いた?今ある物資は――

防護マスク越しでリシィの声は少しくぐもっていたが、依然としてその声には張りがあった

――片付け完了!

ゲミーラとエレーヌの声とともに、難民集団の中からもぱらぱらと応答の声が上がった

リシィはまったく気にせず、声を弾ませた

さっきルシアさんに確認したの!この森を越えさえすれば――このおかしな場所を抜けられるってね!

もう少しで、清浄地だよ!

清浄地に着いたら何をしたいか、もう決めた?

ワシはビールが飲みたい!清浄地には新鮮なビールがあるはずだ!

わ、私はムーアと結婚したい!

もちろん俺もだ!エレーヌ!俺と結婚してくれ!

――もちろん!!

防護マスクで顔が隠れていても、少女の顔が赤く染まり、照れていることがわかる

重苦しい空気は、だんだんと晴れていった

私はこの赤潮のデータを全てまとめてアップロードする。どれも非常に貴重なデータだからな

赤潮の形成パターンを掴めたら、論文を書いてその表紙に記すつもりだ……彼ら全員の名前を

じゃあ、僕は小さな土地を耕したいな。前に集めた種がたくさんあるんですよ……

あんたが前に血清瓶で育てていた野菜、商売にならないか?考えてみろ、血清瓶ならいくらでもあるし、外で簡単に拾えるだろ?

種を血清瓶に植えれば観葉植物にもなるし、育てば食卓にもうひと品増えるってもんだ!

いやあ、話していると本当にいい商売になる気がしてきた。俺と一緒にこの商売をやらないか?

確かに、いい商売になりそうですね……

ハハッ、着くまでまだもうしばらくあるし、ゆっくり話し合いなよ!

皆のやりたいことが決まる頃には、清浄地に着くはずだよ!

車両がガタゴトと音を立てて動き出した。窓のすぐ側、血清瓶に植えられたふたつの芽も、必死に伸びていこうとしていた

第1リアクター、都市深部

▄▆……▆▁▃……

うーん……どうやら……もっと正式な言葉を使うべきだったかもしれませんね

図書館の中央に立つ、緑のマント姿の少女の足下には濃い紫色の花が咲いていた

彼女の前にある赤潮からは、8本の足を持つ異合生物がゆっくりと形成されつつある

これがあなたの望みですか?足が8本の……タコのような猫になることが?

そうですか……うん、それもいいでしょう

彼女は腰をかがめ、その異合生物が発する呟きに耳を傾けた

そうなんですね……ええ、それも立派な職業ですね

私たちの街はこんな感じです……

赤潮がゆっくりと凝固し、コレドールの前に都市が形成された

さあ、あなたの想うように、お行きなさい

異合生物は彼女の足下にすり寄ると、彼女の示した方へゆっくりと這っていった

「皇帝」

これがお前の描いた「文明」か?

「彼女」の目を通して、まだ私と連絡が取れるのですね?

少女は微笑んで持っていた本をしまった

「皇帝」

フン

ああ……ここでしたか

地面から半分壊れかけた端末を拾い上げると、コレドールはその幻影を映し出した

今こうして連絡があったということは、何か手助けが必要なのですか?

必要ない。ただお前の進捗を見に来てやっただけだ

あれは誰だ?

数枚の紫色の花びらが、赤潮の街の端を俊敏に移動していた

あれは……私が一番読みたい「物語」です

彼らは希望の灯火と、絶望の星を背負っています

優れた種である彼らを、私が記録に残すこと……それが私の望み

赤潮は、更に多くの文明からの声を必要としています

お前に気に入られて……彼らも運が悪いというか、不幸というべきか

文明は変わっていかねばなりません。それは騒ぐほどのことなのでしょうか?

まだたった数ページでしかない人類文明の中でも、無数の文明が栄枯盛衰を繰り返してきました

このパターンは、この先も続いていくでしょう

ですから、私たちとともに新しい文明を歩もうと、友好的に招待をしたというだけのことです

もしあなたが望むのなら、私たちと一緒に……

笑止

投影は消えた

あら……少し残念

彼女は小さくため息をついた

では、続けましょうか……

赤潮が湧き上がり、蠢きながらまたひとつの異合生物を形作った

あなたの望みは……何ですか?

私たちは……形容される人類文明の中でも、最も美しい家を作り上げるでしょう