Story Reader / 本編シナリオ / 29 ソースビーコン / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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29-9 新生の廃墟

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はあっ、はあっ……

だ、大丈夫ですか?隊長

大丈夫だ……多分

彼は脚を引きずりながらも、なんとか自分の体を支えていた

先ほどの赤潮との「交戦」で、彼の脚の装甲は赤潮に侵蝕されていた

とっさの判断で侵蝕された装甲部分を切断したが、そのせいで彼はゆっくりとしか動けなくなった

ふぅ……大変な仕事だとはわかっていましたけど、まさか……ここまで大変だとは……

コーリの状況も悪そうだ

先ほどまで背負っていた巨大な信号転送装置はすでに、ボロボロに壊れてしまっていた。だが、これのお陰で彼らは僅かながらも逃げる時間を確保できたのだ

あれは……一体何なんだ……

しょ、昇格者なのか?

昇格者には見えませんでした。私たちも何度か戦闘に参加したことがあるけど……

シッ、向こうから音が……

彼女はタタッと前に走り出ると信号転送装置すらも背負えるその怪力で、クロワを一気に担いで走り出した

お、おい!俺に構うな……お前たちは観測データと画像を持って先に逃げろ――

黙ってください。マンティス小隊に無駄口を叩く人は要りません!

彼らが数歩もいかない内に、エンジンの轟音とともに数台の巨大な車両が森を突っ切って出現した

どうしてこんなところに人が――早く早く!車に乗って!皆、詰めてあげて!

最初の車両が止まると、3人が反応するよりも早く、車両から飛び降りてきた数人の難民が大急ぎで、彼らを車に引き上げてくれた

ま――待ってくれ――

――リシィか!?

エレーヌは?エレーヌは無事か!?

彼女なら後ろの車両――今、おしゃべりしてる時間がないの。さっさと逃げるよ!

でこぼこの悪路が続き、3人の構造体は難民やテント、物資、さまざまな袋に押し潰され、目眩を起こすほど車に揺られていた

3、4時間ほど走り、空が暗くなり始めた頃、ようやく車両が停止した

火を起こして全員で焚火を囲み、冷たく凍えた体を温める

すっごくスリリングな経験だったね……

今度マイカに会ったら絶対話さなきゃ。だって「よりよい明日のため戦場の救援はお任せ!万物を照らすサンシャインチーム」の大手柄でしょ?

……よく頑張ったね、相棒!

彼女は車の荷台を叩き、まだらに腐食の痕がある車の側面を少し心配そうに見つめた

車の反対側ではクロワが大きく息をついていた

君たちは……清浄地の方へ向かっていたのか!?

私たちの任務は異災区の奥へ向かうことだった……どうしてこんなに大きく方向がズレているんだ?

指揮官が離れてからすぐ、私たちは何度も赤潮に遭遇しました。赤潮の動きに規則性はなく、私とルシアが交代で、なんとか避けながら道を探したんです

その間、通信信号をほとんど受信できませんでした……恐らくその時に方向を見失ったのでしょう

あっ……動かないでください。これが最後の包帯なんです

……赤潮の動きが不規則な理由なら知っている

我々は近くの保全エリアで新しい任務を受けた。恋人を探していたムーアがこの辺りの地形に詳しく、ガイドができるということで、一緒に出発したんだ

その後は君たちと同じで、仲間を数人失い、赤潮に追われて完全に方向を見失った。そして誤って第1リアクターがある街に入ってしまった……

パニシング濃度が急上昇して我々はそれ以上近付けず、いくつかのデータとサンプルを収集したあと、濃度が低い地域を見つけてその街を離れようとした

その時……赤潮の深部で……「彼女」を見たんだ

コレドール

▄▆……▆▁▃……

緑色のマントを纏った小柄な少女が、赤潮の上を裸足で歩きながら、曲をなしていない歌を奇妙な言葉で口ずさんでいた

クロワ

こんな高濃度のパニシングなのに……どうしてここに人がいられるんだ……

コーリ

どうも変です。この辺りの赤潮は、パニシングが活発すぎる……

小さなウサギのような異合生物が、突然少女の足下の赤潮から飛び出した

クロワ

ありえない……

コレドール

……人類の文明の礼儀に則って、生者にご挨拶を

彼女はゆっくりとふたりの構造体に近付いた。その目には興味深そうな色が浮かんでいた

彼女はコレドールと名乗ったが、私たちには「彼女」が特別な昇格者なのか、それとも別の何かなのかすら、判断できなかった……

彼は寒気を覚えたようにぶるっと震えた

その後、彼らが口を開くよりも先に、その少女が彼らの方へと両手を伸ばしてきた

すると赤潮がうねうねと彼女の足下に集まり、それはふたりの構造体の側まで蠢き、広がっていった

コーリがとっさに、それまでずっと背負っていた信号転送装置を置いた。その少女は信号転送装置に興味を持ったようで、しばらく私たちを追うのをやめた

でなければ、私が失ったのは脚だけではなかったかもしれない

……

まだ知られていない昇格者のひとりでしょうか?

違うと思います。現在記録されている昇格者はほとんどが構造体です。でもあの少女には構造体の特徴が一切なかったんです

あれは構造体というより……赤潮とパニシングから生成された何かのようでした

……皆さんの通信状況はどうなっていますか?

強化信号転送装置を失い、空中庭園との連絡はすでに完全に途絶えています

後ろで眠りにつき始めた難民たちを見ながら、ルシアはずっと黙り込んでいた

難民たちは正しい方向に進んでいると信じている。彼らの信念と前進する意欲を保つため、彼女は偽りの希望を与え続けるしかなかった

赤潮は厚く汚れた雲を巻き込みながら、暗く予測不能な敵意をちらつかせ、この迷える人々の背後に迫りつつあった

身分を確認されたマンティス小隊が彼女たちを陥れる可能性はない。だがその正体不明の何かが、本当にこのキャンプに押し寄せたら……

ルシアには「彼女」の到来を阻止することも、背後にいる人々全員を守れると確信することもできなかった

もし……もしここに指揮官がいればどうするだろう?

天と地を隔てる距離にもかかわらず、意識リンクの中でその僅かな灯火は今もまだ確かに揺らめいていた

……幸い車はまだ十分走れますし、食糧も全員が数日食べれるだけの量はあります

焚き火が暖かそうにゆらめく中で続く沈黙に、リーフが口火を切った

地形は赤潮によって変わってしまいましたが、地図も手に入れましたし、大まかな方向に問題はないはずです

……少し休みましょうか。夜が明けたら、引き続き進みましょう

第1リアクター、都市深部

ここは文明崩壊後の墓場だ

人類の痕跡はパニシングの爆発とともに消え去り、街には次第に自然が戻りつつあった

緑化帯の花が咲いては枯れ、梢の果実は泥の中で腐り、土へと還った

野草や蔓が高層ビルを我が物顔に占領している。停止した機械が街のあちこちに物言わず転がって、その骨格の隙間から枯れ枝や細い芽が伸びていた

かつて栄えた街は今や壁の残骸だけを残し、零点エネルギーリアクターはすでに静かな廃墟と化していた。人類文明を担っていた図書館も、いまや巨大な骨組みが残るだけだ

太陽だけが古からの軌道を変えることなく、街全体を照らしている

奇妙で難解な言葉を呟きながら、マントを羽織った少女はついにこの地に足を踏み入れた

▄▆……▆▁▃……

霧が立ち込める中、赤潮はザワザワと少女の足首に寄り添いながら、長い間荒れ果てたこの街へひっそりと入っていった

衰退し、隆盛し、また衰退する。それが文明の物語です

潮の満ち引きの規則には、いつも何かの兆しがある

全てを記録し、全てを書き記し、全てを奪う……

彼女は顔を上げ、退廃の匂いが漂う空気を深く吸い込んだ

……▄……ここでいいでしょう

図書館の崩れた門の前で立ち止まると、彼女は礼儀正しく尊敬の念を込めて、背の高い守衛ロボットに一礼した

コレドール

文明のルールに則って……この足下の土地を買いましょう

彼女は四角く彫られた粗末な木の通貨を、侵蝕された守衛ロボットの足下にそっと置いた

コレドール

次は……

異合生物は赤潮の中から「生まれた」

新しい「文明」は朽ちた書籍の中で花開き、砂時計はサラサラと流れ落ち、鮮やかな深紅の「家」を形成する

コレドール

文明の成長には、発展と敵が必要ですね

これは……私たちが直面しなければならない戦争

私たちは……ともに更に偉大なる文明を迎えるでしょう

異合生物は雛鳥のように、おとなしく彼女の足下へ集まった

コレドール

初めて生まれた文明には反復、発展、進化が必要です。私たちはすでに十分な情報を集めました……

お行きなさい

そのひと声で赤潮の泥は一瞬で膨れ上がり、激しく唸りながら四方八方で荒れ狂い、逆巻いている

……他の文明の発展と同じように、開拓し、略奪しましょう

私たちの養分となる全てを吸収し……

すでに準備は整いました

ここで、私たちの文明を育む準備が