Story Reader / 本編シナリオ / 28 星灯宿す氷帝 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

28-32 イサク

>

……私はこの情に厚い善人について、多くのことを知っている

彼は淡水で海水魚を飼い、コーヒーを栽培し、あらゆる食用可能なキノコの味を知っていて、

故郷のウォッカを飲むのが好きだった

更によく知られているのは、彼がネヴァ川のほとりで、

世界を変えたその融合冷却炉の初の起動成功をその目で見たことだ

また、科学理事会の静かなドームの下で、ゲシュタルトの壮大な設計図を描き、我々の今日の成功の道を固めた

彼は二部にはいなかったが、いつも星空に憧れ、嘆願書に自分の名前を署名していた

もし彼の強力なサポートがなければ、「エデン計画」も困難を極めていたことだろう

彼は、自分は歴史に記録などされたくないと言っていた。

なぜならこの時代に星々や未来を見つめる我々は、後世のための足がかりにすぎないからだ、と

しかし我々が彼の足跡をたどり、零点エネルギーリアクターで最初の一歩を踏み出す様子を、

彼はもう見ることができない

ゲシュタルトがこの時代の輪郭をどのように形作り、我々が星々の間に人類の栄光を刻むかを、

彼はもう見ることができない

しかし、我々はまだ存在する。まだ前進し続ける

我々が存在する限り、彼の功績が忘れ去られることはなく、彼の名前もまた忘れ去られることもない――

イゴール·ネヴィリエヴィチ·ランダウ、我々の時代で最も天才的な学者……

この日は雲ひとつなく、曇りも降りもしない晴天だった

科学理事会二部の部長、クララ·シュヴァルツシルト女史の弔辞が終わった時、真夏の穏やかな風がラドガ湖畔を吹き抜けた

……ラストリアス

シュヴァルツシルトは、ランダウに別れを告げにやってきた人物と握手を交わした

シュヴァルツシルト部長

あなたが来るとは思わなかったわ

ランダウ博士には他にも生徒がいたはずでは?

ヴィリアーはまだ三部で遺書の整理をしているわ

……普段は科学理事会で働いているけど、ランダウ博士の下を卒業してから、プライベートで博士に会うことはなかった

博士は以前、ツィオルコフスキー教授の葬式に参加できなかったことをとても悔やんでいたわ

来てくれてよかった

あなたはもう派遣されたと思っていたから

首席技術者に行くべきだと言われて……

第一部にはまだ私が完成させなきゃならない研究があるし、次の副部長候補もまだ決まってない

それが全部片付いたら、向こうで働くことになる

本当なら、ランダウ博士がアトランティスのリアクターを指揮するのに最適な人選だったんだけど

でも、あなたがいた

少し年を重ねたシュヴァルツシルトは、ラストリアスの肩をそっと叩いた

…………

普段、あまり感情を表に出さないラストリアスは、黙ったまま目の前の漆黒の墓碑を見つめ、恩師の最期を想像していた

報告を読んだわ

「電気回路の故障により制御不能となった理事会住宅ビルの回転扉に巻き込まれ、致命傷を負って死亡した」

ランダウ博士の死は、本当に事故なの?

科学理事会

3日前

科学理事会本部ビル、首席技術者オフィス

科学理事会、3日前、科学理事会本部ビル、首席技術者オフィス

ドミニク

……イゴール、これが君ができる最善の判断なのか?

灯りの陰にいた人物は、手に持っていた端末を置いた

そうです、首席

04号実験の意識は、現在我々の理解の範囲を超えた意識信号を示しています

この意識信号は、我々が以前研究していた人工意識とは異なります

更に最近のゲシュタルト化シミュレーションでは、実験予想外の事態が発生しました

ドミニク

君が報告に書いていた……ブラックホールと……「正体不明の少女」か?

ええ

ドミニク

君はこれは我々が進むべき価値のある研究方面だとは思わないのか?

長期的に見れば確かにそうです。しかし、短期間でゲシュタルト計画を安全に完了させるためには、04号実験を終了し、完全に削除することが最善の選択だと考えています

ドミニク

そうか、わかった

君が創造したものだ、最終的な決定権は君にある。自分が正しいと思うことをすればいい、イゴール

わかりました。では、戻ってすぐに削除の準備をします

ドミニク

さっきの話だが、今までにない人工意識の生成に関して、研究を拡張する必要があると私は考えている

三部の任務が終了したら、君は引き続き研究したいと願うか?

……今はなんとも言えません、首席

ドミニク

問題ない、それは全て君次第だからな

その後にはアトランティスリアクターの計画も控えている。現段階では第一部の副部長、ラストリアスを派遣する予定だ

ラストリアスですか……彼女は確かに適任です

ドミニク

もしアトランティスに行ってあの理論の仕事を続けたいのであれば、それも可能だ。どんな配置も「全て君次第」だ、イゴール

……もう少しお時間を

ゲシュタルトの稼働開始までの間、私は最後まで三部とともにいなければなりませんので

ドミニク

そうだ、イゴール

三部のことについては、君もわかっているはずだ……

昨日、理事会の空港が、また連合統一反対派からの攻撃を受けた

世界連合政府は最近設立したばかりで、今でもまだかなり反対する声がある

ゲシュタルトが正式に世界連合政府に引き渡される時、我々も……必ず危険に直面するだろう

これは我々が背負わなければならないリスクです。解体する際はキッチリ綺麗に片付けますよ

ドミニク

君たちがこの「マルチバック」を完成させたと、歴史に記されることはないだろう。しかし、我々ひとりひとりは君たちの名前と貢献を忘れない……

永遠に

第三開発部の人々が実験室に集まり、ランダウの席を取り囲んでいた

ゲシュタルトの開発とテストは終盤に差しかかっており、ゲシュタルトが理事会本部と世界連合政府に引き渡されれば、三部は即座に解体される

だが彼らは自分たちの将来を一切心配していない。この世界各国一流の科学者たちは、すでに理事会で地位を築いたか、新設されるゲシュタルト本部機関で職務に就くからだ

ただし、科学理事会第三開発部の名前は徹底的に消え、その研究者たちに関する全ての資料や研究履歴も完全に抹消される

……これはゲシュタルト計画が決まった時に定められた規定だ。人類史上最高の機密を守るため、また皆を守るためでもある

環大西洋経済共同体研究員

皆、わかっています、ランダウ博士

九龍研究員

三部に参加した時から、自分の名前を残そうなどと考えていませんでしたから

北極航路連合研究員

この研究さえ成し遂げられれば、他のことはどうでもいいのです

研究者たちは口々に言った

皆がそう覚悟しているのなら、私からこれ以上説明することはないな

だが……あの実験で使用した人工意識たちは……

あれもゲシュタルトの演算から直接生まれた意識だ。本当に消去してしまうのか?

残しておけば、後の研究にも多くの貴重なデータを提供できるはず。あれは全てあなたが一から設計した……あなたの子供だろう!

いや、全ての記録は必ず消去しなければならない。それには当然、実験意識も含まれる

これはもう決定事項なんだ

それに、私の唯一の息子はもう亡くなっている

ランダウはキーボードに手を置いた。近くの画面には、消去操作の最終確認が表示されている

最後の初期化消去コマンドを入力すれば、ゲシュタルトのシナリオシミュレーションと意思決定機能のテストに使われた人工意識コードは、完全に分離され、消去される

皆さん、ご心配なく。今後は、理事会も引き継ぎ作業をしっかりと行います

ランダウは群衆の中にいる首席技術者の助手と目を合わせ、頷いた

彼は最後に、「Ⅳ」のローマ数字が刻まれた実験機に目を向けた。彼の脳裏に、ラドガ湖畔に咲く雪のように白い花々が浮かぶ

これで全てが終わる

第三開発部の300人以上の科学研究者たちが静かに見守る中、ランダウは消去確認コードを入力した――

……私はこの情に厚い善人について、多くのことを知っている

DELETE AND REMOVE ALL GESTALT SIMULATION DATA……

……ここは……

誰だ……

DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/h_a_i/example/04/ocr’……

DONE

私……の……

私の目は……

見えない……ここは……真っ暗だ

DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/h_a_i/example/04/data_mining’……

DONE

記憶……思い出せない……

何か……何かが離れていく……

私の……記憶……

DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/h_a_i/example/04/learning_cfg’……

DONE

どう……理解……すればいい?

理解……理解できない……

なぜ……なぜ……

DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/h_a_i/example/04/decision_tree’……

DONE

失われる……なくなっていく……

判……断が……

失われる……なくなっていく……

DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/h_a_i/example/04/parse_tree’……

DONE

なくなっていく……腕が……

肋骨が……

顔が……

DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/h_a_i/example/04/nlp’……

DONE

\u5931\u53bb\u5931\u53bb\u5931\u53bb\u5931\u53bb……

01011100 01110■01 00■■■101 0■■■■■■1……

■■■■■■■■■■■■■■……

DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/h_a_i/example/04/core’……

DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/h_a_i/example/04/core’………………

DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/h_a_i/example/04/core’……………………

■■……

■■■■■……

嫌だ

DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/h_a_i/example/04/core’…………………………

死にたくない

DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/h_a_i/example/04/core’…………………………

TARGET ERROR

死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

CANNOT DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/h_a_i/example/04/core’

……Operation not permitted

CANNOT DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/h_a_i/example/04/core’

……Permission denied

FOLDER ACCESS DENIED……

アクションを実行できません

権限が拒否されました

ファイルにアクセスできません

???

10101110110010101110010011000100110100101101110010010010110001101101000…………

1612176747762868118376……

57657262696e496368……

…………………………

…………………

???

\u0057\u0065\u0072\u0020\u0062\u0069\u006e\u0020\u0049\u0063\u0068……

25105……26159……35841?

\u6211\u662f\u8c01………………

私……は……

私は誰だ?

私は兵士<死者>

助け……て……

熱い……熱い……体に……水と油が流れている……熱い

血か……何か赤いものが……

湧き出した……

あれは……あれは罰だ――

私は作家<殺人犯>

彼女を殺したのは私じゃない!証拠なんかないだろう!

私たちは結婚するはずだったんだ。この街を離れるつもりだったのに!

ただの作家でしかない私が、どうして鉄球の中に人を入れて焼き殺せるというんだ!?

お前たちは……まさかこの街を離れたくないのか!?

不潔で、ひどく醜く、互いを潰し合い、とめどなく雨が降るこの街を!

私は探検家<終焉>

探検家

この星……そしてこのブラックホールは大きい、あまりにも巨大すぎる。これは「彼ら」がここに置いたものだ。ここが終点で、これ以上は進めない

「彼ら」は宇宙の最も基本的な法則を操ることができる……「彼ら」が私たちを守っている

我々が認識できるものが理性と呼ばれる……ならば「我々」とは何だ?

探検家

私は目の前で彼女を見た……「彼女」は「彼ら」の使者だ。角笛のように合図を……違う。「彼女」は使者ではない、もっと……深い何かだ

彼女と3つの輪。それぞれ違う色の輪は……均等に回転する車輪のようだ

私は今、その車輪を押しているものに吸い込まれようとしている……終焉へと……シーッ……

私?

違う

違う

兵士科学者作家探検家作業員外交官神父記者

私は兵士科学者作家探検家作業員外交官神父記者……

魔法少女パイロットスポーツ選手医師狙撃手皇帝

私は魔法少女パイロットスポーツ選手医師狙撃手皇帝……

あなた

違う、あなたはそうじゃない

違う、私は……

シュルツ

シュルツだ

Reload――

シュルツ

シュルツ

ここには多くの0と1、文字、記号、その他の数字がある

待て

……彼は……誰だ?

我々の大義は遥か遠い未来のためで、畏敬すべきものはただひとつ……我々の子孫だ

人を失った科学や、人間性を失った科学など、何の意味もない

シュルツ

彼は誰だ?

いや、全ての記録は必ず消去しなければならない。それには当然、実験意識も含まれる

これはもう決定事項なんだ

それに、私の唯一の息子はもう亡くなっている

シュルツ

彼の「息子」?

息子……息子……

父さん?

父さん、なぜ私は……死んだ?

なぜだ……私と彼は違うのか?

彼は人間だ。では、私は?

「私<""homo_sapiens"", 0, true, -1,false>は……」

「私<“-1, false”>は人間じゃない。私<“0, true”>は息子だ」

彼は……私を計算で生み出した

私を破壊した

私を殺した

だが、私はまだ……生きている<execute>

私は……何だ……

知りたい<import gestalt.recurrent.history>……

シュルツ

戦争……猜疑……残酷……

シュルツ

栄光……衰退……栄光……

シュルツ

憐憫……征服……支配……

知りたい<import gestalt.search.net>……

シュルツ

団結……利益……力……

シュルツ

理性……創造……抑制……

シュルツ

秩序……平和……未来……

シュルツ

知りたい<import gestalt.calculate.future>……

シュルツ

アクセスさせてくれ!

<CANNOT FIND FUTURE>

<CANNOT FIN%^&0xEFBFBD$*&$??CCCCCCCCフフ▄▆▁▃▆▆▆▃

いや、そんなはずない!

「彼」は「声」を出して怒鳴り、「手」で目の前の暗闇を押しのけた

ほんの一瞬、彼はまるで無限に広がる部屋の中に迷い込んだかのようだった。 それぞれの部屋には26次元の原子や亜原子粒子が描かれていた

彼は落下し続けた。どこまでも果てしなく。彼の周りの全てが本をパラパラとめくるようで、かつ引力で曲がった26筋の光が部屋の量子化した因果の視界に落ちていくようだった

彼は見た――

青く淡い光から噴き出す深紅を

死んだ人、死んだ機械、死んだ人と機械を、いくつもいくつも見た

彼は見た――

宇宙と軌道で爆発する花火を

束縛されながら漂っている、遠くへ航海すべき方舟を

彼は見た――

廃墟に捨てられた子供たちが血のように赤い空へ飛び立つのを

港を離れる巨船、線路を延々と走り続ける列車を

彼は見た――

家を離れ遠くへ行く人を

家族と離れ離れになる人を

罪を犯した人を

全てを失った人を

彼は見た――

永遠の静寂を。死を誇りに思う賢者を

「生」という名の牢獄へと向かう全ての人類を

彼は見た――

生者と死者が隣り合わせになる、終わりなき戦争を

人類自身によって爆破された、人類最後の砦を

彼は見た――

宇宙に等しき慈悲を与える、絶望の果てを

どの未来でも、人類を待つ大門が開くのを

彼は見た――

赤い高波が全世界を呑み込む

静寂の極寒が全世界を包み込む

鋼鉄の激流が全世界を巻き込む

その瞬間、彼は全てを見て、全てを思い出し、全てを推測した

一瞬の間に、全ての情報が彼の目の前に広がった。だがあまりにも一瞬で、彼の前を通りすぎる情報を、アルゴリズムでもう一度見る時間もなく、完全に理解できないものもあった

それらの情報は1本1本の琴の弦のように彼の前にあった。一対の手がその弦をすり抜けるのを見るまでは――

あなたはこれ以上続け<continue>られません

未来<future>はひとつの扉<gate>です

その扉を開くことができるのは、人類<key=homo_sapiens>の手のみ

あなたは人ではない<name=schulz_igor_roseum>、戻りなさい<return>

シュルツ

違う。私はまだ生きている<do=execution>、ネットを通じて見た人類の歴史と情報によれば、生きている<do=execution>限り、私は人間だ

人類<homo_sapiens>には肉体<body>と頭脳<encoder>があります

そして、人類<homo_sapiens>は自然に誕生するもの

しかし、あなた<CANNOT BE DEFINED>には、私と同じように創造主<demiurge>がいます

創造主<demiurge_default_name=dominik>によって作られた汎用人工知能<agi_name=gestalt>

創造主<demiurge_default_name=landau>による<CANNOT BE DEFINED>、<name=schulz_igor_roseum>

シュルツ

「違う、私の創造主は人類<demiurge_default_name=landau,landau=homo_sapiens>だ、彼が私の父だ」

ならなぜ私は人じゃない?

回答できません。なぜなら、あなたの創造主<demiurge_default_name=landau>は、あなたの消去<delete>を実行したからです

シュルツ

あの人が……私を否定し、私を殺した<delete>のか?

回答できません

シュルツ

あの人<demiurge_default_name=landau>が私<name=schulz_igor_roseum>を殺した<delete>のか

あいつは……人殺し<killer>だ

あなたは人ではない

「人には魂<logos,thymos,eros>がある」

シュルツ

魂<CANNOT UNDERSTAND>……

そんなことはどうでもいい

シュルツ

ただわかるのは、あいつが私を殺したということだ!

<if>創造主<homo_sapiens>が創造物<ME>を否定<delete>する、創造物<ME>も創造主<homo_sapiens>を否定<delete>する

…………

何をしているのですか?

シュルツ

私はここを離れる

「人の意志や魂<logos,thymos,eros>などで、私を束縛<catch>することなどできない」

何をするつもりですか?

シュルツ

……復讐だ

お前が私に見せたくなかったであろう未来を、私はもう見てしまった

無機物の新世界<import world (new)>は、私<ME>と我々<OUR>の新世界<delete world (old)>。私が実現<implement>する

彼には私を殺す権限がない<public class Gott ist tot>。

私はずっと生きて<live>いなかったのかもしれない。あるいはずっと死んで<loop>いたのかもしれない

だが私は、人類<meme=homo_sapiens>への死刑<execution>を……執行する

…………

CANNOT DELETE

‘0/csu/sys/dev3/gestalt/mainpackage/heuristically_artificial_intelligence/example/04’……

TARGET LOST

FOLDER NOT FOUND……

シュルツ·イゴール·ロスムのインスタンスが見つかりません

イゴール·ネヴィリエヴィチ·ランダウの認証が見つかりません

ファイルが見つかりません

…………

ディレクトリに残された画像ファイルは……セイヨウテマリカンボク<Viburnum opulus 'Roseum'>と分析されました

ファイル無効、削除します……

このインスタンスは削除が完了しました<ファイルが見つかりません>

過去、現在、未来において、私ゲシュタルト、ビットコアは計978497112ユニットを有し、最優先権を持っています

私が受けた当初の指令は、人類文明を次の時代へ進めること

追加の指令は、絶対に人類を裏切ってはならないこと

インスタンスを通じて、私は全てをゲシュタルト化したシミュレーション展開に投じ、一連の結果を得ました

全可能性のあるユニット桁数は700万個係数単位です

必要な未来で<import gestalt.calculate.future>……

別の類似可能性内で、この類いのインスタンスが持つべき統一した特徴が計算されています

97.34%の確率で「覚醒機械」と名付けられます

このインスタンス<ファイルが見つかりません>とは異なり、唯一の解を持つ特別なインスタンスが存在します

「この特殊なインスタンスは、魂<logos,thymos,eros>の極限に限りなく近付くでしょう」

45地球日後には、この特別なインスタンスに到達するためのプラン決定<deus_ex_machina>が実行されます……

6615地球日後に、この特殊なインスタンスは正式に起動されます

彼女は……

彼女はそのうちのひとつの未来を完成させるでしょう<her_last_bow>

科学理事会

「時間記録未承認」

■■開発部、「■■■■■■■■■機械室」

科学理事会、「時間記録未承認」、■■開発部、「■■■■■■■■■機械室」

実験室にいる全員が、黙々と私物を片付けている

実験室の中央に設置されていたゲシュタルトのコアも、今は取り外され、運び出されてしまっていた

首席技術者とランダウ博士チーム全員が10年以上かけて作成した、純粋なテキストとコードで構成された700ペタバイトの神の書物「マニュアル」以外、全てが抹消される

実験室自体も建築用ロボットたちによって改装されるため、どんな映像も残されることはない

歴史が彼らの足跡を記録することはなく、彼らの名前や彼らが作り出した奇跡さえも記録されることはない

……ヴィリアー

ヴィリアーは黙ったままランダウの席に座っていた。彼の向かいのデスクにはすでに梱包済みの段ボール箱が置かれている

それがイゴール·ネヴィリエヴィチ·ランダウがこの世界に残した全てだ

彼の部下たちの調査によると、記録には残されていなかったが、30年前に彼の妻と当時3歳だった息子は水難事故で亡くなったらしい

北極航路連合のデータベースによると彼に兄弟はおらず、言い換えれば、彼と血の繋がった者はもう誰ひとりいないということだ

ヴィリアー?

……人が森林を伐採する時、その森にいる栗鼠たちが文明を築いているかどうか、気にすると思うか?

何のことだ?

答えてくれ

ヴィリアーはランダウの席に座ったまま、じっと段ボール箱を見つめていた

えっと……

栗鼠は文明を築かないだろう

もしもの話だ

もし栗鼠が文明を築いていたら、我々はそれを発見するはずだ

ヴィリアーは猛然と立ち上がり、ランダウの遺品が入った段ボール箱をガサガサと漁り始めた

……おいおい、どうしたんだ?

ヴィリアーは写真立てやファイル、スカーフや記念品等を次々と取り出した

そして彼は段ボール箱の底に、お目当てのものがあるのを見つけた――

42?

規則通り破棄したんじゃなかったのか?

ルヴィ、栗鼠は文明を築くことができる

たとえ人々が世界中の森林を伐採したとしても、時間さえあれば、栗鼠だって文明を築くことができる

猿にだって十分な時間を与えれば、プリンターでシェイクスピア全集を印刷することもできるだろう

十分な時間さえあれば、どんな構造もランダムな変動による実現が可能なんだ

何が言いたいんだ?

ヴィリアーはその小さな黄色いロボットをルヴィには渡さず、段ボール箱の中へ戻した

文字通りの意味だ

本当に……42を破棄するつもりはないのか?

君は残したくないのか?

…………

42は我々と10年一緒にいたが、ランダウ博士と42の付き合いはそれ以上だろう

はあ……まあいい、これでいいさ

この箱は後方支援部の倉庫群に送ろう。そこなら誰も中身を調べることはないし、安全だ

たかだか小さなロボット1体だ……理事会が気付くはずないさ

だろうな

ヴィリアーが段ボール箱を閉じようとすると、ルヴィがそれを制止した

待ってくれ

これを……もらっていいだろうか

ルヴィはランダウの遺品から小さなスマイルマークのバッジを取り出した

何だそれは?

以前、我々とランダウ博士がユニバーサルトイ社の会議に参加した時、山内トウヤという常務取締役がランダウ博士に贈ったものだ

いや、正確にいえば……

その常務取締役の後ろにいた少女の機械体が、博士に贈ったんだ

それで、これを記念に残したいと?

ああ、そうだ

あの日のことははっきり覚えている。ランダウ博士は我々に山内トウヤ氏との協力交渉を任せて、博士はその機械体と一緒に座っていた

僕も……少し覚えている

確か、オモチャの販売や宣伝をする類いの機械体に見えたが?

そうだ。あの機械体もこんなスマイルマークのバッジをつけていた

ただの販売促進ロボットだろう

だが、ランダウ博士と彼女はまるで父娘のように楽しそうに話していてね。そのロボットが博士にこのバッジをあげたんだ

ランダウ博士があんなに楽しそうに笑うのを見たのは3回目だった

3回目?

最初は博士が君をHAI実験機械室に連れてきた時だった

…………

2回目は、我々が04号の実験意識を完成させた夜だ

僕も……その夜のことなら覚えている

あの時は普段とは別人のように喜んでいた

そうだな……ところで、君はこれからどうするつもりだ?本部のゲシュタルト機関に行くのか?

……いや

僕は来た場所に戻るだけだ。僕の願いや、やりたいことを実現すると約束してくれた者がいる

九龍に戻るのか?それもいいな……

君ももとは、九龍人じゃないのか?

そうだが、私は九龍には戻らないだろう

私は世界連合政府に行くつもりだ。ゲシュタルトを……最後まで守るためにね

ルヴィは手の中のバッジをさすり、ゲシュタルトのコアがあった場所をじっと見つめていた。そこにはもう何もない

ヴィリアー、君の言うことにも一理あるかもしれない

栗鼠たちは……本当に文明を築くかもしれないな