Story Reader / 本編シナリオ / 27 稗史刻む焔志 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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27-24 伝達

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死ね!

ののしる声とともに銃声が響く

うっ……ああ……

反撃しようと銃を構えたちまきの手は硬直したままだったが、兵士は地面にあえなく倒れ込んだ

最後の一発を打った拳銃に新しい弾倉を装填すると、呆然と座り込むちまきに歩み寄った

はっ……

相手はようやく我に返ったようだ

俺が大丈夫かどうかの問題じゃありませんよ!

指揮官、反乱軍は俺に任せて、あなたは異合生物だけを警戒する約束だったじゃないですか

彼は自分の髪を引っ掴み、後悔しきりだ

彼は侵蝕体でも異合生物でもなく、この……この人は……

真っ赤な血液が死体の背中から滲み出し、ゆっくりと広がっていく。これは、侵蝕体や異合生物には決して見られないものだ

人体はこんなにも脆い。心臓を射抜く弾丸が1発あれば、抵抗する力を奪うのに十分だ

自分は初めてそれを痛感した

こんなことダメだ……指揮官はパニシングと戦う英雄です。こんなことするべきじゃありません!

……

右手の震えを必死に抑えながら、まだ地面に座り込むちまきを引き上げ、その場を離れようとした時……

身の毛がよだつような感覚が背中を這い上がった

気付かないだろうと思っていたのに

倒れた死体がゆっくりと溶けて紫がかった芝生に沈んでいき、腐敗した血漿の上で花が開くように少女の姿が現れた

これで会うのは3回目ですね、[player name]

相手は前とまったく同じようにスカートを持ち上げてお辞儀をした

あんた誰だ!?

ちまきはさっと指揮官の前に立ちはだかり、小銃で狙いを定めた

しかし相手は避けも隠れもせず、ただ向けられた銃口を興味深そうに眺めているだけだった

これが現実の敵意?守るために生き物が発揮する本能……いえ、何か違う

そうブツブツと独り言を言いながら、何か考え込んでいるようだ

私がここに来たのは回収のためです

彼女の下で溶けかかっていた死体は、すでに芝生に完全に吸収されていた

コントロール?その言い方は正しくないと思われますけど……

でもご勘弁ください。私が持っている語彙では、まだ私とこの土地との関係を正確に表現できないんです

相手は丁寧にそう話した

もしここを離れたいなら、あちらへ向かってください

彼女はそう言うと、ある方向を指した

もっと多くの物語を読みたいからです

その口調は真剣そのものだ

人間とは何か、社会とは何か、文明とは何かを知りたいのです

人類の物語は、人類そのものよりも重要です

だから、あなたたちにはもっと多くの足跡を残してほしいと心から願っています

……

それでは、お先に失礼します

現れた時と同じように、少女はふいに消えた

し……指揮官……あれ、何者です?

ちまきはコレドールが消えた辺りを見つめた。普段の楽観的な顔が不安そうな表情に変わる

新たな追手の包囲網を突破し……

襲いくる異合生物を撃破し……

奇妙なツタや枝を切り開き……

木々の隙間から見える正常な光景は、もう目の前だった……

約半年に及ぶ逃亡生活がついに終わりを迎えようとしている……

異常と正常の境界線を越えると、鼻に流れ込む空気に生臭い腐敗臭はもうなかった

この苦難の旅が終わろうとしていることに興奮し、自分は気がついていなかった……

取り残されている人がいることに……

ワタナベさん、ワタナベさん!目を覚まして!

どうして……どうしてまたこんなことに!?

ワタナベの胸に開いた大きな穴を見て、ちまきはあの無力だった午後を思い出した

彼は必死で流れ出す命を止めようとしたが、結局は無力だった

爆発で誰なのか認識できないほどの損傷を受けた体で、ワタナベを戦場から離れた場所へと引きずった

そして、彼は見た……

芝生を歩く、緑色のローブをまとった少女を。彼女が通ると死体はどれも泥の中へと沈んでいく

彼はもう死にます

来るな!

彼の……コアって言うんでしたっけ?前に埋め込まれた爆弾が破裂しましたね

相手は何かを確かめたあと、また話し続けた

もうすぐ彼の意識は永遠の眠りにつきます

彼を私に任せてください。彼の物語はこれからも私の手が伝えるでしょう

あっち行け!ワタナベさんが死ぬもんか!

それは無理な話ですね。誰かがコアを交換しない限りは

俺のコアを使う!キャンプに行けばなんとかなる!

そう言ってからちまきは思い出した。自分たち一行の行動を知るのはオブリビオン内部だけだ。このまま戻れば自ら網にかかることになるかもしれない

少女は彼のためらいに気付かず、静かに訊ねた

それがいわゆる、あなたたちのいう献身というものですか?

二度と同じことは繰り返させない!

献身だけではなさそうですね?

少女は考え込み、しばらくするとコクンと頷いた

いいでしょう。その取り引きに応じましょう。私が読んだことのない物語になりそうです

待ってくれ、俺は……うう……

紫がかった芝生がふたりを包みこんだ

あなたの要求が達成されたのですから、私も公平性に基づき、報酬を受け取ります

呼びかけをぼんやりと感じ、ちまきはゆっくり目を開けた。いつの間にか彼は樹に寄りかかっていた

ちまき

指揮官……

ちまき

思い出したんです……あの緑色のローブ……俺たちが襲われた時に……見ましたよね……

ちまきはいつもの明るい口調で話そうとしたが、力が思うように入らない

ちまき

彼女が……俺のコアをワタナベさんに移して……俺のコアがあった場所に、何か別のものを取りつけたみたいです

異常と正常の境界線を越えて清浄地に入ったあと、ちまきは胸にあった何かが消えた感覚を覚えた

ちまき

ダメですよ……

ちまきは人間の手を握った

ちまき

指揮官……俺……これでよかったんですよね?

その人間には答えようがなかった

ちまき

やっぱ……わかんないっすよね……

指揮官、俺は賢くもないしすごくもないから……構造体になっても……ずっと役に立てなくて……

ちまき

だから……こうするしかなかった……あの時みたいに無力でいたくなかった……

でも結局……誰かを頼ることになっちゃうのか……

指揮官、ワタナベさんは……俺がこうしたことで、侵蝕されたりなんかしませんよね?

それは私ではありません……それにここでは、私はただの読者です

彼の心の中の物語はすでに読み終えましたし、取引のマナーに従って、この本は傷つけずにお返しするべきでしょう

ちまき

よかった。ずっと怖かったんです……ワタナベさんに嫌われたらどうしようって

指揮官ほどの人が保証してくれるなら……大丈夫ですよね……きっと

侵蝕体には……なりたくありません……侵蝕体になった仲間に手をかけなきゃならなかったワタナベさんを見たことがあって……

とても辛そうで……だから、俺を連れて戻らないでください……お願いします……

ちまき

指揮官、悲しまないでください……他人の助けがあったけど……俺はやりたいことをやり遂げました……

彼はゆっくりと右手を上げ、こちらに向かって敬礼した

ちまき

最後に、ひとつだけいいですか?

太陽の光がゆっくりと彼の顔を照らし、金色の砂を散らした

ちまき

ワタナベさんに伝えてください。あの時あんなに迷惑をかけた泣き虫が……

今じゃ誰かを守れるように……

最後まで言い終わらないうちにその手がパタリと落ち、もう二度と動くことはなかった

オブリビオン前哨

6:30 PM

ん?誰か来たみたいですよ

あれは……空中庭園のやつか?ついにしびれを切らしたか?

でも方向が違うようです。それに人を背負ってません?

同時刻、空中庭園前哨……

誰か来たぞ!

様子がおかしい。なぜ武装がない?

背中の重さを感じながら、一歩ずつ前に進む

巻いた包帯は汗で湿り、開いたままの新しい傷や古い傷がズキズキと痛み始めた

顔を伏せていても、両側から無数の銃口がこちらを狙っているのがわかる

深く息を吸い、胸元から2枚の旗を取り出した

ええ。指揮官はこっちの旗を。こっちは俺が使います

事前の挨拶みたいなものですよ

へへっ、長い間練習したんですよ

危険な行動だとは承知の上だ。だがちまきを失った今、双方に交渉の意思を持ってもらうにはこの方法しかない

ちまきの決意を無駄にしないため……

ワタナベとの約束を守るため……

自分の言葉に嘘をつかないため……

少しの冒険がなんだというのだ

1枚には鴉羽と盾の紋章、そしてもう1枚にガスマスクと燃え上がる熱砂の紋章が描かれた2枚の旗が、緩衝地帯ではためいた