Story Reader / 本編シナリオ / 24 惑わせる森 / Story

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24-16 自由の定義

数日後、空中庭園、極秘の上層会議――

……今にいたるまで、執行部隊が「異災区」内の数値の制御や捜索を続けてくれている

会議室の中央の投影装置に、数点の赤紫色の衛星写真が表示された。空から見ると、黒と灰色の執行部隊はダムのように災害の海をせき止めている

連絡を受け、我々は何セットかのΩ武器を投入した。だが今朝の前線からの報告によると、少なくともまだ倍ほどの数が必要らしい

倍?カッパーフィールド海洋博物館の戦いの後、我々のΩ武器はほとんど底をつきました!在庫はほぼ空ですよ

ここ数日間で送った物資の量も、すでに許容量を越えている

なのに、まだ倍って……ここにいる皆さんだって、緊急事態の際に対応できる手段を失いたくはないでしょう?

今がその緊急事態で、だからこうして討論しているんだが?

しかし……

建設部として心配なのは、情報の秘密保持についてコントロールできているのか?ということです

特に、清浄地は影響を受けていないというサンプリングレポートも、本当に信用して大丈夫なのでしょうか?

数値が本物なら大丈夫でしょう。あなたのいう秘密保持とは、建設計画に不利な報告は公表しないという意味でしょうか?

何を言ってるんです!もちろん違いますよ!私はただ、この件でパニックが起きるんじゃないかと心配しているんです!

諸君、そこまでだ。我々は今日、この災難の解決方法と、前線部隊が発見した最新情報を検討するために集まったのだ

清浄地の建設は「異災区」に関係しているが、この件はまた後ほど検討しよう

……清浄地の「清浄」さが建設にとって大切なのは、私がくどくど言わなくてもおわかりでしょう?

もちろん。宣伝部はかなり力を入れました……それにそこに座っているグレイレイヴン指揮官も宣伝活動に尽力してくれました。議長にもご理解いただけるかと

[player name]の話が出たことだし、まずはグレイレイヴン指揮官に最新の情報を説明してもらおう

諸君の意見や考えを述べるのはいったん、最後にしてくれ。この話を聞けば考えが変わるかもしれない

ハセンはこちらに頷いて、登壇するよう促した

自分はフードの紐を緩め、席から立ち上がった

壇上から遠く離れた場所に座っていたせいで、向かう途中、長々と「注目」を浴びる羽目になった

宣誓式以来、こんなフォーマルな服を着るのは久しぶりすぎて、やはり慣れない……

私は[player name]、グレイレイヴンの指揮官です

今から話すのは、今回の事件の当事者――ケルベロス隊のメンバーの経験と、グレイレイヴンが調査した異合生物の異常波動状況からの分析と推論です

ヒソヒソとささやく声が静かになり、リーが作成を手伝ってくれたデータモデルが投影され、回転し始めた

まず、グレイレイヴンの調査中に、異合生物たちの今までにはなかった行動――すなわち集団行為が発見されました

静かだった議会ホールに、また討論の声がガヤガヤと響いた。ハセンは軽くテーブルを叩き、話し続けるよう合図をした

今まで、我々は異合生物の攻撃行為を、本能的なものと定義していました

つまり彼らは作戦を立てるようなことはなく、攻撃対象を感知することで、即座に直接的に攻撃行動をするだけだ、と

それが彼らの唯一の行動パターンだと思っていたのですが

しかし我々は、異常波動が起きた任務ポイントで、異合生物が戦術的に非直接的な行動を起こし、一部の異合生物の攻撃目的を達成させたのを観測しました

例をあげますと、攻撃目標と異合生物の間に溝があれば、異合生物の一部が「橋」になったのです

「橋」となった異合生物は、「目標を攻撃」する目的を達成できないとしても、です

それはあなたの考えすぎでは?

その例ならば、先頭の異合生物は当然溝に落ち、その次も次も落ち、積み上がった死体が自然に橋となり、その上を他の異合生物が歩いただけとも考えられる

彼らは本能的に、攻撃対象に接近しようとしていただけでしょう

ええ、行為の本質はそれに近いものでしょう。ただ、ポイントは彼らが自分の本能、あるいは目標を諦め、群れの目標を達成させる自発的な「意志」があったかどうかです

グレイレイヴンが目にした状況では、一部の異合生物は「自殺」をすることで、他の異合生物の踏み台となりました

自らを犠牲にする、これをただの偶然だと解釈するのは非常に難しい

その議員は眉をしかめてこちらを凝視している。だが握りしめた拳を見れば、彼がこの話の恐ろしさに気付いていることがわかる

調査した任務ポイントで、グレイレイヴンは異合生物の大量の死体の山を発見しました。しかし、それほど多くの異合生物を倒した元凶は見つかりませんでした

もしその異合生物たちが自ら命を絶ったと考えるなら……

なら、彼らは何のための橋として自殺したんです?

まさか……

個人的な推測ですが、これらの異変は異災区の出現と関係していると思います

だがグレイレイヴンが指定された任務ポイントが、全て異災区の近くにある訳じゃない。そんな離れた場所に橋を作って何がしたかったのだろう?

そこで自殺することで、どう異災区に貢献したというのです?

[player name]

ケルベロスのメンバーによれば、異災区の異合生物は死亡後、その体液をすぐに地面に染み込ませ、またすぐに新しい異合生物を孵化させたそうです

……神が人間を創造する神話を思い出すな。泥をこねて人の形にすると、その泥が人間になるというあの話……

もしこねて作ったものが不満なら、もう一度泥に戻して作り直す……そう言いたいのですか……

なら信号のジャミングは?それも異合生物の新たな特性だと?報告には作戦小隊は強烈なジャミングを受けたと書かれていますが?

科学理事会が先ほど報告を寄越してくれた。その干渉源は恐らく生物電磁信号のようなもので、異災区での活動や植物の急激な成長と関連があるらしい

ケルベロスの隊員が異災区の核心である敵を倒し、脱出したあと、ジャミングが急に消えました。それもひとつの証拠たり得るかと思います

単体の異合生物には、まだ信号を干渉するほどの能力はないと思います

つまり……死んだ異合生物が水になって、土の中で集まって異災区へ移動したと?そんなことって……地面を掘って確認するべきでは……?

前線の小隊が地面を掘って調査した。土壌のパニシング指数が正常より高いこと以外、まだ特別な発見はない

科学理事会は、我々はまだパニシングを完全に理解しておらず、したがって移動方法も明確にできないと考えているようです

ですが清浄地の範囲という視点で考え、もうひとつ別の推測を立てました

異合生物の異変が観測された場所は、異災区を含め全て清浄地の外側、円状に分布しています

大げさにいえば、清浄地から一歩でも離れれば、そこは危険区域となってしまう

ありえない!

……それがもし本当なら……Ω武器を増やす必要があると思います。でも人類の最初の安全区域が檻になってしまうなんて……どうなってしまうんです!

建設部スタッフは憤激して立ち上がった。しかし誰も彼の言葉に反応せず、彼は黙ってドサリとまた座るしかなかった

我々が清浄地、あるいは反転異重合塔の稼働原理をよくわかっていないことは事実だ

科学理事会で最も支持されている説は「吸収説」だ。つまり反転異重合塔はΩ武器と似ていて、パニシングを吸収し、浄化すると考えている

その説が完全ではない理由として、清浄地の外周は中心と同じく、パニシングの数値が0であることだ。つまり「絶対清浄」なのだ

しかしこれまで浄化塔もΩ武器も、距離が遠くなるにつれパニシングへの効力が減退している

それが我々が使用する時に「最適有効範囲」を考える理由だ

だがもし「吸収説」が間違っているなら、反転異重合塔はパニシングを「浄化」していない。なら、清浄地に存在していたはずのパニシングはなぜ「存在しなく」なった?

言い換えればこうだ。清浄地の存在が、かえって我々の予想を超える異変を引き起こす可能性があるのだ

異変……もし全ての異合生物に集団で行動できるような異変が起きれば……

その議員はハッと口を手で塞ぎ、それ以上は話さなかった

最悪のパターンを考えると……彼らは自分の種族ないし文明を生み出すかもしれません

その場にいる全員が無言になった。彼らは皆、無数のマンパワーと命を費やし、かろうじて倒した敵のことを思い出していた

孤独な敵に対し、人間は団結し、犠牲を費やして、勝つ見込みのない戦いから勝利を何度も掴み取った。しかし――

それほど強い敵が集団で団結してしまったら、果たして人類は勝利することができるだろうか?

――それは誰にも保証できない

次に考えられるのは、彼らが何かの指示を受けたことで、行動特性を変えた可能性です

もし彼らに攻撃以外の本能を与えた神のような指揮者が存在するとすれば、それに「呼ばれた」時だけ、集団的本能を優先した可能性もあります

ならば、今の敵はまだ個体の意識や、思考を持っていないことになり、こちら側に残された時間も少しだけ増えるでしょう。ほんの少しですが

ニコラがこちらを見ながら頷いた

彼とハセンはすでに、21号が気を失っていた時、ある力から勧誘されたのを知っている

それが侵蝕されたスレーブユニットの意識共有モジュールを経由して21号の意識海を混乱させたのか、あるいは本当に何かを統べる者と会話をしていたのか……まだわからない

そのため、今回の報告で21号のことには言及しない予定だった

以上が今回の異災区事件の特別情報のまとめと推測です

[player name]の話に則るなら、これはもうΩ武器を投入する数の問題ではありませんね

私たちは何もできず、待つしかないんですか?でも今、もし清浄地の建設を遅らせたり、ましてや諦めたら……

そうではない

清浄地を……諦めてはならない。Ω武器は贅沢な消耗品だが、根本を治す前に、まずは発症した症状を治す必要がある

それに今回の異災区の出現には前兆があった――グレイレイヴンが発見した異変だ

異災区をコントロールすると同時に、清浄地周辺の監視を強めよう。第二の異災区出現の前兆を……少なくともことが起きる前に発見せねば

今できるのは月面基地の早期修復を終わらせ、不足するΩ武器を補えるよう祈るだけ、ということですか……

残りの1時間は資源分配に関するやりとりだった。異災区が出現する前から各部門はすでに資源不足に陥っていた

人類には清浄地というモチベーションを上げる存在が必要だ。現実的にも、メンタル的にもだ

だから清浄地の建設を止めてはならない……問題や要求が車輪のように頭の中をぐるぐると巡る。それらの解決は前線で戦うよりも遥かに難しい

議会ホールを出た時にはすでに汗でびっしょりだった

下りのエレベーターの中で欠伸をした時、ちょうど扉が開いた

扉の向こうは見慣れた廊下だ。とにかくまず休憩室に戻り、乾いた服に着替えようと決めた

エレベーターを出ようとして、向こうからシルカがせかせかと歩いてくるのが見えた。端末をのぞき込んでいて、こちらに気付いていない

わわわ……あっ![player name]先輩!ごめんなさい……

はい、わかりました。ありがとうございます

彼女の顔に表れていた感情がさっと消えた。そして端末を消し、いつもの明るい笑顔を見せた

モニターが完全に消える前、失踪したある構造体の目撃情報が表示されているのが見えた

シルカに微笑み返し、手を振って別れを告げた

誰もいない廊下を通って角を曲がると、誰かを待っているように壁にもたれて立つ人影が見えた

え?あ、[player name]

21号はコクンと頷き、閉じた扉を指さした

隊長を待ってる

表示を見上げると、そこは一種の公共休憩室のようだ。おそらく臨時会議室として使われているのだろう

時間をくれって

この前、21号の頭の中で、時間をくれって言ってた。何をするの?

[player name]

21号が求めてるの、人間の匂いじゃない、仲間の臭いだって……でも、その通り

21号、みんなと同じ匂いが欲しい

隊長、ノクティス、[player name]、それから21号を怖がって、廃棄処分しようとする人たち

あなたたち、みんな人間。21号も人間の匂いがあればって……

21号の質問はとても複雑で、時間があれば何十冊も哲学本を読んで、彼女とじっくり討論すべきことだと思われた

だが目下の状況では、理性的に分析している時間はない。21号が敵に惑わされ、つけ込まれるのを早急に防がなければ

21号、わかってる。人と人には違いがある、完全に同じ同類は見つからない

21号自身を除いて

だからもう、人間の匂いいらない。21号には、21号の匂い

隊長の言う通り、21号は21号を自由にする

21号には自分自身がある。必要ない、やりたくない、好きじゃない、そう思う自由がある

彼女に言いたいことはまだまとまっていなかったが、彼女の言葉を聞いて、もうそんな難しい哲学的なことを考える必要はないと悟った

自分の絶対的な同類――自分自身は永遠に離れることはない。だから誰かの手を掴んでおくために、自分に首輪をつける必要などない

他のことは、ただ主観的自我という大地から芽吹いたものだ。大地さえ残っていれば、いずれ制限を突破する自由な魂が生まれるだろう

ううん

21号の否定の声は小動物が鼻を鳴らしたようだった

ちびっこを奪ったやつ、21号、倒した

隊長まで奪われる前に

でもちびっこ、21号、最後まで面倒みれなかった。それは知ってる

だから21号には罰。ちびっこをここに寝かせる

彼女は自分の胸のあたりを指さした

ずっと、ずっと

もう、悪者に21号の「ハルカ」は奪わせない

カヌンが教えてくれた

21号とちびっこの友達

詳しく訊こうとした時、公共休憩室から大きな金属がぶつかるような音が聞こえた

公共休憩室の中――

あああ、ごめんなさい

ラスティは机に倒れた端末を持ち上げ、ポンポンと適当に叩いた

やだ、うっかりして手が滑っちゃった。机にぶつかっただけで、こんなにうるさいなんて……

問題がなければ、続けますね?それともイシュマエル先輩が直接訊きます?

イシュマエルは仕方なさそうに後輩に向かって笑っただけだった

頼まれなければ、私たちは尋問などという仕事は滅多にしないんですけど

それに尋問は、訊かれる方はもちろんですが、訊く方もかなりストレスなんです。ヴィラさん、私たちをあまり恨まないでくださいね

そうそう、私が証人です。イシュマエル先輩って滅多に人の頼みごとを聞きませんから

イシュマエルはずっと笑顔を浮かべている。彼女の言う通り、その目には尋問する人にありがちな傲慢さはなかったが、見透かされている感じがする

ストレス?そんなものは感じないわ。もしそちらのストレスになるなら、さっさと訊いて頂戴な?

では簡単に……

私たちが受けた情報によると、このお姉さんはケルベロスの隊長として監視中の構造体に、自己判断で特別保管が必要な装置を渡したそうですが

それは極めて重大な失職行為……と、書かれています

「受けた情報」?

今回は一体誰が裏で糸を操っているのだろうとヴィラは考え始めた

……やはり21号の特殊性のせいだろうか?21号を掌握したいなら、ヴィラは紛れもなく面倒で邪魔な存在なのは確かだ

だから21号が機体の戦闘データを提出したあと、「あちら」は適当な理由をつけて、自分をケルベロス小隊から排除しようとした

でも軍はこの件を知っているのだろうか?ヴィラが小隊の隊長を務めていないと、あの者は水面下での任務をすることができないだろうに

それともこのやり口は、ヴィラとつながりのあるあの者たちをおびき出すため?

これも、ニコラがあの時言っていた「餌」だろうか?

もうひとつの可能性は自分の立ち位置を弁えろという、再度の警告。狂犬だろうが、飼い主から与えられた自由を越えてはならない……と?

つまるところ、命令を下す飼い主にとっては、ヴィラが命令に従えば問題はないのだろう。彼女がどの小隊にいようが大差はない

それにヴィラがあまりにルールを無視すれば、飼い主もヴィラという懐刀が自分を傷つける可能性を警戒しなければならなくなる

監察院がお出ましなら、その「情報」の信憑性はかなり高いってことよね?

でも正直言って、あの戦闘では21号どころか私も意識が朦朧としていて、はっきりとは覚えていないの

ヴィラは臆さず、質問者に言い返した

そうですね。報告を見るに、確かに危険極まりない戦闘でしたね

はっきり申し上げます、ヴィラさん。私たちは今日、あの戦闘における越権行為を訊ねに来ただけで、罪を言い渡すことはありません

さすがイシュマエル先輩ぃ、尋問される人にもお優しい!

それはそれは……確かこの「先輩ぃ」さんの階級って、低くはなかったはずだけど?こんなどうでもいいことをわざわざ訊きにいらしたの?

それとも、あなた、訊きたいのは別のことなんじゃない?

仲のいい同僚に頼まれたものですから。もちろん、できれば私も越権行為の問題など処理したくありません

でも監察院にいる限り、逃れられない責任もあるんです。そうよね、ラスティ

えっと……資料によれば、正確に状況判断をした上で、ヴィラさんには鍵を使用する権限があると書かれています

ここでいう状況判断とは、ヴィラさんが意識を保てないと判断し、かつ戦闘で21号さんの機体制限を解除する必要がある、ということが含まれています

なにしろ21号さんの新機体はとても特殊ですし、もし制御不能になれば、誰もが目を背けるような結果になってしまいますから

わかってる。21号の臨時復帰協議の第1条第3項でしょう

でもさっき言ったように、21号も私も、あの戦闘をハッキリと覚えているという保証はできない

被尋問人は推定無罪の原則を言っている……という意味ですよね?イシュマエル先輩?

……ええ、ヴィラさんの意見は大体わかりました

でもラスティが言うように、確かに監察院には証拠材料があります。ヴィラさんのその態度だと、監察院は曖昧な証拠の検証をとことんやることになります

できるだけ早く、各方面を納得させられる真実を見つけますから

どうぞお好きに

ああ、ひとつだけ。もし上が予想していた行為が本当に起きていたら、上はどんな罰を与える予定なのかしら?

21号さんの問題なら、おそらく連行されて調査されるでしょう。もしヴィラさんの問題なら、ヴィラさんはケルベロス隊長を解任されるかと

アハ、手厳しい規則だこと。じゃない?

扉の外で盗み聞きしていた21号が凄まじい速度で自分の後ろに隠れると同時に、監察院の者が扉を開けた

温和そうな女性が自分を見て、軽く会釈をした。後ろにいる後輩らしき構造体は、「やっと終わった~」と呟いている

最後にようやくヴィラが出てきた。彼女は21号と、それから21号の前に立っている自分を見た

あら?グレイレイヴン指揮官のその格好、まるでお偉いさんみたい

あなたは皆さまご存知の有名なヒーロー様だもの。でも私に言わせれば、あのボコボコした鉄の塊を着こんだ宣伝写真より、こっちの方が立派に見えるわ

ふん

21号、あなただけ?ノクティスのバカ野郎は来てないの?

ノクティス、隊長は散々絞られるはずだから、後で来るって

あの野郎……

来た

廊下の反対側から、大柄な構造体が頭を掻きながら、ずかずかとこちらへと歩いてきた。イシュマエルとラスティとすれ違った彼は、遠くから大声を上げた

おっと!ちょうどいいタイミングだったな

グレイレイヴンのもいるのかよ?一緒に飲みに行くか?

そうね、一緒に来る?今日はせっかく「おめかし」してるし、もっと多くの人にグレイレイヴン指揮官様の、その雄姿を見せびらかさなきゃ

[player name]、本当に行かない?ノクティスが奢る

はあ?サンシチの奢りだろ?

ツイてない方が奢るのよ

うん、やっぱりノクティスの奢り

はあ?どういうことだよ?【規制音】、行くのはナシだ

命令違反する気?21号、殴って

21号

ガウ――――!

ヴィラ

隊長の命令に背いた教育的躾けよ。誰かに何か訊かれたら、隊長から厳しい教育を受けたんですって言うのよ

ノクティス

誰がそんな質問をするんだよ……うわ、ちょ!サンシチ、放しやがれ!!!!

21号

ツイてない、ノクティス

ノクティス

おいてめー、本気で怒るぞ……

21号

21号に、前回の電解液を奢る、許す

マンゴー味、20杯でいい

ノクティス

ひぇ……もうやめろ!!わかったわかった、奢る!今日はお前が全部飲みきるまできっちり見てるからな。飲みきれなかったらボッコボコに……

3人が去ると、騒がしい廊下に静けさが戻った

21号が心から笑うのを見て、以前、彼女が人の真似をして覚えた「笑顔」を思い出した

今の彼女は、自分が心から笑っていることに気付いているだろうか

真似でもなく、分析でもない21号の本当の笑顔――

「人間の一生というものは、自分自身へ到達するための道のりだ」

「その道のりを歩む努力の表れ、その道のりの啓示の表れだ」

「かつて誰ひとりとして、完全に自分自身だった人などいない」

「なのに誰もが、そうあろうと努力する――ある人は不器用に、ある人は賢明に」

「誰もが全力を尽くしてそうあろうと努力する」

「誰もが、生まれた時の痕跡を引きずっている――羊水や卵の殻を――その命が消える日まで、持ち続ける」

「一度も人間にならず、カエルやトカゲ、アリのままだった人もいれば、腰より上は人間で、下が魚だった人もいる」

「でも誰もかれも、人間という個体は、大自然が行う賭け事だ」

「我々は皆、同じ起源を、同じ母を持つ――我々は皆、同じ深淵からここへきた」

「しかし我々は誰しも――試みに投げ込まれたその深さから――自分の運命に向かって努力し、奮闘する」

「我々は互いを理解し合える。だが我々が真に理解できることは、自分自身だけなのだ」

――ヘルマン·ヘッセ