Story Reader / 本編シナリオ / 23 稲妻走る冷枷 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

23-15 囚われた影

>

ゆっくりと目を開けると、やはりそこはルナと自分の家だった

姉さん、お帰り

冬に積もった雪はすでに消え、新芽があちこちで芽吹いている。いつの間にかαも元の姿に戻っていた

ルナ……

ここに来るのは2回目だった。αは目の前の少女は昇格ネットワークが自分を惑わそうとする幻だと思っていたが、事実は違ったようだ

これは罠ではなく、ルナが職責に反しない範囲でαのために作った最後の避難所だったのだ

ルナとαを繋ぐ唯一のもの

純白の少女はいつものようにαに向かって歩いてきたが、すぐに足を止めた

姉さんがここに来るのも、これが最後ね

……ええ

αは背を向け、立ち去ろうとした

α

ルナ、昔のあなたは世界に変革をもたらすには破滅させるしかないと考えていた

でも月から戻って以来、あなたは変わった。他の可能性も考え始めている

あなたの変化が私はとても嬉しかった。でもそのせいで、あなたと昇格ネットワークの繋がりは更に緊密になっていった

私は心配するばかりで……行動できなかった……

αは目を閉じた。珍しく感情が昂っている

α

私は多くの間違いを犯し、いつの間にか自分の足で歩くこともなくなり、あなたに頼ってばかりいた

もう少し待とう、もっと情報を集めてから行動しようって自分に言い聞かせて

行動しないのに、準備したって無駄よね。私はそんな重要なことも忘れていた

ルナ……本当にごめんなさい。私は全ての決定をあなたに押しつけていた。立ち止まっていたのは私だったのね

αは再び目を開き、目の前の扉に向かって歩き出した

α

ルナ、あなたが昇格ネットワークを選んだことにどんな意味があるのかはわからない。昇格ネットワークがあなたにとってどんな意味を持つのかもわからない

でもひとつだけ確実なのは、昇格ネットワークはあなたに諦めるという選択肢を用意していない

あなたがどんな道を歩もうと、私はあなたになるべく多くの選択肢を残してあげたいの

だから、今回の別れは一時的なものよ。私はしばらく遠出するわ

ルナ

姉さん……

いってらっしゃい。姉さんのやりたいことをやって

温かい世界がだんだんと崩れ始め、αは目の前の扉を開けた

地面がガラガラと崩れ、背後に感じていた視線も弱くなっていく

その視線が消えた時が、αが昇格ネットワークと対峙するという、後戻りできない現実に身を投じた瞬間だった

α?

これが正しい道なの?

手足を鎖と紐で拘束されたαの意識空間に、自分の声と似たような声が響く

黒いキューブが現れ、意識空間を圧迫する

砕けた鏡の破片全てにαの顔が映り、現実のαの顔を見返している

α?

あれはあなたたちの唯一の繋がりだったのに、彼女を見捨てる気?

見捨てたくないからこそ、自分が操られるのを止めたいの

αは全力で鎖や紐を引きちぎったが、赤黒い束縛は引きちぎられてもすぐに再生する

意識海の最深部で、この束縛から解放される、それとも意識が飲み込まれるか、どちらが先になるのだろう?

あの時、彼を止める力があればよかったのに……

弱肉強食こそ唯一の真理だ

聞き慣れた声だった。αの耳元で聞こえるのにその姿は見えない

これは幻聴なのか、それとも誰も知らない彼女の心の声なのか?

この星の文明はすでに新たな段階に入っている。生命の形式には新たな変革が必要だ

昇格ネットワークの選別があったから、昇格者が生まれたの

パニシングは武器でも道具でもない

アシモフ?

それは文明の発展の過程で必ず直面する自然の摂理だ

αの目の前に星空が広がり、何千万年前の輝きが彼女の目の前で瞬いた

アシモフ?

宇宙は誕生した時から、基本的なデータ構造ができているんだ――空間、物質、エネルギー……

異なる文明は異なる呼ばれ方をしている。文明は発展する過程で、互いのデータ構造を発見し、融合し、新しい構造を生み出した

ニコラ?

全てのデータ構造には使命があり、目的がある

ガブリエル?

人類……知恵を持つ生命はこの無数のデータ構造のひとつだ

アシモフ?

データ構造間の影響は一方通行じゃない。あるデータ構造が他の構造に影響を与えたなら、逆に他の構造から影響を受けるのも当然だ

ルナ?

パニシングはずっと存在していたの。でも、特定の状況でのみ、発見できるものだから

α

もしパニシングがずっと存在していたなら、昇格ネットワークとはなんなの?

ロラン?

相互に影響し合うことで新しい構造が生まれる。パニシングも然りだ

ルナ?

昇格ネットワークが誕生することは決まっていたことであり、宿命でもあるわ

α

それなら昇格ネットワークは何のために存在しているの?

ルナ?

文明の選別、種族の選別。選別は「ルール」を破る個体が現れるまで続く

α

個体?

α?

停滞する文明はやがて衰退し滅亡する。生命の形式も進化を止めることはできない

昇格ネットワークは個体が現れるまで選別を続ける。それは決められた運命なの

ルナ?

未知の可能性に期待し……

フォン·ネガット?

「試練」という変数を与え……

α?

あなたはやがて結末にたどり着く……

目の前の星空が消え、αは自分に似た後ろ姿が雪原に立っているのを見た

虹色の循環液が流れ、周りにはまるで勲章のように、更に牢獄のように無数の剣が刺さっている

辺りに人の姿はない。手を伸ばせば空の光に触れられそうなほど、累々と積み上がった骸が彼女の玉座だ

その光景を見て、αは微かに笑った

α

打ち砕けない宿命はない。絶対的な決まりも存在しない

確かに弱肉強食の選別はルールなのかも知れない。でもそれが真理なんてありえないわ

選別の終着点に何もないなら、選別を経ても、結局はより大きな選別をされるだけ

出てきなさい。直接話し合おうじゃない

次の瞬間、雪原に立つαが消えた。後には骸だけが残され、虚ろな墓場となった

α?

どうやらすでに決めてたみたいね

目の前の光景が元に戻った。いつの間にか鎖から解放され、機体も現実と同じものになっている

自分とまったく同じ姿が鏡の中から出てきて、彼女と向き合った

牢獄を打ち破るつもりなら、最後の選別をしなくちゃね

望むところよ

鍔迫り合いをする2本の刀から激しく火花が散る

どれほど戦ったのか、αはもはや覚えていない

刀を交える度に衝撃で意識海が揺れる感覚だけは記憶にある

意識海の縁に黒い亀裂が走り、その隙間からは虚無が見える

意志は強靭だけど、さあ、意識海はあとどれくらい耐えられるのかしら?

再び刀がぶつかり合い、衝撃でどちらもたたらを踏んで後ずさった。αは刀を強く握りしめ、なんとか腕の震えを止めた

勇気は認めてあげる。でもあなた、そのせいで深淵に引きずり込まれるわよ

そもそもあなたの意識海は損傷してる。意識海の呪縛から抜け出すよりも先に、あなたは崩壊するでしょうね

αは全身全霊で攻撃と回避に集中した。しかし相手は「自分」だ。全ての攻撃は自分と同じ戦法でかわされる

荒野が燃え、大地が裂け、溶岩が噴き出す

意識海の全てが瓦解し、αは自身の終着点へと追い込まれつつあった

あなたの負けよ

αは真っ向から振り下ろされた刀の斬撃は食い止めたが、鞘で腹を横殴りされた

うっ……

彼女は循環液を吐きながら吹っ飛ばされたが、なんとか刃で体を支えた

もともとこれはαがよく使う技だった。意識海が崩壊し、集中力を失った彼女は、もはや相手の行動を正確に捕捉できない

目の前で意識の破片がバラバラと砕け散り、死の幻がちらつき出す

そもそも公平な戦いじゃなかったわよね。もうこれでおしまい

相手は刀を鞘に戻し、動くことのできないαに止めを刺そうとした

揺らめく命の炎は燃え尽きる寸前だ――

???

立って!

火の海に突然真っ白な雪の花が降ってきた

同時に氷の壁が地面から次々に隆起し、ふたりのαを分断する

その氷の壁から滑降してきた黒髪の少女が敵に斬撃の連打を浴びせた

この状況で意識潜行を?

崩壊寸前の意識海が修復されていくのをαは感じていた

なぜこんなことまでするの?

075号都市と同じ状況だ。ルシアがαの意識海に意識潜行をすると、同源のふたりの意識海に融合と上書きの現象が起きる

その融合のお陰で、αの意識海は修復されつつあった

しかし融合が分岐点を越えれば、今度はルシアの意識が上書きされてしまう

なぜ彼女を助けるの?あなたたちは違う道を歩いていたはず

αの幻影は軽々とルシアの回転斬りをかわし、すかさず雷光を放った

確かに私たちは道を分かちました

飛び散った氷が盾となり、雷光を食い止めた。ルシアは再び飛び上がり、絶え間なく刀で攻撃を繰り出すことで敵の攻撃を封じている

でも私たちはどちらも……

刃が触れた瞬間、ルシアはスラスターを起動させ、服をなびかせながらαの幻影に体当たりした

運命に逆らいます!

ルシアはαの横へ飛びすさった。彼女の腕がびっしりと霜に覆われている。刀での攻撃の後、噴射装置で援護射撃したためだ

私は待ってくれている人たちのところに戻ります。ここで意識を上書きされるつもりもない

だから立って、α!

こんなところで倒れるあなたじゃないでしょう!

……

自分はかつて、自分とまったく異なる道を歩く彼女の「間違い」を正そうとしていた

ふたりが交わることは永遠になく、ただ背を向け合って歩くだけだと思っていた

だが運命のいたずらで、ふたりは短くも交わり合っている

ある時はふたりは刃を交え……

ある時は……

刃は再び雷光を凝集しつつあった。αは立ち上がってルシアと肩を並べた

終着点に着くまで、倒れる訳にはいかない……

意識が上書きされる前に彼女を倒す!

長い戦いはついに終わりを迎えた。もうひとりのαは鏡にヒビが入ったような姿になっている

彼女の体に入ったヒビ割れがビシビシと走り始め、あと1秒もすれば崩れ落ちそうな状態だ

うっ……

意識海に降りしきる雪の花がどんどん増えていく

融合がもうすぐ分岐点を超える。すぐに意識海を出て!

ルシアは頷き、雪の花とともに消えた。同時に修復されたαの意識空間が元の傷だらけの状態に戻っていく

あなたは別の結末への道を見つけたのね

その言葉を聞いてもαは表情も変えず、黙ったまま相手の崩壊寸前の体に刀を突き刺した

鏡は割れた。もうひとりのαはデータの破片となり、リンクを通して本体に戻ろうとした

だが、見えない障壁に阻まれた

意識海の空間が収縮し始め、風すら通さない牢獄と化す

???

なるほど、これがあなたたちの真の目的

ただ既存の選別のルールに従うだけなら、それは永遠に脱出できない牢獄にいるようなもの

新しい可能性を創り出すには、相応の力が必要になる

だから私はあなたを幽閉する牢獄になるわ

???

空中庭園はあなたに感謝などしない。他の昇格者はあなたを裏切り者だと思い、全ての人からあなたはつけ狙われることになるでしょう

たとえ全員が敵になることはなくても、あなたは盟友を持つことはできない

いいわ、それで十分

???

枝を切り取れば、根と葉は未来永劫、分断されてしまう

長い時間とともに、あなたは虚無という無限の渦に引きずり込まれるだけ

そうね……ただの始まりよ