Story Reader / 本編シナリオ / 22 紡がれる彩華 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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22-14 『大使たち』

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空中庭園、参謀部会議室――

待たせたな、遅れてしまった

ニコラは未処理のファイルを握りしめ、急ぎ足で入ってきた。どうやら多忙な作戦部署での対応を終えたばかりのようだ

ウィリス、アイリスウォーブラーの任務は進んでいるのか?

予定通り彼女たちは2日前にコンステリアに到着しました。今は街の中心エリアの調査をしていることでしょう

報告や映像資料などは送られてきているか?

残念ながら街の内部からと思われる強烈な信号干渉があります。彼女たちは我々と安定した遠隔通信を確立できない状態です

しかし地上レーダーが指揮官のマインドビーコンを検出しています。まだ安定強度を保っているので、彼女たちの行動は順調でしょう

ふん……先ほどグレイレイヴンとホワイトスワンから報告があった。2隊とも予定より早くそれぞれの測量任務を終えた。3日後には別の任務に就役可能だ

必要なら彼らを増援として派遣することもできる

ニコラ司令はこの任務をかなり気にかけていらっしゃるのですね?

確かにアイリスウォーブラー小隊は成立したばかりだが、君がよく知る隊員もいる。ただの調査任務なら、わざわざ精鋭小隊を引っ張り出す必要はないと思うが?

ふふ、ニコラ司令も私と同じで、コンステリアという名前に特別な思い入れがあるようですね

アレン会長、どういう意味なんです?

アレン……もういい。ただの昔話だし、隠す必要もない。君の方がよく知っているんだ、説明は君に任せる

いえいえ、私はただ若い時にミケーレさんと会ったことがあるだけですよ

ミケーレ·ワセリ、コンステリアの設計者、黄金時代の世界政府芸術協会の一員だな

だからこそ、君はアイラたちにコンステリアの調査任務を任せたんだな?

ええ、単純に効率を考えればアイリスウォーブラーが最適とはいえませんが、この件は芸術協会の者に解決させたかったんです

ミケーレさんに対する、私の敬意ととっていただいて結構

……本題に入りましょう、アレン。コンステリアについては、あなたとニコラは私たちよりずっと詳しいようですね

ゴホン、承知しました。では手短に説明しましょう

今では遠い昔のようですが、数十年前、それは間違いなく人類の歴史上、最も輝かしい時代でした

AIと機械技術の発展で人類は労働から解放され、政治は世界連合政府のものとなり……文明は古典時代にルネッサンス、産業革命や科学革命を越え、宇宙の探索も目前だった

ピラミッドやパルテノン神殿、フィレンツェのサンタ·マリア·デル·フィオーレ大聖堂のように……黄金時代の人々も自分の時代の偉大さを象徴する記念碑を望んでいました

どんな形式で表現するか……当時の人々は実にさまざまな案を出し、その全てがひとつの答えにまとまりました

それがコンステリアという街です。世界最大の4つの経済コミュニティ――九龍、アディレ、北極航路連合、環大西洋経済共同体が揃って投資したスーパーシティでした

ただしそれはパニシングが爆発する数年前の話です。コンステリアの建設は全て秘密裏に行われていたため、誰も場所や最終的な完成図を知りませんでした

あの時代、あまりに多くの物が埋葬され、我々は多くを失ってしまった。その点については世界政府芸術協会が一番詳しいと自負しています

コンステリアについて、多くの人は曖昧な印象しか持っていません。プラトンが著書で述べたアトランティスのように、その存在の真実性すら疑われている

通常のルートで把握できる情報はこれくらいでしょうか

確かに……空中庭園のデータベースにはほとんど記録がありません。私たちが今回再発見していなければ、あの資料が真実かどうかすら確定できませんでした

ふん、それは人為的に操作されているからな

あの街は表面的には4大経済体が合同出資した街だが、真の主導者が他に存在した

こう言えば、それが誰なのかは、おのずとおわかりかと

黒野か、暗躍してコンステリアの建設を主導したんだな

記念碑だとか栄光だとか……それは大衆をごまかすための綺麗事でしかない

……

コンステリアの真の存在理由は、黒野が地下資本を隠し、吸い上げるための「サイロ」だ

ハイテク都市の見せかけにパッケージングし、莫大な投資や金融活動を誘致し――

同時により多くの財閥や組織と協力関係を結ぶ算段だった。世間的には拠点作りだが、その裏で「ウインター計画」を進めようとしていたんだ

……なるほど、「ウインター計画」と表裏一体だったのか……

しかしパニシングのせいで、そのプロジェクトはとっくに頓挫したのでしょう?

ああ、彼らは資料の大部分を闇に葬り、この件をうやむやにしようとした

「誰か」がこっそりとコンステリアの建設を引き継ぎ、私たちにその存在を開示してくれるまでは、ですね

つまりこの件に関して、黒野が介入してくるかもしれないと?

確信している訳ではありません。正直に言えば、今の黒野にあの黄金時代の遺物を立て直す力があるとは思えません

しかし黒野の今ままでのやり方からして、彼らが何もしないとも考えられません

アレン会長はそれを知った上で、アイリスウォーブラー小隊にこの件を任せたのですか?

ウィリス参謀総長、私はアイラたちの力を信じているんですよ

黒野にとってコンステリアはただ世界を乗っ取るための道具にすぎない。ただあの街には「芸術協会」の意志が宿っているんです

私は精神論者ではありませんが、一連の流れにはひとつの鍵があると思います

アイリスウォーブラーこそが今回の件の鍵だと思います

それにウィリス、この件は私たちにとってもチャンスだと思いませんか?

あなたが言いたいのは……

私がアイリスウォーブラー小隊の編成を提案した動機は、私たちに新しい「きっかけ」を作るためです

芸術協会はずっと「黄金時代」という巨大な沈没船を引き揚げようとしてました。とはいえ我々は別にその船を博物館で展示したいとは思わない

人類を未来へ導いてくれる方舟として、修理できなければ意味がない

この場の4人の中でアレンは最も経験が浅く、若い。ましてや彼は軍の関係者ですらない。だが、その言葉には揺るぎない冷静さと自信が満ちていた

現在の状況はまだ不明だが、コンステリアに精鋭小隊を派遣するかどうかはまだ議論の余地がある

少なくとも、アイリスウォーブラー指揮官からのより詳細な情報を待ってから――

ハセンの言葉は澄んだ電子音に遮られた

ハセンとニコラはその音のした方――ウィリスを見た

ただの個人端末のメール着信です……静音モードにしたはずですが

ちょっと失礼します

誰がこんな時間にプライベートなメッセージを送ってきたんだ?ウィリスは数秒間ためらったのち、端末を起動した

メールの送信者もアドレスも不明だ。明らかに個人チャンネルをハッキングして送られたメールだった

参謀部の総長であるウィリスが使用するデバイスは、ハセンやニコラと同じく、空中庭園の最高セキュリティに守られている

軍の最高セキュリティをハッキングしたのは凄腕のハッカーに違いない。しかも空中庭園内にいる可能性がかなり高い

素早くメッセージを読んだウィリスの表情が一段と険しくなった

どうした、ウィリス?

……

ウィリスはすぐには答えず、目を閉じて左手で胸ポケットのあるあたりをさすって自分を落ち着かせた

それから彼はアレンに席をはずしてもらうべきか一瞬迷って、アレンを見た

しかし結局彼はハセンとニコラに視線を戻した。芸術協会の会長も、この情報を知るべきだと考えたのだ

ハセン議長とニコラ総司令に私が先ほど受信したメッセージを転送しました。確実かは保証できませんが、見ていただく必要があります

それからアイリスウォーブラー小隊の任務についてももう一度……検討し直さなければなりません

少し前のこと――

工兵部隊の本拠地近くの廊下を、鮮やかなアロハシャツを着てサンダル履きという、一見だらしなさそうに見える男が歩いている

彼は誰かを探しているのか、工兵部隊の咎めるような視線も気にせず、工場内部を無遠慮にじろじろと見ていた

そこにひとりの構造体が現れた。構造体は彼の姿を見て立ち止まった

アロハ、カレニーナさん。調子はどう?

まるでふたりが親しい間柄であるかのように、男はニコニコ笑いながら工兵部隊の隊長にフランクな挨拶をした

アンタは……ノルマン?確かドールベアの……

おっ?覚えてくれたのかい?よかったよかった!妹がこのお兄様のことを話してくれてるのかな?

ああ……「仕事もせずちんたらしてばかりで、服のセンスも壊滅的、皆の鼻つまみの大バカ野郎」ってのがアンタのことなら、うん、話してたな

うひぃ、相変わらずクリスティーナは毒舌だな。ってことは調子がいいってことか。心配しなくてもよさそうだ

アンタ、ノルマン鉱業グループの若旦那だろ?工兵部隊に何しに来た?

ハハハ、ノルマン鉱業グループは工兵部隊と協力関係にあるから、状況を見てこいって親父たちに命令されたのさ

そういうことかよ、ドールベアに会いに来たかと思ったぜ

適当に見学すりゃいい。最近、工兵部隊は空中庭園の設備修復ばかりやってたが、ちょうどひと段落したところだ

これからどうなるかはわかんねーけど。なんか地上にどえらいやつが現れたらしい。状況次第では工兵部隊から支援を出す必要がある

あの「コンステリア」って街のことだろ?俺もちょっと耳にしたよ

黄金時代から残る街……地上の再建を進めるなら、うってつけの拠点だな

君たち工兵部隊もそれを聞いて、喜んでるんじゃないのか?

ふん……まだ何にも始まっちゃいねーし。前みたいにバケモノが現れるかもしれない。なんか、いつもそんな展開になるだろ?

ハハ、それはどうかな

オレは用事があるんだ。じゃあな

ノルマンと話す気のないカレニーナは彼の横を通って去ろうとした

おっと、ドールベアは今、第3開発部の生産室にいるぜ

会いたいならそこに行けばいい

そう言うとカレニーナはさっさと工場に戻った

……向こうは俺に会いたくないだろうけど

ノルマンは自嘲めいた笑いを浮かべ、反対の方向へ歩き出した

彼が工兵部隊の会議室の前まで来ると、会議室の扉には「使用中」のプレートがかかっていた

陽気な口笛を吹きながら彼は部屋に入り、そこにいたふたりに爽やかな笑顔を見せた

ノルマン?

いよーう!これはこれは、ノルマンさんとこの御曹司じゃないか!前回会ったのは月面基地の時だったよな?

おっと、使用中とは知らずに失礼失礼、ちょっくら休憩したくてね

ハハ、実は軍部が最近工兵部隊にオーダーをしたんだが、俺とレベッカはその確認に来たんだ――いやー、つまらない雑務ばかりで頭にカビが生えそうだ

ノルマン坊ちゃん、もしお暇ならここでお茶でもどうだい?親睦を深めるってやつだ

では、グリースさんのお言葉に甘えるとしましょう

……

目の前のふたりの芝居がかったやり取りを見て、レベッカはため息をついた

大げさなお芝居は結構です。先ほど言っていた「客人」というのはノルマンさんのことですか?

そんな嫌そうな顔をするなよレベッカ。来る者拒まず、だ。ノルマン坊ちゃんとここで出会えたのも何かの縁じゃないか

……言っておきますが、偽造監視カメラ及び会議記録は30分までです。無駄話で時間を無駄にしないように

――美しいレベッカ様がそう仰せだぜ。どうやら俺たちの時間はそう長くないようだ、ノルマン坊ちゃん

ちょうどいい、俺も帰る前に工兵部隊にいる妹に会いたかったし

ほうほう、クリスティーナ·ノルマン嬢のことだな?彼女をこれほど気にかける優しいお兄様がいるなんて、彼女は幸せもんだ

だが惜しいかな、彼女は君の気遣いをわかっちゃいない。彼女を家族の支配から解放するために、君が裏でどれほど犠牲を払ったことか……

グリース、ここでクリスティーナの話はやめよう

グリースが自分と妹のことを話し出すと、笑顔だったノルマンの表情が一瞬で変化した

さあ、欲しがっていた物はこれだろう

ノルマンはポケットから小さな電子端末を取り出すとテーブル上に置いた。そしてそっとグリースに押しやった

これは何です?

俺の担当とは無関係だが、ずっと興味津々だったんだよ

強いていうなら「ウインター計画」という、木に実った最も甘美な果実のひとつ、だな

ウインター計画?あの昇格者に関する実験のことですか?

ウインター計画は黒野の心臓だ。俺ですらその全貌がわからない

「意識海の融合と分離式モジュール化技術」、実験コードW-104。いつ始まったかは定かじゃないが、少なくとも5年以上は進められている計画だ

意識海の……融合……?

マッドサイエンティストの実験みたいでしょう?詳細は俺もよく知らないが、彼らの目的は構造体と特殊リンクできる「生物兵器」を作り出すことらしい

その生物兵器はリンク相手の構造体のパニシング耐性を大幅に上げるとか……だがすでに新機体はパニシングに完全な免疫を持つ。この計画の研究者は心底ムカついてるだろうな

機能面では確かにこの技術は遅れをとったかもしれん。だが意識海に関する研究については見くびれないぜ

意識海に対する人間の研究は、逆元装置の研究とどっこいどっこいで中途半端だ。意識海の本質が何なのかという研究は、空中庭園がずっと追究し続けているテーマでもある

逆元装置、意識海……黒野って本当にこういうのに執着しますね

黒野は人でなしのイカれ野郎ばかりだが、「アイデア」と「行動力」はずば抜けている。リストのあのデタラメな計画にさえ投資するんだ、どんなやつらかは想像つくだろ?

つまり……月面基地以外にも、ノルマン鉱業グループと黒野には繋がりがあるということですか?

ふん、ほんの少しですがね。退屈している金持ちがつき合う相手が誰かなんて、あなたには想像できないでしょう

ノルマングループは、黒野のとある地上実験基地を支援していた。俺の権限で持ち出せる資料はそう多くないが、十分な誠意ある「手土産」ですよね?

ノルマン、リストとの関係は完全に決裂したのですか?

どう言えばいいのか、彼は触れてはならないものに触れた。それに月面基地があんなしっちゃかめっちゃかな状態になった以上、俺にとってリストはもう役に立たない

だから俺は「賭け金」を持って次の協力先に出向いてきたんだ。腹黒そうなグリースさんの顔を見て、信用できるお方だと確信したって訳ですよ

ハハハ、ノルマン坊ちゃんは見る目がないな

ルナを失ったあと、実をいえば俺はほとんど手札を失っていた。だから逆元装置の実験を科学理事会に横取りされたんだ

お前さんは最悪のタイミングで、最悪の協力者を選んだって訳だ

だからこそグリース、俺はアンタを選んだんだ

ほう?

何も持たない狂犬だからこそ遠慮なしに人に噛みつきまくる。過去に持っていたからこそ、取り戻したいと渇望しているはずです

我々はギャンブラーだ。破産するまで自分の全てを賭けたがるのは性分でしょう

ハッハッハ。素晴らしいねえまったく!少しはそんな気もしていたが……俺の鼻はまだ利くようだな

レオナルド·ノルマン、お前さんは本質的に俺と同じ人間らしいね

すでに導火線の仕掛けはできている。お前さんが俺の前に火を持ってきたんだぜ、何をやるべきかは明々白々だろう

具体的には?

ノルマングループが出資したあの実験について、実はちょっとしたことを小耳に挟んだんだ

異重合塔事件の時、彼らの実験基地はある昇格者に侵入されている。基地の者はほとんどが殺され、当然研究員も死んだらしいが

昇格者に殺されたってことは……実験は失敗ですか?

逆だ。実験は大成功したのさ!だがあの実験体は昇格者の襲撃の隙をついて基地から逃げ出した。だからこそ、黒野はあの実験体を捉えようと人を派遣したんだ

そのお陰で俺の耳にも情報がちょろちょろ聞こえてきたって流れだ

しかも偶然にも、あの実験体は俺の古い知り合いだった!まさかあんな姿になったとは思わなかったがね……

知り合い……?

悲しい昔話はここまでだ。重要なのは、あの逃げた実験体は今、黒野の部隊に追われていて、その居場所をこの俺様が知っているってことだ

彼らより先に実験体を捕まえようと?

フン、スーツを着た老獪な古狸がそんなリスクを冒す訳がない

親愛なるノルマン坊ちゃん、知り合ってまもないのに、もうこれほど心が通い合う親友になれたとはね

あの実験体はいつ爆発してもおかしくない花火みたいなもんだ。俺らのやることは、最も注目される場所で、最も輝かしい花火をぶち上げることだ

それほど美しい花火を、俺たちだけで独占するなんてもったいないだろう?

だったらせめて、空中庭園の皆にも観てもらわないとな!

もし実験体の存在が軍に漏れれば、黒野内部は必ず議会に糾弾され、ノルマン鉱業グループも無事ではいられませんよ

その通りだ。非人道的な人体実験ができるなんて、黒野の中でもあの良心のないクソ野郎どもだけだ。これがバレれば議会から正義の鉄拳を喰らわされるだろうよ!

それが……俺たちの狙いだ

知ってるかい?園芸の真髄ってのはな、余計な枝をそぎ落とし、幹をすくすくと強く育てることだ

俺は何年もあのニコちゃんやハセンと「やり合って」きたからな。あの2本の剪定鋏はさぞかしよく切れるだろうよ

どのルートからこの情報を拡散するつもりです?

心配ご無用。噂話を広めるのが得意なやつは世の中にわんさかいる。俺も適任者に心当たりがあるんだ

全ての準備ができて、花火が打ち上がった時、我々の「仲のいい」競争相手がどんな手を使うのか、今から楽しみだねェ

空中庭園、粛清部隊訓練室――

広々とした訓練室にはひとりの構造体しかいない。他の隊員はすでに訓練を終えたが、ただ彼だけが残って素振りの練習をしている

イサリュス、まだやっているのですか?

訓練室に来たビアンカが居残るイサリュスを見て、ため息をつくことは、日常茶飯事だった

強くならなければなりませんので!

赤潮が海に流れ込んだあの一件以来、あなたの強さへの執念は日増しに強くなっていきますね

……まぁ、理解できなくもないですが

何か御用でしたか、隊長

任務の通達です、イサリュス

司令部が粛清部隊に最高優先度の秘密任務を下し、その実行者としてあなたを指名しました

どんな任務ですか?

……詳細は私にもわかりません。私はただアテンドするだけで、任務の詳細を訊く権限はないのです

わかりました、そういう類の任務なんですね

粛清部隊の隊長ですら訊く権限のない、特定の粛清部隊隊員が行う緊急任務。それは軍の一部の人間が、正規ルートで非正規のことを行う時の措置のひとつだ

ビアンカは以前からこういった規定にそぐわない行為を取り締まろうとしてきたが、軍部の勢力図があまりに複雑すぎて、この「伝統」はいぜん残ったままだった

断ってもいいんですよ。イサリュス

……

いいえ、やります

構造体の青年はしばし考え込んでいたが、ビアンカの提案を断った

任務は任務です。誰から来ようが、何のためだろうが

私を指名したということは、粛清対象がかなり厄介な相手だということですね

彼は落ち着いた表情で武器を拭くと鞘に収めた

なら、私に断る理由はありません