Story Reader / 本編シナリオ / 22 紡がれる彩華 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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22-9 『死の島』

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ロビーには光が一切ない

部屋の中央には精巧に作られた騎士の鎧が置かれている

無機質な鎧がまるで意識でも宿しているかのように、面具の内側を不規則に光らせている

………

………

□□……□□□……

その断続的で解析不可能なホワイトノイズは、封印が解かれるのを今か今かと待ちながら、浅い眠りにまどろむ凶獣のようだった

寡黙な機械体が独り、塔の縁に佇んでいる

塔の周りの建築群を眺めているようでいて、実は彼の目はどこも見ていない

自分が心血を注いで再建し、維持している街なのに、彼はそれについてあまり関心がないようだ

人類の文化には「郷愁」という感情がある

人は自分の生まれ育った場所に特別な感情を持つ。異国にいる時はなおさらその感情が膨らむものだ

この街で組み立てられ、起動された機械体である自分が、ここにいるのは当然のことだと思う

でも彼は自分とはどうやら違うらしい

彼が執着する「芸術」というものが、自分にはよくわからない。しかしようやくここに戻ってきた今、やり遂げるべき使命も、そろそろ終わりに近付いていた

なのに、なぜ彼は「どこへ向かうべきか」という思いを目に浮かべているのだろう?

――その姿を見ていると、時折そんな疑問が電子脳によぎった

でもそれは、こちらが気にするべきことではない

セルバンテスさん

ドルシネア、どうかしました?

セルバンテスさん、街に残った機械体たちにはしばらく何も活動しないよう要求しましたが、一部の機械体はその禁止令に不満を抱いているようです

私が知る限り、すでに複数の機械体が「創作」を終わらすべく、あなたが制定した安全区域をこっそり抜け出しています

……私は彼らの真の管理人ではないですからね。彼らには私のアドバイスに従わない権利があります

大丈夫です、私にはプランBがありますので。まだ使うべき時ではないですが

全てを終えたら、私は有志の機械体を連れてここを離れるつもりです

セルバンテスさん、私には理解できません

教会の技術を使えば、この街での人類の全ての通信手段を無効化できます。機械教会を除けば、ここコンステリアは機械体にとって安息の地といえます

あなたはかつて機械教会を離れてここに来ると、数年間かけて私たちに合った生存環境を作ってくださいました

なのにどうして「空中庭園」の者をこの街に引き入れたのですか?

「街」はただの入れ物であって、それ自体に意味などないんですよ

機械体の時間は無限なので、いつでも同じ街を建設できるのですから

それに近くにあの異重合塔が現れた今、人間がこの場所を見つけるのは時間の問題でした

更に言えば私たちを啓蒙したセージ·マキナはすでに戻っています。私たちがここに残る意味はもうありません

セルバンテスさん、質問に答えてくださらないんですね

なぜ自ら空中庭園の人間たちに、私たちの存在を知らしめたのです?

なぜあの人間の手による悲しい創造物を回収したのです?

あの創造物は人類の意志が生み出したもの。私に見えない何かを教えてくれる可能性があります……だから回収し、残すことにしました

それに一番の理由は……うまく言えませんが

全ては「答え」を見つけるためなんです

答え?

数年来、私は多くの場所に赴いて、パニシング以降の人間のさまざまな行いを見てきました

異重合宇宙ステーション、アディレ、九龍、075号都市の地下空間、プリア森林公園、「白夜」、月面基地、赤潮の海への流入……

彼らは一致団結しようとせず、毎度毎度くだらないことで分裂する。同じ理念と目的を持っているのに、決して相容れない……

教会のほとんどの機械体にとって、人間は脆くて救いようのない存在、矛盾して理屈の通らない存在です

しかし彼らはいつも肝心な時には危機的状況をひっくり返し、予測不能な奇跡を生み出します

そこには計算だけでは解釈できない何かが含まれています。何か……言語では説明ができないものがきっとあるんです

それを突き止めようと、この全ての結果をもたらす「因」を探そうとしていました

ですが私の努力は、結局は水の泡となりました

あの異重合塔が逆に浄化を始めたのを見て、私は確信し、そして同時に……妥協しました

機械体の自分がどうしてもその答えを見つけられないなら、すでに「答え」を知る彼らから聞けばいい、と。私たち機械体の得意分野は発掘ではなく、再現です

でも人間がおとなしくあなたの言う通りに行動すると思います?

彼らはそうしますよ。少なくとも「世界政府芸術協会」の「彼」は必ずね

今までの人間の努力の成果を、彼が証明するでしょう

スキャン終了、データモデル抽出完成、最適ルートを設定――シブナ、こちらです

広々とした道を白っぽい女性構造体と獣人型の機械体が連れ立って歩いている

……

シブナ?

仲間が反応しないのを見て、ハカマは足を止めた

いえ、ただここはすごいなと思っただけです

黄金時代の街が、一部だけですが……見事に再現されていますね

後継者として、先輩の成果に驚きや嫉妬といったものを感じているのですか?

……人の痛いところを突くのが好きになってきたんですか?ゼロのやつの悪影響かな……

前と比べて、私の「空気を読んで理解する」能力は高くなっていると思います。だからテストをしてみました

どうですか、図星ですか?

……空気を読む、の定義をもう一度確認した方がいいですね

でも、あのセルバンテスはたいした存在だと認めざるを得ませんよ

私は途中参加ですから、こういう方面の能力は彼にはまるで及ばない

本来、教会の建設は「塔」が担当していました。でも、これはあなたと私が教会に加わる前のことです

セルバンテスは機械教会の初期メンバーのひとりです。彼の同期に「魔術師」と「教皇」がいます。アルカナが彼らを見つけ出し、今日の機械教会を築き上げました

人間的な言い方をすれば、セルバンテスは教会の大司教的な存在にあたります

だからセージ様は、このセルバンテスってのを教会に連れ戻そうとしているのですか?

ナナ……セージ様が仰るには、自分の信じる道を進むため、各地に散った同胞を召集する必要があると

「塔」の他にも「月」や「星」、「正義」……まだまだ多くの人を召集しなければなりません

それにまもなくセージ様が目覚めさせる新しい仲間も加わりますし、私たちの「遠征」は軌道に乗ったばかりです

教会で何年も眠っているあの九龍の機械体のことですか?彼女の意識が回復するのかはわかりませんが

必ず回復します。セージ様に導かれ、私たちはいつか必ず同じ場所に集まります

彼女はそびえ立つ風車の塔を見上げた

行きましょう。彼女に託された私たちの使命を成し遂げるために――

それと……家を長く離れている「放蕩息子」を家に連れ戻すために

街角の曲がり角の影で――

つまり、先ほどのおふたりはあなたが言っていた「空中庭園」の人ではないと?

フードに覆われて、顔がほとんど見えない少女と機械体が立っている。機械体の話を聞いて、どこか流浪者風の少女は独り言をつぶやきながら考え込んでいた

「空中庭園」……どこかで聞いたような気が……

それと、「アイラ」……

彼女たちは「あれ」のために来たのですか?それとも……

すでに演奏が始まり、舞台の緞帳が上がった今……

「観客」のマナーとして、途中で出てしまうのは好ましくないですね……そうではありませんか?