Story Reader / 本編シナリオ / 22 紡がれる彩華 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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22-5 『コンポジションⅧ』

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芸術館の警報はまだ解除されず、機械彫像たちはアイラたちを攻撃し続けている

彫像の動きはシンプルだが、異様に数が多い。いくら倒しても隠し扉からどこからともなく現れる――まるで芸術館全体が、床と壁に巧妙なトラップを仕込んだ複雑な迷宮だ

敵の攻撃をシルカは予測できなかった。この小隊はチームとしては経験豊富なベテランではない。連携は拙く、防戦一方になれば、機械彫像たちに即座に突破されてしまう

次から次へと、全然終わりそうもない……!

戦術拳銃から放たれた弾丸が彫像の関節部分に当たった――士官学校時代、シルカの射撃成績はトップだったが、いくら射撃がうまくても武装に差がありすぎる

彼女はマガジンの半分ほどを撃ち込んでようやく1体の機械彫像の動きを止めた。このレベルの戦いでは、指揮官が発揮できる力は限られていた

もうっ……私の後ろに隠れて!怪我をされたら困るんです!

合金製の矢がうなりをあげて射出され、強烈な勢いのままシルカの目の前にいた数体の機械彫像の体を貫く

このままじゃキリがないわね!

どうにかして、彼らを止めないと……!

刃と大型トンファーが火花を散らす。アイラとトロイは激しい攻撃に耐えていた。最新機体のアイラはまだ余裕があるが、トロイはすでに意識海破損の後遺症が出始めている

おそらく芸術館のセキュリティシステムを私たちが作動させたから……それが黄金時代の規格なら、「セキュリティ」の彫像はシステムが遠隔操作しているはず

科学の雑学をありがとう。で、ポイントは何ですか!?

つまり私たちが芸術館のファイアウォールに侵入して警報を止めれば、これらの彫像も止まります!

どなたか、ハッキングができる方はいませんか?言っておくわね、私の機体はできないから!

私は歴史の中でもトップクラスの知名度を持つ妨害プログラムと同じ名前だけど、黄金時代のアンティークだからって私に変な期待を持たないでくださいね!

「自分はポンコツ」ってことをそんなに胸を張って言う人、初めてですよ!

仕方ない……セキュリティは私がハッキングします。でも私は補助型じゃないし、原始的な方法でやるしかない――

それまで時間を稼いでくださいねっ!

スキャンした空間データからロビーに隠された端子を見つけたライナは、特性の矢を取り出した。矢尻に小型端末が仕込まれ、構造体の演算力で外部から解読できる

彼女が機体とリンクした矢を端子に差し込むと、大量のデータが彼女の意識海に流れ込んだ。彼女は集中し、その断片的なデータの中からハッキングのための入口を探している

くっ……この機体では……!

ライナが抜けたため、シルカはアイラたちを防衛ラインから後退させた。それにより敵の攻撃は激しさを増し、シルカはリンクするトロイの意識海の動揺を感じ取った

敵、増えちゃってない!?

システムのレベル2のセキュリティが作動してる……ハッキングしようとしてるのを感知されたんだ。もう少し時間を稼いでください!

機械彫像はライナを最大の脅威だと認識したようで、津波のように押し寄せてくる。全ての攻撃が彼女に向けられ、アイラとトロイは防衛に苦戦している

(私がもっと皆の力になれたら……)

ライナ、11時方向!敵がそっちに向かった!

トロイはトンファーで彫像の頭を打ち砕き、大声で警告した。トロイは目の前の機械体をなんとかするのに必死で、これ以上の攻撃は防げない

くそ……!あと少しなのに……

大丈夫、私がやる……!

ちょっとバカ――何するんですか!?

ライナが止めるのも聞かず、シルカは彫像に向かってダッシュした

シルカは燕のように軽やかな動きで、腰に差した戦術短刀を正確に彫像の首に突き立てた。短刀の電磁パルスが激烈な電流をほとばしらせ、彫像は行動力を失った

すぐに彼女は振り返ると、突進してきたもう一体の機械体とぶつからんばかりの距離で連射した。ゼロ距離の命中により彫像の胸に火花が散る

一気呵成の勢いで2体の彫像を始末したシルカは、奥歯を食いしばりながら、更に近寄ってくる彫像に向けて発砲し続けた

拡張マガジン搭載の最新銃器が弾切れした。彼女は銃の柄で彫像の電子脳を殴りつけ、顔全体を砕く。だが視覚を司るカメラはまだ明滅し、一撃では戦闘能力を奪えない

チッ――!

ドシュッ!

シルカの目の前でバチバチと閃光が弾けた。青色のエネルギー波が全てを一掃し、草を刈り取る鎌のように数体の機械体を吹き飛ばした

遠くにいたアイラの手にあるビーム槍から白い煙がもうもうと上がっている。凄まじい威力を持つエネルギー弾が発射されたためだ

そんなすごいものがあるなら、なんで最初から出さないのよ……

これは切り札だもん!それに「輝暁」のハンマーのデータを参考にしたから、使えるかどうかわからなかったし!

機体開発の初期にカレニーナとブレストした時、彼女は絶対にこの機能を加えるべきって言ったの。後でお礼を言わなきゃ!

ビーム槍のランプが点滅している。あの一撃で全エネルギーを使い果たしたようだ

よしっ――!解除完了っ!

ライナの跳ねるような声とともに、耳障りな警報音がやっと止まり、彫像たちも攻撃を停止した

シルカ、大丈夫?

アイラは地面に膝をついているシルカに手を伸ばして立たせた

ええ、大丈夫です

ごめんなさい、彼らが急に攻撃を仕掛けてくるなんて思ってもいなくて、最初はパニックになりました……

あなたのせいじゃないわ。相手は途中までおとなしかったし

こちらは敵意を持たれるような行動はしなかったはず……警報も私たちが作動させたのではない可能性があります

もしや、あのセルバンテスという機械体の罠かもしれない

うん……

アイラはロビーに散乱する彫像の残骸を見渡した。一連の戦闘によって、この洗練された空間がめちゃくちゃになっていた

この芸術館は自らの想いをかけて造った場所でしょうに。侵入者を撃退する「戦場」にすることに心が痛まないのかな……?

彼女が考え込んでいた時、突然背後で言い争う声が聞こえた

あの行動は一体なんですか!どうして私の前に出たの!

ずっとクールな態度だったライナが、人が変わったように怒り狂い、シルカを怒鳴りつけている

怪我でもしたら、意識リンクしている構造体たちがどうなると思うんです!?

彼女の目には複雑な感情が宿っている。目の前のシルカを見ず、まるで振り返りたくない昔の影を見ているかのようだ

これが初めての地上任務のド素人でもないでしょう?そんな常識すら知らないんですか?

私が攻撃されたところで、部品を変えればいいだけの話。ここで殺されたとしても、あなたは他のふたりを連れて任務を続けられます

でもあなたが死んだら?指揮官は小隊の中心ですよ。指揮官を失った小隊の生存確率がどれほど低いか、ファウンスで学ばなかったんですか?

……

なぜあの小隊の救援要請に応えたんです!?我々は目の前の戦線に集中すべきだ!

指揮官として基本の取捨選択すらできないのですか?あの小隊は敵の陣地に深入りしすぎている。私たちが行っても死ぬだけです!

あなたはマインドビーコンで私たちの意識海を安定させとけばいいんですよ。戦術?戦場に数回出ただけのガリ勉にまともな戦術なんて無理でしょうが!

私は……

……確かに私の行為は浅はかでした。指揮官として私は自分の安全を第一に考えるべきでした……戦場での指揮官は構造体の生命線ですから

でも先ほどの状況では、あなたを守るのが最優先でした。あなたがシステムをハッキングしない限り、私たちの戦闘は更に長引き、状況はもっと不利になる

あれは指揮官としての……判断です

……

握りしめていた手を緩めると、ライナは諦めたようにため息をついた

ごめんなさい、私のミスです

あの状況を事前に予測できなかったのは、偵察を担当した私の責任でもある

ここで時間を無駄にしている場合じゃないですね。私たちは次の場所へ行かなきゃ

何かから逃げるように、ライナはさっさとひとりでロビーを出て廊下を歩き始めた

……彼女についていきましょう

トロイはシルカの肩をポンと叩き、ライナの後を追った

たぶん……彼女はあなたのことを心配しているの

……はい、わかっています