すぎたのは一瞬だったのか、それとも数千万年だったのか
この終わりのない戦闘にどれほどの時間を費やしたのか、リーは考えることを諦めた。彼にとって、時の経過はすでに無意味だった
無数の失敗とやり直しを繰り返し、リーは過去と未来で見た全ての情報を過去の自分に送り、彼らをここへ来るように導いた
この機体が再起動されれば、新しい彼が自分に代わって階段を駆け上がり、扉を開き、この未知の戦いを続けてくれるに違いないと
この果てしない戦いも、いずれ終わりを迎える
そう……答えがないように見える螺旋にも、変数の中にひとつでも新しい特異点が生じれば、新しい可能性が誕生する!
最後の銃弾は時空を超越し、幾層もの時空の狭間を突き破り、「観測者」の体を貫通した
「観測者」の攻撃が止まり、その「手」を体の中心に開いた黒い穴にかざしたが、これまでのように閉じはしなかった
星空を映し出していたその体は崩壊し始め、「投影」したその姿を維持できなくなっている
「これが……人間の答え?」
いいえ、僕ごときが全人類を代表して答えることはできません
これから訪れる災難を止めることができるなら、僕はずっと戦い続けても構わない
でも、僕の真の使命はあなたと戦うことではない。「塔」による災難を阻止し、仲間のもとに戻ることなんです
これは人類ではなく……僕自身の、グレイレイヴンの「リー」としての唯一の答えです
その声が最後の質問をした。その声はこれまでのような冷たく無感情な声ではなく、微かな温もりを感じさせた
「人類にとって、感知できる全ての実体は三次元として存在している。『時間』は人間が干渉できないルールです」
「でも今のあなたは更なる高次元の世界へ行く資格を手に入れた。あなたにとって、完璧といえる新しい世界を選択できる」
「でもここを離れれば、あなたは未来を見通す力や、時間を変える力を失うでしょう」
「あなたは全ての過去と未来を忘れ、過去を改変する機会を失う。ここで起きた全ては、存在しなかったことになる」
「それでも、あなたはこの扉をくぐりたくはないと?」
その通り
僕を待つ人がいるので
未来なら、僕が彼らと一緒に探します
その声は長い間、沈黙を続けた。静寂の中、空間にひびが入り、突然それが現れた時のようにゆっくりと崩壊し始めた
意識が完全にその次元の境界の空間を離れた時、リーは「彼女」の最後の言葉を聞いた
「その時が来たら、あなたたちの新しい未来に祝福を捧げましょう」
森羅万象全ての音を含む声が、柔らかく、おぼろげな女性の声になった
どこかでこの声を聞いたことがある。それが意識海の奥に残った最後の記憶だった
再び目を開けた時、リーはすでに塔の頂上に戻っていた
緋色のコアは相変わらず脅威を感じさせる光を発している。しかし今はリーが近付いても何も起こらなかった
彼はためらわず真っ直ぐにコアの直下へと歩いた。そこには「塔」の真のコアたる端末がある
――あの壊滅をもたらす光を止め、「塔」のルールを逆転させるんだ。そうすればあなたが大切に思う全てが救われる
意識海で「自分」が言った言葉の本当の意味を、今ようやくリーは理解していた
Ω武器、逆元装置の研究、パニシング言語、そして各世界線の「自分」の記憶――それらがこの瞬間、1本の鍵となった。目の前の端末はその鍵穴だ
「ルール」があり、それをコントロールする「言語」もわかった。なら「塔」のベースロジックを書き換えれば、その動きを根本的に変えられるはず
「放出かつ活性化」を「吸収かつ消滅」にすれば、この塔から放射されたエリアのパニシングは全て消滅させられる
今度こそ、我々のために働いてもらおう