Story Reader / 本編シナリオ / 21 刻命の螺旋 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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21-13 砕けた心

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七色に輝く閃光が点滅し、捻れていく螺旋の塔となり、視界の隅で崩れ落ちる。時が進んだり、遡ったりを繰り返して、周りの全てがめまぐるしく入れ替わる

無数のデータが暴れる波のように無防備な堤防に押し寄せる。リーは何もできずに、ただそれに巻き込まれるのを待つだけだった

全てがまたシミュレーション作戦の時に戻った。ただこれはどうやら現実であり、シミュレーション作戦よりも遥かにリアルだ

彼は無数の小さな、取るに足らない時間の欠片を見た。それは水面に滴る水滴のように、一瞬で消えていく

しかしその水滴が滴るような景色は一瞬であっても、それが無限に繰り返されればやがて100年もの長い時となる

瞬間的なもの、果てしないもの、雑多なもの……それらの欠片は断片的で、繋がっている訳ではなかった

もし彼の推測通り、ここに来たのが初めてではなく、すでに100回近く失敗を繰り返しているのだとしたら、今回の挑戦の結末はどうなるのだろう?

あと何度失敗を繰り返せば、彼は欠けていた情報を完全に補完できるのだろう?

それとも……今回は意識海の過負荷すら克服できないこともありうるのか?

データの奔流の中で彼は両目を開いた。しかし予想とは違い、全てが崩壊することはなく、柔らかい暗闇となってリーを優しく包み込む

――そして、彼は闇の先に灯台の微かな光を見た

……マインドビーコン?

意識海の過負荷は崩壊の寸前で止まった。誰かが自分の手を引いてくれたように感じる。そして、視覚モジュールのリロードが開始された――

指揮官!?

リーはデータの奔流の渦から離れ、予想外の、いや、実はずっと予想していたその人影を見た

どうしてここに?この塔は危険です、指揮官はここに来るべきじゃない!

そんな……

…………

その言葉を聞いたリーは反論もせず、その人間の手を握ろうとした。しかし瞬時に、塔に入った時に見たデータの欠片が脳裏に浮かんだ

やめ┘ ┘┘指揮官 ┘が┘ ┘ ┘死ぬ

……!

リーは手を振り払い、目の前の人を押しのけて意識リンクを断ち切った。それまで温かだったものが、次の瞬間、熱い焼きごてに変わったかのように

断ち切った瞬間、意識の過負荷で彼はまたデータの奔流に飲み込まれていった

1秒でも油断すれば彼の意識は完全に麻痺し、焼き尽くされ、灰になってしまう

諦めれば、もうこんなことを……

遠くから嘆く声が聞こえた。力尽き、疲労感が体を襲う。だがデータの奔流を流れる欠片が彼を突き刺し、痛みを与え続ける。彼は、まだ諦められない

┘ ┘┘指揮官は ┘で┘ ┘死ぬ

……これは初めての失敗ではない。初めての決別でもない

……何だって?

その奇妙な幻影の人物は彼の質問に答えることなく、そのまま遠くの渦の方へと歩み始めた

待ってくれ!

幻影を捕まえようと手を伸ばし、彼女から答えを訊き出そうとした時、自分の手がいつの間にか血に染まっていることに気付いた

青い循環液ではなく、赤い人間の鮮血だ

指揮官……!!

悪夢から目覚めたように、リーの手を染めていた血の跡は消え、誰かが自分の手を強く握っていた

……?

どうして僕はここに?

目の前の指揮官の顔は幼く、ファウンスを卒業した頃の顔に見える。リーは困惑して周りを確認した

今は午後2時、ここはグレイレイヴンの準備室

あなたは僕の指揮官

リーのその言葉に、目の前の人は少し驚いたようだ

間違っていますか?

驚く?

目の前の人はそう言いながら笑い出した

フン、じゃああなたに対しては、冷たいままでいることにします

その声を聞きながら、リーはガラスに映った自分を見た

異火機体……グレイレイヴンは再編してまもない……

今と比べ、あの時間は「平和」とさえいえる

しかし彼はその平和な時間を、無為にすごした

マーレイに心を閉ざし、ひとりで前に進もうとしていた。更に指揮官という人種はその地位にしがみつくためのみに、任務を下す機械だと思い込んでいた

まさかその人が自分にとって、マーレイと同じほどに大切な家族同様の存在になるとは、思ってもいなかった

指揮官

指揮官には、何かかなえたい願いがありますか?

彼はなぜ自分がこんなことを訊いたのかわからなかった。全て取り返しがつかなくなってしまう前に、もう少し前へ進みたい、もっと知りたかったのかもしれない

そんな公式用の建前じゃなくて、本音を

ちゃんとした現実的な望みです、何かないんですか?

はい?

…………

回想はそこで突然止まり、リーはまたデータの奔流に巻き込まれた

彼は今もしっかりと覚えていた。指揮官のその言葉に彼はただひと言、「くだらない」と返事したのを

他人が「笑う」という行為に、何の意味があるのだろう。そんなものを希求するなど馬鹿げている

あの人は自分の真の望みを言いたくないから、あの場を冗談でやりすごしたのだろう。結局は誰もが自分同様、心を堅く閉ざしているのだ

しかし、それから長い時を経て、彼はようやくわかってきた。あの時の自分はただ、自分の物差しだけで他人を計っていたのだと

指揮官は彼がそっけない態度を取ったにもかかわらず、自分と歩調を合わせ、手についた血の跡を洗い落としてくれた――黒野で汚く染まった全ての跡を

なのに今、せっかくあの人が綺麗にしてくれたその両手が、また血に塗れてしまった……

僕は……

過去<//現在>から、現在<//未来>へ、声が聞こえた

データの奔流は消え、再び暗闇に包まれた。遠くから灯台が相変わらず導くように光を発しているが、体がとても重く、一歩も踏み出せない

指揮官……ここに?

混乱する意識の中では、目の前にいるのが誰なのかもはっきりとは見えない。ただ遠くに、懐かしい声が聞こえていた

意識リンクを保って、もう一歩進むんだ……

この塔の真実を知ることができれば、きっと解決法を見つけられる

たったの一歩で?

嵐と荒波が逆巻く海上に、彼はまたあの不気味な姿を見た

塔に入っても、データの海に潜っても、きっとあなたはこの言語を完全には理解できない。違いますか?

一体誰なんだ!?

彼女は黙ったままゆっくりと海に向かって歩き出した。彼女が歩く度に周りの景色が変化する

九龍環城?

ここの主に「九死に一生」の話を聞いたことがあります

彼女が言うには、古き九龍の伝説に流れ続ける砂の川が存在し、誰もその川を渡れなかったそうなのです

ある者がこの川を渡ろうとして9回も命を落とした。10回目の輪廻転生で、彼は自らの9つの死骸を足場にして川を渡ることができたと

とても悲しい物語でしょう?誰かと助け合いながら渡れば、彼はひとりきりでそんなに何度も、苦しみを経験しなくて済んだのに

何が言いたいんです?

塔は予想より早く降臨した。準備できているのはあなたひとりだけ。残りの命は全て失われ、犠牲となる

だからあなたが塔の頂点に登るためには、自ら何度も死を体験し、道を作るしかないのです

…………!

更にあなたは何度も同じ代償を払う必要がある。でも代償を払っても、ひとつも成果が手に入らない可能性だってあります。そう、例えば……今みたいに

あなたはここに留まりすぎている。後悔と過去に溺れてしまったのね。そのせいで行動できる時間がどんどん失われ、情報を探す猶予もない

今のあなたは1秒ごとに高い代償を払っている。見てみて……

彼女はリーが抱えているものを指さした。それはもう、真っ赤に染まっていた

意識が崩壊しつつあるリーには、抱えている人の姿がはっきりと見えない。だが自分の機体が誰かの血で赤く染まっていく感覚があった

微かにささやくような声が聞こえる……この奔流に飲み込まれてまだ間もないのに、最悪の結末を迎えてしまったようだ

(指揮官!)

呼びかけようにも声が出ない。あがいても体は一歩も前に進まない。遠くで輝いていた灯台さえ、ゆっくりと光を失っていく

そして最後、腕の中で小さな息の音が聞こえると、全てが消えた

何もかもが再び混乱し、先ほど暗示をくれたあの人影も崩れていく。彼女は去り際に、絶望に近い宣告の言葉を残していった

あなたが「起点」にたどり着かない限り、転機は訪れません。でもあなたの今の状態だと、ここが、終わり……

――ここまでたどり着いたが、それは起点ではなかった。更にマインドビーコンが消えてしまって、彼は一歩も前へ進めない。これからどこに向かえばいいのだろう?

大丈夫だ、まだ僕がここにいるよ。一緒に進もう

目前に、新たな灯台が現れた。意識海が徐々に安定し始め、マーレイの幻影がふわりと目の前に浮かび上がった

あの指揮官を責めないで。これは僕が自分で決めたことなんだ

先ほどの短い会話は、現実にどれほど続いたものなのだろう?マーレイは一体いつ、この塔に入ったのだろう?

リーにとって大切なこのふたりが、どんな気持ちでこんな――命と引き換えにしても彼と意識リンクを維持する――ことを決めたのだろう

先ほどの人物が言う通り、彼はすでに高い代償を払っている

僕はあの指揮官ほどは優秀じゃないから、長くは持たないけど……もう動ける?

マーレイがリーを支え、進むよう促した

兄さんの向かう終点に、僕も一緒に連れてって

そこに兄さんが求める答えがあるなら、僕もそれを信じる

兄さんが僕に生きるチャンスを与えてくれたんだ。だから、僕はなんとしても兄さんを守る……兄さんにもらったこの命を、きちんと返したいと思う……

――そんな形で返して欲しくない

そう弟に反論したかったが、口を開くことすらできない

機体で歩くだけでも精一杯だ。こんな状態で「起点」にたどり着いても、一体何ができる?

もう一度やり直すんだ

たとえまた失敗しても

途中、何かが割れた音が聞こえた。彼はぐっとマーレイの手を握りしめ、情報が集まる螺旋の中枢へと歩き出した

ありがとう……

リーの手の力を感じたのか、彼は微笑んだ

今、兄さん、心の中で「なんでありがとうなんだ?」って思ってるでしょ?

…………

だって兄さんはいつも僕を子供扱いするから

マーレイはリーを支え、ふたりはふらつきながらも前へと進み続けた

「大丈夫」「ただのすり傷だ」「どうってことない」……

「心配するな」「自分のことだけ案じていろ」……兄さんは困難に直面しても、いつも隠そうとする

別れの前の告白のように、マーレイは苦笑いしながら低い声で話し続けた

僕は体も弱いし、騙されやすいし、いつも心配をかけてばかりだった。頼りない僕を、無意識に遠ざける気持ちもわかるよ

……「そんなバカなことを」そう言いたいんでしょう?

……

兄さんは知らないだろうね。兄さんの後ろ姿を見ていると、僕はいつも父さんが去っていった時の、あの後ろ姿を思い出すんだ

小さい頃、僕は兄さんに訊いたよね。僕の体が弱くて足手まといだから……父さんは僕たちを捨てなくちゃいけない、そうしないと生きていけないと思ったの?って

兄さんは否定したよ。でも兄さんもひとりで全てを背負った、僕に何も話そうとしなかったんだ

……僕が役立たずのお荷物だからだ。あの時から、僕はいつか頼れる存在になって、兄さんが背負っているものを一緒に背負おうと、そう誓ったんだ

彼はゴホゴホと咳き込んだ。鼻から流れる血が、その皺ひとつないスーツに滴っている

やっと兄さんが、僕を頼ってくれた……

塔の終点であると同時に、全ての起点となるその場所で、兄弟ふたりは足を止めた

この人生で兄さんの力になれたことが嬉しいよ

たとえ、この一度きりだとしても

彼の微笑みが、リーの視覚モジュールの中で無数の破片となって砕け散った

…………

状況を打破できそうな「起点」にはたどり着いたが、意識海の過負荷によって彼は崩壊寸前だった

リーは手を伸ばし、その虚ろな光に触れようとした。その時、かつて何度も脳裏に浮かんだあのフラッシュバックが、はっきりとした形で現れた

???

それほどの代償を払って、また起点に来たのですね

ここに来るために、あなたは一体何度、大切にしている人たちを犠牲にするの?

…………

???

大丈夫、あなたが諦めてない限り、私は「門番」として見守り続けます

彼女の伝言を見に行きましょう。そしてまた同じことを繰り返す

伝言……

緋色のパニシングの中を飛び回る情報が、解読可能な文字を形作る

――異重合の欠片を手にした、この文字が読める人へ:

ここにパニシング言語と、その高次元の特徴を持つ資料を書いておくね

パニシング言語を使うことができれば、過去へ情報を送る力を手にして、この災難を変えられるかも……

たくさんの悲しい別れを経験したよね。でも諦めなければ、全てを挽回できる可能性がまだあると思うの

……これはナナミがみんなに届ける……「未来」ってプレゼントだよ

伝言はここまで読めば十分。時間が足りない。早く資料を読んで

…………

でも、もし、まだ余裕があったら

グレイレイヴン指揮官やリーフ、ルシア、生きていた人たちに……この言葉を伝えてくれる?

――ずっと、あなたたちのことを想っているよ、って

…………

かつてこの星に、人間を愛する少女が暮らしていた。彼女は愛する者全てを守ろうとして自ら身を引くことを決め、その代わりにここに情報を残した

その気持ちとこの唯一の機会、決して無駄にはできない

パニシングの言語……伝言……

これが既視感や予知の原因か……

それなら、今度こそ……

彼は全ての演算能力をフル稼働させ、限界が来る前に――過去に向かって叫んだ

Video: 超里版本_剧情_里计算寻路