嵐が止み誰もいない砂浜に、足を引きずりながら歩く足音がゆっくりと近付いてきた
やはり戦っているな……しかも大規模戦闘だ
遠くを眺めていた彼女は、目に負った怪我のせいか、夜明けの光に目を細めていた
無数の異合生物が海から現れ、海岸線にいる人々を攻撃し続けている。しかし異合生物はここからは見えない何かに遮られて、容易に接近できないようだ
なるほど、Ω武器……見たことはなかったが、確かあの時、あいつから聞いたな
彼女は戦線の中央の臨時指揮センターを指さした
あのマークはグレイレイヴンね
グレイレイヴンだけじゃない……ストライクホーク、ケルベロス、工兵部隊……バロメッツも来ているのか
ずいぶん賑やかじゃないか。空中庭園がこれほど戦力を投入するとは、相変わらず「首席」はやることが派手だわ
もちろんグレイレイヴン指揮官が招集したのではなく、自然に人が集まり、ともに戦っているのだろうと彼女にはわかっていた
彼らと合流、バンビナータ
バンビナータはさっと彼女の横に現れ、動きにくそうにしているバネッサの体をそっと支えた
その時、バンビナータは視界の端に緋色の何かを捉えた
ご主人様!
バンビナータはバネッサを後ろに庇い、自身の体で異合生物の攻撃を止めようとした
こんな程度で自分の体を差し出すのですか?
青年の声が聞こえ、小さなバンビナータは異合生物を蹴り飛ばした。そして異合生物の追撃を避け、再びバネッサを守ろうと前に立ちはだかった
異合生物が吼えながら再び飛びかかろうとした瞬間、1本の矢がその喉を貫きそのまま木の幹に串刺しにした。続いて異合生物はボトボトと緋色の液体になった
……ありがとう、ございます
バンビナータは青年に礼を述べ、背後の女性を見た。その謝辞は自分を助けたことに対してではなく、背後の主人を救ったことへの礼なのは明らかだった
ハッ……テセ……
テセはちらりとバネッサを見た。バネッサの顔についた傷跡を見て、これは彼女の自業自得なのだと自分自身に言いきかせた
バネッサ、あなたをここに送り届けたのは、私の最後の慈悲です
わかっている。何度も聞いたわ
バネッサは笑いながら答えた。彼女の言葉にはいつも散りばめられていた悪意が感じられず、代わりに微かな悲しさが漂っていた
では、私はこれで
待て、最後にひとつ頼まれてくれないか
……?