カレニーナ、ちょっと、カレニーナってば……聞こえてる?
月面基地に響き渡るドールベアの声は、当然、カレニーナの通信端末にも届いていた
あーもう、聞こえてるッ!うっせえな……こちとら取り込み中なんだよ
カレニーナは白い異形の怪物の攻撃をかわすと、砲撃の反動を利用して飛んで離脱し、更なる次の攻撃を避けていた
ちょっと……一体何と戦ってるのよ?
零点エネルギーエンジン……いや、変な白い肉から変化したバケモンだ……
あんたの貧弱な語彙力に状況説明を求めた私がバカだったわ……
暴走中の異形の怪物が地面の岩を砕き、石が跳ね飛んだ。しかしカレニーナはすでに空中に飛び上がり、異形の頭部――零点エネルギーエンジンを今まさに叩き割ろうとしていた
だが突如として怪物が重力波を放ち、割れた石の軌道を転換させ、まっすぐカレニーナに仕向けてきた
何だッ!?
カレニーナが即座に反応して石を砲撃しなければ、重傷どころか、石とともに宇宙へ吹き飛ばされていただろう
どうしたのよ……カレニーナ!?
大丈夫だ……ただ……
目の前の怪物に空中攻撃は効果がないらしい。頭部の零点エネルギーエンジンを攻撃するには、まず弱い部分を攻撃して、その動きを止めるしかなさそうだ
だが無限に自己修復する怪物が相手だ。どうすればその行動を制限できるだろうか……
あーもういいッ、考えたって無駄だ。1回がダメなら2回、2回がダメなら3回壊せばいいんだろ!
ええ……バカで単純すぎる方法ね……でも、あんたらしいけど
カレニーナは再びその白い異形の怪物に飛びかかった。そしてハンマーを地面に叩きつけ、砂塵を巻き上げて相手の視界を遮った
もちろん敵もただちに広範囲に重力波を放ち、砂塵を吹き飛ばした。カレニーナが空に飛び上がったとしても、この重力波で巻き込めると怪物はふんだのだろう
だが、空中に気を取られていた異形の怪物の真正面、煙の中からカレニーナが突進してきたことに、怪物は気づかなかった
あらんかぎりの声を張り上げ、カレニーナは機体のグラビティ·シミュレーター装置を使って、異形が放つ重力波を正面からはね返した
広範囲だけに重力波の強度は低い。カレニーナはそれを狙って、正面突破を図ったのだ
アァ――!?!?
至近距離すぎて怪物はまるで反応できず、そのまま、カレニーナのハンマーが振り下ろされた――
くらえぇェェッ!!!!
カレニーナは突撃した。その瞬間的なエンジンの加速により、打撃武器のハンマーが刃物に匹敵する切断力を持った
異形の怪物の右足が一瞬で切断され地面へ吹き飛ぶ。だが怪物は同時に爪を立てて手を振りかぶり、カレニーナを後方に追い払った
【規制音――!】なんて反応速度だよ……
重力波の防御を突破できなかったため、カレニーナは異形が再生するのをみすみす見ているしかない
だが怪物は必死に身を震わせているが、切断された右足が再生しないようなのだ
あいつ……再生能力を失ったか……
それ、私たちもまさに今調べたところ。零点エネルギーの供給に変化が生じてる。一部のエネルギーが妙な場所へ流れてるの……あの代行者がいる場所のΩ武器にね
更に妙なことに、私たちを襲ってきた侵蝕体が、いきなり弱体化してるわ……
カレニーナは構造体実験室の方向を眺めてつぶやいた
あいつ……生きることを選択したんだな……
蒼白の怪物の右足がゆっくりと再生した。しかし怪物はすぐに攻撃を仕かけず、戦場の中央でじっと遠隔供給される零点エネルギーを吸収し始めた
カレニーナ、重力波爆発の臨界点まであと12分21秒!急いで……
やつがエネルギーを吸収し終わる前に、ぶっ壊す!