Story Reader / 本編シナリオ / 18 綺羅星の誓い / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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18-9 最後の希望

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機械教会の裏口には溶鉱炉の投入口がある。回収した金属はここに集められ、ベルトコンベアで運ばれて溶解され、機械聖堂の外壁として成形される

ハカマやシブナと対策を練ったあと、ナナミはひとり、辺りをはばかりながらこの場へとやってきた

もう出てきたら?ナナミ、急いでるんだけど

パワーちゃんに小細工したでしょ。シグナルはとっくにナナミにバレてるよ。溶鉱炉の近くなら他の機械の熱源センサーは誤魔化せるだろうけど、ナナミには通じないって

……やはり端からバレていましたか……

溶鉱炉の側の金属の山から、黒衣を纏い、ボロボロの軍用の外骨格を装着した男が立ち上がった。厚いマントを羽織り、マスクで顔もよくわからない

男はまったく慌てずその場で両手を挙げ、敵意がないと知らせてきた

しかしその男が目の前に立つと、逆にナナミの方がとまどった

あなた……人間なの?

男は脈拍がなく、体温も極めて低い。おそらくそれが機械の熱源センサーから逃れられた原因だろう。だが彼は呼吸し、生体反応があるようなのだ

ともいえるかな

彼は手を下ろした。その動きでマントがずれ、腰につけた循環装置のバッテリーが見えた――どうやら彼はかつて大怪我をして、体の半分がすでに機械体になっているようだ

ライフトヘイム要塞であなたを見ました。あれほどの銃弾を受けても無傷とは、さすがだ。強大な機械の指導者、ナナミ――で間違いないですね?

あの時、ナナミはまだ状況がよくわからなかったの……だから……

機械に対して人間があれほど戦々恐々とするのは仕方がないことです。機械が人間に何をしたか……指導者のあなたは僕よりずっとわかっているはずです

ナナミは……信じるか信じないかはあなた次第だけど、こんな未来が見たかったんじゃないの。あなたが人間側のひとなら、メッセージを伝えてくれないかな……

ナナミは続ける言葉を失った。局面を変える行動をせずに、人間にメッセージを伝えたところで意味がない。機械は戦争をやめないし、人間も必死に抵抗するだろう

……ナナミは……うまくできなかったんだ

どうやら我々の考えは同じですね。他の人間はあなたに怯えるみたいだけど、僕はそうじゃない。何せ、あなたはグレイレイヴンの友人だと兄さんから聞かされましたから

グレイレイヴンって言った!?あなた、グレイレイヴンの指揮官を知ってるの?じゃ、ルシア、リーフに、リー!みんなは今……まだ生きてるの?

男はすぐには返答しなかった。彼は時間をかけて目の前の少女をじっと観察し、どう答えるべきかと考えているようだ

……ただの知り合いです。ふぅ、こうなったら身分を偽っても意味ないですね

男はナナミに手を伸ばしながら名乗った

僕はリーの弟、マーレイです。[player name]ともかつて何度か会ったことがあります

ナナミはその手を握りしめた

みんなどうしてるの?近況を教えて?

どうしてもというなら、いいですよ。[player name]は昇進し、今のグレイレイヴン指揮官は僕が務めています。アハハ、兄さんと一緒に戦うという願いが叶いました……

グレイレイヴンのみんなは……元気?

……まさか何も知らないのですか?

かなり前のことですが……新型特化機体の実験が失敗し、初めての特化機体だったリーフは、人型異合生物との戦闘で殉職しました

リーフ……白夜……

ナナミはそのキーワードについて思い出そうとしている

あれから戦線が急速に拡大しました。降って湧いたように機械教会が現れ、人類にパニシング以上の打撃を与えた。我々の資源は「崩壊」で消耗し、機械軍に奪われました

地球から離れることさえできなくなってしまったんです……機械教会は、人類を徹底的にこの地から駆除しようとしています

人間の陣営では、隊長が死ぬと隊員が代わりとなり、将官が死ねば兵士が代わりになる――それが最後のひとりになるまで繰り返されています

[player name]が指揮官の任を続投しなかった原因は、[player name]の上司であった、ハセン、ニコラ……全員が亡くなったからです

ハ、ハセンおじさんが……

あれは1カ月前の戦いでした。その戦いで人間は最大級の海中要塞と指導者たちを失いました

ストライクホーク全員が海中堡塁に潜り、子供を守るために残っていた兵士の救助を試みました。だけど結局戻ったのは、バンジとすでに亡くなっていた赤ん坊だけでした

粛清部隊の隊長ビアンカはパニシングで作られた武器を使用したため、「魔女」となり、パニシングに汚染された海に沈みました

あの戦いでの生存者は、僕と[player name]だけでした

でも[player name]は侵蝕され両手を失ってしまいました。資源も不足し、高精度の肢体交換はできない。あの状況では第一線を退き、全人類の指導者になるしかなかった

だがグレイレイヴンの名は不屈の抵抗の象徴として人類を奮い立たせています。リーフの代わりをバンジが務め、指揮官不在のまま戦っており、僕もできる限り協力しています

部品不足で、ルシアと兄さんは交代で出陣しているような状態ですが、グレイレイヴンはいぜん主力で、エースとして戦っています

僕は指揮官にふさわしくなかった。自分の命と兄さん以外、全てを失ってしまいました

僕は今も……砂浜の上で旗槍を持って立つヴィラの姿が忘れられません。彼女はたったひとりで狂奔する機械の群れを食い止め、僕に「死んだら殺す」と言いました

ケルベロス隊が死線に立った時も、ヴィラは自分の命を投げ出して、ひとつの命を救いました

マーレイはすでに半分機械化された手を見つめながら、自嘲をこめているかのように憫笑した

そんな価値はあったんだろうか?僕は幸運な生存者なのに、兄さんが残してくれた心臓すら守れなかった

今マーレイの胸で鼓動しているのは、金属で精巧に作られた代替品だった

どうして……みんな……

この未来の真相を聞いたナナミは脱力したようにうずくまった。彼女は両膝に顔を埋め、ぎゅっと身を固くしている

皆……ああ、他の人もいましたね

空中庭園が蹂躙された時、世界政府芸術協会は黄金時代の遺物を避難させようと撤退が遅れ、着陸に失敗して焼死しました。守ろうとした遺物も燃えかすになってしまった

マーレイは淡々とした口調で話した

航路連合、アディレ、九龍は、戦争が始まってすぐに連絡が途絶えました。その後離散した一部の兵士と合流しましたが、残念ながら悪い知らせばかりです

オブリビオンには侵蝕末期の人が残っていて、聞いたところによると、ワタナベは彼らを苦しみから解放するために……

……もういい

話せと言ったのに、聞きたくないと?今はどんな気持ちですか?くだらない?後ろめたい?これが僕たちが今いる世界です。三日三晩かけてもまだまだ悲劇は語り尽くせません

一貫してマーレイの口調には感情の変化がなかった。まるで現在起きていることでなく、別世界の出来事を話しているようだ

……もう十分だよ

頭を上げたナナミの目からは涙がこぼれ落ちそうだったが、その言葉にはきっぱりとした意志が感じられた

どんなことを言ったって、あなたが心配してるのはナナミが機械教会への裏切りを拒否して、人間が生存するチャンスがなくなることだけ、そうでしょ?

……

ナナミに会いに来たのは、マーレイにも助けたい人がいるからじゃない?

……

言わなくたってナナミにはわかる。あなたは何度もお兄さんについて話してた。リーを、家族を助けたいんでしょう?

……

機械教会の創始者に対し、マーレイは怒りを抑えきれなかった。だが交渉相手はすでに激しく動揺している。どうしたらこちらの条件を呑むのか。マーレイは思案を巡らせていた

しばらく黙っていたナナミが再び口を開いた

……ナナミはまだ「カグウィル」の配置がわからないから

もし人間の最後の拠点が「ライフトヘイム」って場所なら、すぐ逃げて

ゼロは明日、人間に最後の襲撃を仕掛ける計画を立ててる。ナナミが「カグウィル」を引き留めて時間を稼ぐから

ナナミはハカマから与えられた機械教会の発信器を彼に手渡した

機械教会に追跡されるかもしれないから、拠点の中には持ち込まないで。でもナナミは「カグウィル」の動向をそれで伝えるね

力になれるといいけど

意外にもマーレイは黙って受け取ってくれた。指先の金属がナナミの手に冷たさを残している

発信器をポケットにしまった彼の顔を、溶鉱炉から漏れる光がかすかに照らした

もう行かないと

これが失敗したら……ナナミはもう一度……

もう一度、ですか……

マーレイは低く笑った。フードに隠れた両目に溶鉱炉の火が映り、揺れている。彼は目を細め、ナナミにそれができるのかと問うように笑った

できるよっ!ナナミは戦争のない未来を見つけ出すの!それを人類の手に渡すんだから!!!

少女は涙を拭き、覚悟を決めたように絶叫した

お友達に、あなたが話してくれた、そんな未来や結末をすごしてほしくない!

……ああ

もしもうひとつの別の世界があるなら、そこで兄さんを守ってくれますか

この世界での兄さんは僕が守るから

ナナミの返事を待たず、マーレイの姿は冷たい夜の闇へと溶けていった

――セージ·マキナは自身の歓迎式典をお望みで、「カグウィル」全軍は残らず集合し、閲兵式に参加すること

――セージ様は壮麗な宮殿も美しい飾りも、「愛」を表現するには十分ではないとご不満です

――セージ様の希望は「カグウィル」のリーダーが自分の側につき従い、その忠誠と愛を示すこと

機械の間に命令が飛び交った。突拍子もない指示だが、全てはセージ様のわがままで奇妙な考えだと片づけられた

短時間でいい策が浮かばず、ナナミはひとまず人数を教会に集め、戦場へ行く数を減らすしかなかった。だがそれで教会軍を止められるのかは定かではない

ひとまず残留している人間が拠点から撤退するための時間を稼げば、その後のことはまた考えればいい

ハカマとシブナもナナミの要求を汲んで行動していた

巨大なロボットに乗った少女は頭に冠を乗せ、ゆっくりと広場の中央通路を歩いた。両側にはセージに忠実な「カグウィル」の兵士が整然と並んでいる

機械たちは本能的な信仰心につき動かされて地面に跪き、叩頭の姿勢を取った。ナナミと、太陽が沈む地平線の方向へ両手を伸ばしている

まるで「人間の巡礼」のように

ナナミは広大な広場に唯一立っているのが自分だけだと気づいた

地平線にかかる太陽が動きを止めたように震えている。空の色はだんだん暗くなり、ついには全世界の雲がそこに集まったかのように真っ暗になった

暗闇の中、地面にひれ伏した機械体たちが低く吟唱を始め、その声はすぐに大地に広がった。彼らはリズム正しく、同じ単語を繰り返している――

――「セージ開祖」

荘厳かつ奇妙な光景に魅入られていたナナミははっと気づいた

ぼんやり見回していたはずなのに、自分の声が聞こえたからだ

これで全員?

全員です。もし数が足りないと仰るなら、一晩、一晩くだされば2倍にできます

……それは……すごいね

気に入っていただけたなら、何より!

赤々とした機械体の目が輝いている

いきなり閲兵式って言われたから、時間もなくて大急ぎで「最高のサプライズ」を用意したの!

ゼロが指を鳴らすと、無数の機械体が飛び上がり、空に大きなスクリーンを展開した。そこにはライフトヘイム要塞のライブ動画が映っている

数体の大型攻撃機械体が地下通路から要塞へ突入していく。彼らはためらわずに人間の防御壁や銃口に突撃し、銃弾に蹂躙される。その後、凄まじい速度で侵蝕体に変化した

事前に誘導されていた侵蝕体も、侵蝕された機械体に呼応するように波となって押し寄せてきた。一瞬にして人類の防衛ラインは崩壊していく

広場の周囲では花火が打ち上げられ、勝利への喜びは最高潮に達した

その時、飛行機械体がゼロに透き通ったレッドダイヤを手渡した。ゼロはそのダイヤを捧げ持ったまま見つめた

んーと……誰かが言ってたの。これは「ロマンチック」な方法で、「愛」を表現する方法だってね。この「記念」すべき日に、この儀式、ぴったりじゃない?

このレッドダイヤってやつ。セージ様があの人間と話した時に話題に出た人たち、どうやら彼らはセージ様にとって「記念」すべき特別な価値があるみたいなのね

ゼロは詩を朗読するような不思議な口調で話しながら、そのダイヤをナナミに捧げた

だから、彼らを永遠にセージ様の側にいられる姿に変えてあげたよ

彼らが原料の――まだほのかに温もりを残している宝石に触れたナナミは、激しく嗚咽した

その激しさのまま、勢いよく回転するチェーンソーをその虐殺者の頭に向かって振り上げたが、しかし結局は力なく回転を止めてしまった

ナナミ

ごめんなさい……

え……どうしたんです?それって……「喜び」?それとも「悲しみ」?このプレゼント、気に入ってくれたの?それとも……私何か間違った?

もっと、あなたのためにもっともっと作ってあげたい。これは……これは「愛」じゃないってことなの?

「愛」と他の感情に執着する機械なのに、セージの涙の意味はまったく理解できないのだろうか。彼女の回路は一瞬混乱した

もっともっと作ってあげたい。それはまさしく「紙を、紙を作りたい」とその使命感で人を殺した機械と同じなのだ

ナナミの怒りが消えた。彼女はそっとゼロの頬に触れた

ナナミ

……ごめんなさい。ナナミ、来るのが遅すぎたよね……

人類も、あなたたちも、ナナミには……もう救えない