Story Reader / 本編シナリオ / 17 滅亡照らす残光 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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17-23 5つ、「さよなら」

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特化機体への換装には、かなりの時間を要する。彼女は皆の期待を背負っているが、未来に何が待っているのかはまったくわからなかった

ふたりに見守られて、リーフは眠りについた。起きた時には、周りで小声で議論するのが聞こえた

意識海に激しい幻痛が走り、リーフはなんとか両目を開け、ぼやけた視界で前方を見た

見慣れた指導者たちが彼女の前に立ち、励ましの言葉をかけてくれた

それから彼らは自分の居場所へと戻っていき、人ごみの間から知っている人と知らない人がぞろぞろと出てきた

そのほとんどが議員だった

スターオブライフの管理者とビアンカ以外は、その制服のマークで彼らの所属を判別した

人々は歓喜、陶酔、賞賛……実にさまざまな感情が混じりあった視線で、こちらを見つめていた

彼らは極めて価値の高い芸術品を見るように、情熱的な眼差しを送ってくる。だが不思議なことに、こうも見つめられながら、誰も機体の中にいる自分を見ていない気がした

人々の中から監察院の女性がずいと前に出て、精巧に作られた金色のブローチをリーフの胸に取りつけた

霧の中であなたの道標にならんことを、リーフ

ありがとうございます

人々は彼女の新しい機体の名を呼び、歓声を上げた。彼女は幻痛を隠し、長い夜に光をもたらすその名に応じるように、優しく微笑んだ

人々が去ったあと、アシモフの研究室はいつも通りの暗さと冷たさに戻った。モニターの光に照らされて、教授が首を振りながらため息をついているのが見えた

何か間違ったことをしたのだろうかと、リーフが訊ねようとした時、その目から涙が零れ落ちた

これから最後の調整を行う。2時間はかかる

今回の調整で、意識海の幻痛症状を最大限に軽減させます

私たちが準備している間に、指揮官にお別れを言ってきなさい

後悔しないようにね……リーフ

…………

しかし、リーフはどんな別れの言葉を告げればいいのかがわからなかった

唯一わかっていることは、今もまだ、指揮官は目覚めていないということ

…………

頭が混乱する中、彼女はあの優しい女性の言葉を思い出した

自分の決定を後悔しませんように……

あの日、グレイレイヴンは九龍夜航船のイベントに招かれた

船に乗る前、彼女は港で「ちょっと話をしませんか」とある女性に誘われ、「ある可能性」が起きた時、自分ならどう選択するのかを訊かれたことがあった

機械の演奏が終わると、睚眦はこの地で「一体となった」ヴィリアーと華胥の話をしてくれた

それでも自由だといえるのでしょうか?

「彼らは選択したんだ」――あの時、指揮官はそう答えた

あんな結末を迎えたとしても?

「そう」

あの女性と話した可能性と選択の話も、指揮官が話した言葉も、その時は深い意味などない世間話のつもりだった

話者に特定の意図がなくとも、それを聞く者はその言葉によって、水面に映る自分の姿を通すようにして、隠された真の自分を見たのだ

――もし、彼女にも同じ日が訪れたら、そんな風に全てを犠牲にできるだろうか?

彼女にはわからない。その美しい想像が崩れ落ちる日なんて想像したくもなかった

しかし、頭のどこかで彼女はわかってもいた。その話を聞いた時から、ある揺るぎない決意が彼女の心に根を張っていたから

災いを糧に生長し、蔓のように垣根を覆って、それは高い壁をも乗り越えている――

これが、私の選択です……

無数の死と別れを経験して、リーフはそっと心の執着を手放した

茨の道を歩む命のために、彼女は、災厄という名の盤上で、最前線の駒として自分の身を置くことにしたのだ

「家のない子供は、居場所を探し求める」

「愛されなかった者は、一生かけて愛の代替品を探し求める」

彼女は、グレイレイヴンという居場所を見つけられた。そこで温もりを得た。しかしリーフは、そこを終着点にはしなかった

自分と同じ苦しみを味わわせないため、ルシアが刀を握ったように、リーフも流離う人々に家を与えたいと考えている。これが彼女が今まで戦ってきた理由だった

まるで魂に刻まれている衝動のように、彼女は追い立てられるように前線へと駆け出した。やがて、彼女も自分自身の最期を目にするだろうことを心に秘めて

もう迷うことはない。全力で、進み続けるのだ。いずれ、力が尽きるその時まで――

リーフは繰り返し、自分の覚悟を確認し、実戦の3時間での計画を再度おさらいした

地上に到着したら、残る命はもう3時間しかない。一分一秒、緻密に計画しておかなければならない

準備はできています

改めて決意を確認した。その感情は彼女の身を纏う堅い鎧となって、その心を固く守っている

なのに、心の奥底から感じるこの針に刺されるような痛みは、何だろう?

……まだ何か、悔やむことがあるのでしょうか?

ベッドに横たわり、頬がこけて顔が青白くなったその人間を見つめた。生命維持装置の音が響く中、彼女は長い間、立ち尽くしている

やがて、少女はそっと手を上げ、新機体の少し冷たい手で指揮官の上下する胸に触れた

その場所を、覚えている

毛布の上からでも、患者の胸にある包帯を解かなくても、彼女はその場所がわかる

それは[player name]が初めて致命傷を受けたところだった。あの日、彼女も近くにいたのに、それを止められなかった

彼女はゆっくりと両手を動かして、何かを確認するように、指先で指揮官の胸のもう1カ所を触った

ここも覚えている。075号都市で石が崩れ落ちた時に怪我したものだ。治療しても傷跡が残ってしまった。あの日、彼女も一緒に行こうとしたが、止められたのだ

その後、彼女は長い間の病床生活で、筋肉がすっかり落ちて柔らかくなってしまった両足に触れてみた

[player name]の首、顔、それと頭にうっすらと残る傷跡をなぞっていく

医学が進歩している今、[player name]が望むなら、その傷跡を消すことだってできたのに

…………

白い少女はゆっくりと体を屈めて、皆に温もりを与えてくれた懐かしい手を握った

リーフ

でも私、覚えていますから。指揮官

たとえ傷跡が残っていなくても、私は全て覚えています

あなたの体にある全ての傷跡を、あなたの痛みを、あなたの心を……その葛藤と弱さも

あなたの後ろ姿を、手の温もりを、理想を……そう、私たちの理想を

苦しみに耐えていらっしゃったのは、未来へ向かうためだって、わかっています

今、私も同じ目標を持って、指揮官と同じくこの世紀末で病に苦しむ人々のために……この道を選びました

私は自分を変えるチャンスを手にしてようやく、無力感から脱することができたんです

……もう、皆さんのお役に立てるようになりましたよ……どうか喜んでくださいね、指揮官

……でも……

少女の心に、微かだが拭えぬ痛みが残っている

リーフ

指揮官……あなたと皆さんが側にいてくださった日々を、どう感謝すればいいのか、リーフにはわかりません

私は決して優秀ではありませんでした。ただ運がよかっただけです。指揮官とグレイレイヴンの仲間に守られて、ここまで来ることができました

そう、屋根裏に注ぐ陽射しのように、廃墟を吹き抜ける夜風のように、沈黙を守る影のように

リーフ

この体以外、私には何もありません

……他に何か、私が残せるもの……

私には、あなたと皆さんの記憶しかありません

陽射しが草花を包み込み、光とともに花の香りが立ち上る――

夜風が人々の間を通り抜け、優しい歌を運ぶ――

影は恋い焦がれる歳月を重ね、光の輪郭を覚える

――これは私の全て、私が残すことのできる全てです

リーフは、自分で折った帆のない船を、ベッドの横に置いた

それは彼女の日記や、3カ月間書き続けた手紙で折った小さな船が、幾艘にも連なっているものだった

その船のひとつひとつには、無数の塵、血、死せる者の悲鳴が刻まれている

リーフ

……こんなお別れのプレゼントだなんて、指揮官はガッカリなさるでしょうか……

少女は、教授からもらった7本の医療用針を取り出し、針でその小さな紙の船を繋ぐようにして、月下美人の花を形作った

純白の月下美人、それはほんの一夜だけ華々しく咲き、散りゆく命だ

帆を持たない小さな紙の船は、もう船出することがない彼女の思いだった

その紙の月下美人を[player name]の枕元にそっと置いて、リーフは再びその弱々しい両手を握り、優しく口づけをした

リーフ

命の儚さを悲しまないでください

その命が誰かの胸に宿れば、たとえ3時間しか咲かない月下美人でも、永遠の命を得ることができるんです

許してください……指揮官、[player name]……

抑えきれない悲しみが溢れ、少女は絞り出すように、その名前を口にした

リーフ

私はとっくに、犠牲になる準備ができていたのに……医療関係者として、虚ろな幻想を信じるべきではないとわかっているのに

ただ、ただ今は……

我慢できなかったことを、許してください……私は、愚かにも来世を乞うています……

胸の痛みを抑えきれず、雨の日のガラス窓のように、いくつもの大粒の涙がリーフの頬を流れ落ちる――

リーフ

指揮官、[player name]……

動かないその手に涙が落ち、包帯が濡れていく――

リーフ

ずっと、地球を取り戻す日を望んでいました。廃墟に花が咲き、人々は居場所を見つけ、再建された家で家族揃って笑いあう……

私はこの世界を、皆さんの笑顔を愛しています……

人類、構造体、機械、植物、動物、昆虫、細菌も……その存在は、とても美しい

命の灯火が集まれば、暗い夜もきっと明るくなります

なのに……私たちの家と明日は、パニシングに侵蝕されて……

この状況を打破するためには、誰かが一歩を踏み出さなければなりません

その一歩の対価が私の命だとしても、二度と皆さんと会えなくなるとしても……私は前へと進みます

パニシングが完全に駆逐されない限り、指揮官も含め、多くの人々が生き延びるための方法はもう、どこにもありません

ですから……これが私の決断です。悔いがないとは言えませんけれど、私はもう……行かなくてはいけません

きっと大丈夫です……あなたと皆さんが無事に、この世界で生きてくだされば

リーフとして、グレイレイヴン小隊の一員として、それが私が最後まで戦った証です

深い眠りにつく人に思いのたけをぶつけたことで、胸に隠されていた涙が溢れ、どこまでもはらはらと流れ続けた

悲しみの最後の一滴が時間の海に落ちた時、別れを意味するノックの音が響いてきた

リーフ

……もう時間です。最後の調整をして、私は旅立ちます

少女は枕元にある紙の月下美人を綺麗に置き直して、すっと立ち上がった

拭いきれない名残惜しさを残して、彼女は眠るその人に向かって深く一礼した

皆さんに教えられ、守られて、それは私にとって最高に光栄なことでした

でも……申し訳ありません……私はグレイレイヴンを離れなければなりません

……指揮官、ありがとうございました……リーフは、先に行きますね