次の瞬間、常羽とソフィアを襲った侵蝕体は、クロムに無残に踏みつけられた
彼が足下を確認する間もなく、次の敵が目の前に現れた
彼らは砂浜を打つ波のように、かえすがえす無尽蔵に湧いてくる。その波を食い止めるために、クロムがここで防波堤になるしかなかった
だが、彼が構造体であり、特化機体を持ち、勇猛果敢なストライクホーク小隊の隊長だとしても、こう続いてしまっては命の火が燃え尽きるのは時間の問題だった
カムイ……バンジ……カム……
父さん……
それと……[player name]
あなたたちは、今どこに?無事なのか?
この間、彼は何度も何度も仲間と連絡を取りたい気持ちを抑えつけた
誰もが苦境の最中にいる。彼らが背負っている責任を放棄させ、自分の苦しみに引きずり込む訳にはいかない
それに、これは出口のない迷路なのだ。よしんば空中庭園から輸送機が送られてきたとしても、侵蝕体と異合生物に撃ち落とされてしまうのが関の山だろう
――全ては、自分が判断を誤ったからなのだろうか?
[player name]が意識不明の状態になったと知ったあと、アシモフから連絡があった
弧光機体に切り替えるか?
栄光機体は調整済で、すでに弧光機体と同じく安定しているようだが
もし今、意識海偏移が起きたら、他の指揮官ではお前を助けられない
危険を承知で、クロムはアシモフの提案を断ったのだった
理由は簡単だ――今のこの難局を乗り越えるためには、特化機体の力が必要だから
これは間違った判断ではない。弧光に切り変えていたら、彼はここまで来ることはできなかっただろう
――列車に乗ったからだろうか?
もし、自分がグループを連れて保全エリアに戻っていたら、こんな窮地に立たされずに済んだのだろうか?
そうかもしれない……だが、私はそんなことはしない
たとえこの道が危険に満ち、自分の限界を超えると知っていたとしても、彼は考えられる限りの対応策を練って、保全エリアに戻りはしなかっただろう
あの長い戦いはあまりにも壮絶だった。もし誰かひとりでも欠けていたら、生存者の数は更に減っていたはずだ
クロムにとって、誰かの命を軽視して我が身を優先させるなどということは、絶対に不可能な行いだった
ならば、答えはひとつ……
私が判断した選択は全て正しかった
全ては正しかった。その上で、彼はついにその血の道の終着点にまで導かれたのだ
まだ、倒れる訳には……後ろの仲間を守らねば……
機体が発する痛みを無視して、クロムは再び武器を握りしめた
これで何度目だろう?
自分の体はまるで荒れ狂う海の中で揺れる船のように、翻弄されながらも信念を動力に前進し続けている。激しく燃える心で、終わりなき嵐と戦っている
しかし、陸地は見えず、嵐がやむこともない。このままでは、彼はどうなってしまうのだろう?
異合生物と侵蝕体の群れは、秋の畑に高く積み上げられる稲穂のように、あふれんばかりの大軍を成していた
ガンブレードはすでに刈り取った「穀物」の赤い雫に染まっていた。その滴りは機体を侵蝕し、すでに侵蝕された箇所の進行を更に早めていく
赤い高波が襲いかかり、風の音が耳をつんざく
戦って、また戦う。勝利して、また勝利する。勝利の意義は、何度でも失われる
終わらない嵐の中、クロムの視野が次第に赤くなり、ぼやけ始めていった
――この戦いは、長すぎる
いつの間にか、風の音がやんだ
出しぬけに、クロムの視界が真っ白になった
……終わったのか?
いや、まだだ
だが、彼はすでに限界を超え、もう腕を振り上げる力すら残っていない
少し休んでから、立ち上がろう
まだ、倒れることはできない。きっと転機は訪れる
そう念じながら、白い光の中で、耐え切れずにクロムは目を閉じた
……すみません、少しだけ……私を、待っていてください……