――他に私にできることは何でしょう?
(ああ……負傷者の治療を続けること)
――それ以外で、何かできることがあれば
(毎日新しい負傷者が来て、物資も不足したまま……災いの源がなくなれば、問題は解決される?)
046号都市の保全エリアへ戻る途中、リーフは以前テストした試作Ω型武器について考えていた
テストの時はかなり緊迫した状況だったので、気に留めていなかったが、その武器が持つ力は、未来へ繋がる鍵となる可能性を十分に秘めている
もし、万全の状況で再度テストをすれば、更に素晴らしい結果が得られるかもしれない
……だが、その武器のテストには危険が伴う。それに誰かに危害を及ぼす可能性だってある
彼女はコゼットを抱きかかえたまま長い間沈黙し、ようやく口を開いた
ルシア、前にテストした試作Ω型武器を覚えていますか?
ええ、私も今、そのことを考えていました。確かに、あれはパニシングを吸収できたようです。初めての現象でしたね
それなんですが……
リーフは自分の考えをルシアに話した
テストプロジェクトに再申請すると?
ルシアは考え込んだ
確かにいい考えですね。前回はかなり大変な中でしたから、もし万全の準備の上でテストができれば、よりいい結果が得られるでしょう
もしパニシングを本当に消してしまえたなら、多くの問題が一気に解決されます
リーが初めてテストデータを見た時の表情、まだ覚えています。きっと、もう一度テストしたいと思っているでしょうね
いずれにしても私たちの喫緊の課題は、この窮地から根本的に脱する方法を見つけることです。ただ対症療法的に対策を練るだけでは、もうどうにもならない
ええ、私もそう思います!
では私、申請してもいいですか?
……リーフ、行くつもりなんですね?
仲間の珍しい一面を目にしても、ルシアは意外そうにもせず、ただただ微笑んだ
……じっとしていられないですよね
はい……待っているだけで、ただ死者を悼むだけでは、きっと何も変わりません
ずっと前から思っていました……リーフ、あなたは本当に強い。心を閉ざす人たちと違って、あなたは自分や他人の感情をないがしろにせず、それを全部受け止めています
そして、そのせいでパンクしてしまっても、すぐに立ち直っている。それはすごいことです
ルシア……
思うがままにやってくださいね。私とリーが全力で支えますから。申請が通ったら、3人で次のテストに参加しましょう
この新型武器は、きっと地球を取り戻す鍵になります。問題解決の方法が見つかれば、きっと皆をこの苦境から救うことができます
はい!
046号都市の保全エリアに到着し、リーフはいつも通り治療が必要な患者のケアに専念した
コゼットが助かった経緯を知った武装難民のリーダーは、マッチの存在に対して余計な口を出さなくなった
仕事が終わったあと、リーフはコゼットを抱いて、指揮官[player name]の部屋へ向かった
彼女は赤ん坊のおむつを替え、栄養剤を与えた。コゼットが眠ったのを確認してから、リーフは彼女を指揮官の隣にある簡易の揺りかごに入れた
それから彼女は立ち上がり、慣れた手つきで指揮官の状態を確認し、同時に通信機のボタンを押した
繋がるまでには時間がかかると思ったが、すぐに聞き慣れた声がした
リーフ、こんにちは
セリカさん、実は相談したいことがあるんです。前にテストした武器についてなんですが、次のテスト予定はありますか?
……ええと、何がしたいんでしょうか?
テスト参加について申請したいんです
…………
そちらで、何かあったんですか?表情に……何か強い意志を感じます
いいえ、特に何も。今の、この苦境を変えたいだけです
…………
リーフ……もしも、もしもですよ
この苦境を変えられる任務があって、でもそれには執行者がかなりの対価を払わなければいけないとしたら……それでも、それでも受けたいと思いますか?
かなりの対価、ですか。もしそれが、ルシア、リーさん、指揮官のお命に関わることなら、それは到底受け入れられませんけれど――
いいえ、その対価とは……あなた自身の、身の安全に関係しています
私の安全……?
そうです
セリカは「もしも」と強調したが、彼女の顔にたとえ話をしているようなあやふやな気配はなかった
…………
今まで、リーフは自分の無力さを憎んでいた
どれほど悲しんでも、悔やんでも、彼女は何も変えられなかった。だから、彼女は前へ前へ進むと決めたのだ
だが決心したと同時に、彼女はよく理解していた。この星にパニシングが存在する限り、問題の根源は解決されないことを
――だがもし、パニシングを消せるとしたら?
Ω型武器の出現により、彼女はその可能性を目のあたりにした。これは人々が長年待ち続けた希望であり、このチャンスをしっかりと手に掴むべきなのだ
――もし、その対価が彼女自身の命だったら?
…………
リーフは、しばらく考え込んだ。やがて、彼女はこの「待ち続けた希望」に対して、そっと微笑んだ
もし……現状を変えられるのなら、私はそれを喜んで受け入れます
本当に?本心から、そう思えますか?
……もちろん
過去に、そして今でも、私の無力さのせいで救うことのできなかった死を、嫌というほど見てきました
地上に滞在している執行部隊も、人間も、誰もがこの災難に足枷をかけれられています
このままだと誰ひとり助かりません。精鋭小隊も、それは同じです
この災いに飲み込まれるのを待つしかないなら、この状況を変えることにチャレンジしたいんです。たとえ、それがただの試みだったとしても、私は試してみたいんです
セリカさん……もうこれ以上、誰かが犠牲になる瞬間を、私は見たくありません
…………
そう……実は……この件について、議長はあなたに話すかどうかを迷っていたんです
……今、ひとり……?
ええ。ここは指揮官と私、あとは、生後1カ月足らずの赤ちゃんがいるだけです
赤ちゃん?ええと……難民の子ですか?母親は……まさか、もう亡くなった……?
はい……
…………
[player name]はまだ意識不明のまま?
……はい
通信がいきなり途切れて、しばらくすると、またモニターにセリカの顔が映った
これから、この通信を議会に繋げます。静かにして、邪魔しないように注意してくださいね
……はい
セリカの真剣な表情に気づき、リーフは振り返ってコゼットが眠っていることを改めて確認して、セリカに頷いた
青いモニターの中で、セリカの姿がぼやけ始めた
執行部隊 グレイレイヴン小隊 BPN-08 リーフ
空中庭園議会を代表して、あなたを招待いたします
冷たい女性の機械音が暗い部屋の中に響いた。それは個人の意志の発露ではないと同時に、全ての個人を代表している声だった
パニシングとの戦いにおいて、人類はいまだ真の意味での勝利を経験したことがありません
ゲシュタルトの演算によると、有効な措置を行わない限り、この災難を生き残れる人間はひとりもいません
プリア森林公園跡での災難を受け、科学理事会はΩファイルに記された技術の一部を復元しました
グレイレイヴン小隊が未知の人型生物と接触したことにより、私たちは試作Ω型武器のテストデータ回収に成功し、更なる分析を行いました
武器のパニシング吸収効果はすでに実証されています。この効果を応用すれば、すでに侵蝕された機械や構造体の回復も可能になるでしょう
侵蝕体さえも……
技術面の問題から、今はまだこの研究過程に設定された全目標をクリアできてはいません
…………
BPN-08、より早くΩ型武器を実戦に投入するために、技術開発に協力を要請します
私はどうすればいいでしょうか?
Ω型武器の基礎体になって欲しいのです
基礎体?
最新の特化機体がパニシングを「吸収」する性質を利用して、パニシングにあなたの意識海を経由させて、Ω型武器で「吸収」します
私の意識海を……経由?
それが、Ω型武器の効果を最大に発揮できる方法と結論づけられました
これは極めて危険な任務です。パニシングの吸収速度は制御不可能であり、もしΩ型武器の吸収可能な速度を超えてしまったら、すなわちあなたは完全に侵蝕されてしまいます
侵蝕のリスク以外にも、意識海の偏移、汚染等の症状により、あなたの機体が再起動できなくなる可能性があり、その際は意識伝送も不可能でしょう
しかし、地球を取り戻し、再び故郷に戻るためには、私たちは現状を変えなければなりません
BPN-08、人類はあなたを必要としています
……
本当にパニシングを消滅させ、侵蝕された個体を助けるなんてことが、可能なんでしょうか?
これは人類が初めて踏み入れた分野であり、現段階では、予測できない不確実な要素が多々あります
BPN-08、我々には開拓者が必要なのです
……そうですね、誰かがその第一歩を踏み出さなくては……
BPN-08、その答えは、我々の依頼を受け入れたと、そう認識してよろしいですか?
はい……
改めて確認します。この任務は一度引き受けたら、途中での放棄はできません
承知しました
確認します。あなたはすでに任務の危険性をよく理解しているようですが――
――実験終了までの、あなたの予想生存率は7.23%です
……はい、承知しました
BPN-08、空中庭園議会と全人類を代表して、あなたの献身に心より感謝します
……私はまず、どうすればいいのでしょうか
議会ホールはしばらく沈黙に陥った。すると、威風堂々とした風情の男がずいとデスク前に立った
リーフ
指揮官[player name]を空中庭園に連れ戻してくれ
この通話が終わったら、私は地上に滞在する全ての構造体に、この経緯を説明する
同意を得た上で、彼らに君たちの帰還を護送させる
047号都市の中には、まだ破壊されていない地下拠点が残っている。そこには輸送機と宇宙船、それと最後の物資が残っている。我々の最後の希望だ
それを使う権限を、君に与える
それから先のことは、君らが無事に帰ってきてから話そう
議長、お待ちください。ひとつだけ……お願いがあります
……どうか……赤ん坊をひとり、同行させてください
リーフが空中庭園と連絡していたその頃……
043号都市から来た構造体が、試作Ω型武器の輸送任務で生還した構造体と雑談していた
ルシアとリーが休憩室に入ってきたのを見て、構造体は椅子から飛び上がった
ワオ、もう終わったのか?
この生き延びた4人の構造体の中に、ルシアは意外にも、異重合母体を初めて殲滅した時にいた兵士の顔を見つけた
輸送機を降りた時、ルシア隊長や他のグレイレイヴンの隊員に挨拶できなかったんだ
こんにちは、パーシーです。前に、075号都市でルシア隊長やクロム隊長にはお世話になりました
……ルシアから聞いています
位置特定装置を指揮官に渡したという、パーシー隊長があなたですね
ああ、ご存知でしたか
怪我の具合はどうですか?
私と皆は軽傷です。彼らは今カプセルで休憩しています。確認しに行きますか?
いいえ、邪魔をしたら悪いので。でも、どうしてあなたたちがここにいるのですか?
自ら志願しまして。今回、多くの者が犠牲になって、能力のある人は皆、すでに重要な職務を任されています。だから任務を命じられるよりも前に、志願することにしたんです
それに隊長がいうには、前回の状況から我々は生き延びたんだから、ついてるって。天から与えられた運はちゃんと使わないと
……レイナ
別に間違いじゃないでしょ。ちゃんと生き延びられたんだし
ひとつ秘密を教えますよ。隊長は昔、激戦の中で、何度もひとりだけ生き延びたもんだから、裏では泣いて……
おい!
……実力のある兵士は、偶にそういう苦しみに直面しますね
冗談ですって、今は俺がいるでしょ!
レイナは笑いながらパーシーの背中をバンと叩いた
無数の苦難を乗り越えたあとのこういった楽しい笑い声は、まるで薬のように、人々をリラックスさせる効果を持っていた
つかの間の休憩の最中、構造体全員の端末から通知音が鳴った……
リーフが部屋から出た時、構造体全員が自分の端末を見ていることに気づいた
端末から議長の聞き慣れた声が流れてきた。どうやら、彼のその流暢な演説は終盤を迎えているようだ
まさか、Ω型武器が……機体と融合できるとは
しかし、こういう特化機体は意識海にかなりの負担がかかります。クロムの栄光機体のように
議会からの通信に嘘はなかった。ただ、彼らは、リーフにのみ最悪の結末を伝えただけだ
リーフ、先ほどの通信を聞きましたか?新しい特化機体はあなたに任せるつもりだと、ハセン議長が言っていましたが
はい……実は、私が自らテストに申請したので、タイミングよくこの計画が進んだということのようです
ハセン議長は指揮官のことをすごく心配されていました……指揮官を空中庭園に連れ戻して、より高度な治療を施すべきだと
私が帰還する時に、指揮官をお連れして、一緒に帰ります
……なるほど、確かに、指揮官は一度、空中庭園に戻すべきですね
ただ……
リーフ、あなたは……本当に大丈夫なのですか?
特化機体はもう珍しいものではありません。でも、指揮官がまだ意識不明の今、私は……リーフ、あなたが心配です
……ルシア……
ルシアの表情を見て、リーフもつられるように、少し心配になってきた
でも、ようやく手に入れた、局面を変えるチャンスなんです
仲間を前に、彼女は表面的には戸惑いを微塵も見せなかった。もしルシアとリーに内心の不安を少しでも知られたら、彼らはきっと自分を止めるに違いない
心配です。私も一緒に行きます
ルシアは振り返ってリーを見た。リーは何も言わず、ただ頷いただけだった
じゃあ、4人で一緒に行きましょう
よ~し、隊長!俺たちも帰ろうぜ
これは我々が志願した護送任務だぞ、帰還じゃない。途中で死ぬ危険性だって高いんだ
もちろん知ってるさ!でも、俺たちなら生き残れるでしょ、たぶん!
私も護送に参加します。戦死する確率は高いけど、空中庭園に戻れる唯一の方法ですから
それに、私たちはリーフさんに助けられて、今まで生き延びることができたんです
我々もです。この部屋にいる者は、皆リーフさんに助けられました
あと、他に行きたい者は?
そこにいた室内の全員が手を上げた
……あ……ありがとう……ございます……
感謝する必要なんかありませんよ。私は……
サンダカの言葉は端末の通知音に中断された
サンダカ!
今、グレイレイヴン小隊と一緒か?
ええ、そうよ
そのふたりはサンダカのチームメイトのようだ。彼らは別のエリアを任されていて、通信で連絡してきたようだった
そっちはどう?こっちは7人が行きたいって言ってるけど、そっちは何人が参加する?
こちらは全員よ
大所帯だね……
どうして皆、この任務に参加するの?
任務に就くことが目的じゃないよ
知ってるか?047号都市のあの地下拠点は、黒野が残したものだって。中には輸送機以外に、多くの物資が残されているらしい
どうして突然、その使用権を議会に渡したのかは不明だけど
議会はその拠点にある物資を難民に配ると言っている。それを狙って多くの人が047号都市へ向かおうとしているんだ
それに、今回は滅多にないチャンスだから。これを逃したらもう空中庭園に戻ることはできないかもしれないし
同感。君も参加するなら、047号都市の地下拠点で合流しようぜ
わかったわ
彼女はそう言って通信を切った
待ってください。お気持ちはありがたいのですが、私はここの難民たちに、彼らを守ると約束しています
全員で行ってしまったら、ここに残された人々と負傷者はどうなるのですか?
そんなことを言われても……もし異合生物が来ても、私には探知能力もないし、異合生物に勝てる力なんかないですよ
リーフさんがくれた看護マニュアルを持っているから、負傷者のケアならギリギリできますが、本当に危険な状況になってしまったら、何の役にも立ちません
確かになあ、一体どうすればいいだろう?
…………
それでは……やはり私たちがここに残りましょうか?
ルシアは再度確信した――皆を守りたければ、ルシアとリーがここに残るしかないということを
しかし、何か大切なことを見落としてはいないか。ルシアは自分が感じた小さな違和感に、少しだけ眉をひそめた
前にそう感じたのは、ヴェンジの指示を受けて、あの昇格者を捕まえに行こうとした時――これは、ただの偶然だろうか?
ルシア、どうしました?
……私は……心配で
……ルシア……
(心配しすぎると信頼していないと思われてしまう……)
リーフが懇願するように自分の名を呼ぶのを聞いて、ルシアは自分の違和感について、妥協することにした
すみません。私の考えすぎですね。これからの計画を考えましょう
議長が、目的地には大量の物資があると言っていました。ここにいる人々も、そのチャンスを逃したくないはずです
ここは議長がいう地下拠点からはかなり近いですし、数往復することも可能でしょう。何回かに分けて難民を047号都市へ連れていくというのはどうでしょうか
……はい、確かにその方法がよさそうです
どうやら、地下拠点に人が集まりそうだね
ええ、この物資不足の状況を考えると、皆がそこに集まってくるでしょう
地下拠点の件については、私から難民のリーダーに話します
ああ、道中に危険がないとはいえ、護衛はつけた方がいい。私がここに残って護衛します。車2台では、一度に全員を運べないから、数往復する必要がある
なら、私も残ります。ルイ
OK~
では、出発準備を
短い旅を経て、グレイレイヴンは正午に047号都市の地下拠点入り口にたどり着いた
指揮官を宇宙船の休眠カプセルに寝かせてから、一同はしばらくここで待機した。すると、多くの人々が四方八方からここに集まってきた
リーフは拠点の倉庫を開けて、渇望している人々に中の物資を配っていった
連日の飢えがやっと満たされ、雑談し始めた難民たちの雰囲気は明らかに和らいできていた
夕方になると、044号都市へ移った難民たちも車でやって来た。彼らは簡単に挨拶を交わしただけで、そそくさと物資を持って帰っていった
月が昇った頃、今度は人込みの中から馴染みの姿が現れた
おっ、また会ったね~
彼はグレイレイヴン小隊と軽く挨拶を交わした。どうやら045号保全エリアにはすでにオブリビオンの医者が到着し、全ては順調に進んでいるようだ
045号保全エリアの備蓄を節約するために、シュレックは047号都市の地下拠点にある物資を取りに来たのだった
忙しく奔走する彼にボーダーコリーのマッチが擦り寄っていき、帰路にはひとりと1匹が一緒にバイクでオブリビオンの拠点へと向かった
朝日が再び大地を照らし、出航の時がやってきた
異なる小隊から集まった構造体たちは、臨時総隊長の命令を受け、それぞれのグループに分けられた。今は宇宙船の前で最後の確認と点呼をしている
議長の全体通信で知っていると思うが、空中庭園へ戻る道中は非常に危険だ。これは命令による強制ではなく、有志の志願による任務である
どんな目的を持って参加したかはさておき、参加した限りは命を賭けて戦ってもらうぞ
もうひとつ、理解しておいて欲しいことがある。パニシングを完全に地球から追い出さない限り、我々に明日はない
これは困難だが、尊い戦いだ。我々は今、未来を変える転換点に立っている
だから、この戦いには勝利以外、ありえない
出発まで、あと30分ある。ここに残る仲間に別れを告げ、準備をしろ
そして、我々の明日を、地球の未来を取り戻しに行こう!
はい!
…………
リーフ……
リーフのそういう表情、久しぶりに見ました
え?ルシアから見ると、私はずっと無愛想な顔をしていましたか……?
いいえ……いつも、無理に笑おうとしていました。表情は前と変わらず穏やかですけど、ずっと肩に力が入ったような感じでした
…………
多分、少しでも希望の光が見つかって、ほっとしているのかもしれません
マッチ、サンディ、ファンティーヌさん、コゼット……あんな人たち、動物……あるいは、構造体もそうですけれど……
彼ら皆に、生き延びて欲しいんです
「弱いからって無意味な訳じゃない」からですか
あ、それは……昔、指揮官が仰った言葉ですね?
そうです
確か続きは……「理解できないなら、体のパーツをばらそうか」でしたっけ?
昔を思い出し、ふたりは思わず笑った
あれは確か、グレイレイヴン小隊に入って間もない時のことでしたね
任務中、自分の能力にかなり自信のある構造体がいて、チームメイトの補助型構造体が自分のように即座に敵を倒せなかったからと、ひどい暴言を吐いて
ほとんどの人にとって、それが日常だったのでしょうね。一緒に任務に就いていた他の指揮官は誰も止めませんでしたから
ええ、あの時、指揮官が仰った「1個のナットが敵に歯が立たなかったとしても、それをすぐ捨てるべきじゃない」という言葉、私も同感です
……人でも、動物でも、昆虫でも、たとえ細菌だって、「弱そうだから」という理由で存在を否定するなんて、よくないことです
彼らはそれぞれの分野で、彼らだけが持つ唯一の存在意義がありますから
多くの異なる命が地球で交差しているからこそ、皆に明日がやってくるんです
ですから、私はこのテストに関われることが嬉しいんですよ。この厳しい状況を変えられることを、何よりも切に願っています
…………
ルシア……私がここを去ったあと、ここの人たちをお願いします。でも、あなたもリーさんも、ちゃんと自分のことを守ってくださいね
彼女の笑みは次第に消え、一字一句、噛みしめるようにゆっくりと言葉を発した
わかっています。必ず、約束します
リーフはルシアに向かって頷いた。振り返って階段の方を見ると、同行者たちがすでに待っていた
時間です。リーフさん
出発、出発だ!
準備はできました?
お待たせしました。では……行きましょう
行ってらっしゃい、どうか、気をつけて
一同が見守る中、リーフはコゼットと指揮官[player name]と同じ宇宙船へ乗りこんだ
ここから、長い道のりになる。だが、リーフや今を生きている人間にとっては、これは希望と別れの始まりにすぎない
いくら名残惜しくとも、彼女はもう、立ち止まることはできないのだ