Story Reader / 本編シナリオ / 17 滅亡照らす残光 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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17-9 2つ、「自由」

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6:13 a.m.

一行が撤退してからしばらく、地上から爆発の振動と音が響いていた

その耳が痛くなるほどの轟音のあとに、いきなり世界が静まりかえった。そうかと思えば、30秒ほどののち、近くから大量の異合生物の足音が聞こえてきた

彼らはシェルターに隠れる人々に気づいていないようで、保全エリアを通りすぎ、爆発音がした方向へと走っていった

その足音は30分ほども続いた。すると、更に遠い場所から、より大きな爆音が連続して聞こえた

シェルターに残された老人と少年は、外界で起きたことを知る由もない。だが、異合生物が通ったあとに、浄化塔の全てのランプが赤色に変化したのに気づいた

どのランプがどの損傷を意味しているのか、それを説明できる者はここにいない。ただ、作動が止まったのは確かだった

すると、安全な空気を送り込むはずの浄化塔から、高濃度のパニシングが噴き出してきた。これにより、シェルターに隠れる意味が失われてしまった

老婆はカーリーを支えながら地上ヘと出たが、その30分後にはシェルターに戻っていた

外は赤潮がそこらじゅうにある。まるで泥じゃ、道にべたりと張りついて、穴には貯まっておるのもあった

彼女は自分の足を見せた。踵は赤潮と接触したために、すでに侵蝕が始まっている

もっと外側へ向ってみたが、囲まれておるわ。もはや出られんの

彼女はため息をひとつつくと、ベッドに座り込んだ。その目はずっとカーリーを追っている

あんた、少しは寝んと

……痛い……

そりゃあそうさ。ワシも痛い。道を見ようとして、足に赤潮がベタリとついたわ。足が侵蝕されたから、もう長くはないじゃろ

寝ることじゃよ。ちいっと寝れば、痛みも引く

カーリーは震えながら頷き、ベッドの上に横たわった

11:00 a.m.

本隊が撤退してから5時間――

前回の速度から考えて、そろそろ帰ってくる頃だろうか?

そう考えて、サンディは少し笑った。彼はマッチの頭をなで、その柔らかい感触で、胃の強烈な飢餓感をごまかそうとしている

近くに座った老婆が服の裾を上げると、パニシングが彼女の両足を完全に侵蝕しているのが見えた

リーフが去る前に、残り少ない物資から、血清2本と缶詰1個を残してくれていた

3人はお互いに譲り合い、やがてサンディには缶詰、血清は外へと出ていった老夫婦に分配された

しかしサンディはその缶詰をすぐに開けなかった。彼はその大切な物資を、いざという時に残すつもりだった

…………

物資の分配が終わると、少年は老人ふたりから離れて、隣の部屋へ行って寝た

カーリーが寝てからも、老婆はずっと目を見開いて、何かを思い出しているようだった

4:00 p.m.

本隊が離れてから、すでに10時間が経過していた

防護服を着ていても、両足のまだ癒合していない傷が、どんどん悪化しているのをサンディはひしひしと感じていた

パニシングの計測メーターがどこにあるのかを、彼は知らない。彼は傷から滲み出る膿からそれを推測することしかできなかった

あと、どれくらいなんだろう……?

前回と同じペースなら、彼らはすでにここに戻ってきているくらいなのに。まだ何の消息もなかった

人が多すぎて、車の動きが遅いからだろうか?とサンディは自分を慰めていた

044号都市の人たち……

彼らが歩いて撤退する前に、サンディはリーフから044号都市の浄化塔が故障した話を聞いていた

しかし彼はリーフとグレイレイヴンの隊員なら、きっと浄化塔を修理できると信じている。彼女の言う「安全ルート」を通れば、赤潮を回避できると信じている

自分でも、その安全ルートを見つけられないものだろうか?

044号都市のパニシング濃度も、ここと同じくらいなのか?

彼はその質問について繰り返し考えた結果、最後に「ノー」という答えを導き出した

回る秒針とともに、両足から耐えがたい激痛が訴えかけてくる。彼にできるのは、シーツと枕をきつく握りしめることで、気を逸らすことだけだ

クーン……

心配したマッチが枕を握る彼の手を舐めてきた。いつもなら、これが何よりの癒しなのに、今は何の効果も感じられない

しかし彼は震えながらも、力を振り絞ってマッチを抱え込んだ

……お前が無事でよかった。人間も動物みたいに、パニシングに侵蝕なんかされず……くっついちゃうだけだったら、どんなにいいか……

大丈夫、僕はきっと大丈夫だよ。リーフお姉さんは、必ず戻ると言ってくれたし

……クーン

ひと粒の涙がサンディの頬をつたい、マッチの頭へと落ちた。それはマッチの頭からは落ちずに、すうっと跡形もなくその頭に吸い込まれた。その悲しみをそっと消すかのように

きっとよくなる……

苦笑いをしながら、彼は懐から、少年からもらったペンと紙を取り出した

もし、本当に願いがかなうなら……

……僕は……ここから出て……自由になりたい……

無駄だとわかっていても、サンディは幻想を抱いた。彼は「願いが叶う」紙の一角に、不器用に一対の翼を描いた

空へ飛んで……赤潮を乗り越えて……

彼はまるで水に溺れる者が藁に縋るように、何度も何度も紙で翼を描き続けた

マッチと一緒に……ここから出て……僕たちを受け入れてくれるところへ……

しかし、飢餓とパニシングの侵蝕によって、描き続けているその目に映る翼が、次第にぼやけていった

意識が遠のく中、紙に赤い真鍮がこぼれ落ちた。まるで翼の絵に絶望の花が咲いたみたいだ――そう思い、サンディはふと気づいたのだった

これは、血だ

9:00 p.m.

夜の帳が下り、血に染まった大地とシェルターは、死を思わせる暗闇と静寂に包まれていた

すでに15時間という長い時間が経過していた。シェルターの外からはまだ、希望を告げる足音は聞こえない

カーリーは長い睡眠から目を覚まし、隣の妻を起こそうとして、その体の冷たさに気づいた

……リ……

彼はかすれた声で妻の名を呼ぼうとしたが、冷え切った体からは何も響かない

…………

時間が早く流れすぎた。彼が彼女に別れを告げる前に、彼女はすでに黄昏を飛び越えて、安らかな夜へと潜り込んだのだ

微かな光の下で、老人は何度も何度も彼女の肌の皺、膿んだ傷口を触って、頭の中に彼女の姿を再現しようとした

ふたりは長い歳月を一緒に歩んできた。病と老衰のせいで、彼はすでに多くの事柄を忘れてしまった。だが、今頭の中にある思い出が、同じ名を繰り返し囁いていた

……リナ……リナ……

彼は涙越しに、名前の主を見つめた。彼女の冷たくなっている手に、自分の手を滑り込ませ、隣にそっと横たわった

待っとくれ……一緒に帰ろう……

飢餓、癌、侵蝕、老衰……そんなものしかないが、彼は自分が持つ三途の川の渡し賃をその身に抱えて、力の限りに妻の後ろ姿を追っていった

6:00 a.m.

災難に見舞われた大地に、安らかな風と朝日が訪れていた

だが、その希望の象徴の来訪は、侵蝕に苦しむ少年にとって、決して喜ばしいものではなかった。彼が苦痛から逃げられる唯一の方法は、夜の間の睡眠しかないからだ

本隊が撤退してから、もはや24時間が経っている。しかし、シェルターに残る人たちに、まだ希望の知らせは帰ってこない

……途中で何かに巻き込まれたんだろうか……?

それとも……もうここに戻りたくないだけかな……

この間、彼は何度も自分を寝かしつけようとした。しかしその浅い睡眠は何度も痛みと飢えに引っ張られて、目が覚めてしまう

彼はもがき苦しんだあげく、諦めてベッドから起き上がろうとした。しかし体が弱り切っているせいで、何度も何度も失敗してベッドに倒れ込んだ

…………

撤退した人たちが……トラブルに巻き込まれたら……大変だ……

でも僕なら……大丈夫……生きていても……そんなに意味がないから……

……自分の言っていることの意味、本当にちゃんとわかっていますか?

恍惚とした中で、彼はリーフの言葉を思い出した。しかしその記憶はまるで虚無の海中に沈んでいるかのように、はっきりと輪郭を思い出せない

唯一覚えているのは、この長くて絶望に溢れる夜が訪れる前、自分は過去に乗り越えてきた苦痛の経験から、病と死など恐れないと思っていたこと

……僕が言ったの……何だっけ?

言葉の断片から、皮膚が剥がれるような痛みから、少年は体をぐっと丸め込んだ。全身が爛れる激痛に、彼はこれなら死んだ方がましだとさえ思った

……生きるのが死より辛いなら、死を受け入れればいい……

もしこの苦痛から解放され、かつ、痛みを我慢せずに生きられるのだとしたら?

……いいや、それはありえない……

彼は自分の心の葛藤を、説得しようと試みた

ワン!

何もかもを諦めようとしたその時、サンディの耳に、シェルターの外から音が聞こえた。誰かが……来た!

……帰ってきた!

あまりに待つ時間が長かったため、その音はまるで劇薬のように沁みた。彼は体の痛みと筋肉の衰弱をこらえて必死に立ち上がり、その吉報を持って隣に寝る老夫婦へと近づいた

……カーリーさん……戻ってきたよ!

カーリーさん?

クゥン……

ふたりからの反応がなかったため、サンディは困惑して近づいた。手でカーリーの肩を叩こうとして、彼らの顔の青白さが目に飛び込んできた

…………

サンディは大人の真似をして、救命処置をしようと体に触れたが、彼らの体はすでに固く硬直していた

老夫婦の服を少しめくってみると、ふたりの皮膚は侵蝕が進んでおり、すでに赤潮化しかけている

……その様子は、自分の傷とまったく同じだった

マッチ……この人たちも……

…………

大丈夫、僕たちだけでも……絶対にここから出よう……

身に纏った服はすでに傷口と一緒に固まってきている。少し引っ張られただけで、耐えがたい痛みを感じさせた

しかし扉の後ろにある希望を手に入れるために、彼は杖で体を支えて、ゆっくりと体を動かして扉に近づいていった

重々しい摩擦音とともに、シェルターの扉が開かれた

朝の心地いいそよ風と、生臭い匂いがシェルターに注ぎ込んだ。扉の外にあると思った希望は、跡形もなく消えている

では、先ほどの音は一体どこから?風と廃墟のいたずらだろうか?それとも、単に彼が見た幻覚なのか?

どこにいるの!?

必死の叫びも、誰もいない保全エリアにただむなしく響き渡り、風の音とともに反響するだけだった

……きっと、まだ近くいるでしょう?

みんなが戻ったんじゃなくても、ここに迷い込んだスカベンジャーかもしれない……

希望を諦めない少年は、一歩を踏み出した。彼はシェルターで眠る人たちを後にして、高所へと登って探すことにした

10:00 a.m.

彼はシェルターから出て、なんとか保全エリア全体を調べてみた。しかしこの建物の最上階に登っても、誰ひとり発見できなかった

今はもう、本隊が撤退してから28時間が経過している

……誰も戻らない

みんな、死んじゃった

絶望した彼は最上階に倒れ、下にある建物の回廊と天井を見た。泣こうと思っても、涙はもう涸れ果てている

……僕を、ここから連れ出して……

広くないこの建物を探索するために、彼は傷の痛みに耐えながら、4時間ほど歩き続けた。今の体力から考えれば、もうシェルターに戻れる可能性はゼロに近いだろう

この1カ月の間、彼とマッチは一度も満腹になったことがない。この運動量が彼にとって何を意味するかはさておき、マッチも力尽き、隣で横になったきり微動だにしなかった

ほとんどのスカベンジャーにとって、長い流浪生活の中における28時間は、そうたいした時間ではない。サンディも、そう思っていた

しかし1カ月ほども飢餓や病と戦ってきたあとの、24時間の悶絶と4時間の探索は、彼の命の灯を最後まで燃やし尽くしてしまった

今、少年は死の淵に立っている。唯一の希望と呼ぶべき缶詰を手に握って、ひと言も発さない

今、マッチと一緒にこの缶詰を食べたら、何かがよくなる?

その答えはノーだろう

缶詰半分だけでは彼の体力を完全に回復させられないし、傷口も癒せない。この保全エリアの建物に閉じ込められたまま、シェルターに戻れる可能性もない

あともう少しで、彼はパニシングの侵蝕によって、全身を爛れさせてここで死ぬのだろう

彼にとって、食事にはすでに意味などない。それならば、それを必要とする生き物に譲る方がいいだろう

少年から迷いが消えた。彼は缶詰を開くと、マッチの前に丸ごと置いた

食べて……

マッチが嬉しそうに頬張る様子を見て、彼は自分が微笑んでいることに気づいた

どうして笑えるんだろう?自分の状況が何か変わった?いや、この笑顔は……マッチの様子が嬉しいからだ

それだけで、彼は心から満足していた

ごめんね……なんの物資も見つけられず、ずっとお腹が空いていただろうに……

彼は頭を上げ、自分が描いた翼を通して、届くはずもない上空を見た。ずっと混濁していた記憶が、少しずつクリアに蘇った

「どうしてもマッチを側に残したいの。この子が、僕が生き延びる意味と力の源なんだ」

「もし、本当に別れなきゃいけない日が来たら、僕はこの子じゃなくて、僕自身を犠牲にする」

…………

……そうだ、あの時、リーフお姉さんに言った言葉、思い出した……

彼は翼が描いてある紙を、その虚ろな幻想を、ぎゅっと抱きしめた

……マッチ……お前に缶詰を残せて、よかった

……だから……

彼はもう、すっかり満足していた

命の最後に、少年は微笑みながら、想像の翼を自分の背中に挿していた

僕はここから離れて、あの広い空へ向かうよ

ワン!

ごめん、お前は連れていけないんだ……僕を恨んだりする?

…………

何も言わないんだね、じゃあ、許してくれたってことにしておく

……ごめんよ

彼は体を起こして、建物の端へとゆっくり移動し始めた

……ねえ……あの人たちは戻ってくると思う?

……

戻ってきて欲しいけど、保全エリアの赤潮に襲われてしまうのは怖いな

彼が動く度に、全身の傷口から痛みが響く。それでも、彼は足を止めなかった

ワン!

もしあの人たちが本当に戻ってきて……生きている人が誰ひとりいなかったら、悲しんでくれるのかな?

……クゥン……

どうなるのか、僕にはわからないけど……

彼は頭を振って、その無意味な考えを頭から追いやろうとした。最後に、彼はその紙の裏に何やら言葉を残そうとした

字はこれであってるのかな……もう少し勉強する時間があればよかったのに

そんな小さな後悔とともに、彼はその誤字だらけの伝言が書かれた紙を、上着の一番綺麗なポケットにしまい込んだ

マッチ、僕は行くよ

……ワン?

生きてね。たとえ僕を食べてでも、生きておくれよ

それが、僕が残してあげられる、たったひとつのことだから

ワン……!ワン!

彼は空想の翼を広げ、自由を求める鳥のように、空を抱いて太陽の光を追うために、首をぐいと上げた

サンディ

ごめんね……さよなら……

ついに、少年は屋上から飛び降りた

――残念だが、存在しない翼では、飛べるはずもない

少年の体は急速に地面に吸い込まれ、山のように詰まれた空箱の上に落下した

もしこれが童話なら、彼の苦しみにはここで終止符が打たれるだろう。だが現実は、そう簡単に終わらない残酷さを持っていた

砕けたゴミの上に落ちたことが、死の訪れを遅らせてくれた。彼が予想していた痛みと永眠は、すぐには訪れそうもない

彼は体を動かそうと試みたが、体はいうことを聞かなかった。仕方なく、彼は次にきたる何らかの変化を待つことにした

最初に聞こえたのは、水が流れる音だ

雨水や蛇口から流れ出るジャーという音と違い、それは牛乳をこぼしたような重い音だった。僅かな違いだが、明らかに流れているのは水より濃いものだ。自分の血だろう

それから、四肢から痛みを感じ始め、彼の意識を蝕んだ。四肢が激しい痛みに満ちた時、すでに叫べなくなっていることにサンディは気づいた

死……それは犠牲者リストの数字や名前だけでは片づけられない。過去と将来に流されていき、ゆっくりと地獄に落ちていく体のことだった

四肢が折れた激痛は秒針の進みとともに無限に延長され、血液の滴りはより遅く感じられる

サンディ

……い……たい……

声帯が血だらけなのだろう、声には少しの発泡音が混じっていた

心臓が痛みで引きちぎられる――これほど痛いとわかっていたら、自分の命を早めに終わらそうなんて思っただろうか?

死、それは決して楽な選択ではなく、解放を意味している訳でもないのだ

サンディ

僕……後悔しているのかな……

この日が訪れるまでに、彼は多くの死を見てきた

「行きづまったら、死ねばいいよ」と難民たちはよく言っていた

保全エリアを通りかかった時、彼は保全エリアの眼鏡をかけたあるスタッフからこんな言葉を聞いた――希死念慮

消極的な考えは人々に「退路」を与え、それから前進する勇気が得られることもある

しかしそれは真の「退路」ではないのだ。その道に足を踏み入れてしまったら、未来永劫、そこから解放されることはない

激痛に苦しめられ、少年の心は声を出せない喉に代わって、頭の中に響かせながら悲しく号泣し始めた

泣き声と同時に、自分に対する問いかけも、よりはっきりしてきた

――僕は本当に死を自由だと思っていたのか?

サンディ

……違う……

ある老人にこんな言葉を聞かされた。自由とは、束縛の中にありながら、思うがまま自由に走れることだと

自由を追い求めて命まで捨ててしまったら、それはただ欲望にかられて、自我を諦めたにすぎない

彼の決定に、体中から痛みを通じて抗議の声が上がる。痛みに引きちぎられそうになりながら、それでも立ち上がって自身を救助せよと、体が求めている

――それでは、そもそも最初の選択が間違えていたのか?

サンディ

……違う……

彼はもがきながらも、喉からその変わらない答えを押し出した

この撤退が始まってから、彼は構造体たちは戻ってこないと思ったことが何度かある

それでも、サンディは撤退する機会を誰かに譲ったことについて、後悔していない

サンディ

僕が後悔するとしたら……

産まれてからこの日まで、彼が遭遇した全ての苦難、彼が裏切られた全ての期待が、同じ考えに収束されていく

もし選択する機会があるなら、彼は産まれないことを選ぶだろう

その恨みは彼の心の奥で発酵し、それゆえに彼は自分を偽り、常に他者にいい顔をし続けた

しかしどれだけ後悔しても、出生の事実はかわらない。死は決して自由をもたらさないのだと、悲劇的な代償が必要だと知ってもなお、生自体を嫌う彼は自らの未来を破壊した

「愛されなかった者は、一生かけて愛の代替品を探し求める」

捨てられ続けた彼は、何かを成し遂げて、自分に捨てられるべき者ではない価値があることを証明したかった

死がもたらす苦痛と孤独を知った今、彼は命の尊さを嫌というほどに理解し、自らの後悔が掻き消えていることに気づいたのだった

サンディ

……これでいい……

激しい痛みの中で、少年はやっと見いだした答えに、恭しく祈りを捧げた

全ての血が自分の肉体から離れていき、やがて彼は身体機能の停止という牢獄に閉じ込められた

サンディ

……

ほんの一瞬、サンディは感じた

――彼の魂は地面にするりと潜り込み、土の中へと飛翔したのだった