――ケルベロスの任務が中断されてから2時間が経過、場所は地球
犬科の動物はいつも群れで行動する。個体が群れから離れると、生存能力も戦闘能力も大幅に落ちる
今の黒野の彼らに対する態度は、まさに本物の3匹の犬に対するようなものだった
3人が一緒だとトラブルを恐れたのか、それとも3人が口裏を合わせるのを防ぐためか……黒野は現場を封鎖後、3人をそれぞれ隔離し、別々に尋問した
ヴィラはどんな質問をされても、腕組みをしたまま同じ答えを繰り返した
もう言ったと思うけど、すぐに人に噛みつくような、あんな頭のおかしいやつが一体誰かなんて、知らないわよ
自称「ブードゥー」だったかしら?フォン·ネガットとかいうのにプレゼントを贈りたいって、ぶつぶつうるさかったわ。で、まず昇格者のロラン、それから私たちを襲ってきた
それが全部。何度訊かれたって同じ……、え、まさかあいつの行動パターンを分析して説明しろってこと?パニシングで脳内回路がやられてんでしょ、わかるわけないわよ
任務記録によれば、任務開始直後、お前たちは一度遠隔リンクを切断したな
その後、お前たちの行動は予定から大きく変わったようだが
ふん
ヴィラは嘲笑ってみせた
予定?何よそれ?こっちの任務はルナの意識海と疑われる信号の偵察と、その行方の捜索だったはずだけど
最初から行動が予定されていたなら、「捜索」なんて必要がどこにあるの?
そう言ってヴィラは脅すように目を細めた
ケルベロスは総司令の指示で、一時的にそちらの命令を受けただけ。でもその期限は今回の任務終了までだったはず
今、任務をあんたたちに中断されて――任務が終わったなら、規定通りもう命令をきく必要もないし、ここでこんな馬鹿げた尋問を受ける義務もないのよ
いい?ここでおとなしく話を聞いているのは私たちが「優しい」からで、そちらを恐れてるわけじゃないの。あのマヌケな指揮官さんに使った方法は通用しないわよ?おわかり?
彼女の物騒な言葉に、黒野の兵士たちは一斉に銃を構えた
しかし赤髪の構造体は傲然と彼らの前に立ち、その姿はまるで刺々しいバラのようだった。今、彼女は不用意な動作を一切せず、腰の刀に触れてすらいない
それでも、彼女からほとばしる殺気はその場の人々を心底ゾッとさせた
赤髪の死神……
誰かが小さくつぶやいた
懐かしい呼び方にヴィラは反応し、声のした方に向かって、嘲笑うような表情を浮かべた
アハ、その呼び名を聞くのは久しぶりよ。本当に「懐かしい」わ……
ヴィラは片手を上げた。そんな単純な動きにすら兵士たちは皆、息を飲んでいる
今まさに彼女が刀を抜く!と誰もが思った瞬間、彼女はただの冗談だったというように、首を切る仕草をしてみせた
そんなに私に切られたい?
笑顔の表情とは裏腹に、その声は氷のように冷たい
ヴィラを尋問していた構造体たちは、互いに目を見合わせた
こんな対話では何の成果も得られない、ますます双方の間が緊迫するだけだろう
リーダーの黒野兵士が前へと進み出た
大体の状況はもうわかった。これから輸送機でお前たちを回収する。空中庭園に戻ったら、詳細に状況を報告するように
私の隊員に会いたいんだけど
監視報告によれば、今回の作戦中、お前の隊員――コードBPH-22の意識海での異常な動きを検出した。それは敵の特殊能力に関係していると思われる
我々は彼女に対し、単独隔離と機体の検査を行う。リスクヘッジのため、彼女の状態が安定していると判断するまでは、彼女の監視隔離を解除できない
今回の作戦で新型の敵に遭遇したお前たち3人に、リスクが潜む可能性を排除できないからな
小隊は各自個別に回収されて、我々が機体のデータが全て正常だと確認できれば、お前たちの行動制限は解除される
その言葉が終わるやいなや、鋭い刃が空間を切り裂き、彼の頬を突き刺した
彼女の太刀さばきのあまりに早さに誰も反応できず、抜刀の瞬間すら見えていなかった。彼女は補助型の構造体だが、攻撃型に匹敵するスピードだ
兵士の頬から循環液が流れ出し、それが肩に滴った段階でようやく周りの構造体たちが気づき、ヴィラに銃を向けて構えた
トリガーに指をかけ、いつでも発砲できる状態にしている
それを目にしても、ヴィラの刀に迷う素振りはない
何度も言うけど、グレイレイヴンにやった方法は私たちには通用しない。ふん、あんな説明、グレイレイヴンには通用しても、私は騙せないわ。裏で何を考えているのかお見通しよ
BPN-13、武器を下ろせ。もう一度言う、BPN-13、武器を下ろすんだ
ヴィラは冷然とした顔で彼を見つめた
その時、10m以上離れた封鎖エリアの反対側から、21号の獣のような威嚇の声が聞こえてきた
21号……隊長に会いたい
21号に……近づくな
断続的に21号の声が聞こえるなか、更に衝突したような音とノクティスの大声の罵倒が聞こえた
おいてめぇら!人の話がわかんねぇのかよっ?隊長にさっさと会わせろよ!
なんだぁ?俺を止めるってのか?
どうやら、黒野はヴィラ以外のふたりの隊員にも同じことを話したようだ
ヴィラのきつく寄せられた眉がふっと緩んだ
ふたりの隊員と比べ、こんな状況で一番「冷静」な自分——ふとそう思ったヴィラは声をあげて軽く笑った
しかし次の瞬間——
耳元で鳴り響いた声を聞いて、彼女は真剣な顔になった
それは彼女の聴覚モジュールが拾った周辺音声ではなく、直接的に視聴システムに送られてきた信号だ
暗号チャンネル申請認証クリア、任務ID961211、すでに構造体BPN-13のデータベースへ転送されました
O(自分の所在地)
X(目的地までの距離:4.63km)
ヴィラの視覚モジュールにいきなりふたつの座標が表示された。ひとつはかなり離れているが、もうひとつはここから5kmほどだ
この町の郊外にある荒れ地のようだった
軍部総司令の直属部隊の隊長として、ヴィラはニコラとの秘匿チャンネルを持っている。それを使えるのは、当然ニコラだけのはずだ
猟犬は人の狩猟を補助する道具だ。質問も思考する必要もない。任務が与えられたら、その目標に向かって駆け出して探し、指定の場所へ連れ帰る
これは自分にしか聞こえない命令で、自分にしか見えない座標……自分だけの「単独任務」ということだ
ヴィラは瞬時に全てを理解した
彼女は自分の刀を滑らかに鞘に収めると、親指と人差し指を合わせて口笛を鋭く長く鳴らした
隊長……
それは21号が獣のように背中を弓なりにし、喉から威嚇音を出しながら、周りの黒野兵士に飛びかかろうとしていたまさにその瞬間だった
だが、その口笛が聞こえたとたん、彼女は突如黙って子犬のように両手を下ろし、頭を伏せた
21号、おとなしくしてる
これはケルベロスの作戦暗号なのだ。戦場でこれほど明らかな「暗号」を使う者は稀だろうが
これは戦術的な命令を伝えている訳ではない。その理由は単純で、ケルベロスの隊員は戦術や戦略など一切考慮しないからだ……口笛は、ふたりの隊員にこう伝えていた——
「いい子ね。お座り」
戦場で地獄の番犬たちはいつも目を血走らせ、狂乱して戦うのをやめないため、事態が収拾できなくなることがしばしばあった
そのためヴィラは口笛で全ての行動をやめるよう、ふたりを仕込んでいた。それは暗号というより、狂犬を引っ張る「手綱」だった
一方、ノクティスにもその口笛が聞こえていた
すでに片手で黒野兵士の胸ぐらを掴んでいた彼は、舌打ちをして兵士を横に投げ飛ばした
どうしてやらせてくれねえんだよ!ヴィラは一体何を考えてんだ!
21号とノクティスを乗せた輸送機はすでに出発していた
2機の輸送機を見送ると、ヴィラは他の兵士をゆっくりと見回した
後ろにいる兵士が銃で彼女の背中をこづき、輸送機に入れと合図してきた
次の瞬間、ヴィラは身を翻してその銃を一刀両断にした
どれくらい時間を無駄にすれば気がすむのかしら。私に任せたからには、方法は私が決める
ふっと頬をなでたそよ風が、土の匂いを運んできた
鼻をひくつかせてみた。気のせいかも知れないが、あの獣のような白い少女とリンクして以来、自分の嗅覚が鋭くなったような気がする
これは水に浸かっている土特有の匂いだ
鉄の壁でできている空中庭園で、こんな匂いがする訳がない
不思議な現象にとまどっていると、防弾ガラスの外にいる全ての構造体が武器を構えた
自分は何もしていない。当然、彼らの銃口は自分にではなく……
——————まず聞こえたのは、衝突音だった
それから耳をつんざくようなメリメリという音が聞こえた。鉄でできた骨と肉がちぎられる悲鳴のようだ
そして自分を閉じ込めている「暗闇」も音とともに割れ、そこに太陽の光が差し込んだ
一面の光の中に、目を刺すような赤がなびいている
長時間、暗闇にいたせいで瞳孔が広がり、錐体細胞と桿体細胞がまだ切り替わっておらず、その大量の光の眩しさに思考が一瞬止まる
しかしその思考のブランクのなかで、あの赤い色が風のように自分に接近するのに気づいた
泳ぐ魚のように、轟く雷のように、彼女は刀を振っている。冷たい光が刀から流れ、振り下ろすたびに、空中に光の花が咲く
彼女は次々と素早い斬撃を繰り出した。その速さは人間の網膜では残像でしか捉えられないほどだ
その「雷」が届くところ全ての黒野の構造体兵士が雪崩のように倒れていく。それだけではない、その刀は空間をも切り裂き——
椅子に座りこむ自分にも向かってきた!
剣の波動が刀よりも先に自分に飛来する——
反射的に目を閉じたが、痛みはなかなかやって来ない。代わりに自分の近くにある鉄を断ち切る音がした
再びゆっくり目を開けると、ようやくその眩しさにも慣れてきた
まず見えたのは、両足の間で真っ二つになった鉄の鎖と、その真ん中に突っ立つ1本の刀だ
その最後と思しき一撃は極めて強く、刀の先端は地面にめり込んでいる。刀はまだ振動しており、周りの空気も震えているようだ
視線を刀に沿って見上げていくと……そこには慣れ親しんだ姿があった
思わず、彼女の名前を呼んでいた
ヴィラは逆光の中に立ち、嘲笑するように自分を見つめていた
あらまぁ、お久しぶりね、グレイレイヴン指揮官
彼女の口調はいつもと変わらず、たわいもない出会いの、普通の挨拶のようだ
——彼女に踏みつけられて気絶している黒野の構造体兵士を気にしなければ、だが
だがすぐ、彼女の口調はいつもの毒を帯びたものに戻った
あら、これが何か?グレイレイヴン指揮官ともあろうものが、これくらいのことでちびったの?
答えるより先に彼女は軽蔑するように笑い、気絶している構造体たちを入口から投げ出している
任務執行中の猟犬は、任務が完全に終わる前に油断したりはしないのだ
部屋中を「空っぽ」にしたヴィラは、一瞬動きを止めた
彼女は自分の方を向き、何か答えようとしている
しかし次の瞬間、遠く離れた場所から聞こえた轟音に顔色を変え、きゅっと唇を結んだ
まったく、あなたの鈍感さには本当に驚くわ
彼女は話しながら近づき、地面に刺さった刀を抜くと、その刀で部屋の反対側の壁を破壊した
すると突如、輸送機のコックピットが現れた
振り返ると「壁」だったところに月光に照らされた針葉樹が見えた。風に吹かれて、木々が揺れている
空中庭園が資源を無駄遣いしてまで、これほど広範囲に草木を植えるわけがない。それにこの自然な風の再現にコストをかけるとも思えない
全ての現象が、ひとつの事実を指し示していた——
——自分は今、地球に、いる
でもどうして?
自分は確かに空中庭園で遠隔リンクをしていたのに、なぜ今、地球の輸送機の中にいる?
次の瞬間、自分が忘れていた違和感を思い出した
それは過去のどのリンクよりも長くて混乱した遠隔リンクだった
顔をあわせたのは最初だけで、リンクしてからは通信機でのみ連絡をとっていたレベッカ……
それと、時々感じていた足下が震えるあの地面の振動……
自分がようやく合点がいった表情をしているのを見て、ヴィラは呆れた顔をした
やっと気づいたの?グレイレイヴン指揮官
そう、自分が初めて遠隔リンクをした時、黒野によってすでに空中庭園から地球へ移動させられていたのだ
彼らは輸送機の内部にあの黒い部屋を再現し、自分がずっと同じ場所にいると錯覚させた
途中で出会った黒野構造体はほとんど倒したけど、増援もすぐに来るはずよ
後ろのハッチを閉めて。この偽の密室は壊したけど、輸送機の外部構造は壊していないから
輸送機を起動させる。これからは……脱出劇のお時間よ
そう言うと彼女はコックピットに入り、自分との会話を打ち切った
鋭い刀のごとく現れた赤髪の構造体が自分の側を去ってから、やっと肩越しに漂う戦禍の臭いに気づいた
書斎の扉が突然開く
グリースはちらっと目をあげた
グリースの住処を知る者もその中に入れる者も限られており、いきなりの来客でも彼に身の心配は不要だ。簡単に彼の門をくぐれる人物は「味方」だけだからだ
やはり、そこに立っているのはレベッカだった
彼女の呼吸は乱れ、いつもと違ってメイクも少し乱れている。急ぐあまり、自分の身だしなみを気にする余裕がなかったようだ
いつものレベッカと違う。彼女ほどの女性ならば、余裕を持つことは何をおいても重要だ
事態に猶予がならない時以外は——
レベッカはハイヒールをカツカツと鳴らしながら、座り直したグリースの前に来た
総司令とどんな取引をしたんです?グレイレイヴン指揮官をケルベロスの隊長に奪われました。あなたの策は全部、利用されているんですよ!
グリースは一瞬固まり、それから大笑いし始めた
ハハハハハッ……ニコが、本当に手を出したとはな……
目の前で大笑いしている男を見たレベッカは、理解できないという顔をしている
どうやら、社交界のプリンセスさんは中立をやめたようだな。話を続けてくれ
自分が双方の勢力間でどちらつかずな状態なのを皮肉っていることに、レベッカはすぐ気づいた
彼女はひとつ深呼吸をして、話を続けた
唯一の朗報は私たちがケルベロスの隊員ふたりを拘束したことです。うち1名はグレイレイヴン指揮官と長時間のリンクをして、任務中にも異常な行動を見せました
彼女を無事回収して、意識海から今回の作戦に関するデータを抽出できれば、せめてもの成果だといえますが……どうしてそんなに余裕がおありなんです?
グリースはその問いに、逆に質問してきた
俺たちの今回の作戦の目的は何だ?
逆にレベッカが困る事態になっている
……今回の作戦の目的ですか?表面上はグレイレイヴン指揮官を利用し、ルナと疑われる意識海信号を調べ、その場所を探索することですが
レベッカも最初はそう思っていた
しかし、ことはそう簡単ではない。今回の作戦後、グリースはグレイレイヴン指揮官を議会に返すと約束したが、裏ではこっそり指揮官を移動させていた。手放したくないからだ
黒野のやり方はいつも強引だ。レベッカは任務終了後、グリースは突飛な理由をつけて議会を誤魔化すのだろうと思っていた
グレイレイヴン指揮官が遠隔リンク中に死亡したとか、あるいは他の理由……彼ならどんな言い訳だって思いつく。グレイレイヴン指揮官を監視隔離した時と同じように
当然、議会は彼を信用などしていない。しかし証拠もないので、何かが起こったとて手出しはできないはずだ
つまり、今回の作戦は実際にテストを兼ねたものと、グレイレイヴン指揮官を手に入れるためだけにあったと、レベッカは思っているのだ
我々の作戦の目的は、代行者「ルナ」を探すことです
しかしそう答えた瞬間、レベッカはわずかな違和感を覚えた
グリースにとって一番重要なのは代行者だ。彼の全ての行動の動機は、その代行者をめぐってのものだとレベッカにはわかっている
彼がグレイレイヴン指揮官を重視する理由は、代行者とリンクしていたことと、意識海の汚染に抵抗できる可能性を持っているからに他ならない
だが突然、レベッカは閃いた——
——優先度が間違っている
あの指揮官がいかに重要だとしても、グリースにとっての優先度は代行者以下のはず。しかし今、彼は派手に動き、あの指揮官を完全に掌握しようとしている……
もちろん理には適っている——黒野にとって手札は多ければ多いほどいい。しかしこの2件についていえば、彼はまず「代行者」を優先するはずなのだ
しかし、今のグリースは代行者「ルナ」の探索を放置している。あの町で彼女の意識海の活動信号が見つかったはずなのに、彼は執行部隊を1隊派遣したのみだ
つまり、代行者の探索自体はどうでもいいのだ。今回の任務は指揮官が代行者の匂いを「嗅ぎつけられる」かをテストしただけ……
いや、違う。あの代行者を探すのも最優先事項のはず。どうでもいい訳がない。もしや……まさか……!
線がつながるように、何かがつながった
レベッカはハッと顔を上げ、笑っているグリースを見た。彼の憎々しげな笑い方はいつもと同じだが、彼女はその笑いに潜む彼の悪意を感じた
よーくわかったか?社交界のプリンセスさんよ?
レベッカは話そうとしたが、喉がつまって声が出ない
本当のことを話したのは、俺が個人的にアンタを信用しているからだ
だがそれは議会に密告しないという信頼じゃないぜ。俺の計画を知ったところで、計画に影響をだす力もないことを、信じているのさ
グリースは以前のふたりの会話でレベッカが言ったセリフを、一字一句違わずに繰り返した
他のことは考えるな。今は中立の八方美人のままでいろ。「私はあなたたちと議会の中立にいる、利害関係のない存在です」てな立場を保てばいい。お互いにメリットがあるだろ
レベッカは苦々しい顔で頷いた
すると、グリースがため息をついた
ニコが何かを企んでいるのはわかっていた。でも、まさか俺との関係を断ち切ってまで自分の目標を達成しようとするとはな……
面白いじゃねえか。そうまでして動いた理由は、あっちが更に重要なことを発見したからだ。それを手にすれば、黒野と渡り合えると判断したほどのものをな
一体それは何だ……ニコ?まさか、あの資料と関係してるのか?
グリースの独り言は時空をまたぎ、ニコラと会話しているかのようだ
レベッカはやっと声を絞り出し、グリースの不気味な会話を中断した
では、グリース長官……我々が次にやるべきことは何でしょうか?
あの輸送機を追跡しろ。止められるもんなら止めてほしいが、駄目なら行かせてもいい
やすやすと彼らを手放すのですか?
アンタは重要な鍵を持っているのに、宝箱の在りかを知らない。その宝の場所を知る者が現れて、あとは鍵さえ手に入れてしまえばそいつが大金を手にする……
ならばその鍵を渡すのがスジってもんじゃないか?
グリースは立ち上がり、襟を整えて出かける素振りを見せた
書斎から出る前に、彼は振り返ってレベッカを見た
彼らが宝箱を開け、宝物を持ち帰ってから——全部分捕りゃいいんだよ
メッセージの収録は終わりました。物資と一緒に、空中庭園の定期空中補給の軌道経由で投下します
でも、そこには我々の前線作戦拠点がないので、新しい座標に対する追加の投下が「ある者」の目をひくかもしれません。なるべく他の任務で偽装するように準備します
ご苦労さん、セリカ
珍しくセリカは「残業代」などと冗談を言わなかった。どうやら本当に疲れているようだ
セリカだけでなく、今会議室にいる全ての者が疲れ果てている
戻って休んでいい、セリカ
セリカは口を開いて、大丈夫だと言いかけた
だが、ハセンにじっと見つめられて、彼女は黙って会議室から出ていった。そこにはハセンとニコラのふたりだけが残された
ケルベロスの移動はすでにマーレイも気づいています。彼を通して半分の資料を回収したわけですし、どうせバックアップしたでしょう。彼が黒野に渡すことは疑わないのですか?
あれは賢い青年だ。何をすべきか、何をしないべきかを弁えている
利益のないことに対して冒険はしないさ。彼は商人なんだ。無節操な裏切り者ではないぞ
ニコラは眉をひそめた
そう願いますが