Story Reader / 本編シナリオ / 14 視線の虜囚 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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14-11 ウィンター計画

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眩い白い光の中で、クロムは目を開けた

目の前の光景と音は、まるであの偽りの夜の幕を隔ているように混沌としていて、何なのか判然としない

見慣れた姿がすぐ側に立ち、静かに整備台の上に横たわる自分を見つめているようだ

クロム

……お父……さ……

混乱した意識の中で、クロムは無意識にこの呼称を口にしていた

ジョン

…………

徐々に覚醒するにつれて、クロムは自分が何を言ったかに気づいた

クロム

……スミス様

ジョン

具体的な状況はもう君の隊員からの報告を受けている

クロム

まだ……上層部への報告があります

カムイ

それはもうバンジとやっときましたよ

ハセン議長、あのフォン·ネガットの話を聞くと、ますます顔色が悪くなってました

クロム

ご苦労だった。新しい代行者は、確かにいいニュースではないからな

ジョン

ということで、任務のことは後にしてもらいたい。君たちは先にここを出てくれないか。クロムに言っておきたいことがあるのでね

カムイ

え??

少しの抵抗をみせたつつも、カムイはバンジに閉鎖ラボから追い出された

アシモフ

おっと、そちらの込み入った話が始まる前に、まず俺から現在の研究進度を共有しておく

お前が出ていったあと、再び機体を改良し、拘束装置を追加しておいた

アシモフは新しい機体の首を指し示した

クロム

…………

アシモフ

場所に不満がありそうだが。ここに付けてあるからこそ、最大の効果が発揮できるんだ。これは逆元装置じゃないが、そう簡単に取り外せないぞ

意識海を安定させて、偏移と汚染される確率をも減少させる

強度の妨害に遭遇して、意識海の偏移による汚染が始まっても、あるいは他の症状が出たとしても、お前に過激な行動をさせないことを保証するものだ

現在、栄光機体はもう通常の作戦に十分対応できる状態だ。今後は、以前のように隊員とリンク可能になっている

ただひとつ、知っておいて欲しいんだが

確率が下がったとしても、弧光機体のように安全とは限らない

クロム

問題が発生する確率はどれほどでしょうか?

アシモフ

空中庭園での日常活動においていえば、この確率はほぼゼロに近い

しかし、戦闘中に敵からの妨害や衝撃を受け、意識海の偏移が発生したら、それに伴い汚染もすぐ発生してしまう

一旦深刻な汚染が発生してしまえば、お前の意識海を安定させるために、そういった症状に抵抗力を持つ指揮官が必要になる

クロム

なるほど、よくわかります

アシモフ

意識汚染に抵抗できる指揮官なんてほぼいないんだぞ、本当にわかってるか?

クロム

「ほぼ」、ですよね?

アシモフ

…………

今回これほどの重傷を負いながら、構造体の限界についてはまだ十分認識していないのか?

私はもし君がリスクなく特化機体に適応できるなら、その選択を認めようと言ったことはあるが

しかし、今の状況は、君がそのために払う代償が大きすぎるように見える

これまではあの指揮官を確かに「使えるもの」だと認めていたが、今はもう違うんだ

クロム

……私たちの対局をまだ覚えておいででしょうか?

その時は「君がポーンを犠牲にしていれば、もっと早く決着がついたはずだ」と仰いました

…………

クロム

今を見ながら未来にも目を向けるべきだと、教え続けてくださったはずです

私は私なりの方法で、「使えるもの」を拾い、そしてその未来へと進みます

……君の持つ全てで、スミスを超える、か?

クロム

はい、過去の一切を捨てません。過去の自分も二度と、否定しません

そして誰ひとり、捨て置きません

救うことが、私自身を救ってくれるからです

…………

この潮流に巻き込まれることで、君の戦いは戦場からその隅々までに広がっていく

そのような戦い――視線の虜、言葉の縛り、利益と権力の深淵は――いつか君が息抜きしようとした夜にこそ、訪ねてくるだろう

戦場に行かない者たちは、楽に生きていると思うか?

あの必勝不敗の指揮官でさえ、これらの見えない縄によってその場に閉じ込められてしまったのだ

かつて威厳を放っていた父が、今かくも重苦しい表情をするのを目にして、クロムはそっと彼の手を握りしめた

クロム

私はもうすでにその潮流の渦に立っています

「クロム」になると決めた瞬間、そして「橋」になった時に、私はもう何倍もの代償を払う覚悟をしました

…………

クロム、私はいつも結果とやり方だけを重視するため、君に原因について聞いたことがなかったが

渦に足を踏み入れた結果がこうと知りながら、なぜまたそれを試みる?

クロム

変えるために

………………

君の改造が成功した時、ある者がこう言った

「刃であろうと、刃を振るう者であろうと、戦場へ出る以上、運命は同じだ」

今私も、同じ言葉を君に伝えようと思う

刃が自身を振るう者を頼ろうとも、振るう者にとって刃が必要不可欠であろうとも、要は、身の回りにある使えるものを拾うだけなのだ

君は私を失望させなかった、クロム

クロム

……褒めていただき光栄です。常日頃のご指導に、感謝しています

先ほど首席技術官のアシモフから聞いたが、初めて特化機体に換装する場合は、非常に高い確率で意識海に混乱が発生するそうだ

だから、この手術には[player name]が必要といえる

クロム

そうですね

ひとりで全てをやろうとしなくていい、このことは私に任せておきたまえ

クロム

スミス様、しかし……

君の決意を見届けるための贈物だ

私の知っている限り、実に多くの者がさまざまに動き、なんとかしてあの指揮官を引っ張り出そうとしていたようだ

私はただ、パズルの最後のピースを送ってやるだけだ

こんなに多くの客人を接待するなら、今日はもっと事務室を飾っておくべきだったな

グリース、今回君に会いに来たのは相談したいことがあるからだ

お?相談ですかな?

現在の任務状況はまだまだ緊急事態といえるし、[player name]の状態も正常だ。これ以上、検査を続ける必要はないと思うんだがね

やれやれ、今日の客人のお目当ては皆一緒のようだ

しかしですよ、あいつのマインドビーコンが汚染されたのはれっきとした事実だ。ヴェンジの身に起こったことをもう一度起こさせたいんですか?

この点に関しては、[player name]をスターオブライフに移動させて治療させよう。君の手下を煩わす必要はない

ハ·セ·ン·議·長

彼は皮肉な笑みを浮かべると、相手の名前を勿体ぶって一文字ずつ区切って呼んだ

我々は協力的な関係であるべきじゃあないですか。そんな、水臭いことを言わずに

それにこちらも十分な証明書類を提示してるんですよ。これはプロに任せた方がいい案件です

マインドビーコンの汚染で何も侵蝕が発生してなくても、[player name]が危険なのには変わりない。もし罪状が断じられたら、あなたがこの行動で払う代償は莫大ですよ?

断じる?ルナをもう見つけたのか?

んな訳がないでしょう

そういった方面にこっちは素人なんですよ。グレイレイヴンの方がもっと経験豊かでしょうに

前のグレイレイヴンでも今のグレイレイヴンでも、昇格者と繋がってるってんだから

私の手下は全然役立たずなんでね、昇格者を掴まえたって、どうせすぐ彼女は救い出される

わかった、私がこのことの全責任を取ると思ってくれていい

えっ?議長自らが[player name]の保証人になると、そういう意味で?

そうだ

彼の笑顔が固まった

そうですか、それは結構

そこまでの決定を下せるということは、すでに少なくない追加のチップでも手に入れたんですかね

それなら私も、議長に貸しとしましょうか

ま、保証さえしてもらえりゃいいや、あなたと今日私を探し回ってた顔ぶれもあるし、[player name]を放しますよ

でも、私はいつも諦めが悪いんでね

例の件が実行されるなら、その時はあの才能ある指揮官にお手伝いを願うとしましょう。ともに人類の未来を開拓しようじゃありませんか

…………

この眩しい白い光の中に留まったまま、2日以上が経っていた

認知があやふやになりゆく中、昇降ゲートが再び開かれた

やっと出られますよ、[player name]

それは、まだ何とも

とりあえず、まずはここから離れましょう

疲れた体を引きずるようにして、セリカに護送されながら科学理事会のB3エリアへと向かう輸送車に乗り込む

ハセンも中に座っており、どうやら待っているようだ

[player name]、来たか

いいニュースと悪いニュースがある。どちらから先に聞きたいかな?

いいニュースは君がもう「監護治療」を受けなくてもいいということだ

悪いニュースは君はまだ観察期間中で、これからも君を見つめる視線が消えないということだ

悪いニュースは、君はもう「監護治療」を受けなくてもいいがまだ観察期間中で、君を見つめる視線は消えない

少なくとももうあそこにはいなくてもいい

あの部屋を出られたのは、君にしかできない任務があるからに他ならない

ハセンとセリカは協力し合うようにして、素早く状況を説明してきた

ああ、今は人手が足りないというのに、新しい問題が絶え間なく出てくる

今回君を連れ出したのは、機体交換の手術が完了するまで、クロムの意識海の安定維持を手伝ってほしいからだ

彼らが持ち帰った情報によると、新しい代行者は大変危険らしい。だが我々は大規模な戦闘を経験したばかりで、今は彼との交戦は避けたい

下の赤潮の問題もあるし、バンジの報告から考えると、地下水路の赤潮は濃度こそ薄いが、一定の規模があるようだ

コアの破片はすでに破壊されているのを確認した。しかしどんな力が赤潮を維持しても、あるいは単に残されたのは拡張しない液体だとしても、我々はそれを粛清する必要がある

時間がかかってしまうといかにもまずい。ぐっすり長い夢を見て先延ばしにしているうちに、更に多くの隠された危険が噴出するだろう

いや、アシモフと相談したが、こういった地下深いポイントとなると、やはり小型武器を使って掃討するほうが効率的だ

あそこの建物の総面積はそう広くない。残った赤潮の量も、宇宙兵器を使わなければいけないほどではないだろう

更に重要なのは、極めて危険な敵に対して、人海戦術を使ったエリアポイントの設置は得策ではない

ストライクホークはあのエリアに詳しいが、クロムの新機体は実戦テスト期間中だし、この任務は潜在的な危険が大きすぎる。指揮官の協力下で万全の策を講じておきたい

またその代行者に遭遇する可能性を考えると、グレイレイヴンのメンバー1名の同行を勧める。そして、できるだけ隠密行動しながら、相手と真正面から戦闘するのは避けた方がいい

カムイとバンジの任務報告によれば、そのエリアは静かで狭いところのようだ。人数が多くなるとかえって君に不利に働くだろう

君とストライクホークのほか、この任務に参加するのは完全に独立した小隊もいるが

彼らのことは気にしなくてもいい。それぞれのエリアを、責任をもって確認してくれればいい

そして余裕があれば、下に残された21名の構造体をともに連れ帰って欲しい。周辺偵察を補助していた小隊だが、輸送機を破壊されて一時的に地下都市に隠れるしかなかった

他に問題がなければ、私からセリカに、輸送機のところで待つようルシアに伝えさせる

チーム機能と戦闘力を纏めて見た時、ルシアは最も適した人選だと思うが

ハセンとセリカはともに、それ以上言葉を発しなかった。10分間の運転を経て、3人はアシモフのいる閉鎖ラボに到着した

閉鎖ラボに足を踏み入れると、クロムが静かに整備台の上に横たわっており、まるで眠っているようだった

アシモフ

起きているんだが、侵蝕と消耗の進行を防ぐために、彼の全機体をスリープモードにしてある

その前に他の者が彼に確認したいことがあったので、孤光機体の聴覚及び発声モジュールを一時的に整備した

もしお前が話したいことがあるなら、10分ほど時間をやるぞ

クロム

……ご覧の通りです

すみません、こんな姿で失礼を

クロムの声はとても小さかった。彼の機体の損傷はすでに負荷上限を超えていて、今は各種機器に頼ることで何とか意識を保ち続けている

クロム

意識海の状態は今安定しています、君に余計な負担はかけないはずです

クロム

私は慣れていますので

クロム

必要とあれば

クロムはそっと頭を頷けた。彼の機体の損傷はすでに負荷上限を超えていて、今は各種機器に頼ることで何とか意識を保ち続けている

クロム

監護が終わってすぐに次の任務だなんて、本当に申し訳ない

ハセンから特化機体の情報を聞き、言いようのない不安がこみ上げてきた

アシモフの研究はすでに飛躍的な進展を遂げたが、栄光機体にはまだ多くの不安定な要素がある

記憶の再生に影響されたかのように、ルシアが機体を換装した直後の、あの迷うような眼差しが一瞬脳裏に浮かんだ

クロム

君がここにいるから

クロム

そうなったら、私に君を探させてください

クロムの声は依然小さかったが、その声音には疑いの余地なく、揺るぎない決意が漂っていた

クロム

もちろん

このために多くの予備案を準備しましょう

彼は話を終えると、何かに気づいたかのように、その身に急に緊張を纏ったように見えた

クロム

……もし君が許可してくれるなら、私は必ずそうします

クロム

ありがとうございます

祈りの形が安心感をもたらす効果を求めたのだろうか、クロムの手をそっと握った

アシモフ

もう時間がない、すぐ始めるぞ

こちらは2回目の特化機体の交換だ

アシモフは甚だ厳しい表情を浮かべている

アシモフ

技術はすでに飛躍的に進化しているにもかかわらず、何らかの理由で、不確定な要素が鴉羽機体の時よりも多かった

クロムの意識海に偏移が起きないよう、通常のリンクのほかに、お前とクロムの意識海をもっと綿密にする必要がある

アシモフ

俺がこの機械を通してお前をクロムの意識海に潜行させ、深層でのリンクを行う

それにより、お前には彼のその時の考えや状態が見れるようになる

アシモフ

お前が来る前に教えてある

お前がリンク成功まで耐えれば、その後は安定するだろう

問題なければ、あの空いている整備台に横になれ

アシモフ

必ず彼を連れて戻れ

質問する間もなく、意識が暗闇に落ちていった

……

混乱した意識海に墜ちると、暗い空間に、ひとりの金髪の男の子がさまよっている

……僕は誰?……ここはどこ?

そんな基本的な質問さえ答えてもらえないまま、その男の子はこの暗闇の中、前へと歩き出した

……はい、わかりました

――誰かの命令に服従しているようだ

これで合格でしょうか?

……ある目標を追いかけているように見える

ご期待は裏切りません

……まるで檻の中にいるようだ

有用な物だけを選択し、つなぎ合わせて、完璧な自分を創り上げるのだ……

……絶望の中で探し彷徨うスカベンジャーのようだ

「……役立たないもの……は……」

「ちゃんと感謝しなさい……もし……」

「彼……空想家……」

つなぎ合わせ……合格……

その歩みにつき従うように、いくつものうわ言のような声がこの空間に響き渡っている

会話の完全な内容までは判別できないが、その言葉の端々から含まれる悪意を感じる

スミスになる、スミスになる……

耳に苦しい雑音を通し、足取りがだんだんふらついてしまう

なれる……

その姿がぼやけ始めた……

……でも、僕は誰?

空間は激しく揺れ、このままでは、彼は自己認識を失ってしまうと思われた

だがこの状態では、彼は上にあるマインドビーコンに気づけないだろう

僕は誰……

男の子の声は、絶え間なく伝わってくる雑音の中、震えていた

ぼくは……

クロム?

……未来の……名前?

濁った悪意の沼から一筋の希望を見つけたように、男の子は周りを見回し始め、声がした源を探している

マインドビーコン……

彼は周囲を慎重にぐるりと見渡したが、目指すものを見つけられなかったようだ

あっ……上にあった

男の子は手を伸ばし、遥か上空ある星を追いかけるように、苦笑いを浮かべて、飛び上がった――

ありがとう……

暗い空間がだんだん明るくなり、たちまち華麗なセレモニーホールになった

こんにちは、指揮官。ここで指揮官にお会いしたということは、機体の換装がまだ終わってないということですね

その姿は装花や豪華な料理の幻影に囲まれているが、他には誰もいないようだ

すみません……先ほど何があったかあまり覚えていないのです。ですが、きっとたくさんご迷惑をおかけしたかと

だがここは……いや、何でもないです

指揮官との深層リンクは安定していますので、もう意識の偏差が起きることはないでしょう

わかりました

それも私自身を救うためです

時間が1秒進むごとに、一歩後れてしまうこともあります

必ず達成しなければならない目標がありますので

それを答える前に、ひとつ質問をさせてください

人と構造体に、区別があると思いますか?

その通りです。身分も体の構成も、構造体と人間は異なっています

そのような考えを持つ人は多くないです

彼は花々と装飾の幻影を通過して、まっすぐこちらに歩いてきた

人々は構造体の戦闘能力を恐れている

真の力を持たない個体はいともたやすく道具として扱われる

噂、偏見、傲慢、このままでは、人類は徐々に壊滅に近づくだけです

これまで、そんな例を数え切れないほど見聞きしました。自ら経験したこともあります

それについては、指揮官も同じでしょう

これらの噂と偏見は最終的な「結果」であって、「原因」を探らなければ真の解決はない

そんな言葉をクロムに伝えると、彼は微笑んで頭を頷けた

そう、だからこそこの戦いに一歩踏み出し、「原因」を知りたいのです

そして、完全なる解決を目指す

歴史を少し学べば、どの時代でも……人類が繰り返し間違いを犯していることは明白だった

進歩できる限り、まったく無意味ではありません

決意に満ちた彼の顔を見ていると、なぜか読んだことがある一節を思い出した

「数えきれない困難や危険を乗り越え、多くの生死と別れを目の当たりにしてもなお、依然として英雄は最も険しい道に希望を探し続ける」

「ほとんどの者は、それが決して楽しい旅ではないことを知らない。彼らはスタート地点を出発するあの時から、暗闇と絡み合った時間を死ぬまで続けていくのだ」

ご心配には及びませんよ。それはまさに、私にとっての好機なのです

私にとって、君はこれからの私に与えられた贈物なんです

彼は静かに指揮官を見つめて、それ以上の言葉を発しなかった

豪華絢爛なホールはだんだん薄暗くなり、霧の中へと消えていく

どうやら、そろそろ終わりのようですね

はい

…………

だんだんぼやけた視野の中、クロムは決意したような笑顔を見せた……

Video: 库洛姆换机体

それは暖かい光――

暗闇の乱流の中で、クロムは灯台のように暖かく灯る光を見た

これから起きる問題を解決するために、今は旅に出ないといけない時だ

皆が、待っている

再び目覚めると、頭上にあったのは見慣れた光だが、位置がわずかに変わっていた

クロムが周りを見回すと、アシモフとそれをずっと手伝っていたバンジ、そして遠くないところで棒立ちしているカムイ以外に、[player name]もいた

衆目の中で手を上げると、不思議な軽さと力を感じた。金属をも貫通する羽毛を上げたような、妙な感覚がある

その感覚は意識海の偏差の初期前兆だと思われた。機体交換後の数分以内に起こりやすい事象だ。このままでは、あっという間に自分の機体をコントロールできなくなるだろう

彼は目を閉じ、深呼吸して意識海にあるマインドビーコンを見つめてみる

意識海が徐々に安定すると、クロムは微笑んで目を開いた

皆、ありがとうございました。そして[player name]、ありがとうございます

俺は隊長を運んだだけっすよ。もっといろいろ手伝いたかったのに

カムイは大きく肩を揺らして、非常に不機嫌そうだ

そうだ、隊長のこと、もうカムに言って安心させときましたから!

お礼を言うんなら、やっぱりバンジにでしょ

カムイは歩み寄ってくると、バンジの肩を叩いてみせた

ありがとう、バンジ

いや……

全部アシモフの力です

この会話は一見儀礼的ではあったが、クロムは命の恩人に礼を言わずにいられないのだった

俺もこの成果を得られたのは大きい。ここまで進展させるには、大変な苦労を伴うからな

そう言うと、アシモフは酷い目の下のクマをそのままに、安堵したように椅子にへたり込む

だがお前たち、これからまだ任務があるだろう?

もちろん。赤潮をちゃちゃっと片づけて、その下で動けなくなってるみんなを助けないと

宇宙兵器はもう2度と使えないから、赤潮を片づけたいんなら、これを持っていけ

アシモフは先ほど運ばれてきた箱を指し示した。その中には数百個の円盤状の物体が入っている

これは重合高エンタルピーボイラーと呼ばれ、プラズマボイラーの概念に基づいて開発された小型武器だ。使用条件がちょっと厳しいから、通常あまり出さないようにしている

大量の電気エネルギーと密閉空間が必要なんだ

ちょうどその地下水路にぴったりだな。適切な設置場所さえ見つかれば、最大限に効果を発揮して、下の赤潮を蒸発させることができるだろう

よさそうじゃん!

改良してはいるが、密閉空間への要求は高いぞ

アシモフは眉をしかめて再び強調してきた

穴だらけの場所なら、何とかしてそれを封じてからだ

ストライクホークの3人はそれを聞き、揃いも揃ってその場でぽかんとした顔を浮かべた

……逃げる時、ちょっと余計なことをしちゃったかも

……そこら辺の問題はもうお任せだ。俺はこれから、絶対見つけられない場所を探して、数時間休憩を取る

だが、機体に何かあれば、また俺のところに来い

じゃ、もう今から出発できるよね?リーニキも呼んでいい?

やったぁ!

カムイは元気一杯なゴールデンレトリバーのように、一瞬で部屋から飛び出していった

おめでとう。特化機体の研究がやっと新しい段階に入ったな。研究への努力がようやく報われた

別に喜ぶことじゃない。ルシアの機体と同じく特化に属してはいるが、いまだにあの引っかかっている部分を突破できないのだから

何?

鴉羽機体が昇格者のシミュレーションデータに耐えられるのは、彼女とαのデータにもともとの互換性があったからだ

他の機体に置換されると、その危険性も効果も想定通りとはいかんさ

それを踏まえて、クロムのこの機体には鴉羽の戦闘データを採集した上での二次改良を施してある

マイナス要因を最大限に抑えるため、亜人型機体のベースロジックを導入して標準値を超えるデータを適応させ、固定化したんだ

だがこの機体はやはり意識に大きな負担と影響を与えてしまう

なるほど。彼らが持ち帰ったデータを獲得してもなお、我々にとって昇格者の機体を模倣するのはまだ手の届かない領域なのだな

亜人型の概念に基づいて昇格者のデータを持つ構造体を模倣したとして、それを再び改良するのも、小さくない進歩といえるだろう

ルシアは最近はどうなんだ?

定期の「機体メンテナンス」報告から見れば、まだ異常は出ていない

ショーメイが残した資料を加味して改善プランを探してはいるが、成功するまでにはまだまだ時間が必要だな

安全のために、[player name]以外の保障を設けた方がいい

感情的なものより、技術知識の方が頼れるというものだ

必要とあれば、「ウィンター計画」で残された装置を借りても……

あの時、それが起こした問題を忘れたのか?

いいえ。ですが、それがもたらした利益も否定できないでしょう

…………

そういった話はこれからふたりでするとしよう。アシモフはもう長い間休んでないのだから

…………