実力差はあれど、αを引き留めるのには十分だった。勝敗はついているのになぜロランがこうも食い下がるのか、αには理解ができない
わかってると思うけど、今のあなたでは私に勝てない
αが刀を引き抜くと、ロランの脇腹から循環液が噴き出した
ロランは傷口を押さえて後ずさったが、それでも武器でαの進路を阻む
それは……どうだろうね
なに……?
ガブリエルは、最強の昇格者になって絶対的な力を手に入れることで初めて楽園を創れるって思ってるみたいだけど……
ロランは再びαに銃を向けた
でもね、昇格ネットワークが代行者の慈悲や優しさを許すはずないんだ。強い憎しみ、痛み、執念……それこそが昇格者の力の源だ
ルナ様と君の力が弱くなったのは、昇格ネットワークに対する意志が揺らいでいる証拠だよ
だから、人類根絶のためルナ様に最強の代行者なってもらうには……α、君にここで死んでもらうしかない
それが、私を殺す理由?
ロランはゆっくりと武器を下ろした
いいや……
ルナ様の当初の願いは「姉と一緒に暮らせる楽園」を創ることだった
でも、昇格ネットワークに縛られている限り、その願いは実現することはない
長い時間かかったけど、僕はやっとルナ様の真の望みを理解した。彼女自身ですらわかっていない、本当の願いを
ルナ様に対する昇格ネットワークの束縛は、僕たちなんかよりはるかにきついものだ
グレイレイヴン、それにあの人間の指揮官こそ……ルナ様の願いを実現する鍵なんだ。だから、僕は彼らを生かす
わかってくれたかな?君が止めるべきなのは、僕ではなくガブリエルだ。胸に一物抱えていたのは彼なんだよ
……
ルナ様や僕たちを利用して、彼が思うところの「昇格ネットワークの宿願」を実現する。それこそがガブリエルの真の目的だ
αはロランの言わんとすることを完全に理解した
……ガブリエル、愚かな計画のために昇格者まで利用するつもりとは
自分の目的のために、一切を裏切り、一切を捨て、一切を犠牲にする。それではまるで……
……ははは
ルナは今どこ?
恐らく……集噛体の体内じゃないかな
まさかガブリエルが計画を前倒しするとは思わなくて。ルナ様に忠告する間もなかったんだ
そのうえ君までガブリエルにいいように扇動されたりしたら……そんな弱った状態で集噛体に挑んだら、ルナ様を助けるどころの話じゃない
そうなってしまってはもう、ガブリエルを止める術がなくなる
あなたがしつこかった本当の理由はそれなのね?
ロランは肩をすくめた
どうか冷静にね。万が一グレイレイヴンが集噛体に殺されてしまったら、別の方法を考えないといけなくなるから
私がやるべきことは決まってるわ
そう?じゃあ……僕もそろそろ次の一手を打たないと
ガブリエルは純粋な昇格者だ。僕も、君も、ルナ様さえも、目的実現のための道具にすぎない。だから……
その通りだ。ルナ様同様、お前たちもまた昇格ネットワークの駒にすぎぬ!ロラン……貴様やはり昇格ネットワークを裏切ったか
ガブリエル
暗い一角からガブリエルが現れた。慇懃無礼な挙動とは裏腹に、狂気ともいえるまがまがしさをまとっている
じゃ、あとは頼んだよ
ロランは笑顔を浮かべた。そしてすれ違いざまにαの耳元で何かささやくと、チェーンブレードを使って跳躍し、暗闇へと消えていった
ガブリエルが構えるのを待たず、αは抜刀して跳びかかった
αが繰り出す連撃を、ガブリエルはステッキで防ぎながら少しずつ後退していく
ルナを裏切ったな!
私が……?違うな、ルナ様こそが我々を裏切ったのだ。そしてその原因はお前だ!お前のせいでルナ様は昇格ネットワークに見限られ、代行者の力を失った!
ルナが……私たちを裏切ったことなんかない!
悪いがお前はもうここから出ることはかなわぬ。お前の無意味な私情で、我々昇格者の宿願の成就を台無しにされるわけにはいかないのだ
αの刀先がガブリエルの胸をかすり、火花が散った。ガブリエルは裂けたマントを引きちぎり、巨大な体躯をあらわにした
やはり……お前は昇格ネットワークにとって最大の脅威
ルナ様は今頃集噛体の養分になっているだろうよ。助けにいかなくていいのか?
白々しいわね、ガブリエル。あなたの浅知恵なんてお見通しよ
ルナのためにも、あなたを放り出すわけにはいかないわ
私が駆けつけるまでは、グレイレイヴンが時間を稼いでくれるはず
これは驚いた。お前ともあろう者があの役立たずどもを当てにするとはな。残念だがやつらももう集噛体の養分になっているだろう
いいえ
私は「私自身」を信じるわ。そして――
私が今すべきことは、お前を倒すこと
αは刀を握り直した。その瞳に、強烈な憤怒の炎が燃え上がる
私はルナを傷つける者を、絶対に許さない