ルシアは目をゆっくり開けた。リーフとリーが自分をかばいながらロランと戦っている
隊員を欠くグレイレイヴンに対し、ロランも全力を出していないように見える。何やら時間稼ぎをしているようだ
少し離れた場所にいる指揮官は、まるで激しい戦いを経たかのような満身創痍だ
指揮官……!
その傷はどうしたんですか!?
指揮官……
……いえ、今はそんな場合じゃないですね。すぐにロランを倒してきますから、そうしたらリーフに治療してもらいましょう!
ええ、全ては指揮官のマインドビーコンのお陰です
私はもう、迷いません
ルシアが武器を握り、ロランめがけて走り出す。ロランは手を振って、数歩下がった
僕が思った通りだ。やっぱりルシアが勝った
グレイレイヴン……!
意識海の戦いで大ダメージを受けたαが、その瞳を憤怒に燃やしながら立ち上がった。αは刀を地面から引き抜くと、ルシアに斬りかかった
だが、死角から飛んできた銃弾に、αは後退を余儀なくされる
リーフ、足止めをお願いします!
αの足下に真っ黒な球体が現れる。球体は強烈な重力によってαをその場に縛りつけた
華胥、何をしているの!?
計算処理能力超過のため、構造体2体に対する拘束は解除されました
チッ……
リーとリーフの横やりに気を取られていたαはルシアの接近に気づけず、腹部に蹴りを受けて数歩後ずさる
ルシアがαの頭上に刀を振り下ろそうとした瞬間、今度はチェーンブレードがその攻撃を阻止した
君たちの相手は僕だ、と言いたいところだけど、さすがにもう気づいてるよね?
こんなところで時間を無駄にしている場合かな?
おいおい……まさか、一から説明させる気かい?
さすがは指揮官。おわかりのようで何より
多少は時間がかかるからね、今すぐ向かったほうがいいと思うよ。そうじゃなきゃせっかくのショーを見逃してしまう
そうだ。僕の誠意の証として、ひとつ餞別を贈ろうじゃないか
ロランはそう言って微笑むと何かを投げて寄越した。……華胥の暗号キーだ
はっ、どうせそんなことだろうと思ったわ……裏切者
それはあんまりじゃない?君とルシアは気絶しっ放しで、華胥の拘束は解除されてた。その3人は虎視眈々とキーを狙ってたんだよ?
僕が君を守らなかったら、何もかもが水の泡じゃないか
あなたは一体何をしたいんですか?
うん?それについてはまた今度会った時にでも話すよ。さあ早く!間に合わなくなるよ!
行かせないわ!
そうカリカリしないでよ、α。君の相手は僕だ
αの前に立ちはだかったロランが、早く行けと言わんばかりに、こちらに手を振っている
あちらのルシアのお陰かな。今の君となら、僕でも渡り合えるだろう
……何が目的なの?
ロランは珍しく真顔になった。静かに凪いだ目で、αをじっと見つめる
僕の目的は、最初からひとつなんだ
でも今それを君に教えるのは、賢いやり方じゃない
……そう。それなら、沈黙の代償を支払ってもらうことにするわ