ルナ様、私にはわかりません
なにが?
あなたの目指すものが
ここのところ……ルナ様は少し考えすぎているのではないですか
そのことがご判断に影響を及ぼしているのでは?
心配しすぎよ、ガブリエル
椅子に座したルナは、つまらなさそうに目を閉じた
なぜグレイレイヴンを消さないのですか?この場所であれば、我々が直に手を下さずとも彼らを消すのはたやすいこと
……
その前に、姉さんに見せたいものがあるからよ
極端な感情と真なる欲望こそが、虚りの仮面を剥ぎとれる。あなたたちがこれまで行ってきた「選別」と同じこと
そうすれば……姉さんは私のもとに帰ってくるわ
再び空中庭園の人間に裏切られる前に
だが、あなたはグレイレイヴン指揮官があなたの姉上を簡単に手放すとは思っていない
もし彼らが思いもよらぬ行動をとったら、どうなさるおつもりですか?
あるいは、これはもうひとつの「テスト」なのでしょうか?
ガブリエル
ルナは座ったまま目を開けると、首を傾げた。その声はいつもと変わらず無機質だが、ガブリエルは凄まじい威圧に襲われた
私の決断に、あなたの同意がいるの?
……いえ
私は追随者として、あなたの不安要素を速やかに取り除きたいのです
中心区のもう一方の側――華胥の暗号キーが安置された場所。αはそこにいた
侵入者を検知した華胥は休眠状態を解除した
対象確認:一級権限共有者α、操作制限解除
ルナにあなたを別の場所に移すよう言われたの
でも、その前に確認したいことがある
全てはあなたの返答次第よ
航路連合の作戦資料を提示して
華胥がαに資料を提示する正当性を確認できません
不要な戦闘、懲罰……ルナはそんなことをしてまで自分の力を誇示しなくても、欲しい物を手に入れられる
でも、彼女はそれをした
あなたは故意にルナに情報を見せ、ルナの感情に影響を与えたのよ
目的はどうあれ、ルナの行為は人類に対する宣戦布告だった。個々の人間は取るに足らなくても、寄せ集まれば私たちの障害になりえるわ
手札はできる限り隠しておくべきだったし、些末なことで時間を無駄にしてなんかいられない。なのに、あなたは面倒ごとを持ち込んだ
華胥、もう一度訊ねるわ。今のあなたは誰に従属しているの?あなたの主人は誰?
αは手を上げ、赤い光をまとった刀を暗号キーのかたわらの機械に差し入れた
――華胥はAIであり、その問いは意味をなしません
発令者の人格分析を実行……航路連合戦役は華胥による行動シミュレーションの範疇外です
あなたはご主人に忠実なのね。結構だわ
αは刀を引き抜き、華胥に向けた
欲しいものは手に入った
ルナがあなたの小細工に気づいてないと思ってるの?
メインサーバーから切り離されたあなたは自壊を選択した。でも本当にそうしたなら、データ残留なんてありえない。空中庭園がここを探し当てられるはずもない
バレてないとでも思ってた?
でも、せっかくあなたが「あれ」を連れてきてくれたんだもの。もう二度と帰さないわ
「ルシア」……
無知で、軟弱で、お人好し。他者の刃に甘んじることを栄誉だと思い込んでいる
全てを知ってもなお、あなたは変わらずにいられるかしら?
あなた自身にできないのなら、この私が過ちの連鎖を断ち切ってあげる……
グレイレイヴンはプラットホームエリアに到達しています。中心区に向かって移動を始めました
……いいわ
華胥、最後の任務を遂行して