同刻――
マーレイはすでに資料室内の巨大端末を取り外し、大小異なるパイプラインを組み合わせ、奇妙なモジュールを作り上げた
彼は、手の中にある急ごしらえの接続端子を見て、思わず苦笑いする
全システムからバレないようにゲシュタルトに侵入するのは……ここからしかできないし
ゲシュタルトには最高協議の制限があるし、意図的に人類の意識を消去したりはしないはずだけど……
でも、これほどの長い自己進化を経て……本当に、当初のゲシュタルトのままなんだろうか?
マーレイはため息をつき、仮面型のバイオニック接続端末を自分の顔の表面にかぶせた
すぐに視覚や聴覚、触覚が一瞬にしてマーレイの体から分離し、彼の意識は空白の渦の中に漂った
時が止まった感覚の中、沈みゆく意識の中でマーレイが思うことはただひとつ
もしこれが兄さん……構造体が深層部に潜行する時の感覚なら、本当に……生きた心地がしない……
……ゲシュタルトへの潜入か、あの妙な昇格者と交渉するかのどちらかなら、昇格者と交渉するほうがまだマシだな
やがて渦がマーレイの反対側へと去ると、彼は再び空中庭園にいた
…………
……さぁ、仕事だ
ゲシュタルトがあの侵入者とグレイレイヴンの対応に追われている隙に……
ゲシュタルトに隠されている秘密を、見せてもらおう
その前に少し準備をしないと
マーレイは来た場所に手を伸ばし、握った両手の拳を広げた。それは何かを呼び、求めているようだ――
全チャンネル封鎖プログラムを起動、このエリアのセーフモードを強制起動する
こうすることで、通常のログアウトでは侵入解除できないけど、この程度なら兄さんの邪魔にはならないはず
……ニコラ司令の飼い犬がどう出るか、楽しみだな
……セーフモードで起動すれば僕が追跡できる――痕跡を残さないように動けるのはデカい
……これは何の信号だ?
何だって?
これを見ろ
アシモフはモニター上の「コアS-4-2」で動き回る光点を指差した
これは何だ?いきなり現れたんだ
はあ?この階は隔離されてるし、外部信号が入るなんてありえねぇだろ……
ふたりが信号の出どころを探し出そうとしていた時、突如モニターが真っ黒になった
そして「接続が拒否されました」という警告文が表示された
……どういうことだ?
回線L-X-12Aに切り替え!
*接続が拒否されました*
ちっ、じゃX-K-6だ!ゲシュタルト機械室の点検用接続口に直結しろ!
*接続が拒否されました*
……この【規制音】ッ!
これは外部の仕業じゃないな。内部から全ての接続口が閉じられている
つまり……今まさにゲシュタルトに接続している者にしか、ゲシュタルトの中の様子がわからんってことだな……
……
オレたちにできるのは、電力を維持してあいつらがいつでもログアウトできるようにしとくだけってことか
スキャン完了……異常ありません
はい
アシモフ、僕たちはこれからバーチャル空間の空中庭園ブリッジ方面に向かいます
…………
アシモフ?
……通信チャンネルが繋がらなくなりました
わかりません
手動ログアウトプログラムを起動してみては?
*ログアウト要求への応答がありません*
……ログアウトできませんね
ええ、任務を優先しましょう……きっと他にも方法はあるはずです
侵入中のメインAIは重大な脅威にさらされています。以降の侵入行動の進行は保証できません
……十分よ。侵入したメイン端末から早く離脱して。侵入が失敗なら、彼らにつきまとっても無意味だわ
時間が必要です。発信源及び各接続ポイントの逆探知を防ぐために、外部ポートからゲシュタルトに入れた全データを引き上げなくてはいけません
…………
姉さん
いるわよ
空中庭園を墜落させる計画はもうおしまい。全員に防衛線を維持しつつこちらへ退却するように伝えて
ええ、すぐやるわ
ううん、ゆっくりでいい
誰かの罠を踏まないように、落ち着いて撤収させて
わかった
何か、おかしなことはある?
ガブリエルとロランが予定地点に向かう途中、ふたり仲良く遠回りしていたことくらいかしら
……そう