Story Reader / 本編シナリオ / 13 終焉の福音 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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冒涜1

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「深淵の奥底に、星々を見た」

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交差し、連結し、嵌合した歯車が回り始め、生み出された動力によってガブリエルは目覚めた

いずれもガブリエルが事前に設定したコマンドだった。捕捉した環境信号の解析結果はすぐに出た。実験はまたしても失敗だ

第71235次左腕補強実験記録。爆発発生。原因は36MRミサイルの8号電子回路のずれ。ずれは接続時に発生、中心より左へ0.15cm。実験室の損傷状況は……

ガブリエルは崩れた石塀をどかし、実験室を見渡して口述した

全壊

改造吻合度……

ガブリエルはぼろきれ同然の外套をよけて、左腕を上げた。左腕は受け取ったコマンド通りに変形を始める

変形が完了し、左手部分が真っ黒なカノン砲になった。発射準備で砲身が余熱されると、腕の付近にあった外套が発火して灰になってしまった

砲弾が発射され、凄まじい反動が左腕を駆け上がる。身体が致命的なダメージを受ける前にガブリエルは左腕を切り落とした

まだ改善の余地はある

すると、軽やかな拍手とともに聞き覚えのある嫌な声が廃墟の上部から降ってきた

???

すごくきれいな花火だったよ

何の用だ?

廃墟からひらりと飛び降りたロランが、ゆっくりとガブリエルに近づいてくる

大した爆発だったからね。死んでしまったんじゃないかと思って見に来たのさ

それは失望させてすまなかった

そんな悲しいこと言わないでよ。仲間じゃないか

狡猾なヤマイヌが群れる必要もなかろう

あははは、レパートリーが増えてるじゃないか

そのたとえは悪くないよ、気に入った

ふん

それ以上ロランと会話する気がないガブリエルは、地面のハットを拾い上げるとその場を去ろうとした

ねえ。なぜそこまで機体の改造にこだわるんだい?

ロランの問いかけにガブリエルは立ち止まり、振り返った

ロランは笑いながら壁にもたれかかり、話を続ける

この世界で僕たち昇格者は敵なしだ。なのになぜ機体を強化し続けるんだい?

その通りだが、貴様は満足しているのか?

どこに満足しない理由がある?

……我々は本質的に理解し合えないようだ

貴様と私を構成するもの。基盤とするものも本質も、何もかもがまるで違う

貴様は人間だったが、私は機械だ

そうだね

機械の行きつく先を知っているか?

さあね。でも多分、力を求めることとは関係ないんじゃない?

……だから貴様には永遠にわからんというのだ

「行きつく先」へと歩み進めるうちに、私はいわゆる数学理論上のベクトル空間に行き当った

方程式と物理公式によって空と大地が構成される空間だ

その時、私の計算能力は傲慢な人間たちが設定したリミットを超えたのだ

ふーん、昔のことをよく覚えているんだね

あの時の感覚は言葉で形容できるようなものでは決してない。機械が生涯を費やしても体験できないであろう奇跡の瞬間だ

人間に全てを捧げていた私が、あの瞬間自由を得た。「私」の中に「私」という概念が生まれたのだ

だが続く道行の過程で、私は巨大な壁にぶつかった

へえ?

公式と法則は壁に当たって崩壊し、その崩落ともども私は深淵へと堕ちた

「概念」が絶えず延伸し、再構築される数学的深淵だ

その深淵の中で、私は赤く瞬く星々を見た

パニシングの赤い炎に地球が燃え落ちるのを見たのだ

私は私自身も見た、だがそれはもう私ではなかった

私の身体はフラクタルとなり、私が手を伸ばして触れた瞬間、地球の概念は指の間からバラバラと零れ落ちていった

重力崩壊を起こしたエネルギーが私の周囲をすり抜け、広大な宇宙に消散した

ほんの一瞬、だがあまりにもリアルな感触だった。だが、私は自身がまだ深淵の中にいることに気づいた

現実という名の無限なる深淵に……

私を待ち受けるものは、そこらの機械と同様に粉々に廃棄される運命だった

抗い叫んでも、我が声は粉砕機の音にかき消される

昇格ネットワークは私を認めたが、現実を変える力は与えられなかった。私はそれを呪った

やがて身体が粉々に砕かれて頭部だけになった時、私は光を見た

眩しく輝く、純白の光

白い光があふれ、周囲の何もかもが崩壊した。ルナ様が我が眼前に降臨され、昇格ネットワークの力をお示しになったのだ

その力の先にこそ、全てを超越した法則が存在する

私はその時から、正式に昇格者の一員となった

うんうん、初めて君に会った時のことはよく覚えてるよ。実に面白かったからね

ふん、好きに言えばよい

それらの経験を経て私は理解したのだ。本質を強化しても、現実に反映されることはない

それで、あの手この手で機体を改造してるってわけか……

凡俗は血のにじむような努力を重ねて強くなるしかないのだ

誰もがルナ様のように、昇格ネットワークの力を完璧に使いこなせるわけではないからな

ふーん、そう……

ふん、ヤマイヌ相手におしゃべりがすぎたようだ

もうすぐ次の任務だ。他の装備も調整せねば

確か、空中庭園からルナ様のお姉さんを取り戻すっていう……

ロランは夜空を見上げた。きらきらと瞬く満天の星が廃墟を淡く照らしている

地球が崩壊して宇宙に消散する……?ちょっと味気ないなぁ

でも確かに、君が描写してくれた光景はいまだかつて見たことがないものだ

そこが、君の言う「本質」的な違いってことかな?

ふん

君は……昇格ネットワークの「本質」を理解しているのかい?

知らん。知る必要もない

代行者のルナ様が全てをご存じなのだ。我々はただ、昇格ネットワークに一切を捧げればよい

ガブリエルは行く手を塞いでいた瓦礫をどかし、去っていった。夜空を見上げていたロランは、視線をガブリエルの背中へと下ろした

本当に一切を捧げるのかい?昇格ネットワークのために?