報告!宇宙ステーションの視界外攻撃、まもなく着弾!要撃成功率73%!
セリカ、ただちに通達だ!各部署、衝撃に備えろッ!!
了解ッ!
…………
激しい衝撃に襲われたあと、アラートは解除された
要撃成功率は低下する一方だ……
これ以上攻撃が激しくなれば、空中庭園は高度を上げるしかない……地上との通信がますます脆弱になるな……
セリカ、被害状況の報告を続けてくれ!
了解
ふと司令室の扉が開き、研究者らしい白衣をまとった若者が現れた
観測結果を分析したんだがな――おおっとッ!?
空中庭園科学理事会最高級技術官アシモフは、司令室に足を踏み入れると同時に、何者かに後ろから強く押されたようだ
どけってのッ!!
おい!お前、このッ――
カレニーナか。何かあったか?
それはこっちのセリフだ!!なんでこれっぽっちも動きがねぇんだよ!?
一体いつになったらあの宇宙ステーションはおとなしくなる!?このままじゃ……!!
「例のアレ」が使えねぇだろうが!
焦るな、前に試しただろう?我々が行使しうる全攻撃手段をもってしても、あの宇宙ステーションを外部から破壊することはできん……
今回の攻撃をしのいだら、改めて上陸作戦を開始する
上陸部隊が内部から敵を瓦解させ、弱点を見つけたところで君の出番だ
おい待て。なぜこいつが「例の物」を操作してる?
コスモス技師組合のご指名でね。指名理由は……爆発させるのが得意だから、ということだ
ふざけた理由だな……ボタンひとつ押せば済む話だぞ?
人類は、古くは21世紀から自動化の時代を邁進してきたんじゃあなかったか
精密制御はそんな簡単じゃねぇ!ボタンひとつで上手くいくわけねぇだろ!
わかんねぇんなら、今から見せてやろうか!?
ふん
…………
とと、ところで!グ、グレイレイヴンなんですが!
カレニーナはキャノンを持ち上げようとしていた手を止めて、セリカを振り返った
そう!そうだ!連中はどこ行きやがった?
セリカは巧みに話を逸らしながら、カレニーナをマスターコントロール室へ誘導する。アシモフは不満そうに白衣を払った
ハセンは眉間を揉みながら思慮にふけっている
……あの宇宙ステーションの大規模な信号干渉については把握してるよな?干渉の強弱は周期的に変化しているんだが……
その強度が、まもなく史上最低値に達するぞ
言いたいことはわかった
そうか。なら、人を回して欲しい。科学研究衛星を宇宙ステーションにギリギリまで近づけてくれないか。またとない研究の機会を逃したくないんでな
……人手か
いいだろう
安心しろ、やるだけの価値はある
なんせ今回の敵……パニシング解明の糸口になるかもしれないんだ……
指揮官、宇宙ステーションまであと300kmの距離に到達しました
任務報告によれば、この辺りからパニシングに侵蝕されたドローン群が現れるようです……
安心してください。しっかり護送しますから
ありがとうございます
やはり乗り物は苦手だ……この制御を奪われたような感覚……
指揮官、大丈夫ですか?
宙空両用機「フェンリル」は構造体が操縦する前提で設計されていますから
搭乗するだけでも、生身の人間の身体には負担が大きいと思います
どこか具合が悪くなったりしたら、必ず私に言ってくださいね
どんな風にでしょう?免疫血清も医療セットも全部持ってきてますから!
リーフはスキャン検査をするかわりに、こちらを支えるように手を差し伸べてきた
ズバアァァァーーーンッッ!!!
指揮官!!
ど、どうしたんですか!?
友軍機が被弾し、隊列から離脱していく
踏ん張ってください!やつらはこちらで引きつけます!
何発かの砲弾が機翼を掠り、後方で爆発した
侵蝕ドローンだ。複数いる。かなりの速度で迫ってくるのが目視できる
スゥン――
護衛機が侵蝕ドローンを引きつけ、後方で激しい戦闘が始まった
グレイレイヴン搭乗機は全速でエリアを突破してください!方向転換しないように!
…………
……あなたたちの任務は、あの宇宙ステーションに上陸することなんですから!
……エンジンは出力を上げ続け、戦闘の喧噪と無線信号が瞬く間に遥か後方へと消え去った
やがて減速を完了すると、目的地はもう目と鼻の先だった。件の宇宙ステーションが、コックピットの視界を覆っている
大きい……空中庭園よりは遥かに小さいけど……
ですね……
友軍は見当たりませんね……信号も……
信号が役に立たない以上、はっきりとはわかりませんが……僕たちが一番乗りだとは思えませんね
指揮官、大変です!多数の兵器にロックオンされています!
宇宙ステーションの近接防御兵器……道理で機影が皆無なわけだ
宇宙を単機で漂うグレイレイヴンに向かって、何本もの鋭い光線が襲いかかる
攻撃が来ます!
ドォォォォ——ンッッ!!!
くっ、被弾しました……これはもう不時着するしか……
指揮官!キャビンが破損しました!このままでは空気が――
すぐに作戦用宇宙服を!!
作戦用宇宙服が起動し、気圧が下がる前に視界をヘルメットが覆った。服の内部がやや過剰なほどの酸素に満たされる
————……!!
宇宙服の高い気密性のせいで、ルシアが何を言っているのかも聞こえなくなった
ルシアは慌ててハンドサインを送ってくる。マインドビーコンで通信しようということらしい
…………こえますか……聞こえますか?
指揮官のバイタルは良好です。負傷もありません
問題ありません
突っ込みます!ハードランディングしますよ!