Story Reader / 叙事余録 / ER15 あたたかな余光 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER15-24 カペナウム

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アジャールの死に伴い、訓練場の混沌も徐々に収まり、元の状態に戻りつつある

目に映る見慣れた景色は、記憶の中の景色とほぼ変わらない。カムイが人間だった頃、ここで過ごした日々に戻ったかのようだ

……アジャール?

その呼びかけに応える者はもういない

場所は変わらない。だが人は変わる。ここはもう、彼が懐かしんでいた頃の故郷ではない

カムイは胸の装置に手を当て、そこから伝わるエネルギーを感じ取った。アジャールに切り取られた意識海を取り戻し、彼の力はついに完全になった

これからは大切な人や出来事を忘れることはなく、意識海振とうのせいで悪夢に囚われることもない――彼はとうとう本物の太陽になった

……しかしなぜ、彼は少し寒いと感じているのだろう?

天井から降り注ぐひと筋の光は彼を温めはせず、期待していた燃えるような熱さが訪れることもなかった

カムイは迷い、確信できないでいた……彼は本当に憧れの太陽に追いついた?あるいは太陽とは本来こういうもので、理想に囚われすぎて現実との差を見分けられないのだろうか?

彼はかつて自分と肩を並べて走った人々を懐かしんだ。最初はよそよそしく、ぶつかることもあったが、最後は皆で一緒に歩くことができた人々

昔も今も、彼はそんな賑やかさに慣れていた。しかし今彼は、ひとりきりで歩いている。日は翳り、皆が彼の側から離れていくからだ

彼は本当に自分が欲しかったものを手に入れたのだろうか?

太陽を追いかけるこの旅で、かつてともに歩いてた人たちは――ある人は灰に焼き尽くされ、ある人は焼かれて鬼となった

そして今、ここまで来たのは彼ひとりだけだった

彼の肩に手が置かれた。その瞬間、たくさんの温もりが冷たい金属の体に広がっていった。カムイは自分の心も少し温かくなったように感じていた

……[player name]、俺が今、何を考えているか、わかるか?

小さい頃、母さんと父さんがいくつか物語を聞かせてくれたことを思い出したんだ。あの頃、俺はとても不思議に思ってることがあって

「太陽は空の上でいつも独りぼっちで浮いてる。何十億年もずっとひとりだなんて、悲しくならないのかな?」

「近付く人は焼かれて灰になっちゃうし、ずっと側にいた人も、見慣れない姿へ変わっちゃう」

「誰も見ていない時に、こっそり隠れて泣きたくなることはないのかな?」って

カムイは首を振った

何回も訊いたんだけど、答えは毎回違ってた

最初に言われたのは、それが太陽の役目だからなんだ、って。だから太陽は頑張って耐えなきゃいけないんだと

その次は、そんなことは太陽自身にしかわからない。太陽に追いついた時、自分で訊いてみればいいって言われた

最後は……俺がしつこく訊くから面倒くさくなったんだろうな。別の遊びで俺の注意を逸らしたんだ。遊び疲れてベッドでぐっすり眠り、俺も翌朝にはこの質問を忘れてた

でもさっき……突然思い出したんだ

多分この答えの出ない問いがずっと俺を追いかけ続けて、自分自身で向き合えって言っているのかもな?

俺が……満足する答えを出せるまで

子供の言葉は無邪気だが、時に驚くほどの純粋さや残酷さがある。曇りなく澄んだ子供の目だからこそ、言葉の虚飾を見抜き、大人たちが隠そうとした本質を見破る

彼らは太陽の偉大さを強調したかったのに、カムイは太陽の孤独さを気にしていた

それがカムイが太陽を追い始めた理由だった。彼はこの燃える円環のループをどこまでもひたすら歩いていた。昼から夜へ、灼熱から冷却へ

堂々巡りの末、彼はやはりこの場所に戻り、未完成の思考を補完しなければならなかった。そうすることでようやく、カムイはこの旅を終わらせることができる

……そして今、彼が欲しかった答えを訊くべき人は誰なのだろう?

俺自身に……訊く?

……俺は悲しいか?寂しいか?

……それはそうだ。少なくとも最初はそうだった

そうでなければ、あの悪夢が生まれるはずはない

不変の愛とは必ずしもいい言葉ではない。自分にしか理解できない枷にもなる。人は受け取った愛を忘れられず、愛が去ったあとの苦しみと憎しみを手放せない生物だ

温暖な状態に慣れた人は、氷の洞窟に放り込まれることに耐えられない

ただ――この寒さは一時的なものだ

昔だったら、俺はみんなを思い出すことを意図せず避けようとしたかもしれない。忘れたふりをすれば、気にしなくて済むから

でも俺にはできなかった。目を閉じて夢を見た時、明るい太陽を見た時、この世の素晴らしい瞬間を見た時……

全てがみんなのことを思い出させる

そのうち、俺はあの人たちの笑い声や喜び、俺たちが一緒に過ごした幸せな日々だけを覚えているようになった

その時、俺は思ったんだ。みんなは離れたわけじゃない。ただ別の形で生き続けているんだ

……ここに

カムイは再び胸に手を当てた。そこにあるのは黄金色のエネルギーだけではない。彼らもそこで生き、永遠に彼とともにいる

カムイ

何十億年もの変化の中で、高い山は平地になって、海は枯れて畑になる……

カムイ

でもその人たちが太陽に残したもの、たとえそれがひとかけらの石っころや、たった1滴の水であっても、太陽はきっと覚えてる

カムイ

太陽はそういったものと一緒に、この世界をずっと照らし続けてる

カムイ

だからあの人たちも離れることなく、太陽と一緒に理想の中の未来を見届けられたんだ

だから俺は思うんだ……そんな太陽なら寂しいもんか、独りぼっちじゃないって!

「ゴォォォ――」

カムイはこちらとの話の途中、建物の外の動きを感じ取った。カムイには聞き慣れた音のようだ。彼は穴の下まで歩き、音の正体を見極めようとした

[player name]――

聞こえたか?外に何が来たのか、一緒に見に行こうぜ!!

え――っ?何だよ、誰が来たかわかってんの?

……カムイ!

一番前を走るカムが、最初にカムイに駆け寄った。その後ろに続くクロムとバンジもカムイの方へと駆けてくる

あっ!!カム、隊長、バンジ……

みんなどうして――

ギャッ!!痛ッ、痛いってば!!

3人に近付こうとしたカムイは、皆がいる理由を訊こうとするより先に、カムに思いきり頭をはたかれた

よし!辛うじて無事だな、死んじゃいないらしい

カムはカムイの前に仁王立ちになり、彼を睨みつけた

初手からヘッドショットかよ……マジで痛ぇ……

抜き打ち検査だ、大馬鹿め!直接手で試した方が、ごちゃごちゃ検査するより手っ取り早いからな

だ、だからってそんな全力で叩くのアリかよ!こんな強く叩かれたら、無事だった頭も壊れるって――

お前の頭なんて、俺が叩かなくてもとっくに壊れてるだろ?生きてりゃ御の字だ!

隊長――隊長ぉ!早く隊長命令でカムを止めてくださいよ!

無理だな。それとお前の言葉で別件を思い出した――

空中庭園に帰還したら、まずは隊長権限でアシモフさんに依頼し、お前の総合的な検査をやってもらう

検査結果が出てお前に何も問題はないと確定するまで、自由行動は禁止だ

はぁぁ!?ダメダメ、そんなの断固拒否だ!遊び動けなくなるなんて俺、退屈すぎて死んじゃうよ!!

そうか。じゃあバンジとカムの提案通り、ここで機体検査をしよう。お前の無事が確認できれば、自由行動を許可する

いいよ、出発前に僕たちがやったのとまったく同じ検査だから

えっ?ア、アハハ……大丈夫大丈夫!その気持ちだけ、ありがと、サンキューな!

あーっ、長く離れてたらなんだか超~アシモフが恋しいな!帰ってからあの人にバッチリ検査してもらおっと!

あっ、そうだ!任務任務!まだ任務を完了してなかった![player name]、だよな?

急げ急げ、早くファウンスとの通信装置を見つけないと!さーて、いっそがしい――

カムイはそう言って走り出した。瞬時にカムがその後を追う

――逃がすか!!カムイ!!

逃げてないって!!マジだよ、通信装置を探さないといけないんだって!

ふわぁぁ……カム、カムイを捕まえたら起こして

……とりあえずパイロットに連絡する、この近くの安全区域で待機してもらおう

彼らは太陽の光に向かって走り出した。それはかつてのこの場所の光景と同じだった。かつてここにいた少年少女たちは、遊び、笑い、冗談を言いながら未来を思い描いていた

今も昔も一番元気に先頭を走っているのは、カムイだった

おし、完了っと!

ファウンスの通信装置、破壊されてなくてよかったー、セーフ!マリスも持ち去ってなかったし。これでミッションコンプリートだ!

……あれ?これ、なんか見覚えが……

通信装置をクロムに渡したあと、カムイは更に奥まった場所に隠されているものを見つけた

彼はふと何かを思い出したのか迷わず手を伸ばし、暗い隅に埋まっていた物を取り出した

……こういう物って金庫に入れて、ちゃんと保管するべきじゃないのか?

そんなのつまらないじゃん!今みたいに宝探しみたいにした方が、スリルやドキドキがあって面白いだろ?

……ただの録音テープにドキドキも何もないだろ?

なんだよー、ノリが悪いなあ。アジャール、これは俺たちエゼットの宝物なんだぜ!

もし将来、俺たちの中の誰かが黄金の太陽になったら、これはレアな記念品になる。いや、ウルトラレアだな!プライスレスな宝物だよ!

カトレフだってそう思うだろ!

うん。レア、プライスレスな、宝物

……じゃあ録音の準備はいいか?スタートボタンを押すぞ――

……ん?[player name]、どした?

……ありがとう、みんな

皆はカムイに何も訊かずに、彼<彼ら>だけにしようと示し合わせたかのように、その場から出ていった

カムイは例の録音テープを持ち上げ、データを自分の端末に転送した。何年も経っていたがテープの保存状況は良好で、トラブルもなく再生することができた

リハーサルもなしにいきなり本番か?誰が先にやる?

リハーサルしたら意味がないだろ!アドリブがいいんだ、思ったことそのまま話そう

……じゃあお前からだ

――コホン!エゼット諸君、おはよ……

おっと……いつこれを聞くか、わからないな

じゃ……おはようにちばんは!とりあえず全部混ぜたから、オールタイムオッケーだ!

今、諸君が聞いているのはエゼットの黄金の太陽の種の候補者3人……つまり俺たち!!からの素晴らしいメッセージだ!

それじゃ、まずは挨拶から!俺はカムイ!!へへへっ、ほら、ソッチの番

俺は、カトレフ

……アジャールだ。カムイ、余計なことはもういい、早く本題に入れ

急かすなって、今から本題に入るから!

彷徨う太陽作戦の開始以来、エゼットは伝統であるファミリーデーをやらなくなってしまった

現在俺たちは、もっと重要な段階に入り、再び基地本部に戻ることになった。だから俺たち、決めたんだ……

エゼットにファミリーデーの伝統を復活させ、もいっちょ、新たな意味をプラスする!

俺たち3人はここで誓う。いつか誰かが転化に成功し、黄金の太陽となれたら……

その日を、俺たちエゼットの新しい、そして永遠にずーっと変わらないファミリーデーの日とする!

というわけで!このテープにまずは前半だけを録音しておく。残りの後半は太陽になった人が録音を完成させるんだ

「ピピッ」って通知音が、前半と後半を区切る合図だから!

よし!じゃあ後半の舞台を任せたぞ、未来の黄金の太陽くん!通知音の後に、発言を残しておいてくれ

ピッ――

……なんでお前が通知音を口で言ってるんだ?バカなのか?

えええなんで!!こういう儀式ぽいのが大事なんじゃん。アジャールもほら、俺と一緒に、ピッ――

言うかよ!!早く出てけよ!!

じゃあカトレフ!俺と一緒に、ピッ――

ピッ

カムイ

……ピッ

エゼット諸君、こんにちは。ここからが録音の後半だ

俺はカムイ

録音の前半で言った通り、これ以降、今日という日が俺たちエゼットのファミリーデーとなった

俺は……この大切な日をずっと忘れない。これから毎年のこの日は、俺たちの伝統で祝うことにする

みんなと一緒に

他に言いたいことは……そうだな――

長く待たせちゃってごめんな。だから、俺がみんなに対する約束を、もう1度言葉にしておくよ

こんにちは。カムイです

以前、みんなに約束したこと、やっと、やり遂げたんだ

今こそ、みんなを連れて帰る

カムイは空を仰ぎ見て叫んだ。その声は自由な雲を突き抜け、エゼットのあらゆる場所に届いた

彼は思い出した。彼がまだ子供だった頃にも、こんな光景があった。彼はいつもエゼットで一番高く、太陽に一番近いと思う場所で、空に向かって叫ぶのが好きだった

過去のカムイ

もしもし――太陽さーん――

ぼくの声――聞こえるかな――

カムイ

もしもし――俺だよ――

聞こえてるよ――

過去のカムイ

太陽さん太陽さん!いつもあんなに高くて遠いところにいるけど、どうやったら追いつけるの――

カムイ

チョー簡単!!走ればいいんだよ!!

迷わないで、振り返らないで走るんだ!!何も考えなくていいぞ、ただ全力で前へ――

過去のカムイ

じゃあ、いつかぼくにも追いつける?もしあんまり遅くなると、家族が待っててくれないかもだからー!!

カムイ

いつだって遅いもんか!今すぐ走り出せばいいんだ!!

過去のカムイ

えっ?今から?

カムイ

そう!!今から!!

ほら、俺みたいに立ち上がって、真っ直ぐに走り続ければいいだけだ!!

さぁ!ついてきて!!ほら、みんなが手を振って、お前を応援してる――

過去のカムイ

本当だ!!待って!!太陽さーん――

ぼく、すぐ追いつくからね――!!

カムイ

わかった!待ってるからな――

さあ、走り出せ!!

<i><size=38>走り出せ、カムイ</size></i>

<i><size=38>訓練場を、エゼットを、この生まれ育った鉄の砦と砂漠から走り出せ</size></i>

<i><size=38>その顔は強い日差しと風雨にさらされ、目を痛ませ、肌を焼く</size></i>

<i><size=38>それでもカムイは立ち止まりはしない</size></i>

<i><size=38>疲れても、後ろからたくさんの手が彼を押し</size></i>

<i><size=38>向かうところ敵なしだとばかりに勇敢に前へ進ませた</size></i>

<i><size=38>走り出したあと、真っ暗で泥のような夜もあった</size></i>

<i><size=38>夜はあまりにも長く、もう二度と外に出られないかもしれないと思いながら、ひたすら走り続けた</size></i>

<i><size=38>手は再び彼の側に来て燃える蛾となり</size></i>

<i><size=38>周りの小さな火花に飛び込んで彼ら自身を燃やし続けた</size></i>

<i><size=38>やがてそれが集まって松明となり道を照らし</size></i>

<i><size=38>彼はついに出口を見つけた</size></i>

<i><size=38>彼は走って、走って、とうとう恐ろしい夜を抜け出した</size></i>

<i><size=38>しかし側には誰もいない。彼らは腐った泥沼に絡めとられてしまった</size></i>

<i><size=38>振り返るな、気にするな、前へ走れと彼らは言う</size></i>

<i><size=38>彼は悔しかった。諦めなかった</size></i>

<i><size=38>振り返った。渾身の力で全ての手を引き出そうとした</size></i>

<i><size=38>しかし泥沼は誰ひとり手放さず</size></i>

<i><size=38>更には彼まで引きずり込もうとした</size></i>

<i><size=38>身動きのとれない彼は、皆を見習って自身を燃やした</size></i>

<i><size=38>骨を焼くほどの痛みで、熱いその炎が囚われた泥を焼き尽くし</size></i>

<i><size=38>彼はその隙に皆を連れてまた走り出した</size></i>

<i><size=38>しかし彼らはすでに焼き尽くされ、灰になってしまった</size></i>

<i><size=38>どうすればいい……いや、別にそうなっても関係ないではないか</size></i>

<i><size=38>彼はその灰を、自分の枯れた羽と骨に溶け込ませた</size></i>

<i><size=38>そうして彼はもっと強く、もっともっと輝ける翼を伸ばし、どこまでも遠くへ飛べるようになった</size></i>

<i><size=38>彼らはこれから一緒に、多くの、たくさんの景色を見ることができる。森も山も、海も原野も</size></i>

<i><size=38>彼は皆によって飛ぶことができた。皆は彼によって自由になれた</size></i>

<i><size=38>長い間飛び続けた彼はついに再び地面に舞い降り、自分と同じような鳥を見つけた</size></i>

<i><size=38>その鳥たちはその先で待ち、一緒に進もうと呼びかけてくる</size></i>

カム

カムイ――何をぼんやりしてる!!早くこっちに来い!!

手加減はしない。負けても泣くなよ!

クロム

廃墟の瓦礫には気をつけろ、足を取られかねない

それはそうと、このレース……どうして私も参加なんだ?

バンジ

「ビリが任務報告書を書く」からだよ。隊長が適任でしょ

まあ、僕がやってあげてもいいけど。眠れなくてヒマを持て余したら、書いて提出しとくよ

カム

お前ら、ブルったのか?この状況を見ろ、どう考えてもビリはカムイだ

いや、違うな。[player name]が入るなら……

カムイ

そうだそうだ!!俺たちがビリなんて、絶対にありえない!

へへっ、俺たちの実力をよーく見てろ!たとえ今はビリでも、必ず追い越してみせる!

カムイは皆がいるその先を見た。朝日が昇り、陽光がキラキラと輝いている

どこに家があり、何をもって家とするのか――彼が愛する人たちがいる場所であり、彼が愛する全ての瞬間のことだ

この素晴らしい世界を愛しているから、彼の家族がここにいるから、彼は皆を家に連れて帰る

カムイは背後にいる指揮官に手を差し伸べた。その人が彼に温もりを与えてくれた時のように

カムイ

――行こうか、[player name]!

一緒に、家に帰ろう!