――カムイ?
アンタは……
彼は目の前の人の顔をはっきり見ることができなかった
まったく、またひとりで先に行ったのね。何度も言ったでしょ、他の人は足が遅いんだから、ちゃんと待ってあげてって
どんな時でも、どんな状況でも、家族は誰も置き去りにしないで
家族……?俺の家はどこだ……
それに、アンタ。一体誰……?
しかし目の前の人は彼の問いに答えることなく、身を翻して前へと歩き出し、その姿は遠くへと消えた
世界政府は決してお前たちを見捨てるつもりはない。ただ……我々が一歩遅れてしまっただけだ
低く掠れた男の声は、先ほどの荒っぽい女の声とは違っていたが、やはり顔は見えなかった
もしかしたら、いつかお前たちも同じことを経験するかもしれない。その時になれば、これが誰のせいでもないということがわかるだろう。俺も、お前たちも
だが、やはりお前たちにひと言だけ言わせてほしい。すまない
「すまない」なんて聞きたくない!!!
言ったよな、カムイ!もし俺たちを置いて先に行こうとしたら、誰ひとりお前を許さないって!
離れちゃ、ダメ
……約束を忘れるな、カムイ。俺たちを見捨てないでくれ、この家を見捨てないでくれ
アンタたち……
一体何が起こったんだ?誰でもいいから、真実を教えてくれ
しかし、彼らはもうすぐ去ってしまう。何の未練も残さず、彼を一緒に連れていくつもりもない
まるで、彼こそが捨てられた人のようだった
――待って!!
彼は前に走り出して追いかけようとした。しかし、その距離はなぜか無限に広がり、全力で走っても、結局追いつくことはできなかった
まだ足りない、もっと早く――彼の心は、ほんの少し遅れれば、何よりも大切なものを失ってしまうことがわかっているようだった
「ドン!!」走っている途中、障害物につまずき、カムイは勢いよく地面に倒れ込んだ。彼の腕は本能的に前方に伸び、とっさに何かを掴んだ
彼はついに追いついたのだろうか?
カムイは今度こそ彼らの顔をはっきりと見られることを願いながら、僅かな望みを抱えて顔を上げた
?!!!
彼らは自分と一緒に冷えきった硬い床に倒れ込んでいた。息はなく、命の気配もない――彼らは完全に死んでしまっている
カムイがその亡霊たちに呑み込まれかけたその瞬間、[player name]が彼を深淵から引きずり出した
……
ソルエネルギアが意識海の一部を修復したのか、記憶への深い探索がしやすくなっている。深さが増すにつれて、離脱時に感じる虚無感もますます深くなっていった
感情が本物であればあるほど、本人はその中に深く没入してしまう。少なくとも彼のその本能的な思考には実感が伴っていた
テスト完了、該当データ記録中。レポートの作成はまもなく完了します。所要時間は30秒
……レポート作成完了、ご確認ください。アドバイス――次回のテストデータを事前に設定しますか?
事前設定は不要、確認しました。テストシステムは休眠状態に入ります。使用する場合は手動で再起動してください
報告はすでにお前たちの端末に同期したからいつでも確認できる。これは地上降下前の最後の検査で、データはデータベースに保存される
簡単に言うと、今回の結論は――暉力機体の意識海振とう問題はまだ未解決で、リスクがある。だが他の指数は基準を満たしており、地上への降下は承認された
その程度の古い資料では、現在のカムイの機体の参考にはならない
バーリーコーン計画で発生した状況は、更に極端で危険だった。「免疫」の失敗が逆襲を招いたと理解してもいい――ファイルでは、このようなメンバーを「黒点」と呼んでいた
該当者は強い遺伝子を持たず、最終的に光冠ゲノムの負の分子に同化し、体の免疫力が低下する。この体質のせいで彼らはパニシングに侵蝕されやすく、急速に衰弱し最終的に死ぬ
当時、世界政府の黒点への対処方法は……詳細には記録されていないが、恐らくそうまともなものはないだろう。ほとんどが見捨てられたと思われる
さて、話に戻るぞ。今、お前たちにできるアドバイスは――今の状況で地上任務を遂行すれば、容易に振とうに陥るという覚悟を持て、ということだ
以上だ。それでもお前たちが任務に影響を与えないと判断したなら、俺はもう何も言わない
理論上、意識海の安定を促進することはできる。だがカムイの意識海の根本的な問題は「粉砕」にある
意識リンクはぐらついた建物を安定させることはできるが、崩壊したものを元通りに戻すことはできない。お前であっても無理だ、[player name]
……もちろん、現時点ではこれらはあくまで推測で、結論じゃない。お前たちがエゼットに赴き、調査する過程で、更に多くの手がかりを見つけられるかもしれない
カムイの意識海の損傷は空中庭園に来る前からすでにあった。恐らく、彼がバーリーコーン計画で受けた改造と関係がある
念のため、この簡易検出器を持っていけ。これで少量のエネルギーの使用状況を検出できる。結果が金色で表示されれば、それは摂取後も大きな問題は起きないことを意味する
だが赤色になった場合、それはパニシング濃度が危険値を超えたということだ。ただちに接触を中止しろ
前に適応過程で、ソルエネルギアでそういった損傷の修復を試したっけ。もしかしたら、それもひとつのやり方?
成功する可能性はある。過去の改造で、お前の意識海は光冠ゲノムと融合している。そして、末端の欠けた部分に残された物質の構造を見るに、それはソルエネルギアと同源だ
だが、今お前に注入している大部分は人工エネルギーだ。もしエゼットで原初のエネルギーを取り込むことができれば、損傷した部分が再生するかもしれない
もちろん、これはあくまでひとつの可能性にすぎない。やはり、地上に降りる前に他の防御策を事前に準備しておく方がいい
防御策ってのは――もしかしたら、前回のテストで言ってた「意識のアンカーポイント」のこと?
そうだ。マインドビーコンやリンクのような方式で、指揮官や構造体がお前の意識海内にアンカーポイントを設定できるようにする
アンカーポイントの形式は基本的に特殊な「情報」だ。作動すると意識海は一時的に回復する。この手段はより迅速かつ効果的で、リンク以外の代替案として非常に適している
……でも、もし被験者の意識海が深刻な損傷を負うと、その破損したアンカーポイントは反動で設定者にも影響を及ぼすって言ってませんでした?
最初にアンカーポイントを埋設する過程でさえ、彼らの意識海には負荷がかかり、負の影響を受け始めるのに
どんな手段にもある程度の副作用が伴う。これがリスクが最も低い対策なのは間違いない
――うん、それはわかってる。でも、リスクはこれ以上拡大させない方がいい、でしょ?
たいした問題にはならないだろうけど。ま、俺が背負えばいい話だ
……
アシモフは「やっぱり」という表情を浮かべ、それ以上カムイと話そうとはせず、代わりにカムイの背後に立つ指揮官に視線を投げかけた
それでは、最後の機体検査を開始する。予想時間は――
同時に指揮官の端末が振動した。さっと見るだけでメッセージの内容と送信者を確認できる短いものだった
5分間
まず意識海リンクから始めよう。[player name]、お前も手伝ってくれ
これは本来の手順のひとつで、カムイは断る理由を見つけられなかった。アシモフと指揮官は暗黙の了解で、5分で終わるはずの検査をなんと15分も引き延ばした
アシモフに目で訊ねたが、彼は白目をむくのをこらえるようにして、目を見開き「俺に訊いても知らんぞ」という表情を浮かべた
指揮官――アシモフ――俺には全部見えてるからな――
そんなことをしても騙されないぞ!機体はもう問題はないんだろ?時間の無駄だ、さっさと任務を始め――
――カムイ
その聞き慣れた声を聞いた瞬間、びくりとしてカムイの気勢は一気にしぼんでしまった
た、隊長……?ハハ、どうしてここに……
えっと、その――俺と[player name]は今から、急いで任務に出なきゃいけないんだ。何かあるなら、帰ってから話しましょ!じゃあそういうことで!
カムイは指揮官の手を引っ張って走り出そうとしたが、数歩も行かないうちに、カムに道を塞がれた
お前の新機体は――
適
応
前
だ
ろ
行かせるか!
知ってるよね?たとえ手動で隊長への報告通知をオフにしても、システムはデータを自動送信する
データを受け取った時、ちょうど隊長はストライクホークの休憩室で端末をスクリーン投影していて、僕とカムもその場にいたんだ
で、偶然にもアシモフが「意識アンカーポイントの提案」というメールを送ってきて、カムイの拒否申請が添付されていたんだよね
我々は皆、意識のアンカーポイントがお前の助けになることを認めている。そして、報告書が指摘した問題も踏まえて……皆でここに来ることに決めた
意見は尊重する、カムイ。だがひとりで危険に身をさらすのを黙って見ているわけにはいかない
我々が信頼しているように、お前も私たちを信頼してほしい
ストライクホークの全員の顔つきは真剣そのものだ。彼らにとって、この事態を軽く考えられるわけがないからだ
ごめん――そんなつもりじゃなくて、ただ……
意識のアンカーポイントはそっちにも影響を与えるんだ。もし誰かが代償を負わなければならないなら――その役目は俺がやりたい
信じてくれ、俺は必ず任務をしっかりこなして、すぐに戻ってくる!必ず――
――やかましい!ぐだぐだしつこいぞ、俺たちを甘く見るな
もし今、立場が逆で俺たちにお前の助けが必要だとして、お前はためらうか?
お前みたいな直情型バカなら絶対にためらわないだろ!お前は自分がそうするのに、なぜ俺たちがそうしないと思うんだ?
我々は決して責めてないんだ、カムイ。これはお前の私たちに対する約束だと考えろ。そして、我々から提供できる保障でもある
約束してほしい、必ず自分を守ると。もし目的の物を見つけたら、私たちが渡したこれらとともに、必ず無事に帰ってこい
こんな時だからこそ、ストライクホークでお前を守る
忘れないで。どんなことがあっても、カムイはストライクホークの一員なんだ
俺は……
カムイは一瞬ためらったが、最終的に、あれこれと考えていた言い訳をすっぱり諦めることに決めた
わかった、じゃあ約束な!みんなちゃんと防護措置をしっかり整えておいてくれ!安心していいよ、俺は必ずアンカーポイントを守るからさ。絶対に誰も傷つけない
おい、いい加減にしろカムイ。お前いつからそんなに未練がましくなった!?
カムは煩わしそうにガリガリと頭を掻いた。いくら引き延ばしても結局、任務の時間を遅らせることはできない
お前、さっき謝ったな。埋め合わせはきっちり書いておく。帰ったら必ず実行しろよ!
俺には20回分のオヤツ使い走り、バンジには20回分の睡眠カプセルの運搬、隊長は……まあいい、もう忘れた!帰ってきてからだ!
20回って――そりゃヒドイよ、多すぎだろ!
その時カムとバンジが同時にカムイを睨みつけ、カムイはそれ以上文句を言えなくなった
隊員の団結と友情の瞬間を邪魔してすまんが
輸送車両に向かう時間まで残り30分だ。検査は俺が続けるか、それともそちらでやるか?そうだ、それと意識アンカーポイントの件はもう決めたか?
言うまでもないさ――
人員の数は力の強さだ。検査もより丁寧にできるし、意識のアンカーポイントの件も、ついでにやっておこう
え!?ちょちょちょ、ちょっと待って、カム、バンジ、俺に近付か――
フン、遅いな!!
何せ素人だからね、ちょっと力加減がうまくいかないかも……まあ、我慢してよ
カムとバンジが一緒にカムイを片隅にずるずると引っ張っていった。彼はこれまでで最も「じっくり」と機体パーツの検査を受けることになった
そうか、じゃあ私も前のテストレポートをもう一度確認するとしよう
そんなぁ――指揮官――!?
指……揮……官……
30分があっという間にすぎ、カムイは無事に輸送車両の中に座って出発を待っていた
30分前の「蹂躙」を考えれば、今の状況は無事という表現がふさわしい
カムとバンジには力加減ってものがない。それにあんたもまさか俺を「見殺し」にするなんて……
総司令が当任務に特別な通信権限を付与しました。おふたりは認証を完了させ、正常に動作するか確認してください。問題がなければ、出発できます
了解
カムイはにやけた顔でリラックスしていたが、すぐさまそれを改め、自分の端末を操作し始めた
身分情報を検証中、しばらくお待ちください――
検証成功。暉力の機体に特別通信権限が開放され、回線設定が完了しました
回線はデフォルトで「SU-0」と命名されています。名前を変更しますか?
……いや、このままでいい
その名前を聞いたカムイは、明らかに少し動揺した。しかしすぐに気持ちを落ち着かせ、ためらうことなく「キャンセル」を押した
ああ、それは当初のバーリーコーン計画で成功した、最初の黄金の太陽に与えられるIDだ
暉力の開発段階でもこのIDで呼ばれてた。今回の回線名も恐らく由来は同じなんだろう
当時のエゼットではIDを刻んだ勲章をデザインしていたような記憶がある。それは初代の黄金の太陽のためのもので、手に入れた者は胸に着け、人に見せびらかしたんだ
多分――こんな風に!ちゃんと思い出せないけど、もしかしたらその時の俺も、勲章を触ったことがあるかもな!
カムイはそう言いながら、大げさな仕草で勲章を着ける真似をしたが、真っ平な胸に触れた瞬間、微かに表情が固まった
そう、今の彼は勲章など持っていない。過去も同じで、持ったことは一度もなかったのかもしれない
彼は指で胸に3文字を書きながら、それが意味するものを思い返していた
「Second-Unnatural-0」、その正式名称だ
最初の2文字は、長い付き合いだ。バーリーコーン計画の第2期改造者として、人工的介入で後天的な変化を始めた俺たちは、ずっと同じ2文字をつけられていた
よく考えてみると本当に不思議だ。たった2文字で、俺がエゼットで過ごしたほとんどの時期を表現できるなんてさ
正確には「初代の黄金の太陽」専用ってこと!エゼットでは「0」の形が太陽の輪郭に似てるし、無限の可能性を象徴してるって考えてた
初代の黄金の太陽から、人類は新生と突破の希望を得た。俺たちは新しい力を手に入れ、「太陽」を無限に生み出し、「パニシング」という名の闇を払いのけたんだ
これは他の変革者たちが決して持つことのできない特別な数字であり、栄光だ。それはカムイがかつて誇っていた栄光の証だったはず――もし、彼が本当にその太陽だったのなら
この任務を伝えられてから何度このIDを聞いたことか。もう耳タコだよ!
指揮官も同じ気持ちじゃない?だって――きっとあんたもこのIDを何度も聞いてきただろうし
エゼットとファウンス対応のマッチングシステムによると、「SU-0」、これは[player name]の専用兵器なんだ
エゼットの全メンバーはファウンスに仕える使命を持ち、最高の成果を上げた黄金の太陽は、ファウンスの首席精鋭と組んで戦うべしとされた
この情報を聞いた時は、俺、驚いたし嬉しかった!あんたと俺の間に、ついに特別な繋がりができたって
他の誰も持つことのできない、あんただけが俺に与えてくれるものだ
それに、「SU-0」は強大であることの象徴だ!これからの戦いでも俺が、みんなを守る力を持っているってこと
この感覚はマジで最高すぎる。最高すぎるから……ずっとこの感覚が自分に残っていればいいのにって思っちゃうよ
総司令が言っていたあの信号が何を意味するのか、俺にはわかってる。真実が明らかになるまで、誰も俺がまだ「SU-0」であることを保証できない
もちろん、だからって俺は落ち込んだりしないよ。たとえ俺じゃなくても、きっと他にも黄金の太陽がいるはずだ。それなら誰かが人類を守ることができる
ただ……俺のちょっとしたワガママなんだけど。もし、俺が本当に「SU-0」なら、最高なんだけどな
そうだったら、ずっと思い出せないままのあの人たち……もし彼らがまだ生きていたら、俺は絶対に連れて帰る
欠けた意識海はまるで折れた骨のようだ。カムイはこの任務に希望を託し、失われた過去を取り戻し、繋ぎ合わせることを渇望していた
しかし、彼は弱き者が災難に直面した時、いかに脆いかを深く理解している。過去は疑念の雲となって、太陽の光が届かないかもしれないぞと彼に告げてきた
カムイがただの地面の泥に甘んじることなど断じてない。塵や泥は太陽にはなれず、長々と居座る闇を照らすことはできないのだ
もし彼が本当に「SU-0」でないなら、失われた夢をどうやって取り戻せる?
この任務の計画後、カムイに関連する代名詞は次第に「SU-0」というIDに変わっていった。何度も聞くうちに、彼もそれが自分だと認識するようになった
しかし今、皆が呼んでいる名前はカムイだ――ストライクホークのカムイ、空中庭園のカムイ、そして人間のカムイだ
うん![player name]、あんたの言う通りだ、俺は――カムイだ!
過去も未来も、ずっとカムイだ。この点は絶対に変わらない
もし前に何かが待ち構えているなら望むところだ、やってやるよ!
「SU-0」であれ「カムイ」であれ、必ず「彼」が成し遂げられることがある
もしその信号の情報が本当なら、エゼットには俺が救うべき人がいる……
どんな身分でもいい、俺はこう告げる――カムイは彼らを見つけ、安全な場所へ連れていける
