バンジが目前の敵を見つめている瞬間は時が止まっているようだった。あたりは静まりかえり、バンジの息づかいとカグウィルの足音しか聞こえない
(1……)
(2……)
(3。)
バンジは心の中で静かに数えた
動きを読み、方向を計算し、角度を調整する
ストライクホーク隊の暗号化チャンネルを通してクロムとカムイが遭遇した全てをバンジは知っていた
テッロの仇を討つため、アーノルドに託された願いを裏切らないため、周りの仲間のために
更に大事なのは、自分のこれまでの信念を貫くこと
この時代は悲しい。人間は地球に帰還するために計り知れない犠牲を払った
地球に帰還するという偉大な目標は自分には合わないことを、バンジはずっとわかっていた
しかし自分の手が届く範囲に、その目標のために犠牲になる仲間がいるなら、バンジが行動するのは自明の理だった
仲間を助け、敵を撃ち、戦場で決して倒れない旗になる。それが今の自分にできる、先に逝った者に対する最高の恩返しなのだから
……終わった
ストライクホーク3人による一斉攻撃で、カグウィルはもはや最初の鋭さを失っている
バンジはまるで小隊の潤滑剤のようにクロムとカムイの攻撃の間隙を完璧に補った。彼の攻撃は致命的ではないが、いつも必要なタイミングでヒットする
カグウィルは防戦しながらも自分が3人に攻撃されていることを忘れていた。暗黙の了解で攻撃するチームワークが鉄壁を築き上げている
カグウィルの攻撃が弱まり、無防備になった
一気にやるぞ
――バンッッ!!!!
銀色の光がバンジの銃口から吹き出し、逃げようとするカグウィルにまっすぐに向かっていく
クロムが大鎌を振り、青色の電光でその銀色の光を包んだ
光は計算したようにカムイが大剣を振り落として傷をつけた部分に命中し、カグウィルの頭を貫通した
は、「歯車」が……錆ついてしまった……
最後にかすかな声でうめき、カグウィルは勢いよく地面に崩れ落ち、完全に動きを止めた
今回も大変なことをやってしまったな
ええ……そうですね
ハハッ、でも俺たちで解決したし、いいんじゃん?
まあね。さあ、今回の任務目標を回収して撤退しよう
バンジは狙撃銃を背中に背負い、カグウィルの残骸に向かって歩いた
ストライクホークの3人は気づいていなかったが、一筋の淡く白い光が建物の照明に混じって3人を照らしていた
バンジは文書の処理を終えてから、アーノルドがいた場所に戻った
だがバンジが着いた時にはアーノルドはすでに姿を消しており、あのボール型ロボットとニシンの缶詰だけが残されていた
バンジがロボットを軽くなでると、目の前にアーノルドの映像が浮かんだ
あばよ、新時代の「人間」
これは俺の個人的な感想だが――
君らは、俺が黄金時代の各都市で見てきたどの人間よりも人間らしかった
彼らが持っていなかった情熱と、いきいきと躍動する心を持っている
俺のような旧時代の人間なんて気にするな
旧時代のやつらは時代とともに風の中に消え、土に埋められるべきだ
過去の我々人間は冷たく、弱くて脆かった
全部足しても君らの十分の一にも及ばないだろう
今の君たちが一番真実の存在なんだ
宇宙にいくか、自分のために地球を取り戻すか、どっちでもいいさ
構造体たちの時代を切り開く時だ
そこの缶詰はこの旧時代のさまよえる魂からの小さな祝福だ。人生でたまには、いつもと違うことを体験してみるのもオススメだぜ
ははは、じゃあな、ヒヨッコ
アーノルドが最後の言葉を言い終えると、バンジの手の中のボール型ロボットは完全にエネルギーを失い、永久に沈黙した
ああ……借りができちゃった
バンジはロボットを気密ハッチの横に起き、ニシンの缶詰を拾い上げて、遠くから自分の方に歩み寄るカムイとクロムを見た
おーい、バンジー、帰るぞ~
……すぐ行くよ
空中庭園の輸送機が薄青い炎を帯びて夜空へと姿を消した。免疫時代に陥落し、また今回激しい戦闘を経験した都市も再び静けさを取り戻した
空中庭園の輸送機が完全に空に消えたあと、ふたりの人影が都市の廃墟の上に現れた
「戦車」がやられたか
問題ありません、我々が必要な文書はすでにバックアップを完了して組織に送信されています
彼の電子脳が最後に自分の使命を思い出したんだな
なんと冷たい。仲間が目の前で死んだんですよ
錆びた歯車を残せば本体そのものに影響が出る。すぐに排除することが最良の選択だ
まあ……それもそうですね
「戦車」の清掃は終わったのか?今はまだ空中庭園の視界から隠れておかないと
とっくにやり終わってますよ
あぁ……ストライクホークのような強いやつらから「戦車」に対する認知を抹消するのは、結構な手間だった
帰ったらご褒美として最新の型番のデータ回路に交換してくださいよ
持っていってやるよ
さあ、「先達」を探しに行こう。帰還のための儀式にはまだまだ準備が必要だからな
はいはいはい、あっ、そんなに早く行かないでくださいよ、待ってくださいって