止まれ
ロゼッタはスピアを横に広げ、隊列の行進を止めた
どうかしましたか?
何者かにつけられている
敵意はないみたいだけど
当たり前じゃないか!
僕が敵意を持っているわけないだろ!
……?
……イヴァン、またこっそり抜け出してきたのか?
違うよ!わざわざ迎えに来たんだから!
マリアンヌおばさんに話したか?
…………話していないけど
ロゼッタとディアンナは視線を合わせる。それからロゼッタは溜息をつき、イヴァンを抱え上げて肩に乗せた
家を抜け出してきたいたずら小僧を確保した。家に送り返してくる
違う!抜け出してなんかない!堂々と正面から出てきたんだからッ!
ふふっ……
イヴァンの言い草に誰もが吹き出した。長時間の行軍の疲れが多少なりとも癒やされたようだ
やがて、隊列は目的地に到達した。2隻の巨大な砕氷船も無事入港しているようだ
やっと来たか、ご苦労だったな!
あんたたちに礼を言わせてくれ
必要ない。私たちは同じ目的を持つ仲間なんだから
それじゃあ出発前に、新居住地に名前をつけるというのはどうだ?
?
お前たちは新しい居住地で、他の居住地と同等の立場になる
キャランタを中継していた物資も、今後は直接届くことになるんだ
だから、名前が必要だ
それなら、「新ソフィア」ってのはどうだ?
新ソフィアか……悪くねぇ!
……ソフィア、ですか?
そうだ。俺たちは故国の首都ソフィアから北に流れ、最後にここにたどり着いた……
「ソフィア」のことはほとんど忘れちまったけどよ、名前の意味だけはいまだに覚えてるんだ……
——「天からの贈り物」
——セルゲイと同時にグレイレイヴン全員がそれを口にした
……なんで知ってる?
まさか……
?
皆さんのテントと焚き火が用意できた
今晩はしっかり休もう
よし!新しく作ったクワスがあるぜ?今夜は飲み明かそうや!
この前の宴会の続きか……また腹を壊しそうだ
極北の男が、飲まないわけないよな!
…………
居住地は温かい喧騒、焚き火、それに音楽で満ちている
このささやかな勝利は、世界が抱える問題の解決にさしたる影響も与えないだろう。だが少なくともこの瞬間、火は明るく燃え上がり、人々は楽しく歌い踊っている
麦芽と肉のにおい、コサック音楽、それに――雪原の遥か彼方から微かに聞こえる、何かが割れるような音
それは、冬の終わりを告げる音だ。最後の寒波が過ぎた雪原の雪は溶け始め、新しい春がやってくる
まだ見ぬ雪原の春は、すぐそこまで近づいている