ロゼッタ 刹那の恋の囁き
カシャ――
いい1枚
カシャ――
これも悪くない
空中庭園、中央公園の人工芝生の上。暖かな日差しがドーム越しに降り注ぎ、走り回る子供たちの笑い声が、風に乗って巡っている
その公園の一角でロゼッタは体を屈め、少し離れた場所から子供たちにカメラを向ける。小気味よくシャッター音が響き、その動きは戦場で目標をロックオンするように正確だった
うん、子供は活力の象徴だから。空中庭園に長くいるわけじゃないけど、子供が安心して笑える場所はきっといい場所。広報用の素材としてもいいと思う
そう言い終えた直後、ひとりの女の子が突然カメラの前に顔を寄せ、まん丸な頬をレンズにぴたりとくっつけた
お姉ちゃん、私を撮ってるの?
ロゼッタは一瞬きょとんとした
指揮官に「空中庭園の素晴らしさを切り取って」と言われたから、あなたたちを撮っているの
じゃあさ!
女の子は腰に手を当て、目をきらきらさせた
お姉ちゃんも一緒に撮ろう?前にもここに来てたでしょ。お名前は……ロゼッタ、だよね?翼があって、ケンタウロスみたいでカッコいい!おとぎ話の戦士みたい!
ッ……
ロゼッタは助けを求めるようにこちらを見た。どうやら目の前の少女の元気さと率直さに、少し戸惑っているようだ
わかった
うん、もちろん
そう返事をしたロゼッタは2歩ほど後ろへ下がり、エネルギーを集束させた
ロゼッタ、変形!
機械の翼が静かに畳まれ、金属製の関節が微かに「カチリ」と音を立てる。その体躯は瞬く間に人馬形態へと変形した
わぁ、本当に変わった!すごい!
一緒に写真を撮りたいな……[player name]さん、お願いしてもいい?
もちろん!パパとママがいつもあなたの話をしてるの
ねぇ、ロゼッタお姉ちゃん……英雄が馬に乗って、ビシッとポーズを決めたやつできる?
ビシッと……?
少女が言っているのは、ある名画のポーズらしい
話を聞き終えると、ロゼッタはすぐに体勢を調整した
前足でしっかりと大地を踏みしめ、上半身はまっすぐ伸ばし、片手でハルバードを構える。頭を僅かに持ち上げ、銀灰色の髪と金属のたてがみが光を受け、凛とした輝きを放つ
指揮官……この体勢、あまり長くは保てなさそう
――それはそうだ
私はいつでもOKだよ!グレイレイヴン指揮官、早く早く!
カシャ――
シャッターが切られると同時に、聞き慣れた音が響く。撮影が終わるや否や、女の子はすぐに駆け寄ってきた
見せて見せて……あれ?私の顔、ほとんど見えてないよ
本当だ、こんな小さい写りに……私が立ち上がって、画角が広がったせいね
どうしたらいい?
確かに……しゃがめば、彼女と高さを合わせられるかも
ロゼッタは前方の芝生へ戻り、体勢を調整した。前足をそっと折り、巨大な機械の体をゆっくり伏せ、背中を地面とほぼ平行にしている
ねぇ、乗ってもいい?
そう訊ねた次の瞬間、女の子はロゼッタの銀灰色の背に飛び乗っていた。小さな手で尻尾を握り、しばらく楽しそうにはしゃいだあと、隣の空いたスペースをぽんぽんと叩く
[player name]さんも一緒に撮ろうよ!ロゼッタお姉ちゃんに一番近い場所、譲ってあげる!
タイマーをセットし、急いでロゼッタのもとへ駆け戻る。そして女の子にならって、温もりの残る背へと体を預けた
全員が所定の位置についたのを確認すると、ロゼッタは翼の角度を調整し、自分たちを包み込むように寄せた
ピッ――まもなく撮影されることを告げる電子音が響く
チーズ!
カシャ――
シャッター音が、笑顔と陽だまりのひと時をそのまま切り取った
もう何枚か撮ってもいい?
指揮官、どうする?
同じポーズのまま、続けて何枚か撮影した。やがてカメラの容量が限界に近付き、写真データの転送を提案したロゼッタが立ち上がろうとしたその時――
すぅ……すぅ……
背中に乗っていた女の子が、いつの間にか目を閉じ、寝息を立てていた。ロゼッタはぴたりと止まり、少しも身じろぎしないように身を固くした
このまま休ませてあげよう。ところで指揮官、容量はあと少ししかないけど……カメラ、使ってもいい?
記録を残すために、指揮官と写真を撮りたくて
ロゼッタはカメラを受け取ると、頭上に掲げてカメラを向け、シャッターを切った。画面に映るのは人馬形態の彼女と、その背で気持ちよさそうに眠る子供――
……私の傍に、指揮官もいる
画面全体が、静かで優しい雰囲気に包まれていた
指揮官、空中庭園はいい場所だと思う
それもあるけど……指揮官とこうして穏やかな時間を過ごして、日常を記録できるから
データがいっぱいになる、その時まで
そう言って、彼女はカメラの容量が完全にいっぱいになるまで、写真を撮り続けた
