この壁は私たちの!他をあたって!
上手な方が壁に描く――これがコンステリアのルールだ
デタラメ言わないで!私の方が上手!【規制音】!
アイラとともにグラフィティアートエリアを通りかかった時、壁の隅の方で数体の機械体が言い争っていた
「描く」という言葉を聞いた途端、アイラは一瞬にして目を輝かせ、興奮した様子でこちらの袖を引っ張った
ねぇ![player name]!
指揮官ってば、本当になんでもお見通しなのね!あなたと出かけると楽しくて仕方ないわ!
アイラは安心と信頼に満ちた笑顔を見せた
アイラが何をしたいのかを当てたというよりは、彼女の気まぐれに慣れてしまったという方が正しい――が、内緒にしておこう
ピンク髪の構造体はこちらの手を引きながら、早足で機械体のもとへ駆け寄り、事情を訊き出した
このグラフィティウォールは、その界隈では「チャンピオンウォール」とも呼ばれており、グラフィティアート対決で優勝に輝いた者だけが描く資格を与えられる
七夕である今日、主催側の機械体が七夕のデザインに塗り替えようとしたところ、別の「グラフィティチーム」に阻止されてしまったというわけだ
うーん……だったら、今対決すればいいんじゃない?キャンバスもあることだし
そう言ったけど、審判がいないから対決はしないって……
そうだ!あなたたちに審判とモデルをやってもらえばいいんだ!
突然機械体に指をさされ、思わず戸惑いの表情を浮かべてしまった
それでいて七夕にふさわしい勝負――モデルはこのふたり、テーマは「カップルの肖像」でどう?
人間が審判を務めるなら文句はない
有無を言う間もなく、小さな機械体たちは画材を持ってくると、自分とアイラをキャンバスから少し遠ざけた
そして1体の機械体がアイラにブーケを持たせた。どうやら彼女に「花束を抱えた彼女」役をさせたいらしい
アイラはブーケを手に自分の隣に立ち、どこか不安げな表情を浮かべている
モデルにすることはあっても、モデルになったことはないんだけどな……
[player name]、どうすればいいの?
困った様子の彼女が、助けを求めるような視線を向ける
ま、まず手を繋ぐの?
立ち方はこれで合ってる……?
……なんだか、すごく慣れてない?考えすぎかしら……
ブーケを手にした「花嫁」のポーズになるよう誘導していたのだが、アイラは不満げに頬を膨らませていた
あっ、うん……
……誤魔化したでしょ。もう[player name]なんて知らない
アイラはぷいっと顔を背けて何かを呟いていたが、その声は次第に小さくなっていった
……そうなの?で、でも別にそんな説明しなくたって……
顔を赤らめた彼女は、こちらの視線を避けるように目を伏せた
……ううん、嘘。教えてくれて嬉しい
――できた!さあ、見てくれ!どっちが気に入った!?
その時、機械体たちがそれぞれキャンバスを持って駆け寄ってきた
どちらの絵にも並んで立つ自分たちが描かれており、一瞬だけ赤らめたアイラの顔も見事に描き出されていた
互角の完成度のそれに、優劣をつけるのは難しい
うーん……どっちもすごく上手ね。正直、選べないわ
まるで心が通じ合っているかのように、アイラは自分と同じ感想を口にした
……だから、皆「優勝」ってことでどう?
七夕のプロモーションのことなら心配無用よ。私がコンステリアで一番目立つ広告スペースを買って、皆で一緒に使えるようにするわ
ほ、本当に……?でも、その広告スペースって高いんじゃ……
そ·の·代·わ·り!
アイラはいたずらっぽい笑みを浮かべながら、彼らが持っていたキャンバスをひょいと取り上げ、胸元で大事そうに抱えた
これは、私がもらうわね
ダーメ!私の!
アイラはブーケをこちらに投げ、笑いながら数歩駆け出した
夕陽の逆光の中で浮かべた彼女の笑顔があまりにも眩しく、目が離せなかった
ふふ、欲しいなら私をつかまえてね!
