陽が高く昇り、正午が近付くにつれ、通りは人々で溢れかえった
街は活気に溢れ、カップルたちは恋詩チケットでさまざまな体験を楽しんでいる。甘い言葉が飛び交い、特別な空気がコンステリアに色濃く広がっていた
ただ、ピンク色の背景が鮮やかであればあるほど、その雰囲気にそぐわないひとりの存在が際立つ……
今朝、αに会った時――
一緒に回る?
無駄口はいらないわ、ついてきて
その時は、αもイベントを楽しもうとしているのだと感心したのだが……
半日ほど一緒に歩き回ったが、彼女は恋詩チケットのどのイベントにも参加せず、遠巻きに見ているだけだった
人けのない建物の中、壁に寄りかかっていたαが体を横に向け、こちらを見た
イベントに参加したいなら行きなさい。別に止めないわ
αの様子を見ていると、イベントに興味がないわけではなさそうだ。ただ、彼女が自ら参加するのはまた別らしい
彼女にこの楽しいイベントを体験してもらうには、誰かが導く必要がある
ポケットからチケットを取り出した。路地でスタッフに正体がバレて、無理やり渡されたものだ
真実か挑戦か……
何を訊きたいの?何をさせたいの?遠慮なく言いなさい。ただし、その代償を払う覚悟があるならね
少なくとも彼女は拒否しなかった。恋詩チケットを見ると、目立つ色で大きく書かれた文が目に入った
挑戦:相手をドキドキさせる「壁ドン」をしよう!
壁ドンを知らない人のために、親切にも動作の参考図まで載っていた。人を壁際に追い詰めて、壁に手をついて囲い込む絵は、なかなか大胆だ……
沈黙に気付き、αが興味津々な様子でこちらに向き直った
面白いお題を引いたようね
彼女は小さく鼻で笑った。そのひと言で多くのことが語られていた
……自分が言い出したことだ。今更逃げ出すわけにもいかない
ちょっ――
急接近する自分に、αは何か言おうとした。しかし、距離が近すぎて、αが言葉を続ける前に彼女の目の前に立った
……
彼女の目が何かを言いたげに鋭く光った
しかし、彼女はただこちらをじっと見つめるだけだった。避けたり、止めたりもせずに……
αの視線がその手の動きを追うが、またすぐにこちらを見返した
彼女の眼差しはしっかりとこちらの瞳を捉え、真剣そのものだった。まるで何かを探ろうとしているかのように、または掘り下げようとしているかのように
…………
お互いの顔は思った以上に接近していて、瞳の中の感情が透けて見えそうだった。異なる色の瞳は一見冷たかったが、その奥には……
いつもクールな彼女らしくない、微妙な揺らぎがあるように見えた
どちらも動かず、ふたりの視線が絡み合う中、なんとも言えない空気が漂い始めた。ポーカーフェイスももう限界だ。その時、αの瞳に疑問の色が浮かんだ
これで終わり?
恋詩チケットの手順通りなら、必要な動作はこれだけだった
……
彼女は短く息を吐いた。それがため息なのか、安堵の息なのかはわからない
チケットを見せて
そう言いながら彼女はこちらの手を掴み、手に持っていたチケットを抜き取って、内容を確認した
ふん、この程度のものだったのね
真面目な顔をしてるから、てっきり何かするのかと……
そんなのはどうでもいいわ。ところで、いつまでこの体勢を続けるつもり?
αは壁を押しているこちらの腕の下に手を当てて軽く払い、難なく束縛を解いた
彼女は2歩ほど歩いた。出口の方を向いているので、その表情は光の陰になってよく見えない
自分で体験してみてわかったわ。このゲームは予想通り退屈ね
αに少しずつ肩の力を抜いてイベントを楽しんでもらおうと思っていたが……
逆効果になってしまったのだろうか?
でも……
αが振り向くと、日差しが彼女の口元を照らし、微妙な笑みを浮かび上がらせた
精神の鍛錬にはなるわね
言葉を探している時、強い風が吹いた。思わず後ずさると背中が壁にぶつかった――いつの間に移動したのだろう。気付いた時には目の前にαがいて、手で壁をドンと打った
先ほどの状態に戻った。ただし、今回はふたりの立場が逆転し、更に距離が近かった
あとで、もう何枚か引いてみるのもいいわね
でも、また似たようなお題が出たら……今度は私の番よ
これは、さっきのあなたの行動の「代償」――
逃がさないわ