Story Reader / イベントシナリオ / 御雷鳴動 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

超級傀儡

>

ゴホッ、ゴホゴホ……

クレイグは激しい咳を抑え込みながらデータを保存すると、袖で口を拭って立ち上がった

助手、茶を

その声が、さまざまな機械が並べられた仕事部屋に響く

しかし、誰からも何の返事もなかった

助手?

反応がないことを不思議に思った彼は、足早に仕事部屋の付近や台所、寝室を見回った

またマイクを修理しないと、か……

クレイグは無意識に懐中時計を取り出そうとしたが、その時計が何年も前に動かなくなったことを思い出した。もうこれで何度目だろうか

そのままシステムコンソールの前に立つと、モニターの1カ所が暗転していることに気がついた

クレイグはすぐさま上着を羽織った。ここ数年感じなかった悪寒が走る――その瞬間、咳さえもできないほどの大きな圧迫感が胸にのしかかった

彼はポータブルリモコンと端末を手に取り、小型のツールボックスを担いで扉を開けた。午後の太陽は赤い夕日となり、山の向こうに沈もうとしている

クレイグにとっては最大限の速さでスタジオへ向かう。周囲の機械役者は、彼を通行人だと思っていた

彼が持っている端末で操作しない限り、機械体が行動パターンを変えることはない。機械体たちは慎重に、正確な距離を保って歩いていた

ようやく鋼板で簡易的に改造した「牢屋」へ到着したクレイグは、中に入る前に端末を少しいじった

扉が閉じられた部屋――モニターに映らないカメラはこの中にある。クレイグは長い息を吐き、慎重に扉を開けた

すると部屋の中央には、天井の光によって舞台のスポットライトのように照らされている助手がいた

動かないどころか、動く気配すら感じられない

無事でいてくれよ……

クレイグは助手の側にしゃがみ込み、スイッチがある辺りを手で探る。そして、不意に眼鏡を持っていたことを思い出した

眼鏡をかけ、スイッチを押す。徐々に視界が回復した助手は、胴体からモーターの回転音を鳴らしながらクレイグの方に頭を向けた

すみません、もう大丈夫です

一体何があったんだ?誰か来たのか?

知らない者が来ました。おそらくデータベースにあった「構造体」だと思います。役者と同じような服を着ていたので、間違えてしまいました

その時、私はロールプレイモードだったのですが、激しい衝撃によって強制スリープが作動しました。見たところ、彼らはもういないようです

クレイグは、いずれ誰かがここを調査しに来ることは予見していた――もし、黒野から来たとなると、技術回収のために違いない

そうなれば自分ひとりが命を失うだけでは済まない。役者たちも被害に遭うことになる

スリープ状態でしたが、マイクはオンになったままです

助手はゆっくりと体を回転させ、先ほどの出来事の映像を再生した

「覚醒機械」という言葉の意味がよくわかりませんが、彼らは「覚醒機械」を攻撃することはないようです。私が「覚醒機械」ならよかったのですが……

しかし、今のクレイグにとってこの新たな単語はどうでもよかった。彼の関心は、その者たちがここへ戻り、長年にわたる努力の成果を全て奪い去る可能性に注がれていた

彼らを歓迎しないのですか?

ああ。まったくもって歓迎しないさ

では、どうしますか?

どうにかして、ゴホッ……これを物語の一部にする。プロットをどう修正するかは、もう考えてある

クレイグはポケットから端末を取り出し、いくつかの操作をすると部屋を出て行った

フン、なかなかやりおる

奇遇だな。俺も同じことを言おうと思ったところだ

奇襲、それは悪役のすること……!

そもそも我々の縄張りに侵入してきたのは貴様らだろう。まあ、悪役には違いないが……

おい、退かねぇなら本気でやっちまうぞ

アハ、まだ楽しめることがあったなんてね

両者が睨み合う。このままいけば間違いなくどちらかが怪我をするだろう

ヴィラの構え方を見るに、手加減する気はないようだ

覚醒機械を攻撃するつもりか?

その時、坂の向こう側から助手がゆっくりと近付いてきた

そして背後には多くの機械体がいる――皆、あの実験場から出てきた者だ

お前、新しい役になったのか?

私はピーター·クレイグ。ここの責任者であり、監督であり、脚本家だ

その口調から、助手を通してクレイグと「通話」していることがわかった

私が創作する場所は、誰にも邪魔させない

穴に隠れたネズミは、スピーカーを使うしか能がないのね

……これを見ても同じことが言えるだろうか?

今しがた現れた全ての機械体、そして屈強な機械体が一歩前進した

私が指示を出せば、全員が同じ行動をとる

彼らが君たちに襲われたようにプロットを修正した――言っておくが、私の育てた役者はプロだぞ

プロット通りなのかはわからないが、機械体に完全に包囲されてしまった

21号、あいつ殴りたい

別の展開は考えなかったのかしら?

なんだと?

空中庭園の執行部隊がこの付近で、突如姿を消した。彼らが最後に信号を送った場所はここからそう遠くない――

そうなれば、あなたの秘密もそう長くは守れないでしょうね

クレイグはしばらく沈黙した

……辻褄が合うように物語を変えなければならないな

このまま進めるつもり?

君たちを裏切り者として捕らえ、明日の正午に処刑することにする。最高の演技を見せてくれ

その後、明かりのない部屋に放り込まれた。入口には1体の機械体――今晩の見張りがいる

部屋に差し込むのは、わずかな月明かりだけだった

もう少し明るかったら、あなたの情けない姿が見れたのに

あなたに迷惑をかけないためよ。私って、なんて優しいのかしら

あら、素直ね

何にせよ、あいつは顔を見せる度胸もない臆病者よ。それにお人好しのようだし、大それたことは何もできないはず

何もできねぇやつが俺の腕を外すかよ!

月明りに照らされたノクティスの左肩には、いつもの機械アームがついていなかった

出た、「武器着脱のプロ」

あなたもわかったでしょう?覚醒機械は、パニシングや昇格者を使わずに世界が狂っていくさまを見たいのよ。今ならまだチャンスはあるわ

コンステリア周辺で空中庭園に攻撃された覚醒機械の連鎖反応は、想像を絶するものだった

ヴィラは「静かに」と言うように、口に人差し指を当てた

ちょっと。そこの機械体、聞いてるんでしょう

……

なぜここから立ち去らないの?

見張りの機械体は何も言わなかった

あの老人……クレイグだったかしら。長いこと、ここに閉じこもっているんでしょう?だから覚醒機械が何なのかさえ知らないのね

ほんと、腑抜けたジジイだこと

腐った肉は犬も食べない

突如として饒舌に「見張り」を攻撃し始めたヴィラと21号を見て、少し戸惑った

まぁ見てろ。俺たちの常套手段は騒ぎ立てることだ

戸惑っているのを察したのか、ノクティスが耳打ちする

扉の前から動かない見張りは、まだヴィラにからかわれていた

何のためにこんなところに執着しているのか、さっぱりわからないわね

脚本家であり監督。もし本当にそんな能力があるのなら、世界政府芸術協会のリーダーに大抜擢よ。でも、ここで機械体とおままごとばかりしてるということは、つまり……ねぇ?

最悪の演劇って何だと思う?それはね、流行に飛びついたような演劇じゃない。己の妄想の世界に閉じこもった演劇のことよ

あなたの声はノイズのようです

なんだ、ちゃんと自分の意見もあるじゃない

……私にはあなたと話す権限がありません

クレイグが死ぬまでこの美しい夢の世界で生きていれば、それで満足なの?偉大な脚本家であり監督である巨匠に忠誠を誓うのが、あなたの生き方?悲しいわね

クレイグさんを侮辱することは禁じられています

見張りの声が、徐々に氷のように冷たくなる

ヴィラはこちらにウインクをすると、嘲笑的な笑みを浮かべていた口元を緩めた

たった今、この機械体は単なる「道具」を脱して感情を露わにした

とうの昔に死んでしまったこの男を、短い間だけでも生き返らせることができたのに。それがなんてザマなの?あとは副葬品になるのを待つだけかしら

???

やつには「陪葬」される資格がある

部屋の扉が開いた。外から差し込む光に浮かぶシルエットで、その巨大な姿を認識した――

あら、大きな死体のご登場ね

おぉ、きったねぇやり方のデカブツじゃねぇか。今度は何をしでかす気だ?

私たちはクレイグさんを助けたいのです。おっと、自己紹介がまだでしたね。皆からは助手と呼ばれています。そしてこちらが「アクション俳優」です

「アクション俳優」は背負っていた助手を下ろした。かなり修復されているようだが、体にはまだ擦り傷がたくさん残っていた

あ?お前らまさか、全員覚醒したのか?

なるほど……!あなたたちの言う「覚醒機械」の意味がようやくわかりました!

私たちは「覚醒」を、演技が上達したという意味だと思っていました。ですが、何かおかしいと思っていたのです

少しずつ賢くなっているとは感じていました。ですが……クレイグさんの台本から逸脱すると、すぐに修正されてしまいます

修正作業はとても大変……そう、「大変」ですよね?だから私たちは、従順な役者として演じ続けることにしたのです

我々はただの鉄クズの集まりだった。しかしここに来たクレイグが我々を修復し、今日まで使ってくれたのだ

クレイグには義理がある。だから我々はあいつの味方だ

愚かな忠誠心ね……

あなた方の侵入が突然のことだったため、クレイグさんは昔の方々が戻ってきたのだと勘違いしたのです。だからこんなことに……

今すぐ逃げて、そして二度と戻ってこないでください。さもないと、ここにある全てのモニターが「あなた方がコンステリア周辺で私たちを攻撃した」と証明することになります

もうひとつ訊きたいことがあるわ

かつて実験場としてここに保存されていた技術について、でしょうか

ヴィラは頷き、助手に話を続けるよう促した

クレイグさんでさえアクセスできなかったものを、こっそり見たことがあります。ここの「都市機械体総制御タワー」の技術は、不正な資金調達の産物です

不正な資金調達……?

クレイグさんが使用している端末は、以前の責任者が残したサンプルです。簡潔に言うと、開発担当者が金を持ち逃げしたのです

21号、悪いやつは逃がさない

なるほどね、よくわかったわ。私たちもこれ以上無駄足を踏むわけにはいかないし……いい話を思いついたわ。聞きたい?

……

あなた方も脚本と監督ができるのですか?

趣味でやってる人をひとり知ってるわ。両者にとってこれがベストだと思うわよ

それはクレイグさんの助けになりますか?

その時が来たら、ノクティスから知らせるわ