サンシチ、もっと力入れられねえのかよ?
あんだよ、その爪、アクセサリーか?
21号は押してる。これ以上強く押すと車が傷つく
ただ、ノクティスがもっと押せば問題ない
さっきから力入れてるの、ノクティスだけ
あぁん!?お前なぁ……
21号、もう少し頑張って押して頂戴
あと10分もしたら、運転席と代わってもらうわ
おい俺は?なんだよ、不公平だろ!
あなた、車から降りたばかりでしょ?何言ってるの?
あなたの運転技術なら、運転席に木の棒でも立てておく方が安全よ
天気は快晴……快晴すぎるほどだ。陽差しはこれでもかと降り注ぎ、何百kmと続く無人の砂利道と草地、そしてアスファルトを照らし出す
人類の生理的条件から考えて、こういった環境は生存に適していない。だが、他の生命にとっては楽園でもあった
例えば、トカゲ、バーラル、野ウサギ、狼の群れ、ハゲタカ……
――そして、果てしない道の上で、車を押すケルベロス
なぁ、一体何の任務だってんだ?
何を警戒してるのか知らねえけどよ、なんで俺たちがこんなクソみてえな場所に来なきゃなんねえんだ?
知らないわよ、あの病気で寝込んでるお偉い指揮官から、予定座標に行けとしか言われてないんだから
前回の騒動で、監禁されなかっただけマシってものよ
ケッ……
隊長、通信
信号があるのね?
ヴィラは車から手を離すと、身を翻して、車の屋根にいる21号の隣に座り、通信装置を受け取った
突然、仲間を失ってバランスを崩したノクティスは、よろめいて転びそうになった
【規制音】――
黙って!
怒った様子で地面にあぐらをかくノクティスに向かって、ヴィラは静かにというジェスチャーをした。屋根の上で通信装置を振り、信号を受信しようとしている
荒れ果てた広大な無人エリアは、そのほとんどが無線スキップゾーンだ。空中庭園と通信できるのは1日に数回、しかも時間もたった数分のみだった
ジジ……ジジ……
通信状態が悪すぎる……
ジジ……ジ……ヴィ……
ヴィラ……
もしもし?
北西……車両……
私たちの現在地……どっちの方向?
出発点の西から、北へ24度の77号線上よ
薬……血清を……必ず……君たち……
何の意味があるんだよ、ンなもん。ここまで誰にも会わなかったじゃねえか
違法……部品……も違法……君たち……ジジ……問題を……
自分たちで……解決を
通信装置は、再びノイズ音を発するだけになってしまった
どういう意味だ?違法って……俺たちのこと?
お偉方に、隠してたブツが見つかったんじゃねえのか?
あのパーツと血清かしら……
おいおい、終わったな!
上からの補給だけで、あなたの尻拭いなんかできないわよ。軍法会議には、あなたを懲らしめたいやつらがたくさんいるの
まぁいいわ。どう?これでもまだ笑える?
21号……そのことじゃないと思う
通信のメッセージのヘッダーは、「任務指示」
きっと今回の任務についてね……
方向は?こっちで合ってんのか?
北西だって言ってたでしょう。私たちも、出発地点の北西にいるわ
あとどんくらい押しゃいいんだよ?
地図によれば5km先に休息エリアがあるわね
5!キィ!ロォ!?
ほら、さっさと押しなさいよ
ヴィラは通信装置を21号に投げ渡すと、車の屋根から降りてノクティスに蹴りを入れ、車を押すよう促した
21号は相変わらず、誰も知らないメロディを口ずさみながら、車の屋根に座っている
おい、サンシチ。お前、なんでハンドルを握らねえんだよ
ハンドルはロープで固定した
ノクティスの運転より、真っ直ぐ進んでる