警告。空爆を確認。防御要塞を展開します
警告。空爆を確認。防御要塞を……
あの防御隔壁の発電機を破壊しろ!あれが展開されたら、打つ手がなくなるぞ!
射撃!
平和維持部隊の弾丸はひとつひとつが特製だった。非常に精巧なエネルギー爆破装置が搭載された小さな弾丸は、物体に当たるだけで人の背丈ほどの大穴を開ける威力を持つ
その弾丸がスナイパーから連射されたのに、立ちはだかるドーム状の防御隔壁には何の効果もなかった。街全体を包み込もうとする透明な壁を、兵士はただ傍観するしかない
チッ、一歩遅かった。狙撃第9小隊は任務に失敗、応援を頼む
心配する必要はない。ここには「あいつ」がいる。あいつが解決してくれる
輝ける行進者、出撃!
任務を確認した
論理思考回路チェック:正常
移動モジュール、武装モジュール、火力増強モジュール:確認
戦闘モード、作動——
遠方に真紅の輝きが放たれ、防御隔壁の1カ所を照らし出す。一筋の光はまるで質量を持つかのように、低い音を立てながら壁を突き破った
大きな音とともに閃光が走った。難攻不落の要塞隔壁に、ぽっかりと穴が開いている
目標の防御隔壁に穴が開けたのを確認、接近戦モードに切替、出力を維持
穴の前に、低い機械音とともにゆっくりと巨人の姿が現れた。その巨大さゆえ、腕が異様に細く見える
しかしその細い腕の威力はすさまじい。腕を壁に軽く当てただけで、自己修復中の防御隔壁の穴を更に大きく広げてしまった
敵の防御隔壁を破壊。任務を再確認する。民間の建物は破壊せず、軍事関連の建物のみを破壊
巨大なロボットが防御隔壁の中に足を踏み入れると同時に、肩の巨大なカノン砲が動き出した。無数の赤い光がカノン砲に向かって、熱を集めている
ドーン!!大きな爆発音が響いた。遠くに見える完全武装した軍事基地から、煙が立ち昇っている
司令部を破壊、武器庫を捜索する
平和維持部隊研究所が開発した最新兵器――輝ける行進者の破壊力は、その名の通り、折り紙付きだった。彼の行く先はまばゆい光に満ち、光の及ぶ全てが塵と化す
歩を進めるごとに輝ける行進者は標的を探し、砲口の向きを変えて光の筋を放つ。目標のダメージを確認する必要はない。瞬時にカノン砲が目的を砕くのは確実なのだ
だが、彼は5歩目で立ち止まった。前方の道路に、破壊されたばかりの建物があり、瓦礫の下にひとりの民間人が埋もれていた
兄さん、何してるの!行って!早くここから離れて!あの恐ろしいロボットがやってくる、僕はもう……
お前を見捨てていけと!?そんなことできるか!お前がいなくなったら、俺も、俺だって……!
兄さんと呼ばれた民間人は、巨大な輝ける行進者はまったく眼中になく、必死に瓦礫をよけている。彼は細い腕で、瓦礫に埋もれた大切な者を助けようと必死だった
輝ける行進者はゆっくりと砲口を持ち上げた
目標、ロックオン
巨大なエネルギー砲が発射された。積み上がった瓦礫をかすめて、瓦礫が粉々に砕け散った
……
砕けた瓦礫の破片が、民間人の頭上に降り注ぐ。瓦礫の下に埋もれていた者は大切な人と抱き合って、遠くから輝ける行進者を眺めながらぽかんと大きく口を開けていた
……あ、ありがとう
しばらくしてようやく、彼の口からこの言葉が出た。輝ける行進者は、この言葉を滅多に聞かない。だから、その意味がしかとは理解できなかった
物流施設の破壊を確認した
彼は、後ろの物流施設に照準を定めていたのだ。エネルギー砲の巨大な威力、偶然、別の目標物をかすめていたのだった
敵の軍事、物流施設の大半を破壊したことを確認
輝ける行進者、帰投せよ!
指令を了解
輝ける行進者は足下から光を放ち、来た時と同じように、ふたりの民間人から離れて素早く空へと消えていった
……
世界政府の数十年にわたる努力の結果、対立していた人間の勢力は、ようやく世界政府の下で団結しました。平和を願う人々は、ついに新しい生活を手に入れたのです
しかし、不確実要素は依然として存在しています。一部の小規模勢力は自分たちの意見に固執し、世界政府の政策に対して独自の解釈に基づいた行動をとっています
平和維持部隊の首席研究員であり、世界平和大使であり、今回の作戦で最大の難関を打破したヴィクター·ジャクソン教授にお話を伺いましょう
リーダーからの賛辞に、心から感謝いたします
ご存知のように、苦労して築いた平和が一部の勢力によって壊されようとしています。平和維持部隊は、平和を守るための対外的な抗争において、重要な役割を担います
対外的な抗争という表現は、もう今はふさわしくない。世界政府の下で地球全体がひとつにまとまり、内と外との区別はなくなりました。外と呼ぶべきは宇宙でしょう
しかしひとつの集合体の中にも、いまだ不和は存在します。仲間の中には独自の思想や主張を持ち、時代の潮流とは別の道を選択する者もいるからです
ですがそれは明らかに、大局的で長期的な視野に欠けた行為といえる。そのような同胞に、自らの誤った考えを正させるには、最小限の武力による抑止も必要なのです
戦争を抑止するための戦争は本末転倒という批判もあります。ですが最大の利益を考えず、大局を見ずに譲歩を繰り返せば、勢力は膨張し更なる戦争を引き起こす
大きな利益のために不安要素を取り除き、統一へ導くことが世界政府の決断です。皆が世界政府を信頼し支持することが、未来に人が宇宙へ飛び立つ推進力となるのです
この推進力がどれほどのパワーを秘めているかを理解してもらうために、私の大切な仲間である平和維持部隊軍事工場の研究者を紹介しましょう。どうぞステージへ
まずは、首席技術者のジータ……
ヴィクター教授!講壇でお褒めのお言葉をいただき、ありがとうございます!
世界政府の軍事工場。講壇を離れて研究室に戻ったヴィクターは、興奮している部下を見て微笑んだ
お礼を言う必要はないよ、ジータ。君の才能と知恵が、君を軍事工場と講壇の両方に立たせたのだから
才能……教授にそんな風に言っていただけるなんて、恐縮です。私は、平和維持部隊は軍人として戦場に出て戦うための部隊だと思っていました……だから……
ジータ、この言葉を覚えておいてほしい:恐怖を感じられる者だけが、戦場で生き残ることができる
だから恐怖を恥じる必要はない。むしろ、君の正しい決断を称えるべきだ。君が我々に加わり、仲間になってくれたからこそ、戦闘を有利に進めることができるのだ
見たまえ、輝ける行進者を。彼の躯体、内部構造、あらゆるパーツに君の手によるものだ。我々は志を同じくする仲間だ。君は一緒に栄光を分かち合うべき存在なのだ
——聞こえているか、輝ける行進者よ?
我らが仲間、我らが同胞が君に心から感謝している。君も私たちの栄光の一部なんだ
部下を送り出したあと、ヴィクターはたったひとり、輝ける行進者と同じ目線の高さにある壇上に上がっていた
輝ける行進者に向けられた彼の視線には、期待と興奮、そして、少しの……慈愛が含まれていた
エネルギー充填中の輝ける行進者は、ただ彼の前に立っているだけで、何の反応も示さない
君は我々の大切な仲間だ。設計図から始まり、君の全ての成長を見守ってきた。君が参加した全ての戦いに我が助力があり、私が得た全ての栄光に君の助けがある
我々にはそうした支え合いや思い出がある。だから君が人間ではなくとも我々は同じ仲間なんだ、そうは思わないか?
もちろん、軍事工場には他にもたくさんの機械体がある。彼らはまだ君のような知能を持たないが、いつか彼らも君の仲間であることを理解する日がくるだろう
……定義を確認
ふぅ……
興奮で次第に声が大きくなっていたヴィクターは、すっと冷静になって輝ける行進者の細い砲身を眺め、語りかけるように言った
見ろ、この強力な武器を。1本でも戦争の勝敗を左右するほどの威力を持つ。しかも君は何十本も備えている。これほどの武器を持つ君が、平和のためだけに作られた存在なのだ
平和はあくまで選択肢のひとつだ。しかし君がいれば、全ての戦争や争いに平和をもたらすことも可能だ。今後、長い年月が経っても君の武器、火力、栄光は色褪せないだろう
歴史上、人類がどれほど長く争い続けてきたか、君には理解できないかもしれない
国であろうが小さな集団であろうが、ちょっとした意見の相違や利害の対立があるだけで、人間は殺し合いを始める
そのような無意味な内輪もめが、人間の心に宿る炎を燃やし尽くしてしまう。ひと度そうなってしまえば彼らは星空を仰ぐなんて、考えもしなくなる
零点エネルギーの開発は、全人類に平和をもたらし、星に行くためのチャンスを与えてくれているのだ。彼らに邪魔させる訳にはいかない
ヴィクターは、輝ける行進者をゆっくりと頭からつま先まで眺めた。まるで成功を収めた我が子を見つめる親のような瞳で
……だから、私は君を創造した。平和を維持するための重要な武器だ……世界と人類の未来は、君の手にかかっている
家族は誰も私を理解しようとしない。兄も妹も、私の元から去ってしまった。しかし、私はこれっぽっちもこの任務を受けたことを後悔していない
だから、覚えておいてほしい。私と一緒にこの任務を全うするのだ。迷うことは何もない。この平和な世界を、しっかりと守っていこう
……任務を確認
君にこの任務を設定したわけじゃ……しかし……あぁ!これでこそ、私の自慢の輝ける行進者だ!
ヴィクターは笑いながら、軍事工場から出て行った。扉が閉まって照明が消え、工場全体が静止モードに入った
静止モードといっても、完全に機能が止まる訳ではない。ここの全ての機械は人間が休んでいる間に、プログラムに従って戦闘のシミュレーションを行う
>>>行進者ログ4077号。本日の任務を完了。戦闘結果:完全勝利
新たな任務:平和を守る。名詞確認:平和――戦闘状態になく、敵対勢力からの暴力行為に晒されない生活
矛盾点の指摘:戦闘エリアで大きな暴力行為が発生している。矛盾点の解説:暴力はより大きな暴力を抑止するためのものである
結論:最適解――戦闘エリアにいる者が速やかに抵抗をやめる
矛盾点の指摘:戦闘エリアの人々が激しく抵抗することで、戦闘エリアの経済的崩壊、建物等の物理的崩壊が発生
より合理的な経済または政治的手段で暴力を抑止する……矛盾の解消は困難
矛盾点の指摘:該当エリアで戦闘に勝利しても、そのエリアでの自給自足の生活は困難になると推測
勝っても負けても、併合されても独立しても、平和が訪れる可能性は極めて低い
戦争する理由、エリアで抵抗行為が発生する理由、回答を算出……エラー
——ログ消去
………………
>>>行進者ログ5790号。戦闘結果:勝利。戦場シミュレーションを開始。分析……エラー
>>>行進者ログ6680号。戦闘結果:勝利。戦場シミュレーションを開始。分析……エラー
>>>行進者ログ7743号。戦闘結果:勝利。戦場シミュレーションを開始。分析……中止
エネルギー検出……確認できず。異常を検知……原因:基地への侵入
基地への侵入を検知、警戒攻撃開始……強制停止許可を確認、攻撃を停止
カメラと無線が起動し、侵入者の動きを監視して、警備ロボットに報告を送っている
もう一度言う、ここにあるものがどんなに貴重なものでも、パニシングにやられれば我々に向かってくる!これらの殺傷力がどれだけ高いか、あなたも知っているはずだ!
いや違う、聞いてくれ。この工場は浄化塔のすぐ近くに建てられていて、しかも地下にある。十分に防御されているから、し、侵蝕されることはない……
されることはない?保証できると?この一帯が侵蝕されてしまってからでは遅いのよ!
違う、そうじゃない、せめてちゃんとした工程を踏んでほしいだけだ。私は知っているんだ、これらの破壊が……
工程?こんな時に何を言っているんだ?昔は避難や機械の破壊に時間がかかったかもしれないが、今は違うんだ!
チッ、あんたに付き合っている暇はないわ、今は爆破する以外に選択肢はないのよ!
ちょっと待ってくれ!
言っとくけど、爆弾はすでにセット済なの。あいつらと一緒に埋もれたいの?それとも、私たちと一緒に撤退する?どっちなの?「尊敬するヴィクター教授」
わ……私は……
私にはわかる!私は知っている!私は君たちよりも、誰よりも、この事態を深く理解しているんだ!!!
ズドン!何かの転倒音に続いて、慌ただしい足音が響いた
痛たたたっ、まさか!あいつ、本当に突っ込む気?おかしくなったんじゃない!?
この期に及んで、まだ機械を守って死にたいなんて、勝手にすればいい!もう放っておこう、早く爆弾に点火するんだ!
……チッ!私が彼を連れ戻してくる!あなたはここにいて。すぐだから!
待て、スマ、お前……
騒がしい足音の後、放送室のマイクのスイッチが入った。すぐに大きなざわめきとうめき声が工場内に響き渡る。微かに息を吸う音が聞こえた
輝ける行進者は、カメラに映ったヴィクターの姿を見た。彼は大量の汗をかき、息が上がっている。普段まったく運動をしない彼が、初めて全速力で走ったのだ
あ……あぁ……私の努力の結晶、私の……【ザザッ——】私の機械たち……
これがおそらく、皆に会える最後の機会……
もし、もしエネルギーの消耗やパニシングから抜け出せるなら、【ザザッ——】その時は……どうか聖ソラヤ教会に行ってくれ……い、いや、君たちには理解できないか……
どうか……5ポイントの第4区Aエリアに行ってくれ!そこに教会がある!【ザザッ——】……その中に私の大事な、貴重な【ザザッ——】がある。それを持って……
それを——【ザザッ——】第3区Dエリアまで持って来てくれ、私が連れていかれる可能性が最も高いところだ——
たとえ、君たちに聞こえなくても、パニシングから逃れた人なら誰でもいい!どうか、どうか私の夢を……
ぐずぐずしてないで、早く逃げるのよ!この期に及んで、まだそんな物が大事なの!?今がどういう状況なのかわからないの!?
ドーン!
……チッ、威嚇攻撃しただけで気絶しちゃった……仕方ない、背負っていくか
足音が徐々に遠のき、放送の音も次第に小さくなってやがて消えた
爆破ッ!
ドーンという砲撃のような音。火薬が軍事工場のあらゆる支柱を破壊した。崩れ落ちる石と瓦礫は、あらゆる戦争機械が戦場で見てきたものと同じだった
塵が舞い、長い沈黙が訪れる
静寂に包まれた軍事工場の中に、機械音が響いた
——任務を確認
……
…………
………………時限式起動プログラム、実行
………………データリセット……失敗
自己修復プログラム開始……エネルギー源が特定できず、中断
環境モニタリング開始……進捗1%……3%……
>>>行進者ログ7744号。新しい任務、了解……
……機体チェック開始。ブロック1をチェック……エラー。ブロック2をチェック……
ブロック78をチェック、成功、エネルギーを修復
エネルギー第1部分、修復推定時間……47075577秒
第2部分、修復推定時間……9887964秒
第3部分、修復推定予時間……
……
…………
………………
輝ける行進者は長い間忘れ去られ、彼を照らす光を浴びることはなかった
光が必要だ。彼が再び目を開けた時、カメラのレンズを覆う闇がそうささやいた
照明システムを起動……失敗。赤外線スキャンモードを起動
屈折した光の波が、かつてあらゆる戦場に光をもたらしたように、廃墟と化した研究所の輪郭を浮かび上がらせた
埃、鉄骨、鉄板、ケーブルが積み上がっており、仲間の死体が至るところに転がっている。先ほど自らを修復しようと使ったエネルギーやパーツは、全て彼らから調達したものだ
——なぜなら、彼にはまだ任務が残っているから
ガシャ、ガシャン。彼はケーブルが絡み合う巨大な網から一歩、足を踏み出した
パラ、パラパラ。彼の体から塵や砂が落ち、本来のまばゆい光が輝き出す
ガラ、ガラガラ。巨大な網はいとも簡単に地面に崩れていった
彼の創造者は逃走する間際に、彼に任務を授けた。たとえ具体的な目標や詳細がわからずとも、彼は任務を完遂しなければならない
なぜなら輝ける行進者は、最も輝かしい結果を伴って、与えられた任務を完遂するという使命を生まれながらに持つからだ
彼は改めて周囲をスキャンしたが、エネルギー反応はなかった。彼以外、自己修復機能を持つ機体はないのだろう
彼は鉄を砕き、鉄骨を破壊し、仲間の機体を――押しのけて、鋼鉄の道を作っていく
彼にはもう武器も手段も残っていない。ただ、自らの力を頼りに前進するしかない
どのくらい進んだのだろう。この基地の通路は隅々まで熟知している。だが今はもう、そのほとんどが落石で埋まっていた
それでも彼は、外の世界の光を見つけるために、怯むことなく前へ前へと足を出す
光に向かい、彼はひとりで歩み続けていった