逃走中に侵蝕体に出くわしたようで、慌てた彼は瓦礫から転げ落ち、廃墟の中に落ちてしまった
彼は呻いた。頭に激しい痛みを感じて、一瞬、死を感じた。戦場で華々しく死ぬより、逃亡中にうっかり倒れて死ぬ方がいいのだろうか、彼にはわからなかった
暗闇の中で、華奢な手が彼の肩を掴み、彼の体を引きずっている
エイハブがぼんやりと目を開けると、抜けるような白い肌の少女が見えた。まるで戦場に降り立った天使のようだ
もう死ぬんだ……もう死ぬ……
彼は小さくつぶやいた。もうあの星空を見ることができないことを思うと、底知れない恐怖が彼を襲った
緊張しないで、リラックスしてください
……リーフ……君なの?
そうですよ。安心して、エイハブさん。あなたの傷口は塞ぎました。これから手当しますね
わ……私は逃げたんだ……もう……死んじゃうの、かな?
……ここでは死にませんよ、兵士さん……
朦朧としている間、エイハブは衛生兵の答えと、そう遠くないところから響いてくる、侵蝕体のあの独特の鋭く重い足音を聞いた
自分は生き残りたいのか?生き残ってどうなる?脱走兵として軍隊に戻ることになる、どんな処罰を受けるのだろうか?
こんな臆病な自分に……生き残る意味など、あるのだろうか……?
エイハブは体が重くなるのを感じた。思考が麻痺してきて、絶望が死亡への恐怖に打ち勝った
彼は体をまさぐり、銃を取り出した
銃にはまだ弾が1発残っている
彼はその銃を持って逃げてきた。逃亡の途中でなりふり構わず侵蝕体を撃ったが、1発も命中しなかった。もう一目散に逃げるしかなかった
……自分のために残してあった……自分の……
早く逃げて
エイハブは震える手を上げようとして、あまりの恐怖と手の怪我のために、銃を構えることができず、すぐ側に落としてしまった
体の痛むところを冷たい液体で洗われている。リーフは側を離れず、彼のために応急処置をし続けている
最後の弾ならなおさら、自分にではなく、敵に向けなければ
はぁ……たった1発の弾で、敵を倒すことはできないだろうな……
これでよし、頭の怪我は大したことありません。でも、足を激しく動かさないでくださいね
処置を終えた衛生兵は彼の傍らにひざまずいて、彼の目を見つめてきた
ここの負傷者はあなたひとりだけではありません。あなたたちを置いて、逃げたりはしません
エイハブはようやく自分の周りに、他にも負傷した兵士が横たわっていることに気づいた。この衛生兵は……
ここに接近してきている侵蝕体は……
衛生兵は銃を再びエイハブの手に戻した
型番は家庭用ガーデナーM-62、行動モジュールは胸部パネルの後ろにあります。それを狙えば行動ロジックを失い、他の侵蝕体を引き寄せることもありません
私に……それを撃てってこと?
もしまた歩き続けたいのであれば……そうすることで、歩き続けられますから
エイハブは震えていた。しかし、ためらっている暇などない。慌てて深呼吸すると、ゆっくりと腕を上げ、手元の銃に集中した
照準、発射
侵蝕体の胸に火花が散り、よろめいて、躯体が激しく震え始めた。数千年とも思える時間がたって、やがて侵蝕体は四肢をねじり、別の方向に向かって歩き始めた
エイハブの額からどっと冷や汗が噴き出し、ほっと胸をなで下ろした。これは彼が初めて、自力で危機を解決した瞬間だった
彼が近くにいる衛生兵の方に振り向くと、白い髪の少女は安堵の笑みを浮かべた
あの青白い笑顔が徐々に透き通って、冷たい光を放つスクリーンの中に消えていく。懐かしい記憶は、冷たい現実へと引き戻されていった
……
ホログラフスクリーンの中で、真っ白い機体がゆっくり回転しており、たくさんのデータがその側を流れている
エイハブは手を伸ばすと、指で操作を始めた。データが素早く転送されていく。エイハブは続いて、黒野内部の通信チャンネルを開くためにタップする
あの引き金を引いた時のように、軽く