Story Reader / 幕間シナリオ / 妄心の夜明け / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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無明の誕生

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お姉ちゃん……見て!侵蝕体を全部やっつけたよ!

さすが!よくやったね…………これで、お前も用なしだ

侵蝕体を全滅させ、「姉」に褒められたい一心で振り返ったルナに、銃弾が浴びせられた

至近距離から発された銃弾がルナの下腹部を貫いた。戦闘中も肌身離さず抱えていたカエルのぬいぐるみからはじけ出た綿が、雪のように舞い散る

お……お姉ちゃん……?

ルナは信じられないという表情で腹の傷を見た。身体を支える力を失ったルナは、膝から崩れ落ちた

二度とそんな風に呼ぶなよ!気色悪っ……誰がお前みたいな汚い化け物のアネキなもんか!

化け物?私、化け物なの……?私……

消えたはずのささやき声が再び現れた。パニシング濃度が急上昇し、ルナの呼吸が早くなる

ぐっ――うぐ――

しかし、ルナは懸命に呼吸を安定させながら、必死にライディへと這い寄った

違うよ……お姉ちゃん……ルナだよ、化け物なんかじゃ……

ちっ……触るな!

ライディはルナを蹴り飛ばし、カエルのぬいぐるみを踏み潰した

化け物なら化け物らしく、おとなしく死ねっつうの!!!

ライディは更に2発撃ち、ルナは完全に静止した

お……姉ちゃん……

ルナは自分と同じようにボロボロになったぬいぐるみを見つめていたが、その目の光は徐々に消えていった

二度とそんな風に呼ぶなよ!気色悪っ……誰がお前みたいな汚い化け物のアネキなもんか!

お姉ちゃん?何言ってるの……ルナだよ、化け物なんかじゃないよ……

ちっ……触るな!

お姉ちゃん!どうして……ルナのこと嫌いになったの……?約束したよね、何があってもずっと一緒にいるって……

化け物なら化け物らしく、おとなしく死ねっつうの!!!

お姉ちゃん……お姉ちゃん、行かないで!お姉ちゃん!

人間の卑劣さは魂に刻まれている……何者をも裏切るし、何物をも犠牲にする

あなたの姉も、あなたを見捨てる。約束は破られる……彼女は人間、あなたを受け入れることはない

彼女は人間で……あなたは化け物なんだから

ライディは狂ったように笑いながら、でたらめに銃を発射した

人類を……人類を……消滅させるために……

ハハハハ!くそじじい、見たかよ!頭さえ使えばあたしだって侵蝕体を殺せるんだ!あたしはゴミなんかじゃない!!わかったらさっさと出せよ――――

ライディは大声で叫びながら処理場の扉を叩いていたが、背後から振動音が聞こえたような気がし、振り返った

は?まだ死んでないの?しぶといな……

ライディが再び銃を取り出そうとしたその時、不思議なことにほんの一瞬前まで背後に倒れていたはずのルナが――すぐ真横にいた

なに!?!?

銃を取り出そうとしたライディの腕は切り落とされた。そのまま悲鳴を上げる間もなく、全身を地面に叩きつけられる

ルナの手は鋭い刃に変形し、赤い光をまとっている。暴走状態のルナはライディの首を今にも切り落とさんばかりだ

しかし最後の最後で、ルナはありったけの理性をかき集めて自分の右手を制御した

お姉ちゃん……逃げて……

ライディは一瞬の隙を突き、腰に提げていたナイフをルナに突き刺した

うああああ!死ねよ!死ねよ!化け物がっ!!!!

――――いやぁぁぁぁぁ!!

金属音、飛び散る火花。そして処理場は再び静まり返った

ルナの胸にナイフが突き立っているが、急所は外れているようだ。一方のルナの手は、ライディの喉を貫いていた

ライディ

グホッ……ぐは……

ライディが口から大量の循環液を吐き出すと、その目は光を失った

私……私、お姉ちゃんを殺しちゃった……

私が……化け物……

ルナの周囲に高濃度のパニシングが集まってきた。それはやがて、眩いばかりの赤い光を放ち始めた

人類を……人類を……消滅させるために……

化け物……化け物が……化け物として……生まれ変わる……

テント外部に轟音が伝わってきた。そして一瞬遅れての大震動。遠くで、何かが光っている

おいおい……なんだよあれは……

……長官……

ヒイ坊……まだ生きてたのかよ?何が起きたか今すぐ報告しろ

ゴミ処理場で爆発が起きて、侵蝕体1体が現れました。その侵蝕体が手をかざしただけで浄化塔が損壊しました……

我々は全力で阻止を試みましたが、隊長含めてほぼ全滅……

ヒイ坊……お前少し休んだ方がいいぜ?電子脳がイカれちまってるな……侵蝕体1匹でそんなわけ……

だがグリースは空を見上げると、言葉を止めてしまった

空中を真っ白な少女が浮遊している。その足下には瓦礫の山。その強烈なコントラストが少女にえもいわれぬ神聖さを与えている

爆発の衝撃が周囲の侵蝕体を引きつけていた。少女を人間だと認識した侵蝕体が、四方八方から集まってきたのだ

ルナ

……蟻

少女がほんの少しだけ手を上げた。するとパニシングが凝集して棘となり、近づいてくる侵蝕体を次々と貫いた

残った侵蝕体は本能的に理解した。あの少女は服従し、従属すべきモノだと

ヒイロ

あ、あれです……あの侵蝕体が……隊長を……

グリース

……侵蝕体?とんでもない!あれは天使だ……天使だぜ!

グリースは少女の正体にまったく思い至らなかった。彼が最後に見た「ルナ」という名の構造体と、目の前の少女の姿があまりにもかけ離れていたからだろう

グリース

おい!おい!こっちだ!天使さんよ!!

グリースは子供のように両手を振り、大声で笑いながら泣いた

ルナ

……

ルナはグリースを一瞥したが、何の価値もないと判断したかのように、すぐに視線を遠くへ向けた

ああああ!天使!天使様っ!

グリースは涙を流した。もはやかたわらの部下たちなどまるで眼中にない

長官、残存戦力が集まりました。目標侵蝕体の追撃を開始します!

やめろ……わからないのか?彼女が手を上げれば、俺たちは一瞬で全滅する。俺たちがまだ生きていられるのは、あれが俺たちに興味を見出してないからだ

遠くへ去っていくルナを、グリースは狂信的な笑みで見送った

パニシングを制御し、自我を保ち続けられる侵蝕体……まさに奇跡そのものだぜ

あれは……人類を破滅させるだろうよ……だが逆に言えば、あれこそが人類を救うことができる最後の光だ

グリースは自分の胸に手を当てながら、大笑いした

ははははは……胸躍る劇的な展開だぜ!この場にニコがいなくて残念だ!

真っ白な侵蝕体の少女。きっとお前を探し出して、手に入れて……それから……

突如、グリースの笑顔が固まった。何か大変なことに思い至ったようだ

しまったな……

あれはもう「侵蝕体」とは言えん。新しい名前を考えてやんなきゃ……

参ったな……俺は名前を考えるのが一番苦手なんだよ……