ヴィリアーは曲にクーデターの最新情報を見せてきた。曲はモニター上で刻々と増えゆく死傷者の数を見つめた
この前の僕たちへの襲撃はただの前奏だったんだな。今回ははっきり反旗を翻しやがった
胤はどこまで来ているの?
城外に大量の部隊が集結している。北城区のあたりでも暴動が起きた。内外で騒ぎを起こして、九龍を乗っ取る気だな
いい機会だ
どういう意味?
この騒ぎに乗じて僕たちは一族や九龍、人間の闘争から逃げられる
……確かに逃げ出すにはいい機会かもね
でも、私は九龍から離れる気はないわ
何だと?
あの兄が王になれば何が起きるかわかっているでしょう。クーデターで多くの血が流され、我々を支持する民はひとり残らず殺されてしまう
それを許すわけにはいかない
民、民、民、こんな時でも、人前で演じ続けたことをやめられないのか?
反吐が出る。曲は僕を理解していると思っていたのに
理解はしているわ。でもごめんなさい、私は王となるべく生まれたのよ
民を守る、それは私が果たすべき責任よ
もういい、好きにしろ。人間のいざこざと僕は無関係だ
僕はこれから「ゲシュタルト」というAI技術を開発している科学理事会に行ってみる
ええ、うまくいくことを祈ってる
社交辞令はいい。人間のおためごかしはもうたくさんだ
この時の決意は人々の期待に応えるためなのか、それとも本心なのか、私にはわからない
だけど九龍を離れようと思うたび、心の奥からひとつの声が私を呼び止める
彼らは私の同胞で、そして私に欠けているものを持つ同胞。私より完璧であり、美しい
だから私の役目はひとつ。彼らを守る。九龍の民を守る