Story Reader / 幕間シナリオ / 無垢なる祈り / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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最後の守林人

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グァア……

パニシングの侵蝕に耐えながらヒョードルを背負うロゼッタは、ついに体力の限界を迎え、片膝を地についた

ガァァァーー!

それを見たバイオニックが瞬時に群れから飛び出て、ロゼッタに襲いかかった

だがその攻撃は、木々の間から躍り出た大きな影によって遮られた。バイオニックはロゼッタの目の前で影に踏みつけられる

怪我はないか!

守林人……

立ち上がろうともがくバイオニックの動力連結部を守林人のスピアがひと突きに貫き、バイオニックはピクリとも動かなくなった

おや?お前たちはいつかの猟師とその孫娘か!

良かった……!お願い、おじいちゃんを町に連れていって!早く治療しなきゃ……

ロゼッタは希望に満ちた目で守林人を見上げている。だが、デミアは――苦しげに視線を外した

……すまない。我々守林人は港へ近づくことを許されていないんだ……ここが我々が来られる精一杯の境界だ

ロゼッタとヒョードルだけではなかった。守林人も……そしてこの極地で生活する全ての人間が、過去の悪夢に縛り付けられているのだ

ロゼッタは悲しげにデミアを見ると、それから歯を食いしばってヒョードルを背負い直し、立ち上がった

……わかった

少女の眼差しに、デミアの心が串刺しにされたように痛む。全てを失い、守林人になったあの日よりももっと大きな悲痛を感じている

だが、デミアがロゼッタを追うことはなかった。デミアもまた、多くのものを背負っているのだ。過去の罪だけではなく、守林人たちの未来もその肩にのしかかっている

ロゼッタはとうとう町に着いた。全身が血に汚れた傷だらけの少女に、人々は恐怖の視線を向ける

誰か!助けてください……おじいちゃんを、助けて……

リーシャ

ロゼッタ……!ロゼッタなの!?

リーシャ!教えて!病院はどこにあるの?おじいちゃんが……そう、血清……血清を探さなきゃ……

しかし、リーシャは沈痛な面持ちでそっとロゼッタを抱きしめただけだった

リーシャ

ロゼッタ……あなたのおじいちゃんは、もう……

ロゼッタの背中のヒョードルは息をしていなかった。彼の命はとっくに限界を迎えていたのだ

だが、ロゼッタはヒョードルを抱えたまま、決して放そうとはしなかった。まるでそうしていれば、祖父の死を止められるとでもいうように

違う……おじいちゃんは、おじいちゃんは熊みたいなバイオニックだってやっつけられるんだから。だから、こんなの……

ロゼッタはとうとう耐えられなくなり、嗚咽を漏らし始めた

ロゼッタ!お前たち、戻ってきたのか?

港の管理者は野次馬をかき分け、ロゼッタの前に来た。男は目線でリーシャを追い払うと、小声でロゼッタに訊ねる

イッカクは?ヒョードルが請け合ったものはどこだ!

ロゼッタは静かに頭を振って、ヒョードルの亡骸を地面におろした。それから、祖父の顔についた血や循環液を拭い始めた

ヒョードルは死んだのか……まあいい、端から期待なんかしてなかった

「潮」を永久に止めるだなんて、所詮は絵空事だ……

その時、ひとりの漁師が管理者に走り寄ってきた

おい!

どうした……

イッカクが見つかったぞ。森の方の砂浜に打ち上げられて、動けないようだぜ?

なに!お前たち、イッカクを仕留められなかったのか!

そう言って男はロゼッタを睨んだが、すぐに表情を緩めた

まあ、これはこれでいい。これでイッカクを解体できる……ヒョードルは約束を守ったようだな

管理者が手を振ると、バイオニック技師らしき数人が駆け寄ってきた。イッカクの解体に向かうつもりなのだ

ヒョードルは航路連合のために命を捧げたわけだし、俺としても約束を果たさないといかんな。お前を北極航路連合の一員にしてやろう

管理者はロゼッタの肩に手を置いてそう言った。だが、ロゼッタはその手を振り払った

何をする!

ロゼッタはスピアを拾い上げると、森へ続く道に立ちふさがり、男たちに切っ先を向けた

ロゼッタ

あのイッカクは……ドレークは私たちの守護神。私の友達を、傷つけさせるわけにはいかない

港の管理者

守護神?まだそんな世迷言を……

港の住民たちも一緒になってロゼッタを罵り始める。だが、スピアを持つロゼッタの前に出る勇気のある者はいない

港の人々

港を壊す厄病神を「守護神」だなんて、こんなやつを連合に加えてたまるか!

いくら罵声を浴びせられても、ロゼッタは動かなかった。誰もがただの臆病で弱い人間にすぎないことをわかっていたからだ

ロゼッタ

それでも、おじいちゃんも、ドレークも、守林人も……守りたいんだ……この人間たちを……

ドレーク!聞こえる!?

ロゼッタは天に向かって、イッカクの名前を叫んだ

ロゼッタ

逃げて!どこへでもいいから、逃げて!そして生きて!私とおじいちゃんのために!生き延びて、それからまた選択すればいい!

誤解され続けてでも人間を救う?それとも、人間と戦う?どっちにしても、私はあなたの選択を尊重する

おい!イッカクが動き始めたみたいだぞ……うあ!

畜生!早く捕まえろ!!

海に戻ろうとしてやがる。まるで止められないぞ、どうする!

そう、それでいい。ドレーク……

満身創痍のロゼッタは、安心したせいか糸が切れたように気絶してしまった

港の男

こいつ……!こいつを殺せ!こいつのせいでイッカクが逃げた……!

港の女

そうよ!なんて罪深い……!死刑以外ありえないわ!

港の管理者

いや……もっといい方法があるぞ……構造体に改造してやろう。守林人として、我々のために働いてもらうんだ。その方がよっぽど有益だろ?

リーシャ

そんなのダメ!ロゼッタは……

港の女

リーシャ、おやめなさい!

港の管理者

守林人もここのところ頭数が減ってるようだからな。少し性能が高い機体を投入した方がいいだろう。こいつは機体の実験にちょうどいい

残念だが、それが罪人の行き着く果てだ。なあに、罪を悔い改める時間はたっぷりあるぞ?なんたって構造体の時間は永遠に終わらないからな——守林人ロゼッタよ