反王政派は、私の与り知らぬところでアディレ王家の威光に泥を塗れば、私を屈服させられると考えたのかもしれません
ですが、私は弱くもなく、ただ王座の象徴としていいように操られる傀儡でもないのです
ソフィアが私の前に現れた夜……私はただ、前を向き、胸を張って真実を伝えました
少し時間はかかったけれど、最後には彼女も「選択」してくれた……正直なところは、拒絶されることを心配していたのですけど
ソフィアの面倒を見ることが、アンドレの生前の願いでした。独り身の彼にとって、ソフィアは娘のような存在だったのでしょう
それにしても……結婚すらしていない私に、「娘」の面倒を見させるなんて。臣下に接するようにするのが、精一杯でした
最初から、ソフィアなら私の駒、いえ、私の剣になってくれると思ってはいましたが、その成長につれ、私の心には新たな感情が芽生えてきました
もしかしたら、私はソフィアを「ひとり立ち」させたかったのかもしれません
これについてはむしろ、ヒースたちのお陰かもしれませんね
あれらは人々を扇動することに長けていました。ですが、その配下が全て私の間諜だったとしたら、何ひとつとして私に隠しおおせることはないのです
これが、真相です。余談ではありますが、ソフィアはあの夜のあと、すぐに私の護衛部隊に加わりました
ソフィアを空中庭園へ送るのは、「取引」のためでも、ましてや「人質」としてでもありません。生まれてから一度も列車から離れたことのない女の子に、外の世界を見る機会を与えてあげたいのです
ソフィアに直接謝罪することはできませんが、あの可愛らしい手を血に染めてしまったことを申し訳なく思っています。ですが、「必要な犠牲」のうえに、今のアディレの平穏が成り立っています
ずっと、将来を案じていました。より強い剣になって欲しい。同時に、ひとりの女の子として幸せな生活を送って欲しい。……今の私に、その両方を叶えてあげる術はありません
勝手を申し上げることをお許しください。どうか、ソフィアを寛大に扱い、成長させてあげてください。どうか、「娘」をよろしくお願いいたします
――アディレ·ジャミラ·エミール
……
アディレのエミール直々の頼みとあっては、仕方がない
ちょうど適任者もいることだしな