Story Reader / 幕間シナリオ / 迷える真理 / Story
夜の教会は阿鼻叫喚の大騒ぎになった。騒ぎの中心には、血まみれのビアンカがいる
「魔女」よ！魔女がトビーを殺したわ！
皆がいなくなったのもお前の仕業ね！いなくなった人たちは、きっと皆……
違います……
黙りなさい、この人殺し！
ううっ……トビー……
トビーはガキの頃から明るくて、誰にでも優しかった。そんなやつを、お前は……！！
どうして！？これが、助けてくれた人に対する仕打ち！？いつか、私たちのこともこうやって殺すつもりなんでしょう！！
はトビーの亡骸を取り囲み、その死を嘆き悲しんでいる
……
こっちに来るな！血みどろの悪魔め！
怒り狂った人々はもはや罵るだけでは飽き足らず、手当たり次第にビアンカに物を投げつけ始めた
出ていけ！この町から出ていけ！二度と俺たちに近づくなよ！
「バチンッ――」
怒りのおさまらない人が、ビアンカを力いっぱいひっぱたいた。そのまま殴り続けようとしたが、周囲に制止される
止めるな！トビーの恨みを晴らすんだ！
ここから出ていくがいい、聖地を汚した血まみれの修道女め。この教会はもうお前と何の関係もない！
人々は束になってビアンカを教会の外へ追いやった。ビアンカはよろめきながらも、教会の正門の前で体勢を整える
そして、自身に投げつけられる罵声や物に構わず、教会を振り返ると、胸の前で手を合わせ、静かに頭を下げた
しばし頭を下げ続けたビアンカは、やがて闇夜の中に姿を消した
173号都市·セントラルアベニュー、08:30
あの魔女が消えてからというもの、町も平和になったな
レオン神父はお優しすぎる。あいつはあの場で殺すべきだったんだ。今もどこかで、誰かを殺しているかもしれないんだぞ
ふん、もしまたこの町に来たら、今度は殴り殺してやる
悪態をつく人々がいなくなったのを見計い、ビアンカは建物の影からそっと姿を現した。その身には、見るも哀れなボロをまとっている
……
弱りきったビアンカが大通りを渡ろうとした時、またしても人の声が聞こえた。ビアンカは足早に反対側の路地に向かい、身を潜める
路地の前を通り過ぎた人がある程度の距離まで離れるのを待って、ビアンカは安堵の溜息をつき、壁にもたれるようにして地面に座りこんだ
私がしたことは……正しかったのでしょうか？
本当にお気の毒なことです……
どなたですか！？
ビアンカは警戒しながら小路の奥を見やる。相手は姿を隠すことなく、ゆっくりと近づいてきた
これは失礼、私はダイダロス社の代表取締役·ウェンと申します
左手にステッキを持ち、立派な黒い洋装をまとった紳士は、ビアンカの前で立ち止まると、そっと右手を差し出した
私はごく普通の商売人です。そうご警戒なさらず。あなたに危害を加える気はさらさらありませんよ
ビアンカは警戒を緩めることなく、ウェンが差し出した手も無視した。ウェンはそれを意に介す様子もなく、微笑みを浮かべながら遠くの教会に視線をやった
民衆は愚昧で、聖人の行為を理解できないもの。民は聖人を裏切り、殺害したが……聖人は依然として民を愛している
ビアンカ。大義に犠牲はつきものなのです
あなた……！？
ふふ、驚くことはありませんよ。私は、この町……いえ、このエリアで起こるあらゆることを知ることができるのです
どうぞ、私の名刺です。弊社が取り扱う商品は、ただひとつ——「安全」です
ウェンはそう言うと、胸ポケットから取り出した銀色のカードを差し出した。ビアンカが受け取った名刺には、ダイダロス社の情報が記載されている
弊社は主に侵蝕された方々の「整理」を行い、大多数の市民の安全を守っています
この町だけではなく、クザス雪原から南部の都市まで、その全域が弊社の保護範囲なのです
雪原……
スノー神父の件、あなたの選択は正しかったと思いますよ
！
町の外に出現する侵蝕体が顕在的リスクであるのに対し、トビーやスノーは潜在的リスク、つまり目に見えない敵なのです
これは、世間に対する医療的救済のようなもの。自力ではどうにもできず、いつ脅威になるともしれない被侵蝕者を見つけ、「救済」するのです。他の大多数の安全を守るためにね
極めて正当な行為であり、社会の安定を維持するための正義でもある
あなたがこれまでしてきたことと、同じです
私のこれまでの選択は……本当に、全て正しかったのでしょうか？
もちろん
ウェンは再びビアンカに手を差し出した
あなたは天賦の才能をお持ちだ。弊社にお越しくだされば、ふさわしい力を得られるでしょう。その力で、ともにこの瀕死の世界を救おうではありませんか
それが……我々のような人間の果たすべき義務、でしょう？
173号都市·ダイダロス社、17:47
一歩前に出てください
「カツン——」
後ろを向いて
……
いいですね、よく馴染んでいます
……ありがとうございます
では、かけて
ウェンはオフィスチェアを引き出し、ビアンカに座るよう促した
はい
座ろうとしたビアンカだが、背中にウェンのステッキが当てられていることに気がつく
姿勢を維持して
は……はい
ビアンカはすぐに背筋を伸ばした
よろしい、飲み込みが早いですね
ですが、ウェンさん……こういったマナーを学ぶことが、仕事上何の役に立つのですか？
力だけが全てではないのですよ。礼儀は習慣であり、規律であり、自身に対する戒めです。そして、自分が何者であるのか、何を使命とするのかを、常に自覚させるものでもある
じきにわかってくるでしょう
では、本日のトレーニングはここまで
ありがとうございました、ウェンさん。また明日
ビアンカは挨拶をし、部屋から出た。ウェンはその後ろ姿を眺めながら、無言でステッキをなでている
