ここまで来りゃ……大丈夫……だろう……
ロルモはどうなったんだろう……
あんな高い場所から落ちたんだ。もう死んでるさ……
これまで俺たちは多くの死を見てきた。あれしきのことに影響されるな。俺たちがまだ生きているってのが一番重要なんだから
問題はどこから脱出するかだ……
俺たちが進入してきた道は植物が完全に塞いでる。その道から帰るのは無理だ。新しい出口を探すしかない
避難通路の入口も、あの忌々しい植物に占拠されている。あそこから出るには植物を取り除くしかない
——あれが植物っていうのもお笑い草だけどな
まとめて爆破しちまうのはどうだ?この葉っぱども、気持ち悪すぎるぜ。普通はこんなに早く成長しないだろ?
コルテス、お前が植物にかけては一番知っているだろ。どう思う?
これは植物に擬態しているだけで、中身は我々がよく知るパニシングの怪物と同じだ
しかもあの動きは植物というより……軟体動物に近いな
つまり直接的な破壊は無理ってことか
ああ、この植物たちは破壊されると高濃度のパニシングを噴出する。今の俺たちでは防ぎきれないし通り抜けるのも無理だ
それに弾薬も残り少ない。敵にダメージを与える前にこっちが戦闘力を失ってしまう
道中使える補給物資はほとんどなかったしな。死体だけだ
ここに来ると決めたのは俺だ。こんなことになったのは俺の判断ミスだ
なんとしてもお前らを無事にここから脱出させる
ザックは鞄の中からボロボロのノートと炭のペンを取り出した
避難通路が無理なら、なんとか正門から出るしかない。この塔の制御室を見つけて正門を開けるしかない
彼はすばやく紙に簡単な地図を描き、いくつかのポイントをマークした
浄化塔の内部構造がどこも共通しているなら……制御室はおそらく塔の真ん中だ。エレベーターは使えないから自力で登るしかない
俺たちが通ってきたエリアで昇った階数から考えても、今俺たちはまだ浄化塔の下のあたりにいると思う
ここから更に上の階へ行くためには、この長い連絡通路を通らなければならない
スカベンジャーは地図上に、塔の全体を横切る長い直線を描いた
よし、目標は決まった。出発だ
通路では蛍光の魚型怪物が徘徊している。離れた機械の陰に隠れているスカベンジャーたちは自分の武器をぐっと握りしめた
どうする……向こうへ行くにはここを通るしかない
こんなにうようよいるんじゃ無理だ。全部の武器を使ってもおそらく30秒くらいしか持たない
強行突破するか?
難しいだろう。爆弾を使うしかない
おいおい、それじゃ通路まで一緒に吹っ飛ぶぜ?
浄化塔の構造や鋼材はそれくらいの爆発じゃびくともしない
それならやるか
「髭」はザックの次の指示を待った。その瞬間、コルテスは何かを思いついたようで、鞄から爆弾を取り出そうとしたザックを止めた
待て……あれ、深海魚みたいだと思わないか?
ザック、赤潮で出会った怪物を覚えているか。動物みたいな見た目で、しかも動物の動きを真似していた
蠍や、飛行する虫……
あの時は彼らの走光性を逆手に取って、ライトで飛ぶ虫の注意を引きつけて、その隙に下水道から逃げ出せたじゃないか!
それを聞いたザックは爆弾を戻し、自分のアイデアに興奮して震えているコルテスを見た
……お前の結論は?
もしこの魚みたいな怪物も何かを真似ているなら、深海魚と同じ習性を持っているかもしれない
コルテスは湧き上がる興奮を抑え、小声で話した
深海に光はない。多くの深海魚は進化の過程で目が退化している。たとえ目を持っていたとしても視力そのものはないんだ!
つまり——あいつらは獲物の居場所を目ではなく、音で判断している
だから——
――俺らが大きな音を立てて注意を引けばいいってことだな。この通路なら8秒もあれば向こう側へ行ける!
その通り
となると、やっぱりこれの出番だな
ザックは爆弾をもてあそびながら、ニヤッと笑った
ああ、でもどこで爆破させるかをよく考えないと
あっちでいいだろう
ザックは前方のエネルギーパイプの分岐を指さした。そこを爆発すれば3方向にいる怪物を引きつけるはずだ。重ねて爆発すれば、更に向こう側へ走るための時間が稼げる
準備はいいか?
3つ数えたら……
ふたりは頷き、暗黙のうちに行動しやすい場所へ移動した
3……
2……
1!
カウントダウンをしてザックは爆弾を投げた。爆弾は弧を描き、目標の場所へと飛んだ
爆弾が地に着弾する寸前に「髭」が爆弾を空中で撃ち、弾は正確に命中した
爆発による轟音が響き、エネルギーパイプは破壊され、衝撃波が伝わった。徘徊していた怪物は音がした瞬間、その方向へと一目散に進んでいった
走れ!!!
爆発の閃光が通路を照らしだした瞬間、スカベンジャーたちは矢のように走り出した
爆発の振動や轟音がやむ前に、彼らは無事に通路の向こう側へたどり着いた
爆発後の残り火の間から、吹き飛ばされた蔓たちがゆっくり接合し始め、赤い光が下に向かって伸びていく
混沌の中で何かが両眼を開いた
いいじゃないか
壁にもたれてモニターを見ていたロランは、頷いた
彼らの見事な連携を見ていると、空中庭園のある構造体小隊を思い出すよ
メンバーそれぞれに得手不得手があるけど、一丸となった途端に頭を悩ませる敵になるんだ
人間のスカベンジャーの脅威レベルは低いですが
ふん……それはどうかな
この末世を生き延びてきた者を、見くびっちゃだめだ
これもガブリエルがよく言っていた「人類の可能性」ってやつだろう?
それにしても、免疫時代から残る浄化塔にあれほど詳しかったとは驚いたな
彼らが一体どこまで行けるのか、楽しみだよ
ハイジお嬢さんはどう思う?ひとつ、賭けてみない?
今までの演者はこの段階で、いろいろな理由で仲間割れした。何だったかな、補給の配分問題、意見の相違、恐怖に不安、猜疑心、感情的なトラブル……
……
それはどうでもいいことです。私は「ママ」の状態しか興味がありません
そうか
さすがガブリエルの愛弟子だな。彼とも同じような会話をしたのを覚えているよ
新しい環境になったら少しは楽しいはずと思ったけど、前とそれほど変わんないとはね
さて、彼らがどこまで頑張れるか見ものだ。以前の演者とは違う展開を見せてくれたことだし、予定調和でがっかりさせないでほしいものだね