海の中だとわかっていても、体は落ちていく
自分が泣いていることをラミアはわかっていた。それがあの赤髪の構造体に与えられた傷が痛いからなのか、それとも心が痛いからなのかが、彼女にはわからない
どうして忘れてしまったんだろう?いつ、その全てを捨ててしまったんだろう?どうして、こんな姿になってまでこの世界でぼんやり生きているんだろう?
ラミアは忘れてしまった
彼女は大陸に到着後、長い間徘徊していた。亜人型の構造体技術のため意識海は不安定で、逆元装置もなく、彼女はすぐに侵蝕され……昇格者になった経緯すら覚えていない
ぼんやりと、自分には叶えていない「宿願」があることだけは覚えていた
しかしこの島に足を踏み入れた時、全てが甦った
「あなたの任務は外部の情報収集。もしパニシングが終焉し、世界が平和になっているなら――可能性はゼロに近いけど――もしそうなら、我々に知らせて」
それは命令であり、呪いでもあった
彼女がこの街の最深部へたどり着き、アトランティスの中央制御システムにアクセスした時、彼女の生体認証が識別され、ある映像が自動再生された
希望は持っていないけど、それが1千万分の1だとしても試すべきだと思って、私はこのメッセージを残した
この動画はあなたしか見れない。この映像を見ているなら、ラミア、あなたはすでに自分の長い旅を終わらせたんでしょう
よく戻ってきたわね。自分の使命を成し遂げて、あなたは役に立つ子だわ
おかえりなさい
そして、あなたはもう……自由よ
――その刹那、ラミアは全ての希望を失った
彼女はこの街に何の感情も持っていないはずだった。彼らは冷酷で薄情で、ここで本当のぬくもりなど一度たりとも感じたことがない
しかし記憶が次々と甦るにつれ、彼女の心は砕け始め、ラストリアスが残した最後の言葉を聞いた瞬間、彼女は泣き崩れた
もう、彼女には帰る場所がない
だから、ラミアは潜行コマンドを出したのだ
それなら、全てを海の底に沈めてしまえばいい
再び太陽を見なければ、世界に知られなければ、アトランティスは永遠の理想郷であり、彼女の永遠の宿願であり、彼らが永遠にこの街で未完の研究を続けていると思える
この狂おしくも静かな海、この悲しみに満ちた死の海の中で、いつまでも
しかし海に落ち、海中に沈みゆくアトランティスを見た時、彼女はいいようのない苦しみを感じた。それは深度3000mの水圧よりも苦しく、胸が張り裂けんばかりだった
何かが、目の前で消えていく。彼女は知っていた。ここで自分を止めないと、何か、本当に大切なものを失ってしまうことに
彼らが存在した証、彼らが戦った痕跡、彼らが残した墓標
彼女は街の最深部へ戻り、潜行コマンドを解除した
アトランティスは確かに存在していた。そして滅びることはない
彼女の目からあふれ出した涙が、塩辛い海水に溶け込んだ
街は再び上昇し、ラミアはこの海から泳ぎ去っていった
彼女の悲しみと悔恨は、時間という川をゆっくりと流れていく
あふれ続ける涙とどこまでも一緒に
やがて、海の向こう、海洋を渡る船着き場までも流れて……
やがて、究極の静謐が訪れた