爆発、振動
空から俯瞰すると、アトランティスを中心に大きな波紋が海面に広がっていた
監視システムはすぐに爆発の発生源を突き止めた――それは海面下の、零点エネルギーリアクターがある階層だった
リアクターがある場所にたどり着いた時、後方支援部はすでに後始末を始めていた
防災設備の破片が辺りに散らばっているが、リアクターの近くには焼けた痕跡すら見当たらない
それもそのはず、零点エネルギーリアクターは「燃焼」という原始的な化学反応でのエネルギー放射はしない
ラストリアスはすぐ現場へ駆けつけた。目の前の惨状を見ても顔色ひとつ変えず、質問を放つ
状況はどう?
防災設備がすぐに作動して電源が落ち、放射能を遮断しました。リアクター階層より上の基地は無事です
死傷者の数は?
死亡2名、重傷1名、軽傷15名です。負傷者は全て医療部に引き継ぎました
機械部を呼んで事故の原因を分析し、防災設備のグレードを上げるように言って
この実験の責任者は?
実験部のリビアです
彼女を解任し、次の補給船で大陸へ送り返しなさい
それは……
何か問題でも?
その重傷者がリビアなんです。おそらく、もう助からないかと……
……
会いに行かれますか?主任
ラストリアスは目を閉じた
愚か者には興味がないけど、医療部には全力で治療するようにと伝えて。愚かだからって死んでいい訳じゃないわ
その時、通信端末が光った
ええ?はい、はい……こちらにおいでです。はい、伝えます
主任、医療部からの連絡です。リビアが治療の甲斐なく……亡くなりました
その報告で私の時間を浪費する必要がある?慰謝料と葬儀は行政部の管轄よ
いえ、実はリビアは妊娠しており、お腹の子だけは助かったと。その子の処遇について、医療部が判断を仰ぎたいとのことです。なにしろ新生児を迎えるのは初めてでして……
どうして我々の島に妊婦がいたの?
リビアは前の補給船で大陸に戻り、休暇を取るはずだったんです。ですが手がけていた研究が途中だったため、ついに臨月まで……確か、主任が滞留を認めておられましたが
……
その子はどこに?
医療部の照明は白く無機質で、ここの廊下を歩くと、影の色まで薄くなるような気がした
病室を仕切る緑色のカーテンが開くと、ラストリアスの前に、小さく体を丸めた赤ん坊が寝ている。カーテンの後ろには、ベッドに横たわる誰かの影がぼんやりと映っている
彼女は眉をひそめた
これは猿の子か何か?リビアの子はどこなの?
主任、この赤ん坊がリビアの子どもです
……
私は生理学に詳しくないの。赤ん坊って普通、こんな感じなの?
いいえ、この子の下半身は実験事故で粉砕されています。おそらく爆発に巻き込まれたかと。簡単に応急処置をしましたが、しかし……
どうすれば治せる?
我々では無理です、主任。まだ発育しきっていない新生児を死神から守るのが、我々にできる精一杯のことです
実をいえば、この状態で呼吸ができているだけでも、この子にとっては奇跡なんです
ラストリアスは緑の布に覆われているリビアを見て、眉をしかめた
母親が死んで、子どもだけが生き延びるケースはよくあることなの?
医療技術が遅れていた昔は、女性が出産時に大出血するなど、難産で死ぬことはよくありました。しかし現代医学の発展で、母親が死ぬケースは少なくなっています
なら、この子は……どういうこと?
不思議ですが、リビアの死に際に陣痛がきたようです。彼女は重傷で意識も朦朧としていましたが、この子だけは産む……と。我々で破裂した腹を切開し赤ん坊を取り上げました
……いわゆる「母の愛」かしら?
どうでしょうか。ですが私はある伝記小説で妊婦が自動車事故で頭が吹っ飛んだのに、事故現場で体だけで出産し、子どもも無事だったと読んだことがあります
……
次の補給船はいつ?この子を次の補給船と一緒に大陸へ移送して
しばらくは無理でしょう。もうすぐ「潜行日」ですから……
ラストリアスはまた眉をしかめた
なら、しばらくはここに残すしかないわね
……この女の子に名前をつけませんか?
ご勝手にどうぞ。そんなこと、私に聞かないで。適当に番号でもつければ?名前なんてただのコードよ
……
……
しばらくして、ラストリアスは妥協したようにため息をついた
彼女の母親の名がリビアなら、この子はラミアと呼びましょう