Story Reader / エターナルユニヴァース / 神寂黙示録 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

死の巡礼

>

耳元でふと、軽やかな旋律が響いた

流れる音楽は黄金の糸を織り成し、ばらけた夢の中へと入りこむ。深い眠りから意識を導き、再び現実の温もりを抱きしめさせた

カァ!大将大将が起きた!大将大将が起きた!

どんな夢を見た?早く書き残してくれ!

あんたが忘れたら、ワシがネイティアに八つ当たりされる!これ以上ワシのイケてる羽を引っこ抜かれてたまるか!

風砂の音が周囲に響き渡る中、ぼんやりとした景色の中で、1羽のワタリガラスが自分の肩に止まり、ひとときも止まらずに騒いでいる

あいよ、大将

頭上で暴風が唸り、テントの布がガサガサと音を立てている。どうやら巨大な岩の影でうたた寝してしまったらしく、目の前には荒れ果てた野営地が陽光の下に広がっていた

すまない、起こしてしまったか?

馴染みのある姿が地面に散らばった枯れ草や小石を踏み越え、ゆっくりと影に歩み入り、自分の側で片膝をついた

代わりになる物が近くになくてな。私のマントですまない

彼の視線が、自分にかけられた赤い布に向けられた

彼は微笑みながら軽く頷いた

人間ってホント変わってんな。夢を見てる時は体が冷えるなんて……ワシも体験してみたい!

……さっきから訊きたかったのだが、このカラスは一体……?

ワシの名はモリガン!ワタリガラスだ!カラスではない!

あいよ、大将

……使い魔?

詳しく説明する気がないのを察したのか、ワタナベは特に追及してこなかった

錆軛の町までは馬で半日くらいだろう。運がよければ、すぐに鋼鉄軍団に追いつける

彼はゆっくりと隣の地面に座り、鉄の左手を広げた

彼の手には、繊細な金色の懐中時計があった。表面のメッキ模様は非常に精巧で、災変時代の産物とは思えない

父の形見だ

ワタナベが懐中時計を開くと、馴染み深く心地よい旋律が野営地に響き渡った

表蓋の内側には、戦場で撮られたモノクロの集合写真が貼られていた。左側には女性が、中央にはワタナベによく似た男性が、そして右側には眼光の鋭い屈強な男性が写っていた

左にいるのはツウ、私の母だ。そして右にいるのは……

鉄逝、鋼鉄軍団の元副統帥だ

ワタナベは眉をひそめ、重々しく仇敵の肩書を口にした

白隼とツウ……両親と鉄逝は、災変時代よりも前の時代に「燼炎三傑」と呼ばれ、鋼鉄軍団を率いてケイオスバースの悪魔と戦っていた

災変が起こってから、人類の敵は地獄から聖堂へと変わったが……より嗜虐的で凶暴な天使を前にしても、鋼鉄軍団の人類を守るという信条が揺らぐことはなかった

……母も、そのために戦場で命を落とした

しばらく黙り込んだ彼は指先を伸ばし、懐中時計の薄いガラス越しに軍団が栄えていたあの時代をなぞった

かつて単身で地獄に乗り込んだ鉄逝は、ある苛烈な戦いの中で天使長に支配され、軍団内部に潜伏する聖堂の眷属へと堕ちてしまった

……そこからは、あなたにも話した通りだ

契約とは人間の魂に刻まれた呪いだ。それは宿主の心に潜む欲望を呼び起こし、最終的にはその欲望と一体化する。私があなたと結んだ血の契約のようなものだ

聖堂に操られているというよりも、天使の烙印は鉄逝の良知を完全に喰らい尽くし、骨の髄まで染み渡ってしまっている

つまり本人を殺さない限り、鉄逝と聖堂の繋がりを断ち切ることはできない。それどころか、天使に加担して悪をなす彼を止めることさえもな

これがワタナベが無数の書物を読み漁り、そして鉄逝と直に刃を交えた末に導き出した結論だった

……私は必ず、この手で鉄逝に刻まれた契約を断ち切ってみせる。それは父のためだけではない。悪魔と天使によって命を落とした数多くの戦士と同胞たちのためでもある

これは自由が隷属に抗うための戦争だ。皆がその血で鍛え上げた旗と剣がこんな形で折れることなど、決してあってはならない

騎士は真紅の空へと手を伸ばし、永遠の太陽を手の平に握りしめた

今の彼には、自らの手で聖堂の眷属に対抗しうる悪魔の力がある

そういうあなたは、何のためにこの戦争に関わっているんだ?

ワタナベは首を傾げてこちらを見つめ、興味深げに訊ねた

……そうか、その名を借りているのも納得だ

名乗っていただろう、「グレイレイヴン」と

鋼鉄軍団初代統帥、前災変時代における人類の英雄――「グレイレイヴン」

――そんな伝説は聞いたことがない

……?

こちらの返事に対して、ワタナベは珍しく驚いた表情を浮かべた

ならその名は誰から受け継いだんだ?鋼鉄軍団の肩書のようなものだろう

……そんな馬鹿な

ではその前は?あなたはどうやってその力を手に入れた?

……どうか……

奥深くにある記憶を必死にたどり、砕け散った破片の中から少しずつ答えを繋ぎ合わせようとした

???

……これが血の契約者となる代償……

???

…………

しかしどれほど記憶を掘り下げようとしても、応えるのは空虚な空白だけだった

過去の全てが埋もれてしまったかのように、ただ聖堂への恨みだけが今もなお募り、それが自分を突き動かしている

もしくはこの忘却自体が、自分の「代償」なのだろうか?

あなたの「仲間」と関係があるのか?

彼はそう言いながら、視線をこちらの肩に止まる機械のワタリガラスに向けた

前回――地獄列車を奪取しようとした際、天使長に瀕死の重傷を負わされた。しかし彼女が現れ、自分を救い出してくれた

それよりも前から彼女はずっと自分の側にいて、聖堂を覆す計画への助言や、実行の手助けをしてくれていた

彼女が信頼に足る盟友であることは間違いない。たとえ自分の断片的な記憶の中に、彼女との思い出がほとんど残っていないとしても――

……あなたの過去は、多くの謎に包まれているようだな

ふたりは黙したまま、世界に吹き荒ぶ風の中に静かに沈んでいった

以前、父が言っていた。前に続く道が壮大であればあるほど、これまでの道のりを振り返るべきだ。さもなくば、終着点を追い求めるうちに自分自身を見失ってしまうと

私には、あなたが選んだ道に口出しする資格はない。だが、今後もし助けを必要とするのなら、私はその背中を守り、進む方向を示してやれる

彼は目を合わせ、そっとこちらの肩に手を置いた

軍団の兵士は、恩人を決して軽んじはしない

大将!緊急事態!エマージェンシーだ!

肩の上のワタリガラスが突然大声で叫び出した

天使だ!いや……

天使巡礼者が来た!

2頭の茶色い駿馬が馬車を引き、荒れ果てた谷間を全速力で駆け抜けてくる

ハッ!ハッ!

馬車の後方から地震のような轟音が響く。それは蹄の音や、車輪が砂利を踏みしめる音をかき消すほどだった

虐殺!!虐殺!!

目玉、指、髪!!虐殺!!

10数匹の白い肌をした巨大な生物が地面を這っていた。砂塵を巻き上げる馬車の後を追って、手足で素早く這いながら、徐々に獲物との距離を縮めていた

ダメだ、追いつかれる!!

クソッ!なんだこの天使の数は!まさか町まで「マーク」されたのか!?

うっ……うぅ……!

青年の背後から、震えながらすすり泣く声が断続的に聞こえてくる

8カ月だってのに……

あ、あの!もう少し安定して走れませんか!?もうすぐ出産なんです!

錆軛の町はもうすぐだ!少し我慢してくれ!

馬車が急坂を下り始めると、車体全体がガタガタと揺れだした

きゃああ!!

殺ス!!!腐敗!!!

獲物の悲鳴に昂ぶるかのように、巡礼者たちが突如あげた凄まじい叫び声が峡谷に響き渡った

どうすればいいんだ……!

青年はちらりと自身の側に置かれた銃を見た。木製のグリップには双頭の鷹の紋章が彫られており、威厳を放っている

ワタナベさんなら……

彼は深呼吸をして手を伸ばした。そして武器を握りしめ、後ろに向かって叫ぶ

おい!あんたが馬を引いてくれ!俺が――

カァ――!!

ワタリガラスのけたたましい鳴き声が谷間に響き渡り、青年の言葉を遮った

ドォォォォン!

馬車が谷を抜けた瞬間、その後ろから爆発音が轟き渡った

天地を揺るがす振動とともに、両側の山腹から巨大な岩石が雪崩のように次々と転がり落ち、馬車の後方の道を分断した

え!?なんだ!?

青年は茫然と背後を振り返り、封鎖された峡谷を見て、ゆっくりと武器を下ろした

……いや、今は町に撤退するのが先だ!

ハッ――!

ガァアアァ!?

ギャァアア!!!

先頭の巡礼者が足を止めた瞬間、すぐ後ろから押し寄せる天使に押されて岩に激突し、血飛沫を上げて粉々に砕け散った

待チ伏セ!撤退!撤ッ……

ドォォォォン!

天使の大軍が混乱に陥ったその時、再び轟音が彼らの背後から鳴り響き、雷鳴のように空虚な谷間にこだました

すると、遠くの砂塵の中から人影がゆっくりと現れた

……

ヒトリ!!

殺セ!殺セ!

雪のように白い巨人たちが再び軍勢を整え、谷の反対側にいる人間へ向かって突進し始めた

まるで群れから離れた子羊に襲いかかる狼のように巡礼者たちは咆哮し、道中の小石を粉々に砕きながら進んだ

獲物まで100mにも満たない距離に迫った時、谷間を覆っていた煙がほぼ完全に消え去った

すると数十挺の銃が現れ、真紅の金属の光沢が眩い輝きを反射した

天使ども……

悪魔の騎士は僅かに顔を上げ、手にした刃を波のように押し寄せる敵に向けて掲げた

覚悟はいいか?

さあ、戦を始めよう