Story Reader / パレットクラッシュ / 未来への序曲 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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lll エンド 未来への序曲

夜明けが訪れる頃、風車広場に微かな風が吹いた

少しも緩むことのない緊張感の中で遠くを見やれば、広場周辺はすでに水すら通さないほどの包囲網だった

アイラの作品が主力であるため、新·多次元機械立体派は予想通り勝利を獲得していた

だがそのために双方は膠着状態に陥っているのだ

ミュロンさんが話していただろう?アイラさんはコンステリアの機械体ではないから芸術主導者にはなれないと

待て待て、我々はアイラさんを芸術主導者にするとは言っていない

アイラさんでなければ誰だ?まさかお前か?

偉大ではないマルクはこのようなことには参加したくない

ならどのマスターだ?お前たちのその、新·ほんにゃら多次元ほんにゃら立体機械派のか?

何が、「新·ほんにゃら多次元ほんにゃら立体機械派」だ?幻想機械派め、あいつらにかこつけてこっちを罵倒しやがって、クソッ

一石を投じたことで水面に波紋が広がるように、双方の機械体が衝突し、それによって喧噪が爆発した

キィィィン――

その時、広場付近に隠されていたスピーカーから耳障りなハウリング音が流れ、機械体を無理やり鎮めた

テステス~テステス~はい、いいわ

では、私たち新·多次元機械立体派の新しいリーダー、じゃなかった、主導者の登場です

行くんだ、ドルシネアさん

うん……

ドルシネアは幕の後ろから出てきて、台の前に立った

ドルシネアさん?なぜ?

管理者としての仲裁プランは否決されたのではないの?

ドルシネアは少し考えた。管理者権限を取り外したあと自由にデータベースに入れなくなった彼女は、新しい交流方法に慣れる必要があった

まず、私は管理者としてここに立っている訳じゃない。少なくとも現在は、管理者権限を本機のシステムから外している

次に、これは管理者として仲裁を行うプランでもない

では、誰が決定するの?

パレットクラッシュの勝敗で……

3大流派のマスターたちは挑戦を受けてくれた。そして、敗北したら新……

ここまで話したところで、ドルシネアは少し言葉を止めて、言い直した

私たちの新·多次元機械立体派の勝利であると認めてもらう

……

広場はたちまち静まり返った。各流派の覚醒機械は次々に振り返って自身の流派の芸術マスターの方を向いた

ちょっと待ってくれ

我々は、君たちがアイラさんを出すとは思わなかったから挑戦を受けたんだ

それは挑戦とは呼べない。挑発の間違いだろう?

パレットクラッシュのルールから見て、アイラさんの参戦にどこかおかしなところがあるの?

それは……

パレットクラッシュにそんなルールはない。コンステリアの管理条例に抵触せずに、その他の機械体が認めればいいだけだ

だが後者において、ロマン主義の色合いを持つ機械体は同じ規定の認識を持つ傾向にある。ドルシネアはそれを破りたくはなかった

アイラさんがパレットクラッシュに参加することについては、以前に皆で認めていたよね?

それとも、以前アイラさんに話していたことは、全てアイラさんに話を合わせただけだったの?

もちろんそんなことはない!

パレットクラッシュはいつまでもアイラさんを歓迎する

アイラ

うんうん!皆、ありがとう!

スピーカーからアイラの声が流れた。アイラにそう返されてしまっては、覚醒機械たちもこれ以上騒ぎ続ける気をなくしたようだ

さっきも言ったが、我々はアイラさんとアイラさんの芸術を認めている

しかし、ドルシネアさんがアイラさんに頼って芸術主導者となるのは、どの流派も認めないだろう

「そうだそうだ!」「芸術主導者はコンステリアの芸術を未来へ繋ぐ存在だ」「ドルシネアさん自身はどんな作品を見せてくれるというのだ?」

キィィィン――

また騒音が走る。その音は、混乱しかけた現場を強引に元の軌道に引き戻した

テステス~テステス~はい、いいわ

ドールベアさん、それはもうやめてもらっていいだろうか……

それは、向こうにドルシネアの話を聞く気があるか次第ね

ドルシネアは深呼吸して、カレニーナに教わったように冷静を保ち、そして決心した

芸術主導者がコンステリアの芸術を未来へ連れていくのなら、私に提案がある

皆、この提案を聞いた上で、私を芸術主導者として認めるかどうか、決定してくれないかな……

ううん……それは重要じゃない。この提案だけでもしっかりと聞いてほしい。その後、私に芸術主導者という肩書がふさわしいかどうか、皆に処置を任せたい

……

沈黙の後、どの覚醒機械が始めたのか、議論の声の波が広場に拡がっていった

「前任の芸術主導者であるセルバンテスの最後の提案は何だった?」

「芸術流派を成立させて、我々覚醒機械体の芸術に対する分類帰納を行う」

「あの提案のお陰で、機械体芸術はこの数カ月で大いに発展したのだぞ」

「ドルシネアさんは同レベルの提案でバランスを取るつもりか?」

ドルシネアは台の前に立ってもう一度深呼吸をすると、ゆっくりと口を開いた

私の提案は、今後コンステリアでは……

「強制的にパレットクラッシュを取りやめるつもりじゃないだろうな?」

「冗談じゃない」

今後コンステリアでは……もう芸術主導者の称号を置かない

また大きな沈黙があり、そして感情が爆発するような声があちこちで上がった

キィィィン――

ドールベアがすぐにもう一度あの音を流したが、残念ながら今回はあまり効果がなかった

静粛に!静かにするんだ!

各流派の芸術マスターが立ち上がって必死に制止した。彼らの怒鳴り声によって、皆が少しずつ落ち着き始めた

ドルシネアさん、それは、セルバンテスさんがいた頃のコンステリア内部における暗黙のルールを破ることになると、理解しているのか?

理解してる

セルバンテスさんがそれに賛同しないとは思わない?

それは、私も判断がつかない。でも私の提案とは関係ない。セルバンテスさんが今私の前に現れたとしても……

私の意思は変わらない

芸術マスターはドルシネアと数秒間見つめ合い、互いに譲るつもりがないことを確認すると、うなずいてからまた質問をした

ドルシネアさんは、自身が以前話したことを覚えているだろうか?この提案が通るかどうかは、覚醒機械が決定するのだ、と

では、この提案に賛同する者はいるか?

マルクだ!

……

他に手を上げる機械体も言葉を発する機械体もいなかった。ただマルクだけが孤独に手を上げて、広場全体の衆目を「享受」していた

……

マルクは四方を見回して、彼の後に続いて同じ戦線に立つ者がいないことに気がついた

すると彼は焦り出した。沈黙は無言の審判を示し、前回のホール事件のように、計画の失敗を告げるもの――

しかし、本当にそうだろうか?

「私もいるぞ!」

スピーカーから突然流れた機械体の声に、覚醒機械体たちは何が起こったのか理解できなかった

これは一体誰だ?

人間のように喫茶店を経営し、料理芸術を研究していた機械体のようね

その話の続きを待たずに、多くの声がスピーカーを通じて広場にあふれ出した

「私は提案に従う」「私が代表する漫画結社はドルシネアさんの提案に賛成だ」「蝋人形館はドルシネアさんに賛同する」……

今回のパレットクラッシュには参加していない、都市の各地に分布している数多の覚醒機械体たちの声であることは明らかだった

彼らは芸術に主導者は不要だと思っているのか、芸術は生まれながらに自由であると思っているのか、このパレットクラッシュを忌み嫌ってさえいるのかもしれない

ただこの時、彼らがドルシネアの考え方を支持する立場を表明したということに疑いの余地はなかった

これはコンステリアの内部ネットワークか

テントの中で端末を操作していたリーに向かって、皆がサムズアップで彼を讃えている

重大な決定だから、当然全ての覚醒機械に参加してほしかった

この決定が間違っているとしても?

……

私はセルバンテスさんじゃないから……この考えが正しいかどうかは保証できない

でも、ミュロンさんが言っていた。コンステリアの覚醒機械たちは、魂と自由を勝ち取るために、芸術という武器で残酷な運命に抵抗しているんだって

それはつまり、芸術主導者を選出することで、コンステリアに新たなセルバンテスさんの誕生を期待する必要はもうない、ということではなくて?

……

今後は、機械体ひとりひとりが……それから人間が、一緒にコンステリアの未来を描き出せばいい

少なくとも、私はそう考える

……

今回、ドルシネアが率先して芸術マスターと対峙することを決定し、管理者権限を持たない状態のドルシネアが自分の意思で招待状を送ったのだ

この提案はとても危険だ。コンステリアのさまざまな物事を変えてしまうだろう

わかってる

だとしても、ドルシネアさんは自身の意見を持ち続けるのだな?

そう

わかった……

いつの日かコンステリアに非常に重大な問題が出てきた時、私は、最初にドルシネアさんに問題提起をするだろう

声を落として、この芸術マスターも高々と手を挙げた

彼に衝き動かされるようにして、多くの覚醒機械体が同じように挙手をした

2時間後、コンステリア内部、空中庭園の臨時駐屯地――

頭上に光の輪を載せ、カーペットに沿ってゆっくりした歩みでホールに入ってきたドルシネアに対して、両側に直立した各部隊の隊員たちが一斉に敬礼をした

なんと懐かしい。この儀礼は久しく使われていなかったな

リストさん

ドルシネアは時候の挨拶などを交わすつもりはなく、真っ直ぐに相手を見すえて早足で近付いた

彼女がリストの前に立った時、頭上の光の輪は消えて、代わりに手の平の上に鍵のホログラムが浮かんだ

ドルシネアさん、これは?

私はもともと覚醒機械のようなプログラムの集合体だと思っていたけど、今ではその認識は覆された

コンステリアの最高絶対管理権限は、個体感情と自我傾向を備えた機械体が持っているべきじゃない

言い終えると、ドルシネアは手を強く握り、雪のように白い指によって一瞬で鍵のホログラムを粉々に砕いた

こうすれば、コンステリアの内部ネットワークを通じて人間の設備を乗っ取ることは、もう誰にもできない

これは覚醒機械たちが選択した「後退の一歩」ですか?

両者にとっても

ドルシネアさんは本当にストレートな人だ。であれば、我々外交部が一晩中悩んで作成した原稿は必要ありませんね

少なくとも、コンステリアの覚醒機械たちには、もっと直接的な方が喜ばれる

互いの存在に慣れるまで、人類と覚醒機械はまだまだ長い道のりを歩む必要がありそうだ

コンステリア外、荒野の草むらの上――

どうやら計画は成功したみたいですね、ドルシー

多分。このパレットクラッシュのお陰で人間と覚醒機械の距離がもっと近付いた

これで、コンステリアの未来もより一層保証される

あなたの最高管理権限は?本当に壊したんですか?

完全に。今後は、ここに居住する覚醒機械と人間が、一緒にコンステリアの未来を決めていく

本機もその一員。ドルシネアとして、コンステリアを守り続ける

ふぅん……最後を見られなくてちょっと残念だけど、まあ、その願いが叶えられたってことで、一応おめでとうって言っておきます

「ドルシネアさん、ドルシネアさん!」

通信の中に突然マルクの叫び声が飛び込んできた

「セルバンテスさんもこの中に含めるのか?」

よく聞いてみると、微かにさまざまな声が聞こえてきた。どうやらドルシネアはかなり騒がしい環境の中にいるらしい

皆リーさんの作品の完成を手伝っているの

『コンステリア』?あの絵はちょっとやりすぎじゃ……

うん、アイラさんも頭を抱えていた。長時間話し合ったけどダメだったんだって

アイラの名前を聞いた途端、アリサの顔に渋い表情が浮かんだ

ドルシー……

うん?

あなたと指揮官、約束忘れてないですね?

……

私たちは誰にもアリサのことを話してない。マルクも意外に口が堅いから

よかった。なら安心です

……

アリサ、私があなたにあげたデータ……

ドルシー

アリサはドルシネアの言葉をさえぎって、人差し指をこっそりと端末の側面に添えた

私は、あることを絶対にしなきゃいけないんです

……

敵同士になってしまうとしても?

ドルシーがコンステリアのために退けないことがあったように、私たちにも止まれない理由がある

私にはあなたの……あなたたちの選択が向かう未来のシミュレーションができない

でも、また次に会える時には、きっとアリサもその願いを叶えてるよね

「ドルシネアさん!リストさんとのお話は終わりましたか?」

あ……あの、すぐ行く!

……

「ピッ」、アリサは通信の切断ボタンを押した

声に出さない告別として

アリサは端末を操作しながら、ひとつまたひとつと通信記録を削除していく

すぐに、端末のモニターに薄い赤の光が点滅し始めた

セルバンテスさんの計画は成功

覚醒機械は覚醒機械を作れない。最初にセルバンテスの手で作られたドルシーのように

でも、芸術によってひとつの新しい答えが示された。運命との闘いの中で次第に成長する意思によって、覚醒機械は簡単にその一歩を踏み出すことができた

それは拒絶。他人によって勝手に書き込まれる運命を拒絶すること

どこへ向かうのだとしても、これに気付いた機械は皆自由だわ

うん……姉さんの話は本当にわかりやすい……

でも、私たちが背負うものは自分が選んだ運命と、かつての誓い……

……機体も安定してきたし、出発しましょう……

……「さあ、シルバーファルコン、地獄へ」

アリサがもうある程度の距離を歩き出しているせいか、完全体エコーの優れた望遠能力をもってしても、コンステリアの輪郭をはっきり見ることは難しかった

持っている端末からは火花が噴出している。自爆プログラムによって発火した酸化鉄が全てを燃やし尽くそうとしているのだ

きつく握った手を緩めて、燃える端末をそのまま地面に落とした

炎に照らされた少女の顔は微笑んでいた。そして、最後にもう一度後ろの都市を見た

空を飛び回るハヤブサを呼ぶ声とともに振り返った時には、その顔にもう笑みはなかった

こちらはエコー、コンステリアの管理AIデータは確認済み

指令は下されました。次の段階に進みましょう