広々とした廊下を進みながら、一歩また一歩と終点のホールに近付く
両側に整列した各流派の覚醒機械たちは、まるで自分とドルシネアの到着を待っていたかのようだ
セルバンテスさんの助手であるドルシネアさんが勝利した流派を決めるのではなかったのか?なぜ今人間を加える必要があるのだ
訊くな。わからん。だが人間側の代表者かもしれんぞ
人間に我々機械体の芸術がわかるものか
あのアイラという構造体のことを忘れたのか?
……
バン!
言い争う声は、ホールのドアが閉じられたことで、まとめて外に締め出された
優しい灯りの中に3つの流派の絵が置かれている。ひとつの流派につき10枚、全部で30枚だ
理解に苦しむものから、完全に理解不能なものまで、実にさまざまだった
しかし、ドルシネアがこの方法でパレットクラッシュを終結させるというのなら、こちらも彼女の判断を信じればいい
……
信じていいん……だと思われるが……
……指揮官、データベースには十分なケースがなくて、正確な結果を出すことができなかった
機械体たちの絵画作風の変化は予想を遥かに超えていたために、ドルシネアのデータベースにある他者の分析から編成した判断プログラムは役に立たなかった
……
色の複雑さで選んでもいいの?
確かにさわりの部分ではあるけれど、ちょっと適当すぎるのでは……
小さな姿が曲がり角の前に止まったのを見て、絵が置かれているのに気付いた
しばらくこういった普通の絵を見ていない気がする
覚醒機械の奇妙な作風もアイラの超絶技巧の色彩も、最近見た絵はどれもが、波のようにその複雑な筆跡を直接脳に押し込んでくるようなものだった
こういった、白い小鳥が屋根の上にいるだけの普通の絵を見ると、とても珍しく感じる
しかし、なぜここにこの絵があるのか。見間違えでなければ、これは31作品目ということになる
自分の疑問に答えるかのように、すぐに覚醒機械がすっ飛んできて、光の速さでその絵を奪っていった
すみません、ドルシネアさん。あの絵は展示に含まれないんです。他の流派のミスです
彼は白い布でその絵を包むと、後ろの窓を開けて、ぽいと直接外に投げ捨てた
おい!嘘をつくな!我々の流派があんなものをここに置く訳ないだろう!
わざとこんな絵を提出しておきながら認めないなんて、どう見ても他の流派に対するタチの悪い攻撃じゃないか
側で静かに傍観していたはずの覚醒機械たちが次々に抗議し始めた
幸い、各流派のマスターたちがすぐに別のことに集中するよう促してくれた。それはドルシネアの結論について、だ
ドルシネアを軽く引っ張ると、それまで彼女がぼーっと呆けていたことに気がついた
彼女は我に返ると、予定の台本通り、3大流派の作品の中から1枚ずつ選び、データベースに入力された文字を読み上げた
それは、テントの中で連夜作画しているアイラが書いた評論をドルシネアに託したもので、主に3大芸術流派に対する分析と見解だった
今の機械派芸術はまだ人間の芸術の影響から完全に逸脱している訳ではないので、アイラも冷静な思考の下で、すぐにこの原稿を書き記すことができたのだ
こちらでも確認したが、論理の破綻もなく、素人にも理解できるようにアイラの伝えたい内容が書かれている
ミュロンとマルクはいないため、これがドルシネアの言葉ではないと疑いを抱く者はいないはずだった
……という理由から、各流派引き分けとして、パレットクラッシュをここで終結させたいと思う
これが彼女の言う、できることだ。覚醒機械に最も寄り添った解決方法だった
アイラの文章に納得した機械体たちは、芸術において彼らが同率であるという事実を受け入れる
そしてコンステリアの管理者として、パレットクラッシュの終結を宣言する……
……
予想していたような議論の発生はなく、それどころか鳥の声さえもしないほどの静寂に包まれた
この沈黙の中で、全ての機械体が合意に達したかと思われたその時だった
ドルシネアさん。我々が引き分けであることは理解できた。では、また次に勝負をすればいい
なぜパレットクラッシュをやめなければならないのだ?
……引き分けでは終われないというの?
コンステリアの正常な運営を取り戻して、人間との交渉準備に入らなければならない……
そんな理由は断じて受け入れられない
しかもドルシネアさん、あなたはコンステリアの管理者としてパレットクラッシュを強制的に終了させようとしているのだろう?
……
たぶん、これがコンステリアの未来への出発点として、コンステリアにとって最も有益な方法
では、なおさら聞き入れられないな
もしセルバンテスさんが今もいてくれたら、彼はこのようなやり方に賛同するだろうか
覚醒機械がセルバンテスの名を持ち出すと、ドルシネアは突然急所に短剣を突きつけられたようになって、しばらく黙り込んだ
その沈黙が、彼女の計画を更に失敗へと押しやっていく
……
覚醒機械たちが更に迫ってきた時、ドルシネアの頭上にある管理者権限を象徴する光の輪の中に、流動する輝きが出現した
ちょっと待つんだ、ドルシネアさん、まさか権限を執行して強制的に我々を止めるつもりではないだろうな?
突如起こった非常事態に、会場は一瞬にして騒然となった
わけもわからず作品を回収しに行こうとする覚醒機械や、内部ネットワークに接続して通信しようとする覚醒機械もいる
また、ドルシネアにじりじりと近付き、物理的な方法で彼女を内部ネットワークから退出させようとする者もいた
はいはい、お呼びですね
バリン!と突然大きな音が雑踏を覆った。飛び散った木屑が月光の下で無作為に飛び回る
窓を蹴り破った足を折り畳み、バイオニックスキンが滑らかに弓矢を引き絞り、ギィと音を鳴らす
一瞬で3本の矢が1列に地面に刺さり、取り囲もうとしていた覚醒機械たちを震え上がらせた
リラックスで
誰も反応できなかった。自分とドルシネアは豪快に飛び込んできたアリサに襟を掴まれ、壊れた窓の外に引っ張り出された
逃げたぞ!
他の機械体も出動させろ、全員で彼らを止めるんだ!