侵蝕体はひと通り撃退しました。ですがセージ様、侵蝕体を倒しても、このサーバーはじきに侵蝕されるでしょう
そうなれば、機械体の挑戦は終わる
もしセージ様が彼の願いを叶えたいのなら、サーバーをハッキングして、こっそりスコアを上げても、彼は気付かないのでは……
しかしアルカナは首を振りながら、ナナミの側へと戻った
……それでは「意味がない」、そうですね?
うん、そんなやり方で成功しても、彼は絶対に嬉しくないよ……ナナミだって、そんなことをして勝ちたくないもん
ゲームのルールという制約があるからこそ、人々は勝利に興奮するし、もっとハイレベルな挑戦に必死になるんだよ!
私たちも……そうなのでしょうか……
覚醒機械だけでなく、この星に生まれた全ての生命は、何らかの制約を受けながら、生き残るために進み続けているのかもしれない
ゲームの価値を決めるのは誰でもない、プレイヤー自身。『あなたがいて初めて、ゲームはゲームに、挑戦は挑戦に……そして人生は人生になるんだよ』
あっ、ちなみに、今の台詞は『ノルマンヒーロー』でクリア時に全プレイヤーに贈られるメッセージなの!
アルカナはじっと考え込んだ――本当に理解はできなくても、なんとなく「感じる」ことはできる
真に理解できるかどうかは重要ではなく、むしろ考える過程こそが重要だ。ナナミが思う機械覚醒とは、おそらくそういうことなのだろう
さあ、部屋に戻ろう……彼はもうクリアしてるはずだよ。成功できたかな……
結果が成功であろうとなかろうと、この挑戦で、彼は自分なりの答えを導き出せるかもしれない
はい、セージ様。私たちが彼の挑戦の――立会人となりましょう
アルカナは初めてナナミの先を歩き、率先して邸宅に向かった
散らかった部屋の中で、機械体は同じ場所に座り続け、少しも動いていなかった
唯一違うのは、コントローラーのボタンを押していないことだ。小さな画面上で点滅する光は彼の操作で変化することもなく、ランキングの結果画面で止まっていた
【1位 OAKES】 【1位 NANAMI】
ナナミはそっと彼に近寄り、コントローラーの確認ボタンを押した。「OAKES」という名前が永遠にゲームデータに刻まれた
セージ様、彼はやり遂げたんですね……
しかしそれは最高優先の命令が発動し、彼の人格データが削除されたことを意味していた。だがアルカナは、最後の瞬間、彼は自分の挑戦の答えを見つけたと信じていた
なぜなら、機械体の顔に感情を表現するような機能はないが、アルカナは彼の顔にニコニコしているような笑顔を感じたからだ
う~ん、やっぱりすごいや……!ナナミ、ゲームで初めて追いつかれちゃった
同点スコアとはいえ、この機械体は最終ステージまではナナミのスコアに遅れをとっていた。つまり、最終ステージでナナミの獲得スコアを超えたことになる
機械体ながら、セージ様と同じスコア……奇跡といっていいでしょう
奇跡かな?少なくともこのゲームでは……ナナミだって、ただのプレイヤーだよ。失敗から成功へ、初心者から上級者へ、みんなと変わらないよ
だからナナミはゲームが好きなの!セージ·マキナとしての責任とかも全然なくて、ただ「普通のプレイヤー」になれるから
誰もが自由であるべきなんだよ。自我の目覚めは、プログラムの束縛からの解放。「セージ·マキナ」の刻印を自分に刻むんじゃなくって、好きなことや使命に従って行動する
この機械体は自分の気持ちと意志で、人間としてこのゲームの限界に挑戦することを選んだ。そして最後は人間らしく死んだのですね……
アルカナの少し寂しげな言葉に、ナナミは思わず噴き出した
セージ様……?
アルカナってば、彼が全データを削除されたと思ってるんでしょ……だけどね……わあっ!
機械体の背後に忍び寄ったナナミが、彼の耳元で大声で叫ぶと、消えていた視界受信機が再び起動し、次第に明るくなった
人格データチェック……完了、記憶データチェック……完了、ロジック回路チェック結果:正常
私……マダ、生キテイルノデスカ?
機械体はコントローラーを握り、その触り慣れた感覚が電子脳に伝わると、ようやく自身の存在が消えてないことを確認した
機械体としての覚醒が一定のレベルに達したのでしょう。だから電子脳の特徴コードデータが削除されなかったのですね
機械の覚醒に関しては、まだ未解明の謎が数多くある。プログラム指示に逆らうことができる存在が現れる可能性も、まったくないわけではない
うん、そうかもね。でもナナミは別の可能性を信じたいの
別の可能性?
ご主人様だったオークスは……ホントは自滅プログラムの指令なんかしてなかったんだよ
ナゼ……?
オークスにとって、彼は自分の道具にすぎず、その道具も役目を終えれば存在意義を失う
病気の彼にできることは唯一ゲームだけ……ゲームの中では人と対等に戦えるし、いじめる人も、世話を焼く人もいない
アルカナも徐々に、その人間が心に秘めていた思いを理解し始めた
彼もまた、あなたのことを次第に……ともに成長し、ともに同じ目標に向かって努力する友人と思ったのかもしれませんね
ナナミは頷くと、写真立てからオークスと機械体の写真を取り出し、機械体に手渡した
ね、彼は、あなたが彼なしでも冒険を続け、自分自身の人生を見つけることを望んでいたんだよ
機械体が写真を受け取ると、裏面には不格好な細い文字が書かれていた
「ちょっとおバカな機械体 カーリー」
コノ名前……『ノルマンヒーロー』シリーズノ、主人公ノ相棒ノロボットト同ジデス
そうそう、彼があなたにつけた名前!
ナナミは笑いながらコントローラーを持つと、画面の前に座った
じゃあ、もう一度最初の質問をするよ――カーリー、ゲームは大好き?
以前の彼はゲームを単なる終わらせるべきタスクと考えていたが、今ではゲームをもっと理解したいという気持ちが強くなっていた
ハイ、今ナラ……好キダト思イマス
それなら、一緒にゲームしよう!ここには、ゲームがたっくさんたっくさんあるじゃん!
アルカナもおいでよ~、3人でプレイ可能だよ
私も……おふたりと一緒に遊べるのですか?
もっちろん!ゲームは友達と一緒にするのがサイコーなんだから!
アルカナは少し驚いた様子だったが、ナナミから手渡されたコントローラーを手に取った
言ッテオキマスガ……新規プレイヤーデモ、手加減ハシマセンヨ
もちろん、望むところです
ちょっと~、まだ始まってないのに、もうバチバチじゃん!
でも、それだから楽しいんだよね、それじゃあ――
――ゲームスタート!